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調和の守護者 リリィ&コピ第五部  作者: マスター


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第130話 砂丘の腹を押さえる布

第129話では、西の砂丘の下に埋まっていた「砂落とし穴」を調べました。


砂落とし穴は、風の道へ入り込んだ砂を、村へ届く前に落とすための構造でした。


中心を掘るのではなく、外縁の聞き杭を探し、砂が落ちる音を確認しながら、浅い「砂舌」を作ります。


その結果、砂落とし穴は微量ながら機能し始め、風締め場側へ流れ込む砂の量も少し下がりました。


しかし、砂の流れが変わったことで、西砂丘上部の亀裂が明らかになります。


そこには、かつて砂丘の腹を支えていた「風止め柵」の一部が露出していました。


風止め柵が見えているということは、砂丘内部の砂が大きく動き始めているということです。


第130話では、砂丘の崩落を防ぐため、風止め柵と砂留め布をどう扱うかを考えます。

西砂丘の亀裂は、少しずつ広がっていた。


目に見えて崩れているわけではない。


だが、風車がぎい、と鳴るたびに、砂丘の上部から砂がこぼれ落ちる。


さらさら。


ざざ。


軽い音と重い音が、交互に混じる。


ガル老人は砂丘を見上げたまま、低く言った。


「風止め柵が見えたら、砂丘の腹はもう動いている」


ラサは記録板を握る。


「腹というのは、砂丘の内側の柔らかい砂層のことですね」


「そうだ。表面は固まって見える。だが内側が抜ければ、一気に落ちる」


ナジが紙風車を胸に抱いた。


「それが、砂の年……」


ガルは頷いた。


「昔は、あの亀裂の下まで砂が流れた。村の井戸にも、倉にも、子どもの寝床にも入り込んだ」


その声には、古い恐怖がまだ残っていた。


リリィは砂丘の亀裂を見る。


上へ登れば危険だ。


下から掘れば、もっと危険だ。


でも、放っておけば砂丘が割れる。


「近づかずに押さえる方法は?」


リリィが尋ねた。


ガルは少し考えた。


「砂留め布を張る。亀裂の下ではなく、少し離れた安定した場所に布を渡して、落ちる砂を受ける」


オルガが眉を寄せる。


「受け止めるだけ?」


「全部は止められん。受けて、散らす。砂が一か所へ流れ込まないようにな」


コピが解析する。


「有効です。砂流を分散させれば、風の道西口への集中流入を減らせます。ただし、布の固定位置を誤ると、布ごと引き込まれる危険があります」


「布ごと?」


オルガが顔をしかめる。


「やっぱり危ない」


ラサは村の方を振り返った。


「穀物倉の古い日よけ布を使えます。ただ、穀物倉の近くには沈み跡があります」


「取りに行く人数は最小限」


リリィが言った。


「それと、火は使わない。倉の中の粉じんも動かしすぎない」


ラサはすぐに頷いた。


「私が行きます。場所を知っています」


ナジが手を上げる。


「僕も!」


ラサは即座に首を振った。


「だめです」


「でも、どの布か分かる!」


オルガが二人の間へ入る。


「じゃあ、ナジは外から指示。中には入らない。ラサが確認して、必要な物だけ出す」


ナジは少し不満そうにしたが、頷いた。


「分かった」


ガルがぼそりと言う。


「昔の砂留め布なら、青い縁取りがある。日よけ布に転用したなら、それを探せ」


ラサは記録する。


砂留め布。青い縁取り。現在、穀物倉の日よけ布に転用の可能性。


穀物倉へ向かうと、南側の砂の口はまだ低く鳴っていた。


こお。


ふう。


耳杭の周りに張った縄の外で、村人たちが見張っている。


穀物倉の戸は開けられ、火は消されていた。


中は乾いた麦の匂いが濃い。


足元には、細かな穀物くずと砂が混じっている。


コピが警告する。


「粉じん濃度は低下していますが、急な動作は避けてください」


ラサは慎重に入り、奥の棚を確認する。


ナジは入口の外から声を出す。


「右の上! そこに古い布がある! でも重いから引っ張らないで!」


オルガが小声で笑う。


「ちゃんと安全指示できてる」


リリィは頷いた。


「いい観測者だね」


ラサが布を見つけた。


厚い布。


砂色に褪せている。


だが、端には青い縁取りが残っていた。


「ありました」


ガルの目が細くなる。


「それだ」


布は一枚ではなかった。


大きなものが二枚。


破れたものが三枚。


それぞれ巻かれ、日よけや荷覆いとして使われていたらしい。


ラサは無理に引っ張らず、オルガと一緒に支えながら外へ出す。


ナジが布の端を見て言う。


「穴がある」


布の縁には、等間隔の穴が開いていた。


紐を通すための穴。


ただ吊るす布ではなく、砂を受ける角度を調整するための布だった。


コピが布の繊維を調べる。


「砂粒を完全には止めず、一部を通す構造です。風圧を逃がしながら砂流を分散する用途と一致します」


オルガが感心したように言う。


「ただの布じゃないんだ」


ガルが頷く。


「砂を全部止める布ではない。全部止めれば、布が裂ける。少し通すから持つ」


ナジが紙風車を回しながら言った。


「風も、砂も、全部止めちゃだめなんだね」


リリィは小さく笑った。


「うん。ここでも同じだね」


砂丘へ戻る頃、亀裂は少し長くなっていた。


ファルコンが上空から告げる。


「亀裂、約十八メートル。西口方向へ砂流が伸びている」


コピが砂丘を解析する。


「次の強い上昇気流で、表層砂の小規模崩落が起きる可能性があります」


ラサが息を整える。


「砂留め布は、どこへ張りますか」


ガルは杖で位置を示した。


「亀裂の真下はだめだ。右下と左下、硬い砂地に杭を打つ。布は斜めに張る。落ちる砂を西口からそらす」


オルガが確認する。


「砂丘には登らない?」


「登るな。足で崩す」


「よし」


コピが固定点を投影する。


「推奨固定点を表示します。安全域外へ出ないでください」


村人たちは二組に分かれた。


片方は布を広げる。


もう片方は固定杭を打つ。


ただし、深く打ち込まない。


地面の中の空気層を壊す可能性があるからだ。


オルガが声を張る。


「杭は斜め! 深くしすぎない! 引っ張りすぎない!」


ラサは固定点ごとに記録していく。


「一番杭、浅角度。二番杭、やや硬い砂地。三番杭、固定不安定、補助紐追加」


ナジは紙風車で風の向きを見ている。


「今、砂丘から村へ来てる。さっきより強い!」


コピも同時に警告する。


「上昇気流増加。風向反転が再発しています」


風車が村の方で鳴った。


ぎい。


ぎいい。


砂丘の亀裂から、ざざ、と砂が落ちる。


ラサが叫ぶ。


「布を上げて!」


村人たちが紐を引く。


砂留め布が斜めに張られる。


布は風を受けて大きく膨らんだ。


しかし、破れない。


砂の一部は布を通り、勢いを失って落ちる。


残りは布の角度に沿って横へ流れ、砂落とし穴の方へ誘導されていく。


コピが測定する。


「西口方向への砂流、低下。砂落とし穴方向への分散流を確認」


ガルが低く言った。


「効いている」


ナジが目を輝かせる。


「砂が横へ行った!」


オルガが拳を握る。


「やった、って言っていい?」


コピが答える。


「限定的には成功です」


「よし」


リリィも息を吐いた。


砂留め布は、砂丘を止めたわけではない。


崩れを消したわけでもない。


けれど、落ちる砂を村へ向かわせず、砂落とし穴へ誘導した。


風の道へ一気に入る砂は減っている。


小さな成功だった。


その時、砂留め布の左端が大きく揺れた。


びん、と紐が鳴る。


ラサが振り返る。


「左端、張力上昇!」


コピが表示する。


「左側固定点の砂地が緩んでいます。布に砂流が集中しています」


ガルが叫ぶ。


「左を逃がせ! 張りすぎるな!」


村人が慌てて紐を緩める。


しかし、その瞬間、砂が左側へ多く流れた。


ざざざ。


砂落とし穴ではなく、その外側へ向かう。


ナジが紙風車を見て叫んだ。


「そっちは、古い井戸道!」


ラサが顔を青くする。


「古い井戸道?」


ガルが歯を食いしばる。


「村の古井戸につながる横道だ。今は使っていないはずだが……」


コピが地図を確認する。


「西砂丘から村内乾き井戸へ向かう補助通気路の可能性があります。砂流入が増えれば、乾き井戸側で噴出が再発します」


オルガがすぐに言う。


「布の向きを変えないと!」


ガルは首を振る。


「今動かしすぎれば、布ごと持っていかれる」


ラサが必死に考える。


「では、左側にも小さな砂舌を作る?」


コピが即座に計算する。


「有効です。砂落とし穴本体ではなく、外縁の副落としへ誘導できる可能性があります」


ナジが言う。


「副落とし! じいちゃん、昔言ってた! 砂落とし穴には小さい口もあるって!」


ガルは一瞬驚き、それから苦い顔をした。


「本当に余計なことを覚えているな」


「役に立つってば!」


リリィはガルを見る。


「副落としはどこですか」


ガルは砂丘の左下を指した。


「あの低い石の近くだ。だが、今は砂で見えない」


ファルコンが上空から走査する。


「左下、石列反応あり」


コピが投影する。


「副落とし候補地点を表示します」


オルガが村人へ指示を出す。


「左側、浅い砂舌を追加! 中心に近づかない! 布はそのまま!」


村人たちは動いた。


今度は迷いが少ない。


さっきの砂舌で、やり方を覚えたからだ。


浅く。


表面だけ。


砂が自分で落ちる道を作る。


左側へ偏っていた砂流が、副落としへ少しずつ向きを変える。


乾き井戸側へ向かう風が弱まった。


村の方で、風車の音が少し落ち着く。


ぎい。


ぎい。


コピが告げた。


「砂流の分散に成功。西口への集中流入、乾き井戸側への偏流ともに低下」


ラサは大きく息を吐いた。


「これで、砂丘は保ちますか」


「短期的には安定化しました。ただし、砂留め布と砂舌は仮設です。継続的な調整が必要です」


ガルが頷く。


「昔の村は、これを毎日見ていた。砂は一度整えれば終わりではない」


ナジが言う。


「僕、毎朝見る!」


ラサがすぐに言った。


「一人では行かない」


「分かってる。記録係と一緒」


ラサは少し驚き、それから微笑した。


「そうですね。一緒に」


夕方。


砂留め布は斜めに張られたまま、風と砂を受けていた。


砂落とし穴は、微量の砂を落とし続けている。


副落としも、少しだけ機能している。


風締め場の砂袋は、今朝ずらした分だけ微小通気を保っている。


風車はまだ回っている。


だが、暴れるような回り方ではない。


乾き井戸の蓋も、跳ねなくなった。


ラサは村の地図に、新しい線を何本も書き込んだ。


風車。

乾き井戸。

砂の口。

風締め場。

砂落とし穴。

副落とし。

西砂丘。

風止め柵。

砂留め布。


「こんなにあったのに、村の地図には風車と井戸しかなかった……」


彼女は呟いた。


ガルが横で言う。


「地図から消したのは、私たちだ」


「なら、戻します」


ラサの声は静かだった。


「危険な場所としてではなく、見張る場所として」


ガルは何も言わなかった。


ただ、杖を砂に立てた。


その時、コピの端末に新しい警告が出た。


「風車基部の回転負荷、再上昇」


オルガが顔を上げる。


「え、砂丘は落ち着いたんじゃないの?」


「西砂丘側の砂流は低下しています。しかし、風車基部の地下通気が別方向から増加しています」


ラサが地図を見る。


「別方向?」


ファルコンが上空から村の東側を映す。


そこには、村を囲む古い低い土壁があった。


その外側に、細い砂筋が何本も伸びている。


コピが解析する。


「東側土壁下に通気反応。西側の圧力を分散したことで、地下風の一部が東へ回り始めています」


ナジが紙風車を東へ向ける。


くるくる。


今までとは違う、冷たい風が吹いていた。


ガルの顔色が変わる。


「東壁……そこは閉じるなと言われていた」


ラサがすぐ聞く。


「なぜですか」


ガルは村の東を見た。


「東の風は、村の外へ出す風ではない。村の井戸を冷やす風だ」


コピが端末を見た。


「村中央井戸の水温、上昇傾向」


リリィは東の土壁を見た。


西の砂を抑えた。


砂落とし穴も息をした。


だが今度は、東の冷たい風が動き始めている。


風の道は、砂を逃がすだけの道ではなかった。


村の井戸を冷やす道でもあった。


そして、その冷たい風が乱れれば、井戸水がさらに温まる。


次の問題は、村の東側に移った。

第130話では、西砂丘の亀裂と、そこから砂が風の道へ流れ込む危険に対応しました。


過去に使われていた砂留め布を穀物倉から見つけ出し、砂丘の崩れそうな場所へ直接近づくのではなく、離れた安全な位置から斜めに張りました。


砂留め布は砂を完全に止めるものではなく、一部を通しながら勢いを落とし、砂落とし穴へ誘導するための道具でした。


これにより、西口への砂流入は一時的に下がります。


途中で左側へ砂が偏り、乾き井戸側へ流れかけましたが、ナジの記憶から「副落とし」の存在が分かり、浅い砂舌を追加して砂流を分散できました。


小さな成功です。


しかし、西側の砂と風を分散したことで、今度は地下風の一部が村の東側へ回り始めます。


東側の土壁下には、村の井戸を冷やすための風の道がある可能性が出てきました。


終盤では、村中央井戸の水温が上昇し始めます。


次回は、東側の冷たい風の道と、井戸水が温まり始めた理由を追います。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

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