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戸締りをする

 目が覚めると、布団の上に猫がふたりいた。

「猫がふたりいる」

 私がそう言うと、同居人が答えた。

「当たり前でしょう」 

 私が猫がふたりいることに喜んだのは、私のうちには現在ひとりしかいないからだった。もうひとりも、何年か前まではいたのだけれど、出かけたきり戻ってこないから、亡くなったものと諦めていた。その猫が帰ってきていて、いるのが当然のようにしている。

 私は起き上がって、屋敷の中でも最も端っこにある四畳半の和室から出て、板張りの廊下を歩いていった。廊下の窓からは、外の古い木製の物置が見えた。廊下を挟んで向かい側は台所だったが、そこから先はガラス戸が続いて、前庭に盆栽などが並んでいる向こうに板塀が見え、その向こうは路地だった。私は長い廊下を歩きながら、雨戸をしめなきゃなと考えていた。颱風が近づいているはずだった。

 廊下を突き当たりまで行くとトイレがあり、その右側が書斎だった。私はそこの座椅子に座って、しばらく考え事をしたりものを書いたりしてから、再び廊下に出て歩き始めた。廊下の途中にもところどころ障子があり、その境目のところでこちらに向かってくる猫たちと出くわした。

 私と鉢合わせたことによほど驚いたようで、ねこたちはフーっと言って飛び上がった。ことに、古くから居る方の猫は吹っ飛んだといってもいいくらいで、着地したのを見ると、白くなっていた。まるで恐怖で白髪になったかのように。

「こっちが驚かすつもりだったのにね」

 同居人がニヤニヤ笑っている。

 猫の毛は、最初全てま白になったなったかと思ったけれど、よく見ると、薄いグレーと透明の毛がだんだらになっているようだった。さらに目を凝らすと、その毛の隙間で、小さな、本当に小さな五ミリくらいの蝶ちょが二羽飛んでいるのが見えた。

 気がつくと家のものたちが、雨戸を閉め、あるいはガラス戸の向こうのシャッターを下ろしていた。私たちは中庭に面した座敷の方でくつろいだ。途中の障子をすべて解き放つと、百畳ほどの広さになった。風呂に向かう裏玄関のところだけが、まだシャッターを下ろしていなかった。その向こうには岩の露天風呂があったと思うのだけれど、どうだったろうか。

 同居人がさんにんめの猫を連れてきた。私の腕に抱き移すと、猫の色が変わった。そのあとも、時々色を変えるのだった。小柄な猫で、ぬいぐるみのように大人しかった。オレンジ色、黄緑色と変える色合いもどこかぬいぐるみのようだった。

 さんにんも猫がいて私は幸せだった。

 朝、私は二階の部屋で目を覚ました。雨が降っていたが、どうやら小降りになっているようだった。外ではなにか大工仕事をする音がした。枕元で猫が鳴いていた。私はそれを抱き上げて、うろうろした。木製のサンのガラス戸が開いていた。そこから猫が逃げ出すかも知れないと思った。試しに閉めてみると、猫は器用に前足を交差させて、戸を開いてしまった。

 これではダメだと思って、奥の部屋に移り、押入れの中に入れてみた。しかし、猫は押入れの中を縦横無尽に這い回り、戸袋との間のサンも上手に渡ってしまった。鍵をかけるという発想が私にはなかった。もしかしたら、この夢の中のこの家には、鍵などというものはなかったのかもしれない。私は猫が外に出るのを諦めてしまった。

 そのとき、近くの公民館から大きな音が聞こえてきた。

「三番サード○○」

 かつての名選手が講演を始めたのだった。大喝采が上がった。

「このアナウンスに大きな拍手をいただけるような三塁手が、いまの選手のなかにはいません。それならどうして私だけ、こんなに大きな拍手で迎えられるのでしょうか」

「それはそこが球場ではないからだろうよ」と私はひとりごちた。

「聞いたことがないんだけれど、若々しい声なのかな」

 押入れの中で寝ている同居人がそんなことを聞いてきた。

「声は割と若々しいよ」

 私は答えた。同居人はあれこれと尋ねてくる。私はめんどくさそうに答える。その間も遠くから元ヒーローの意味のない声が響いてくる。

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