第11話 静かな日々
いつも『終焉を継ぐ者』を読んでいただきありがとうございます。
第11話では、大きな戦闘や事件は起こりません。
ですが、レインたちの日常の中にある小さな違和感や不安を描いています。
平和なルークス村。
変わらない日常。
それでも森の異変は確かに続いています。
少しずつ積み重なっていく不穏な空気を感じながら、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
それでは、第11話をお楽しみください。
翌朝。
レインはゆっくりと目を覚ました。
窓から差し込む朝日が部屋を照らしている。
鳥の鳴き声が聞こえる。
だが、その数はやはり少なかった。
「……またか」
小さく呟く。
ここ数日続いている森の異変。
消えた足跡。
静かになった森。
ガルドが話していた昔の出来事。
考えれば考えるほど嫌な予感がしていた。
顔を洗い、朝食を済ませる。
そして家を出た。
朝の空気は冷たく澄んでいる。
広場へ向かうと、いつもの木の下にフィアがいた。
「おはよう」
「おはよう」
短いやり取り。
だがフィアの様子がおかしい。
どこか考え込んでいるようだった。
「どうした?」
レインが聞く。
フィアは少しだけ黙り込んだ。
そして口を開く。
「…昨日」
「ん?」
「森を見てた」
昨夜のことらしい。
レインは続きを待った。
「何かいた」
その言葉にレインの表情が変わる。
「何か?」
フィアは頷く。
「いた」
「見えたのか?」
「見えない」
「じゃあ何で分かったんだ?」
「分からない」
「おい」
思わずツッコむ。
だがフィアは真剣だった。
冗談を言っている様子はない。
「でもいた」
その言葉だけははっきりしていた。
レインはしばらく考える。
フィアは勘で物を言うことが多い。
だが外れたことも少ない。
「気のせいじゃないんだな?」
レインが聞く。
フィアは迷うことなく頷いた。
「うん」
その返事だけは強かった。
レインは小さく息を吐く。
「ガルドに話そう」
「うん」
二人は広場を後にした。
ガルドは村の外れで薪を割っていた。
斧を振り下ろす音が朝の空気に響く。
「ガルド」
「おう」
振り返ったガルドは二人の顔を見るなり眉をひそめた。
「何かあったか?」
レインはフィアから聞いた話をそのまま伝えた。
森の奥。
見えない何か。
そして確かに感じた気配。
ガルドは最後まで黙って聞いていた。
話が終わる。
しばらく沈黙が続いた。
「……どう思う?」
レインが聞く。
ガルドは森へ視線を向ける。
「分からねぇ」
「またそれか」
「本当に分からねぇんだ」
ガルドは苦笑した。
だが目は笑っていない。
「ただな」
そう言って斧を肩に担ぐ。
「今のところ被害はねぇ」
レインも黙る。
確かにそうだった。
不気味なことは起きている。
だが誰かが襲われたわけではない。
村が壊されたわけでもない。
「だから何もしないってわけじゃねぇ」
ガルドは続ける。
「警戒は続ける。森の奥には近付くな」
その言葉にレインとフィアは頷いた。
「焦って動く方が危ねぇからな」
ガルドはそう言うと再び薪割りへ戻っていった。
二人も村へ戻る。
すると途中で元気な声が聞こえた。
「レイン兄ちゃん!」
数人の子供たちがこちらへ走ってくる。
「遊ぼう!」
「今日は鬼ごっこだ!」
「負けないからな!」
レインは思わず苦笑した。
ここ数日、不安なことばかり考えていた。
だから少しだけ肩の力が抜ける。
「仕方ないな」
「やったー!」
子供たちは大喜びだった。
フィアは少し離れた場所からその様子を見ている。
平和な時間。
いつものルークス村。
森の異変など存在しないような日常だった。
しばらくして遊びが終わる。
子供たちは満足そうに帰っていった。
「じゃあな!」
「また明日!」
元気な声が遠ざかっていく。
レインは小さく笑った。
「相変わらず元気だな」
「うん」
フィアも頷く。
そして少しだけ森の方を見る。
レインもその視線を追った。
「薬草採集行くか?」
「行く」
二人は籠を持ち、森へ向かい始めた。
村の入り口を越える。
慣れ親しんだ道。
何度も歩いた道。
それなのに今日はどこか違って見えた。
風が吹く。
木々が揺れる。
だが鳥の声は少ない。
森は静かだった。
静かすぎるほどに。
森へ足を踏み入れる。
慣れた道のはずだった。
何度も歩いた道。
フィアと一緒に薬草を採りに来た道。
それなのに今日はどこか違う。
レインは周囲を見回した。
木々はいつも通り。
草も変わらない。
風も吹いている。
だが何かが足りなかった。
「……静かだな」
思わず呟く。
フィアは小さく頷いた。
「うん」
鳥の声が少ない。
普段ならもっと賑やかなはずだった。
森の中に入れば入るほど、その違和感は強くなる。
レインは薬草を見つけてしゃがみ込んだ。
「これは使えそうだな」
籠へ入れる。
フィアも近くで薬草を摘んでいた。
しばらく作業が続く。
だが不思議なことに、森はどこまでも静かだった。
小動物の姿も見ない。
鳥も飛ばない。
まるで何かを恐れているようだった。
「気にしすぎかもな」
レインは立ち上がる。
「何もないし」
そう言った。
だがフィアは首を振る。
「違う」
「まだ言うのか」
「うん」
その返事に迷いはなかった。
レインは苦笑する。
フィアがここまで言うのなら、本当に何かあるかもしれない。
しかし証拠がない。
結局その日は薬草を集めただけだった。
異変らしい異変は見つからない。
二人は昼過ぎに村へ戻った。
ルークス村は平和だった。
畑では村人たちが働いている。
子供たちは広場を走り回っている。
家々からは昼食の匂いが漂っていた。
レインは少しだけ安心する。
こうして見ると、何も変わっていないように見えた。
「レイン!」
広場から声が聞こえる。
朝遊んでいた子供たちだった。
「また遊ぼう!」
「今度は負けないからな!」
レインは笑いながら手を振った。
「今度な」
子供たちは元気よく駆けていく。
その姿を見ていると、不安な気持ちも少しだけ薄れていく気がした。
夕方になる。
空は赤く染まり始めていた。
レインは家の手伝いを終え、外へ出る。
村は穏やかだった。
誰も異変など気にしていない。
ガルドだけは時折森へ視線を向けていたが、それ以外は普段通りだった。
そして夜。
月が空へ昇る。
ルークス村は静寂に包まれていた。
レインも布団へ入る。
今日は疲れている。
すぐ眠れるはずだった。
だが目を閉じると、森のことが頭に浮かぶ。
フィアの言葉。
ガルドの警戒。
静かすぎる森。
嫌な予感だけが消えなかった。
どれほど時間が経っただろう。
その時だった。
――オオォォォォォォォ……
低い声が響いた。
レインは勢いよく起き上がる。
「……っ!」
遠吠えだった。
だが普通ではない。
聞いたことがない声。
低く重く、不気味な響き。
まるで森そのものが唸っているようだった。
レインは窓へ駆け寄る。
外を見る。
月明かりに照らされた村。
異常はない。
誰も騒いでいない。
遠吠えもすでに消えていた。
「なんだ今の……」
呟く。
その時だった。
ドクン。
胸の奥が脈打つ。
「っ!」
終焉因子。
レインは思わず胸を押さえた。
今まで感じたことのない反応だった。
熱い。
だが痛みはない。
まるで何かに呼ばれているような感覚。
レインは森を見る。
暗闇しか見えない。
それでも視線を離せなかった。
数秒後。
反応は消える。
終焉因子は再び静かになった。
「なんなんだよ……」
答える者はいない。
その夜、レインはなかなか眠ることができなかった。
一方その頃。
誰も近付かない森の奥。
月明かりも届かない深い闇。
そこには黒い霧が漂っていた。
静かに。
ゆっくりと。
まるで生きているかのように。
そして霧の中を何かが歩いている。
姿は見えない。
だが存在だけは分かる。
重い足音。
地面に刻まれる巨大な足跡。
木々の間を通り過ぎるたびに、周囲の空気が震える。
それは立ち止まった。
遥か遠く。
ルークス村の方向を見るように。
次の瞬間。
黒い霧が揺れた。
まるで獣が息を吐くように。
そして再び歩き出す。
誰にも気付かれないまま。
確実に。
ゆっくりと。
ルークス村へ近付きながら。
第11話を読んでいただきありがとうございました。
今回は久しぶりにルークス村の日常を中心に描いてみました。
子供たちとの時間や普段の生活など、レインたちにとって当たり前の光景が続いています。
ですが、その一方で森の異変はまだ終わっていません。
フィアの違和感。
静かになった森。
そして夜に聞こえた不気味な遠吠え。
大きな事件こそ起きていませんが、少しずつ物語は次の段階へ進み始めています。
第1章も折り返しを過ぎました。
これから先、ルークス村に何が起こるのか。
引き続き見守っていただけると嬉しいです。
感想や評価、ブックマークなども大きな励みになっています。
それでは、次回の第12話でお会いしましょう。




