第17話:流動する戦い
「やはり、やはり―――……アインスベルク! 貴方がッッ!」
突如として反旗を翻した騎士の攻撃によって壁に叩きつけられ、全身から血を噴き出し片膝をついた大司教ワルダック。
治癒魔術ですら説明のつかない異様な速度で塞がっていく手傷。
同時に、その思考の回転もまた異様なまでに早かったといえるだろう。
立ち上がった彼が諸手を開き、上へ跳躍する。
今に空間を震わせるほどに膨大な魔力が渦巻き、その密度によって空間が歪んだようにさえ。
「ならばこちらとて隠し立てする必要なしッ」
「神聖なる領域、大いなる天の裁きを――――地脈捻じ曲げ、流れを開き我が魔力! 六の都市、万の命ささげし無限の魔力をとくとお見せしましょう!」
「”新聖天葬”!!」
手が天へと掲げられる。
中央教会の頭上遥か高くに光が収束し、焔など問題にならない熱を生み続け、一筋の柱となる。
ワルダックの手の動きに従っているということは明白であり、今に振り下ろされる直前だろう。
「あつっ、あつつっ。あついでーす」
「あんなん見たことも……ぅァちちちッ!? こらァ―――どんな大大大魔術だ!?」
「儀式魔術……降魔の光剣! 300年前の大戦に用いられた戦略術式……! いけませ、殿下を安全な―――こふッ」
「あ! セルシオ!」
「セルシオ卿! んな傷で喋ったら!」
「待っててください、今私が治して……」
「ぁ……。兄、さま」
「―――。今は下がっていろ」
反応は様々。
膝を曲げ口から血を吐くセルシオに駆け寄ろうとしたセレスティンは、兜の奥から同色の瞳で己をまっすぐに捉える騎士に留められ。
「ウェセラ」
アインスベルクが武器を横に構える。
水の聖剣に、蒼穹を思わせるオーラが立ち上り、収束。
「騎士―――! 命令に従うことしかない木偶人形よ、全てはまやかしにて! 守れるのならば守ってみるがいいでしょう!」
「”落閃流水”」
今まさに地上へ墜とされた滅亡の光槍、対してアインスベルクの放った青の斬撃。
一帯が眩い光に包まれ、直後に轟音がさざ波の如きか細さに消える。
本来大儀式を要する戦略魔術が一瞬で押し負けたのだ。
「……は―――ははははははははははははははははっ! これこそが、水の聖剣が秘めし固定の権能―――」
空間が歪み、一斬に吹き飛ぶ。
存在していた雲、その一切が消えゆく光の柱とともに吹き飛び、当然にして中央教会の天蓋、彼らが存在する階の上層全てもが消滅。
異様なのはそれほどの威力と衝撃があって、しかしその階層にいた当事者たちへ伝播する被害はあまりに少なかったこと。
揺れもなく、崩落する全てを巨大な水の流れが包み押してしまったかのように。
「これが―――、兄さまの……」
「おい、おい……。どんなだよ……。化け物大決戦か?」
「ふふ……、流石は―――ぅ、ァ……」
「あっ、セルシオ!」
ワルダックの姿が消え、晴天に支配された空の下。
聖都を覆う城壁の向こう側では帝国と聖国の戦いが起こっているとは到底思えない静寂だった。
やがて、遅れて全ての事象が流れ始めたように膝をつくセルシオ、息を吐き出すアルベリヒ。
片膝をついた騎士へセレスティンが駆け寄る。
男の布鎧、その胸部は既におびただしい血に濡れていた。
他ならぬ、アインスベルクによって貫かれた箇所に間違いもない。
「セルシオ、セルシオ! しっかりしてください! 私が―――あ……れ?」
「……? 姫様!? セルシオ卿、まさか―――」
「はい、何か」
「うおォォォ!?」
片膝立ちになっていた騎士がすくと立ち上がる。
手遅れ―――そうとも取れる聖女の声に駆け寄ろうとしていたアルベリヒは逆に目をむき。
「セル、シオ? あなた、傷口が……」
「大事ありません……。治癒を行使した途端ぴたりと癒着してしまいましたので。若干身体がだるいくらいで。恐ろしきは聖剣の鋭さ……」
「んーー、貧血ですねー」
「「……………」」
「わは、まぁこんなものですよ、適合率高い人って。それより―――わわっ。セレスティンさま?」
「……。これが……っ」
セルシオの安全を確認し胸を撫でおろすや否や弾かれるようにして駆け出し、崩れ落ちた中央教会の壁越しに城下を見下ろすセレスティン。
完全に崩れ去った中央教会。
上階が消え、今や屋上と化したそこから映った都市風景はまさに地獄だった。
栄華を誇ったプリエールの聖都は廃墟と化し、大多数の家屋が倒壊、或いは沈没している。
都市全体が、ここ中央教会を起点として円形に陥没しているのだ。
動き回るものはなく、命の鼓動というものが欠片も感じられない。
大口を開ける地上の崩落は、まるで真下に巨大な魔物が存在し、大地そのものを喰らったかのように巨大な深淵と化している。
「あん時の都市と同じ、か。全部飲まれちまったのか……?」
「これでは、生者など……」
「いいえッ!」
アルベリヒとセルシオの覚悟した声を他ならぬセレスティンが否定した。
「聞こえるのです」
「声ではなく、祈りが。沢山の―――数えきれない祈りが。穴の深くから……! 微かですけれど、耳を傾けた今なら確かに聞こえます!」
「聞こえるんですね? セレスティン様にも。―――これ、シンクホールって言います」
「「!」」
言葉を引き継いだのは竜司祭。
彼女は城下をぐると見まわし、語る。
「言っちゃいますと、この陥没って彼らのやったことじゃないんです。儀式によって生じた巨大な衝撃で、カウンターとして発動する仕組み。地盤が砕け、落下した全ての命をすべてそこに固定している、と。で……」
「アインスベルクさま。あなた、他の都市にもこれやったんですね?」
「……」
「―――! ん、じゃあ、地震とかはワルダックの策略で、こことか他ん都市で大きな穴が出来たのはまた別……」
「これは貴方が? アインスベルク殿」
竜司祭と彼らの言葉にアインスベルクは無言を貫いた。
それは肯定のようでもあり。
「って、命の固定ってどういう? んな馬鹿みたいな……」
「そう言うとちょっと比喩的ですけどね。まぁ出来るんですよー、これが。三聖剣―――最上位魔術を封じた至宝の力を舐めちゃいけませんよ、騎士さん。物語の読み込みがまだまだ浅いですね」
「……。ワルダックの協力者が用いた地脈操作も、流魂の下法も、一定以上の地下深くまでは及ばない。魂を捧げられるより早く、地盤沈下によって下へ流れた命を纏めた。助かる唯一の方法だと思った。その過程で命を落とすことがあっても、全滅よりはマシだと」
「……なんつうか」
「ものすごいパワープレイですか? もしかして」
「あっらわざァ! 正直杜撰すぎでーす。次からですね? そういうのやるときは一緒に―――お?」
騎士が剣を構える。
「どちらにせよ全ての命は救えなかった。咎は背負おう。だが、私の役はまだ終わっていない」
………。
降ってきたのは腕。
大司教ワルダックの肩から先の腕が丸ごと降ってきた。
続くように、様々な部位が。
先の攻撃で遥か上空に押し上げられていたそれらが、肉片が今ようやく帰還し、そして。
「嘘。こんな……、こんなの……」
「……! もはや……人と呼ぶことは」
「いや出来てたまるかッ」
肉片が固着し、固結し、一つの形となる。
朱と朱の間から血管の糸が数百と伸び、求めあうように舞い、踊る。
「ァ、―――う、……う、む。これで、完全……」
「ふふ。流石。流石はトルキン三聖剣が一、界剣ウェセラ。流石は天銀のアインスベルク……!! 貴方は味方のままでいてほしかった!」
人間という生物ではない。
ものの十秒程度でワルダックの肉体は完全に姿かたちを取り戻したのだ。
「んであれで生きてんだよ……」
「んーー。地の聖女クラリッサが打ち上げた聖剣ウェセラに刻印がないわけもないですし、ちゃんと浄化が発動しててこれですかー。魔人より厄介ですねこれー」
「そしてマジで何を知ってんだこの司祭さん……」
「さて、ええ。状況は理解しております。聖都全体が儀式の範囲に定められている中で、中心であるゆえにここ中央教会だけは反魂の効果範囲の外側、台風の目。にも拘らず、星芒法衛の騎士たちがやってくる気配があまりに無い。あなたですね? アインスベルク―――」
「―――それが、どうした」
「……!」
斬撃が再び大司教を捉える。
切り裂かれ、肉片となって吹き飛ぶ上半身が再生したのをまさに彼らは目の当たりにし、しかし次いで放たれた一撃が金属音とともに静止した。
「―――く……!?」
「無謀、なり」
今度はアインスベルクの身体が大きく横に飛ばされる。
音を置き去りにするほどの威力で放たれた斬撃に一瞬で対応したものの、力負けした形。
「希望が芽生えましたか? ならばそれが錯覚だと証明しましょう」
「彼ら七騎は大陸を滅ぼすもの。数千万の命を内包した死の化身。ゆえに―――抗う術などなく」
「「――――」」
ワルダックの隣にゆらりと現れたのは、全身を赤錆色の鎧に包んだ騎士。
手には星芒法衛の制式武装たる天銀の剣が握られているが、到る箇所が錆に覆われており。
「ベール・リッチ……!!」
「まさか!? ローグベルク卿は!?」
「それが定めであった、だけのこと」
30メートルの高さから落下したはずの錆騎士はまるで損傷の痕跡を見せてはいない。
そして、共に落下した男の姿は何処にもない。
「アインスベルク。あなたの裏切り、予測できていました。しかし、元よりここまですべてが進んでしまえば、ベール・リッチ殿と私がいれば何一つとして問題はない! 全ての魂を取り込み新生した使徒たる私が全てを終わらせましょう! この腐った国の仕組み全て……全てを!」
(……ん?)
ワルダックの言葉にアルベリヒは何か違和感を覚えたが、アインスベルクが立ち上がり張り詰め始めた空気にそれも霧散し。
「両者ともに倒せば済む話だ」
「ほほほ。貴方が疲弊しているということは理解している。聖剣の力を無理に引き出していることも。果たして、今の貴方の余力でベール・リッチ卿をどれ程足止めできますか?」
「止めるではない。打ち倒し、全てを手に入れる。貴様もだ、ワルダック」
「―――セルシオ騎士長。セレスを……」
「護りますとも。―――またともに戦えること、嬉しく思いますよ。アインスベルク殿」
「……ふ」
かつての師の言葉に、アインスベルクは兜の奥で小さく声を漏らす。
そして。
「―――銀雪一過」
「錆成り」
衝突する怪物同士。
白銀の騎士が振り下ろした斬撃が錆の騎士に往なされ、しかしその余波だけで塔の一つが切り落とされ、錆騎士の斬撃が放たれる毎に発生する錆の瘴気を白銀の騎士が放つ青のオーラが跳ね除ける。
「―――ッ」
一瞬で十の斬撃が交わされた。
両者の戦いはこの場の誰もが踏み込めない領域にあったが、そのうえでアインスベルクは押されているように映り。
「ぐ……」
「”大地針”……加勢しましょう、ベール・リッチ卿」
「好きに、しろ」
動くワルダック。
錆騎士の猛攻に合わせ、自身も術によって四方を石の槍へと変え、アインスベルクの行動を阻害。
全てを回避しなければならないアインスベルクに対し、錆騎士へ当たるそれらは錆色の塵となって霧散していく。
趨勢は明らか、アインスベルクは態勢を崩した。
「惜しき、命。しかし、全ては、必定―――、これもまた定め」
「く……、ぅ!」
「さらばです、最強の騎士よ!」
「すまない、諸君」
「私は己が忘れるのはしょっちゅうだが、人に忘れられるのは我慢ならなくてな」
一瞬ですべてが決まる戦場で、何処からともなく聞こえた声。
その声に一瞬だけ錆騎士の剣の動きが固まったのをアインスベルクは見逃さない。
「ぉぉぉお! 銀閃ッッ!!」
「―――、ォ」
錆騎士の身体が浮き、叩き込まれた痛烈な一撃のまま城下へと一筋の流星になり墜ちていく。
同時にアインスベルクが追うようにして床を蹴り姿を消し。
………。
シンと、一時静まり返った中央教会で崩落前より床に突き立ち忘れられていた黒刃を拾い上げる者がいた。
「失敬、連れの持ち物だ。農業を基幹産業と掲げる領主として、ポイ捨てには敏感でね。多くは既知の仲だが―――新顔もいるようだ。お初に、アトラ教ワルダック大司教」
「貴方は……」
「名乗る必要もないだろう。どうせこれが最初で最後の邂逅だ。と、少し動かないでもらおう」
「……ッ!」
男が何となしに放った黒刃が突如弾かれたように急加速し、ワルダックの頬を掠め壁に突き立つ。
反応が遅れたのは間違いなく視認しきれないほどの速度だった故。
「レイクさま……」
「アルベリヒ。時間がない、一度しか言わないぞ」
男……レイクアノールが己が騎士へと焦点を合わせ、宣言する。
「出来る筈だと。師が言っていた、その武器を使えと。お前がやれ。お前が倒せ」
「―――。え?」
「セルシオ卿。そこの騎士の援護を頼めますね?」
「……はは。言われずとも、伯爵。重ね、私が倒してしまっても構わないのでしょう?」
「無論」
「では、私には私の戦場があるのでな」
複数人と言葉を交わすままに、彼は悠々と崩落した壁際へと歩み。
また、流れるように飛び降り姿を消した。
◇
「ひゅっ……、ひゅう―――」
「ぜえ……、ぜぇ……。ぉえっ」
「なぜ考えなしに身を投げたのだ? 主」
「行けると思って」
「阿呆領主……」
余裕たっぷりに格好良く中央教会から身を投げたまではよかったが、思いのほか高かったぞ。
着地時にオウルにお姫様抱っこしてもらったのは正解、しかしキュンと来たのは内緒だ。
僕の護衛は顔がよすぎる、多分主に似たんだな。
……?
だとすればアルベリヒの顔が落書きなのはなぜだ。
「……。本当にやれるんだろうな? アレは」
「今のあの武器ならば僅かに可能性はあるという話だ。十中八九死ぬかもしれない。だが、もし生きられれば……。あれは大きく壁を超える」
分の悪い賭け、と。
まあそれはこちらとて同じか。
「ならば我々も行こうか」
「本当に来るのか?」
「護衛任務、よくやっただろう? 護りながら戦う。わけないはずだ、死神殿。それと弄りすぎるなよ? 簡単に死ぬからな」
「―――主を間違えた。せめてもう少し戦闘能力を持つものにすべきだった」
僕が今まで身を潜めてたのは状況把握と敵の能力を測るため。
満を持しての登場だが、勝率が完ぺきという話でもない。
聖女様の、聖国の今後の為、ひいては僕の為でもある。
莫大な恩を売るには丁度良い機会であることに間違いはないのだ。
………。
さて。
「―――おおおおおォォォォォ!!」
「……。見事、しかし、浅い」
かつて大通りだった廃墟の中で、二つの嵐が衝突していた。
武器の一振りで家屋が次々と倒壊し、踏み込みの一つで爆裂が起きる。
地盤は脆く崩れ、錆の嵐に有機物も無機物も等しく朽ち、蒼の波動が押し流す。
両者の周りだけ数十メートルが更地になってる。
「―――帝国軍の陽動。少数部隊による聖女の奪還。天銀騎士団の協力。……状況は大きく変わってしまったわけだ」
だが、最初からこの状況は必然。
むしろ、ある者からすればこの流れこそが当初の予定通りだったのだろう。
「ウェセラ、もっとだ……! もっと寄こせッ」
他ならぬ、アインスベルクにとってはね。
考えれば至極簡単なことだったといえるだろう。
当初僕が纏めて一つの現象だと思ってた地震と陥没も、中央教会にいた星芒法衛の大多数が既に戦闘不能だったのも。
国中を騎士団連れて駆けずりまわってたのも、シンクホールというカウンターを仕掛ける工作の為。
「敵が出そろい、聖女の安全が確認され、役者もまた完全に煮詰まった状況。ここになってようやく反旗を翻した―――敵と定めたものを纏めて始末するつもりか」
イケメンで最強で知略も回る……僕の上位互換か何かか? あの騎士。
「―――ぐ!?」
「既に、残りの力は、僅かか。見誤った、か」
鍔迫り合いの接戦。
錆騎士の鞭のようにしなる腕鎧がアインスベルクの胴を叩き、引き摺る。
―――まぁ、今回のアインスベルクチャートの最大の問題は、錆騎士が思ってたより大分強かったことと、彼自身かなり疲弊しているという事。
もしも更なる敵勢力が出てくれば、流石に根本が崩れる可能性もある。
「―――錬技”迅雷”……銀閃ッ!!」
「無為ッ」
互いの能力はどちらも人外クラス。
あまりの速さだからなのか、それともそういう能力なのか、両者の動きは行き過ぎたコマ送り、環境が最悪な中でゲームをしているようにさえ見えて。
或いはスライスが速すぎて逆に止まって見える裁断機やら、水が流れてるのに固まって見える層流現象だな。
しかし、素人の見立てだけど、やはりアインスベルクは押されているようで。
「素人からは以上だ。専門家、どうだ?」
「―――あぁ、酷く衰弱している。ろくに全力を出し切れない」
「つまり恩を売れると」
実はそのほうが好都合。
「錆嵐」
「ぐ、ォ……!」
死の瘴気が天銀の騎士の全身鎧をも浸食し、蝕む。
思うように動かず、軋む鎧。
いかに魔術反射の特異性を有し精神汚染を完璧に防ぎきる天銀の鎧とはいえ、あの錆の瘴気は防げないらしく。
どうやらアインスベルクと錆騎士の相性っていうものは最悪に近いらしいな。
「その戦い―――暫し待ってもらおう」
アインスベルクを襲う錆嵐の前に立ち、纏っていた外套をひらり。
堅牢の刻印を貫通して錆と腐食が広がってるが、上手く耐えきってる―――ように見える。
実際はオウルが捌いてくれてるわけだが。
「―――貴公は」
「レイクアノール。名前だけでも覚えて帰ってもらえると助かるが、早い話で、後生大事な妹君の助っ人だ。今後のために手を貸そう、天銀の騎士」
「来たか。写し、の……光」
「悪いがそのような知り合いはいない。黒霧瓶、毒死瓶」
なーぜか待ってましたとばかりに話しかけてきた相手へオウル謹製である劇毒の中身を放るが容易く避けられた。
誰かと勘違いしてる可能性。
ひとまず、振り抜かれた錆の嵐をオウルの斬撃が相殺し、生じた暴風へと投げ込むスクロール。
「……!」
「風の影響を受けない―――知ってるか。耐風刻印の特別製だ、値は張るがな―――”益衝”」
爆裂が大地を削り、騎士たちの斬撃にも次ぐ威力で家屋を吹き散らす。
単純な爆裂魔術と、化学物質の合わせ技。
スクロール本体に起爆性の鉱石粉末をたっぷり混ぜ込み爆発力も向上した―――。
「―――錆嵐」
けどピンピンしてら。
ちょっとかなり意味の分からない速さで迫ってきて、錆びた剣を振ってくる錆騎士。
僕の身体能力じゃとても避けれないな。
「……!」
「―――っとと。勘弁してくれ、破傷風になる」
明らかに人間の体構造っていうか物理的におかしな動き。
僕の意識とは無関係に身体が後ろに跳躍、ミキミキと足の筋繊維が千切れるのを感じる。
多分二度と自分の意思で歩けないが、自由に動かしたいのは手だけなので実質ノーダメージ。
錆騎士の攻撃に合わせ再び足が勝手に動き回避行動をとる。
すれすれで死の瘴気が舞う。
全幅の信頼とは言うが、少しでも誤れば本当に死ぬな、これは。
今の僕は地上最強決定戦に迷い込んだチワワ、化け物三人の戦いに巻き込まれ(に行っ)た一般美形貴族だ。
「なんと、面白き、動き―――、ガガ……ッ!」
「私を忘れたか? ベール・リッチ」
……錆騎士もあんな声出すんだな。
アインスベルクの一斬が錆騎士の腕鎧を捉え、切断こそ敵わなかったが衝撃で大きく後退させる。
「天銀殿。悪いが出来るのはかく乱程度だ。君たちについていくので精いっぱいでな」
「いや、それだけで……」
「貴殿の部下たちが頼んのもしい応援を連れて戻ってくるまでの時間を稼ぐ、それでいいはずだな?」
「―――! ……十分だ。礼を言う……。君たち双方に」
「おっと」
互いにちょっとびっくりしながらも態勢を立て直した敵へと刃を構える。
ちょっと予想と違ったが―――結構素直で礼儀を知ってるんだな、アインスベルクという男。
それに彼、僕の背後の死神にちゃんと気付いてるっぽい。
こちらがアインスベルクの先の狙いに気付いているようにだ。
「……こ、い。天銀。写しの、光」
「―――では」
「まて、だから誰だそれは」
こうして、初めまして同士による奇妙な共闘関係が出来上がった。




