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忘却伯の勿忘草  作者: ブロンズ
第五章:忘却伯と新たな野望

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番外編:異界の者、成長を知る




 気合と……根性?


 ……あぁ、そうだ。

 夢想くらいしたことがあるだろう。

 聞いたことくらいあるものだろう。

 身一つ、何も持たざる状態で全く拠(よ)り所のない外国に放り込まれるって展開。


 風習の壁、言語の壁、孤独と絶望。

 そんな中でも人間、死ぬ気で取り組めば案外どうにかなるものだって。



「やっぱり技名とか―――、考えた方がッ、いいのかなぁ!? はあッ!」

「多分無駄だぞ。ルーティーンみたいなものなら別だが、よっと」

「るーてぃ?」



 実際どうにかなったのか?

 逆に考えてみよう。

 元々ただの学生で、体力測定やらシャトルランやら持久走やら……。

 極限まで鍛えれば筋肉モリモリマッチョマンになれるポテンシャルを持った種に生まれ、身体的な能力向上としてその程度の取り組みしかなかった男子が時代錯誤にも鋼鉄の武器を持って命のやり取り?

 


「やっぱりとりあえず振る! せあああ!」

「うおッ―――うんッ、セシルならそれがいちばん手っ取り早いだろうな……!」



 軽く数キロはある鉄の塊を何十何百と振り回し、疲れたからって動きを止められない、辞めた時点で自分の全てが終わる戦い?



「けどまた力押しだぞそういうところだぞ」

「けど有効! でしょ!? このまま押し切るッ」


 

 英検三級。

 第二言語すら持ち合わせない、むしろ日本語すら怪しいような男子が放り出された未知の言語を独学で理解して異国美少女と日常会話?


 ……。

 


「やっぱり力押し! 一番実践的で全てを解決―――」

「実践的といえば、ほら足払い」

「うわわ!? ―――こ、のぉぉ!!」



 足を払って転ばせた、そう思った次の瞬間には相手は片手を地面に付いて飛翔、回転するままに武器を横に薙ぐ。

 腕に走る鈍痛と痺れ、弧を描いて飛んでいく短剣。

 目に映る事実として、俺は丸腰で両手を上げ、相手は訓練用の木剣をまっすぐ俺のみぞおちに向けている。

 恐ろしいまでもの機転、付随する身体能力で形勢をひっくり返された形。

 終わりだな。



「……、参った」

「……………む」

「嘘じゃない」



 俺が一歩前に出ると一歩下がる。

 また一歩出ると一歩。



「だって降参って言ってないよね。まいったって、参ったなァとかの意味でしょ。この前もそう言って私が近づいたところで……」

「降参だよ、降参。ほーら、参りましたー。しろはたー」

「―――。やった!」


「と、俺は降参したが飛んでった俺の武器は……?」

「―――! 見切った!」


 

 ……。

 直前まで彼女の立っていた場所に短剣の形に削り出された木がゴトと落ちる。



「やっぱりそういうことする!」

「セシルにはこういう人の汚い部分をしっかりと覚えてもらう必要がある。けど勝ちは勝ちだろ?」

「……勝利!」



 両手を高く掲げ続けるこちらに対し疑るような視線を向けていた彼女が今度こそ万歳。

 大型犬のような笑顔を浮かべる。

 アニメとかだったら八重歯とかデフォルメされるのか? こういうの。

 


「これで、二百六十三戦、二百六十三勝!! 今日も私の勝ちだね!」

「ははは……。よく覚えてる」



 ……。

 現実として、事実から延べよう。 

 一応全部できた。

 人間死ぬ気になれば、実際問題何十と死にかけた覚えがあるが、俺―――現代日本人 八代伊織(やつしろ いおり) は日々を人ならざる魔物とかと戦い、日常会話や簡単な文章なら問題なく操れる程度の言語能力を手に入れた。

 大体一年くらいの出来事だ。



「ほらっ」

「ありがとー」



 ゲームでいうところのパーティー制。

 唯一の連れであり相棒? 的な元村人Aセシルへと軽量合金の水筒を放り、彼女が飲んでいる間に俺も一服。

 


「んっ、んっ……」

「ねぇイオリ。その美味しくなさそうな黒いドロドロ飲むのやめなよ」

「美味いんだよ、俺の味覚では」



 言った通り、セシルは元村人A。

 俺がこの世界【アウァロン】に落っこちてきたときに最初に出会った女の子だ。

 光の当たり方では金髪にも見える茶色の髪で、長さは―――セミロングっていうのか? 瞳も茶色で、旅装を纏っている様子はファンタジーアニメの女主人公にも見える。

 中性的で、凛々しさもありつつ人懐っこさもありつつなメリハリがそうさせるのだろう。


 ……羅列すると分かると思うが、元の世界ではテレビくらいでしか見たことがなかったような美少女。

 元の粗末な服でさえ目立ってたのに都会に出てオシャレを気にするようになってきた現在はそのまんま田舎娘のアイドルデビュー。

 今だって彼女のファンが見物に何人か……。



「さ、いくか」

「んーー」



 ………。

 


 全力で鍛錬していても広々スペースの空き地を後にし、やってきた二階建ての石造り建築。

 一階にある酒場は柱も少なく広々で、個室が多数存在する二階とは吹き抜けの関係。

 人が横に三人は並んで入れる扉をくぐると二人で併設されたスペースに踏み込んでいく。



「たのもー!」



「「もー」」

「よー、こらぁご両人。お時間通りで大変結構」

「今日も依頼帰りにプロレスごっこしてきたのかなーー? がははっ」

「セシルちゃーん、こっちきてのもーやぁ」

「イオリ坊体調悪くねぇかー、顔色悪くねえかー。明日のセシルちゃんとのパーティー変わろうかー」


「今日は元気ですね皆さん」

「今日も、な」



 飲み物や軽食を提供しているスペースと飲食の為の座席が40程。

 そこかしこから声がかかる。

 雑多なそれらに交じり、明らかに飲食を提供するものとは異なるサービスカウンターのようなスペースがあって、給仕には見えない小奇麗な職員が待機している。


 コルク材のようなボードにはお客様のお言葉のような文書がまばらに張り出され、旅装を纏った者たちが確認。

 稀に職員が新たなものを追加したり、逆に回収したり。


 そう、―――ギルド。

 その三文字は本来様々な意味合いを持つが、異世界ファンタジーにおいては固有名詞に近く。


 アウァロンにおいては大陸冒険者ギルドの名でも呼ばれている。

 ボードに張り出されたそれらは現在最優先で対処してほしいトピックで、素材の採取だったり、街中の清掃だったり家屋の修理だったり……。


 意外? かもしれないが魔物討伐はごく一部。

 当たり前? かは知らんがドラゴン討伐とか魔王討伐とかは張り出されてない。


 冒険者、異世界転移者。

 纏めて聞くだけでお腹いっぱいになりそうな展開だが、夢でもまやかしでもない。

 俺、八代イオリはガチのマジで居世界に迷い込んだ挙句、一番最初に出会った少女セシルとともに村を出て冒険者になってしまったのだ。



 ………。



『イオリくん。君だけが頼りだからね』

『あの向こう見ずのバカ娘を上手く誘導してあげてね。貴方は賢い子なんだから』

『あの子に外の怖さってものを教えてあげてね』


『イオリにぃにー』

『はやくかえってきてねー』



『あー。散歩に行くんじゃないんだが……』



 ………。



 そんなこんなで、両親はいないながら村人たち皆から愛されて育った少女をなーぜか任され今に至る。

 年長者たちは口々に村の力自慢じゃ本当の界隈では通用しない、やがては飽きるか現実を思い知らされて戻ってくると思って俺を同行させたわけで。



「お帰りなさいでーす、セシルちゃん。屋根の修繕依頼の進捗は―――あ、イオリさんもお帰りなさい」

「やほーですカレンさん。今日終わりましたよ!」

「俺はおまけですか?」



 二十代後半程の容姿の如何にもな受付嬢の声を受けてカウンターへ。

 当の女性職員の前には中々の列ができていたはずが、本人が両手を叩くと皆が整理券を配り合ってから散っていく。

 よくあること、なのだろう。 


 

「今日も時間通り。いやぁ、本当に細々としたところも文句なくやってくれて助かりますよお二人さん。報酬はいつも通り出しておきますね。よっ、冒険者の鑑。ご飯にします? おやつにします? それとも、」

「ごはんのちおやつで!」

「くッ、この純粋さゆえのボケ潰し……!」



 カレンさんの天敵らしいな、セシル。



「ではお二人さん、明日もよろしくお願いします―――あ、イオリさんはのこってくださーい。おねーさんから話があります」

「あ、はい」



 目くばせがあった。

 これはまじめな話だろう。



「セシル、大人しくカフェで待てるな?」

「あ、またそうやって子ども扱いするんだ」


 

 手のかかる妹みたいな感覚なんだよ、俺にとっては。

 実際少し小さめだが妹がいて……。



「あなたたちー。分かってますね?」

「「……………」」

「うちの有望株に変な色気出さないでくださーい? 色気は私だけで十分なので」



 カフェスペースに居座る冒険者たちにくぎを刺す彼女、受付嬢カレンさんもまた元冒険者。

 上位に至るような凄腕はギルドから二つ名を送られることがあるが、彼女は【貴剣(きけん)】の名で呼ばれ、何でも20年前に起きた魔族との戦いにも参加したA級冒険者らしい。


 駆け出しのF~E級。

 中位のD~C級。

 現在の大陸ギルドに所属する冒険者は数十万ともいうらしいが、その中でB~Aのランクで括られる上位冒険者は千人にも満たず、A級に至っては100人に満たないと。


 C級でさえ一般的な一流の到達点、町の喧嘩自慢程度相手にならない達人レベルであることを考えれば、彼女などはハッキリ一騎当千の化け物なんだろう。

 実際、今の俺とセシルでは二人掛かりでも勝てるとは思えない。



「あぁ、そこ適当に座って―――どうかしました?」

「いえ」

「なんか聞きたいことでも?」

「いえ」

「言え」

「はい」



 二階へと上がり別室に案内される間に考えていたことを透かされたか?

 ―――いやさ。


 ……。

 この人結局何歳なんだ?

 冒険者の中に多くのファンを抱えてる受付嬢だが、実際のところ冒険者ギルドに登録できるのって成人になる15歳からだろ?

 で、20年前の時点でA級で大きな戦いに参加……、最低でも……。



「適合率高いと老化が遅いって言いますけど、カレンさんって結局何歳―――」

「あははー。それ以上は深淵が覗き返しますよ? 小僧」

「……ッ!!」



 言えって言ったじゃんよ。

 だが大人しくやめよう。

 マージで二度と笑えなくされる。



「それより身体の件ですよね?」

「お、まだ言いますか」

「いや俺の。顔じゃなくて身体ですよ」

「ええ、話が早くて助かりますよっ。異世界人さん。で、ですね。やっぱりおかしな話なのですよ、イオリさん」



 彼女と俺とは秘密を共有する間柄。

 深い意味はない。

 単純に、早い段階で俺はこの人を信頼できる人物と断じ、相棒であるセシルにも話していない秘密を話した。

 一応、多くの冒険者―――流浪者と出会い経験豊富な彼女なら俺と同じような存在を知っているかもと思ったってのもある。



「魔素の毒、またちょっとため込んでますね」

「……ぽいですね。身体が重い」 

 


 魔素。

 大気に交じる超常の力の根源であり、これがあるからこそ魔物は生まれるし、生き物は魔術を使えるし、この世界の人は生命を維持できる。


 通常、魔素というものは酸素などと同じく吸収段階で他の物質へと変換―――魔力へと変わり、体内を循環してやがては消える。


 魔物や一部亜人などはまた別。

 吸収と変換は同じだけど、彼等は魔素を放出するという。

 つまり、魔物が一部地域で繁殖すればその地は魔素が過剰に高くなり、やがては上位種や別の種……より強力な魔物が発生する土壌になってしまうという事。

 冒険者はそれを適切に間引くよくできたシステムでもある。

 


 ……で、俺は?



「結局どういう事なんです? 魔素が魔力に変換されもせず、ただ身体に毒素として蓄積されていくっていうのは」

「不明です。前例は支部の記録にもほとんどないのです。只やっぱり、イオリさんは異世界人。身体機能そのものが私たちとは違う。それゆえの弊害」



 分かっている事は、一つ。

 体内に溜め込んだ魔素が多くなりすぎると、重篤な病因になるという。


 この世界に来た直後から死にかけていたこと、そして今迄の症状はそれが由来なんだろう。



「手を」

「…………」



 言われるままに差し出した手を取られる。

 彼女が徐々に力を込めてきて……とんでもない握力となり、多分100キロは超えるほどの力になってもまた握ってくる。

 骨がミリミリいってるしアホ程いたい。


 だから俺も握り返す。

 魔素を燃やし、だ。



「あーー、いたたたたた、まいった!」

「死活問題なんですけど。遊ぶのやめてくれます?」

「おねーさんジョークじゃないですかぁ、あはは―――はぁ」



「瞬間的な身体強化」

「……………」

「イオリさんのその上がり幅は普通を明らかに超越してます。錬気……冒険者としては当たり前の技術ですが、精々その上がり幅は数倍程度……」



 錬気、とは人間が魔物という圧倒的な力に立ち向かうための技術。 

 魔力による身体強化の基本形。

 魔力を持たない俺はそれが出来ない、つまりカスで。



「あなたの通常の身体能力はゴミです」

「はい」

「けれど、たった一瞬。たった一撃。それが全てをひっくり返す。魔素という、何の濾過も精製もされていない高濃度のエネルギー塊をそのまま一挙に燃やすことで瞬間的に、数十倍の身体強化を可能とする体質……」



「祝福なんかじゃありませんよ? のろいです」

「分かってますよ。薬で分散させるにも限度がある」

「今はそうやって排出する他ありませんからね」



 セシルも眉を顰めていたあの黒いドロドロがそうだ。

 味が好きという謎理論で納得させておいた、が。



「近くの支部全部の資料を取り寄せて、結局現段階で分かったことを言います。落ち着いて聞いてください、イオリさん」

「……長くはない、ですか?」

「……………あーー、この賢い若者」



 最近は、以前に増して体調の悪化が激しい。



「どれくらいですか? 実際」

「もって……一年、でしょうか―――。少しはショックウケません?」

「自分の身体は自分が一番以下略」

「……。もしかしてイオリさんはセシルさんの為だけに遣わされた導き手なのかもしれませんね」



 望みが薄いこと、ソレを俺が理解していることも透かしてるんだろう。

 彼女は一瞬切なげな顔を見せ、すぐに身を乗り出す。



「けど約束してください。絶対に自棄にはならないって。私たちは。私は貴方とセシルちゃんの味方です。ギルドの威信にかけて、貴方を救う方法を探しますから」



 本当にいい人なんだよな、受付嬢さん。



 ………。

 ……………。



「―――ん、ぅ……、うぅ……ねむむ……」



 平らげられた大量の皿。

 血糖値スパイクってやつだな。

 椅子に座ったままこくりこくりと船を漕いでいる相棒に近づき声を掛ける。



「セシル、宿帰るぞ」

「んーー」



 ……なんだ? その両手は。



「ん、む。おんぶー」

「「ひゅーーー!!」」

「おいおい……」



 無防備すぎるよな、やっぱ。

 仮にも勇者になりたいっていう女の子が―――いや、勇者になりたいからこその善性だろう。

 ここで寸劇を続けててもしょうがないと、ため息を一つ彼女を背負う。


 締まっているが、ちゃんと脂肪の柔らかさがある女の子の身体。

 正直重い。

 俺が武器を短剣にしてるのは本当に常人の身体能力しかないからで、20、30キロでもちゃんと重い。

 セシルもちゃんと50キロくらいあるんだから、そりゃ重い。



「えへへ……」

「手がかかる勇者さまで……」



 寝ぼけ娘め。

 足腰以上に道行く知り合いやら出店の人たちの視線も痛いぞ。



「ねー、いおり。目指すは上位―――ううん、最上位冒険者ぁ……。ゆーしゃなるの、私たちぁ……」

「……………」



 冒険者のランクはFからAまで。

 基本としてはその認識だ。


 だが、最上位冒険者。

 絵物語で語られるような英雄たち、S級。

 一騎当千とされる上位すら霞むような、真なる化け物にして大陸に12人しかいない守護者を目指そうなんて酔狂な者、皆が現実を知り秒で挫折する。


 調停者、厄災、天弓奏者、赫焔眼、黒刃毒師、神槍、鋼焔、竜宮、雷切、竜喰い、閃鋼、深淵狩り。

 彼らに追いつきたいなどと。


 本来ならば笑われるだろう。

 誰もが原初に秘めていた憧れは、やがて他者への嘲笑に変わる。

 何処の世界でも同じ―――ヒーローになりたい、正義の味方でありたい、いつしか誰もがそれを否定し始める。

 実際、一番最初にギルド支部に登録したころにセシルの語ったその夢を笑った連中との間で一悶着あった。


 が……、今は誰もセシルを笑わない。

 少なくとも、俺の知り合いの冒険者たちは。



「一緒にいこ……、イオリぃ」

「―――あぁ」



 彼女の才は、A級であるカレンさんや他のギルド職員をして「異常」と言わしめる程のもの。

 俺の呪いとは違う、真なる祝福。

 

 俺は、体内に貯め込んだ魔素の力を利用して僅かに一瞬のみ強力な身体能力を得ているに過ぎない。

 ……しかも、使う程死に向かう。

 レベルが着々と上がってる彼女と、レベル1のまま何とかドーピングで付いていってる俺。

 天秤なんて端から成立してない。


 いずれは破綻する。

 が、その頃には多分彼女には村という枠組みはあまりに狭くなっているだろう。

 このまま戻ることは、多分ない。


 

「カレンさんも言ってたぞ。英雄になれる器だって。行けるさ、セシルなら。S級に」

「いっしょに、いくんだよ、んぅ」



 ………。

 セシルは、強い少女だ。

 だけど、優しすぎる。

 己の身に余るものですら、普通ならば諦めて取りこぼしてしまうものすら、余さず身を挺して守ろうとする。



「あんまり無茶しないでくれよ」

「だいじょー、ぶぅ。あいぼう、つよいから。ヘマしちゃって沢山のゴブリンに圧し潰されそうになっちゃったときも、オークに……その。襲われそうになった時も。イオリが助けてくれた」



「これからも、イオリが居てくれる、から」



 ………。


 まぁ。

 確かに、一人だったら今頃セシルの冒険者生命はなかっただろう。

 多分村娘がひとり行方不明で終わってたと思う。


 あの時々程ゴブリンやオークを羨ま―――憎々しいと思ったことはない。


 

「勇者とは生まれで定められた称号にあらず。その人間の生き様がいつしか人々に謳われてそうなってるんだって……。イオリの世界の物語、ね」

「あぁ」



 勿論法螺話だ。

 興奮して暴走しそうだったセシルをなだめるために出まかせを話した覚えがある。

 だが、今の彼女の拠り所らしい。


 通常、六神の勇者っていうのは15歳までに祝福を受けなければ一生機会はないっていうからな。

 既に16を超えたセシルは、あくまで普通の最強冒険者……? として名を遺す程度。

  

 だが。

 あくまで称号として、沢山の人々を救った英雄としてそう呼ばれることは出来る。


 だから、俺はせめてその前段階まで。

 かつて勇者たちを導いたっていう冒険者のように……導き手のように。



「なんか、いってよ……あぁあしかいわない」

「あぁ」

「またいったー」

「口癖なこれ」



「―――あぁ、行こう。まぁ付き合うさ。セシルが人々の勇者になる、その日までな」

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