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幕が上がる

 私たちは砂浜で作業をしている。横たわる巨大な深海魚や甲殻類に銛などをさして、解体を行っているのだった。私のほかは、片腕と高齢者のふたりで、あわせて三人で行っていた。私は大丈夫だったが、片腕の者は台がないとやりにくそうなので、少しむこうに岩が具合よく並んでいる場所を移ることにした。黒いシートごと獲物を持ち上げて運んでいると、よぼよぼの高齢者も同じように荷物を運び始めた。私がやるからいいよと言おうかと思ったが、やる気を損ねたくなかったので何も言わないことにした。

 移動後に作業を続けて、出来上がったものを岩のテーブルに並べていった。そのとき、砂の中で蠢くものがあったようだ。私たちはもう少し陸側に移ることにした。蠢くものは触手を伸ばして、私たちを喰らおうとしたが、間一髪回避することとなった。

 こららは全て、芝居の練習だった。砂浜のシーンは三幕目くらいのものだった。最後の練習をしていたのだ。本番はもうすぐだった。多くのものは既に舞台裏に集まっていた。私たちはギリギリになって、客席側から舞台袖に入った。すでに司会者が壇上に立って、説明を始めていた。

 私が袖を横切って下手の裏側に入ろうとすると、司会者が「お前の出は上手だ」とでも言うようなジェスチャーを送ってきた。確かに私は上手から出る予定だったが、下手から入っても裏側はつながっているので何の問題もなかった。

 出番が近づいてきて、出演者たちは台本の確認をしていた。本番直前の再確認だった。それを見ていて私も不安になった。セリフは覚えているはずだったけれど、もう一度見たかった。ところが私は台本を楽屋においてきてしまっていた。今更取りに帰ることはできない。それで仕方なく、近くにいた役者の見ているモノを覗き込んだ。

 最初の場面には、四行の質問だけが書かれていた。私たちはその質問にアドリブで答えるのだった。

「誰が質問する役だい」

 私が疑問を呈すると、となりの役者がこう答えた。

「お前がやれよ」

「え?」

 最初は嫌だと思ったが、すぐに私が演るのがいいだろうと思った。そして最初のセリフを諳んじた。

「齢123の徒弟たちよ、汝らの生の証は何年後まで遺すことができるのか」

 質問は四つしか書かれていなかったのですぐに覚えられた。しかし、となりの役者はこういうのだった。

「質問は沢山しろよ」

 私もそれがいいと思った。

「この場面はもっと長いほうがいいと思ってるんだ」

「十五分くらい」

「一時間あってもいい」

「三十から四十分くらいでやってみるよ。ところで質問は変えてもいいのかな」

「三つ目の質問は変えられないだろう。『流れ』という言葉が、このあとのシーケンスのキーワードになるから」

 開演のベルが鳴り、役者たちが移動を始めた。私も上手袖に向かったが、あんまり早くに出て行かないほうがいいように思った。板付にしろ、最初から質問者が先頭にいてはまずいように思った。若手たちがどんどん舞台に出ていった。私は彼らの背中を押すようにして見送った。この中で演技経験があるのは私くらいだった。それでも三十年くらい前の若い頃だ。そんなことを思い出しながら、いつ出ていこうかと考えるのだった。


ストーリーなどはないのでいつまでも続くのだけれど、とりあえず一旦完結としておく。つづきはパートツーとして書いていくことにする。

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