第11話:歴史は大体ドロドロ
湖の太陽……。
己が輝くのではなく、光を写すものであれ。
湖に映った陽光のように、同じ目線を持ち人々の孤独に寄り添う存在であれ、と。
「幼少期より支えてくれている侍従が言うには、そのような領主に育ってほしいという意味を込め、亡き母がそう名付けたのだと。アノール―――とは、希少種族の古い言葉で陽光という意味があるのだと。湖の、太陽…….。まぁ、この輝かんばかりの顔を見てもらえばわかるかと」
「まさに、であるな」
「名は体を表すというわけですか、ふふ……。しかし結局自身が輝いてないですか? それでは」
我慢できなかったんだろう。
と、何でこんな話になったんだっけ。
聖都に侵入した僕らは、宵闇にまぎれて旧リーアニュクス商会支部であった建物をセーフハウスとして潜入。
で、本隊からの連絡を待つ間暫し隠れ潜むことになったのでこの際親交を深めるために色々と世間話とかして。
互いの過去とかを話し合う中で飛んだような記憶だ。
流石の商魂なのか、簡素な椅子やテーブルなどを除き何もかも運び出され既に完全なものけの殻である室内。
眠気をごまかすように会話を続ける。
「そろっそろ瞼が重いっす。仮眠よろし?」
「いや、誰かが船をこぎ出す前に今後について確認取っておくべきだ。これからの作戦は大まかに3段階だと」
まず、第一段階で僕らに出来ることはほとんどない。
時間が解決すべき問題だ。
何にも優先して帝国の諸侯連合が聖都近郊まで攻め入る必要性……これが最重要。
で、必ず起こるであろう騒ぎに便乗して僕たちが動き出すのが第二段階。
混乱した指揮系統の中でプリエールの中央教会へと侵入し、囚われの身となっている聖女セレスティンを救出。
「第三段階は大詰め。帝国軍との戦いに駆り出されている聖銀騎士団へと呼びかけ、こちら側へと引き込む」
「また、帝国軍の補給線の維持で現在もワイズさまが各地の中立貴族などに援助の呼びかけを行っている筈。現状どの都市が壊滅を免れて残っているかという話にもなりますが、殿下を救出できれば諸侯への一斉号令も叶うでしょう」
「―――何で最初からそれやらなかったんです?」
「当然やっただろうさ。そのうえで現状なのだ。重ね、当時と今では状況が違う」
一般寄りの感性であるアルベリヒからすれば聖女がまだこっち側にいた時に号令を掛けて中央に対抗していればという考えが出るのも当然だろう。
が、あの時と今ではまるで戦況は異なる。
そもそも、聖女セレスティンの行方を明かすことができないゆえ、大規模な号令を掛けられなかったことと。
「一つ、当時は帝国が全面的に介入し、今の五分の状況になるなど聖国の誰も予想していなかったのだ。星芒法衛と聖銀騎士を握る中央が相手では勝機なども皆無……。そんなリスクを前に誰が呼びかけに答えられる?」
「……なーる」
「二つ、累が及ばぬなら人はリスクを取らんが、自身が害されるかもしれないという時にはどれだけのリスクも取れる。この中央はともかく、今現在の聖国の地方はガタガタだ。明日は自分の都市が滅ぶかもしれないという中でいつまで中立が貫ける?」
「縋るものがあるだけ、マシということであるか」
何かしらの行動をしなければと悩んでいるだろう中、大義名分と勝機が向こうからくるなら渡りに船だ。
とはいえ、この内戦が終結したとて暫しプリエールは復興まで時間を要するだろう。
あるいはプリエールに最も近い領の一つであるアノール領は大きな利を得られるかも……。
「人魔大戦の一兵卒だった頃を思い出す緊張です……。しかし、当時とは異なり戦いを左右するのは異界の勇者や一握りの英雄たちではなく、私たちでもある」
「「……………」」
「困りましたね、鼓動が速くなるばかりで眠れそうにありませんよ」
セルシオ卿の言葉に静かな緊張を浮かべる面々。
鍵を握るは僕らの行動と、聖銀騎士団の動向。
敵の主力一つをまるっと寝返らせるという賭け。
その策が上手くいくか行くまいかですべてが変わってしまう。
アノール領で会った時、聖女セレスティン自身は「間違いない」と宣言したわけだが、僕は実際アインスベルクを知っているわけではないし。
「セルシオ卿。ここでぶっちゃけてしまいましょう。実はアノール領でお会いした時、私は聖女殿下より伺っているのです。彼女と天銀の騎士は実の兄妹であるのだと」
「……!」
「ぬ?」
「え? は!? 聞いてないんすが!?」
彼は衝撃を受けた顔だった。
知っている側ゆえの―――僕がそのことを知っているということに驚いたようで。
しかし、すぐに小さく何度か頷く。
今の彼と僕には一定の信頼があったから……だと思う。
「事実です。亡き聖王陛下の子は複数いる。しかし、公に認められ、同時に知られているのはセレスティン殿下のみ」
「認められてないんすか」
「えぇ。なんと説明すればいいか……様々な要因があり」
「……嬉しくない情報だ。或いは、アインスベルクがそのことを恨みに思っている可能性が万に一つもないと言えますか?
「……………」
何故黙るんだい?
あー、嫌な予感。
仮に全てが上手くいって聖女を救出できたとして、聖国最強たる聖銀騎士団が敵のままだったらギャグだよ?
「こ、コホン。先の話の延長ではありませんが。アインスベルク……。彼はどのような男なのです? 王家の人間だと名乗れぬのなら、現在の立ち位置は?」
「―――。とても実直な少年でしたよ。そして立ち位置。この国において故あって出自を隠すものは多いですが、そういった者たちは主に孤児として国営の施設で育つ。彼もその一人でした」
「私は彼の剣術を指南したこともある。アインスベルクは才覚に満ち溢れ、何より努力を厭うということを知らなかった。己を磨く手段があるなら何でもする程に。一度定めたことは、何があろうと全うする男」
幼き時から将来の聖銀騎士団を背負うべき存在として大いに、盛大に期待されて、しかしその重圧を跳ね除ける程強大に成長した。
星芒法衛の長であった自分から見ても、歴代最強の謳い文句は真実だろうと彼はいい。
「類まれなる剣術の才も、魔力の強大さも。歴代騎士団長に贈られる最高純度の天銀装備も、トルキン三聖剣たる界剣ウェセラも……。そのどれもが彼を支える根幹ではない。敵となった時に真に恐るるべきは……アインスベルクが持つ最大の武器は、鉄晶をも凌駕する鋼の意志。私はそう断言します」
「……何があろうと全う、ねぇ。やーな響きだ」
「世界最硬の金属をも凌駕する意志の力であるか」
アルベリヒが想像してる通り、そのブレない意志とやらが僕たちにとって嬉しくないほうに振り切れてなきゃいいけどね。
実際、貴族社会においては近しい間柄程、血の繋がっている兄妹程分かり合えないことだってある。
表面上でどれ程親しくしてても内で何を考えているか。
………。
王族の生まれでありながら、それを名乗ることを禁じられた。
敵対の理由としては筋が通る。
貴族として生まれた僕も一定理解を示せる話だ。
「聖王―――王家の血を継ぐもの。或いは彼が正当性を主張して後継の座を狙っていても何ら不思議ではない」
「む、む……。そういうものであるか」
「なんすかねぇ。話がやんごとなすぎて俺らには何とも」
「……なれば。皆様にお話しておきたいことが一つ」
セルシオ卿が居住まいを正す。
「先の孤児として育つという話にも関連することです。この国の根幹に関わる話……。実のところ、今日のプリエール王家……亡き聖王に連なるもので、水の聖女の血を継ぐ者は殆どおりません」
「……。む?」
「あい?」
「―――なんですって?」
んな馬鹿な。
水の聖女の血統であることが王家の証なのに、その血統が王家にはほとんどいない?
なぞなぞか?
「プリエールの最も古き、そして尊き血族。聖女の代替わりは親から子ではなく、養子という形で受け継がれてきました。初代の血を引く彼女らは中央から引き離された施設で生まれ、孤児として育てられる。歴代の聖女に衰えが近づく頃、王家は素養の高いものを順に候補者として中央へ集めるのです」
「王室の象徴たる聖女が国王、王族の実子ではない……!?」
「そうです。王家と聖女の血筋は切り離されており、当代の聖女の年齢により養子として迎えられるか、妃として迎えられるかは分かれる。たとえ妻として迎えられても、国王と聖女の間に子がなされることはありません」
「次の聖女も王家の血をひかない候補者から選ばれるから……ってコト!?」
「そうです」
………。
「国王と聖女の間に子が生まれることは許されぬし、施設で生まれる聖女の数にも上限が定められている。今となっては誰が定めたかも忘れ去られた法の実在。……この国でその事実を知るのは政府関係者の一握りと、星芒や聖銀の中でも僅かな者のみ。これは数百年以上昔より続くもの。あくまで能力の高さと、血を絶やさぬという点に注いだしきたりなのか、王家の力が強くなり過ぎぬようにするためか、或いはとっくの昔に何度も成り代わっている故なのか……様々な事情があったのかもしれません」
政略結婚より余程ドロッドロだな。
この仕組みが健全かそうでないのかは僕には判断できない。
「一世代に存在していい血統の持ち主に絶対的な定数がある。気持ちのいい話ではありませんね」
「っすね、二重の意味で気持ち良くないお話で……」
「―――黙れ」
「その難解なしきたり。ごく一部しか知ることの許されぬ根幹。利用を目論むものがいても不思議ではなかった。それが26年前―――」
秘匿された血統。
この国で孤児は珍しくないが、その中で聖女の血を持つものを知るのは政府関係者のごく一部。
候補者である本人らすら己以外の誰がそうなのかは知らない―――そんなの、簒奪を目論もうとすれば簡単だ。
国民の誰も知らない間に総入れ替えで王家を乗っ取ることだってできただろう。
で、実際にその目論見が起きたのだと彼はいい。
詰まる話、セルシオ卿の前の騎士団長が反乱を起こした。
自らの繋がりのあった血縁の女性を聖女とすべく、他の候補者たち全員の殺害を目論んだ。
「星芒と聖銀、両騎士団を巻き込み、中央が持つ権力の象徴たる戦力の半数が死亡。最大数の12人存在していた聖女候補もたった一人を残し全員が。その中には反乱に加担した者も含まれ、終局として本来聖女になる筈のなかった、最も傍流の女性に力が宿ったのです」
宗教国家の秘密主義ってのはここまでのものか。
普通、国内でそんな大事件があろうものならもっと他国に知れ渡っててもおかしくないってのに。
ともあれ、中央の立て直しのために次代の聖女は急ぎ王家の人間と結婚する必要があった。
既に相手には既に妻がいたし、子供も沢山いたけど貴族的には些細なことだろうと。
この一件こそ、アインスベルクらが聖王の実子であることを名乗れなくなった要因。
聖女の伴侶たる男……聖王になるべき男に既に子供が幾人もいるってのは外聞が悪いから。
「―――えぇ、そうです。セレスティン殿下はプリエールの歴史でも例外中の例外。王家と聖女の血、双方を継ぐ御方。ゆえに我々は命に代えてもお守りしなければならない。それがセレスティン殿下の母君……ルクレツィア様へのせめてもの……」
「「……………」」
「ルクレツィア様は国家の母として騎士団の立て直しを主導するなど、我々にとっても最大の恩人でした。……しかし、その海のような思慮深さと自己犠牲を辞さぬ精神性が、元々強くなかった彼女の身体をむしばみ……」
「あー。もし、卿」
それ、かなり長くなるよね多分。
セルシオ卿と中央の騎士団がそろって先代の聖女に義理立てして聖女セレスティンを護ろうとしてるってのは十分伝わったんで。
ちょっと話の腰折って悪いけどさ、なんか最悪の可能性気付いた気がする。
聖女セレスティンがその座を継承している以上、先代のルクレツィアは既に故人。
重ね、26年前の惨劇とやらで血筋はほぼ断絶状態。
聖王の子供たちは数いても、国家のしきたりにより聖女の資格を持っているのはたった一人で……。
「現在水の聖女の血統はセレスティン殿下ただ一人……。彼女を手に入れた者が、プリエールの全てを握る。その認識でよろしいのですよね?」
「―――えぇ」
想像以上に終わってたな。
いや、マジで。
「断絶しちゃった♪」じゃ済まされないんだけど聖女の血筋は。
で、本題。
「セルシオ卿。一つだけ」
「……。えぇ」
「アトラ教本教は―――教皇や枢機卿、7人の大司教……枢密院の方々はそのことをご存じなのではないですか?」
「……流石ですね、伯爵」
「―――。聞きたくはありませんでしたがね、その言質は」
ようやく理解した。
アトラ教本教も、帝国も……プリエールにしてやられたのだ。
「なぜここまでの惨状になりながら本教が介入してこないのかと。大陸すべてに情報網を持つ彼らがここまで大事になった事件の裏で暗躍していないのかと不思議に思っていました。介入しないのではなく出来ない。―――本教はこの戦いに決して参戦しては来ない。つまりはそういう話ですか」
「そうです」
「或いは、ワルダック派が完全に政権を握ったとしても……」
「本教はそれを黙認するでしょうね」
―――ガッデム。
「あの、レイクさま? セルシオ卿? 話がまるで……」
「分かるように説明を求む」
「それ。マジそれ。何がどうなって本教が介入できないって話に……ん? あ!? ―――ってこたぁ、ワルダックが聖女を人質にして自分たちの正当性を主張してるって話すか!?」
アルベリヒにしては頭が回ってるな。
そう、本当終わってる。
これが行き過ぎた血統主義の末路。
「聖女の代替わりが血統によってのみ定められている以上、アトラ教上層部は聖女という存在が次代へつながるのならその過程はどうでもいいと考えている可能性が高い。いや、どちらかというと下手に刺激し聖女が死去するよりは、事を荒立てない最悪を選んだ……」
「恐らく、皆様方を……帝国中央を動かしたのはアトラ教です。隣国最大の国家を動かすことで聖国の意思がどれ程のものなのかを確認するつもりだったのでしょう」
「―――結果、徹底抗戦の意思が見えたわけだ。最高ですね」
このセーフハウスですべてが繋がった。
最悪の安楽椅子探偵爆誕だ。
僕が思ってる以上にこの内戦と聖国王家の背景はドロドロだったし、僕みたいな一地方の田舎領主が本来知るべきではないほどに最悪の欲望パーティー状態だ。
ちなみにこの戦いで領主が死んだ場合取り潰しになる可能性のある貴族家があるらしいんだけど知ってる?
まだ子供いないんだけどこっちも。
「我らはアトラ教に助けを求められない。もし仮に、本教からの使者を名乗るものがこの国に訪れたとすれば―――それは、本教でさえ留めることのできない特権の持ち主か、或いは使者を名乗る真っ赤な偽物のいずれかでしょうね」
ぶるりと震えるものがある。
当初の予想ではワルダック派は追い込まれて焦っているものだと思ってたのに、蓋を開ければ時間が経つほどに有利になるのはあっちだったわけで。
静まり返る室内。
肌寒い中で伝った汗が更なる悪寒を呼び―――。
……と、連絡だ。
こっちからずっと通信要請の信号は送り続けてたけど、実際問題連絡を掛けられるのは親機であるあちら側。
流れを変えるのに非常にいいタイミングだ。
『―――。――――。マイクテス、マイクテス。聞こえるか、伯爵』
「えぇ、通信は良好ですよギルソーン侯爵。美声が良く聞こえます。こちら、既に聖都への侵入は成功いたしましたが。そちらの状況は?」
『あぁ、残念なことだが―――……ん?』
………。
相手は既に僕らが聖都まで歩を進めているという事実を理解するのに数秒掛かっているらしく。
マイクのテストなのかパフパフと何かを叩く音が。
『あー、故障かもしれん。なんだって??』
「我ら潜入組、聖都に潜入中。そちらの状況次第でいつでも聖女攫います」
『マジか』
一瞬歓喜の雰囲気があった気がしたが、すぐに冷える。
向こうで何かあったのか?
『……。深刻な知らせだが、聞いて欲しい』
『我々が先まで駐屯していた都市。直近では補給線の維持を担う要所として、ワイズ殿指揮のもと運営を行ってもらっていたが』
「あの都市が?」
『―――壊滅した』
………。
『宰相ワイズ殿ほか、聖国の亡命政府の者たちもまた行方が完全に不明だ』
「「……ッ!」」
驚いたのはすぐ傍で聞こえた音に。
セルシオ卿が握りこぶしを柱に叩きつけていたんだ。
己らの大将が失踪したのだから無理ないし、近しい間柄だったことが伺えるだけに騒音問題を切り出す気にもなれない。
そもそも僕自身、お腹の底が冷たくなるのを感じる。
『一瞬の出来事だったという。全てが飲み込まれ、消えた。まるで不可視の巨人が巨大な絵描きを楽しんでいたかのような。大地が根こそぎに巻かれ、クラッカーのように砕けたと』
「地上絵……」
『地上……なんだって?』
七支卿【地上絵】
恐らくそうだ。
姿すら見たことがないのに、聞けば聞くほど人智を……。
「ですが侯爵。それでは……」
この戦いは侵略戦争ではなく、聖国を助けるという名目での参加。
当然略奪などもなく、食糧などの物資は常にかつかつだった。
これが、後方の補給線を完全に潰されたというのなら既に状況は非常によくない。
大軍を抱える帝国だからこそ、とても良くない。
「瓦解―――帝国本隊は撤退を余儀なくされる。我々は孤立無援となり、完全に袋の鼠というわけですか……」
「「!」」
『そうなるな……。予定は変更。君の言う通り軍は退却せざるを得ん。武功は立てられず、助けを求める者たちは救えず、この戦いをもって皇太子を牽制するつもりだった者たちも完全に牙を抜かれたわけだ』
………。
終わった。
『そこでだ、伯爵。我らは残った私兵と義勇兵、中央兵団である第四、第五兵団をかき集め中央へ突撃しようと思う』
「―――分かりました。私たちも退却をします」
残念だ。
ここまで来たってのに、まさかこんな形で……聖国から手を引くなんて。
まぁ沈んでも仕方がない。
元々関係ない側の人間だったことだし、ここまで頑張った僕に対し多少なりとも褒章は出るだろう。
セルシオ卿には申し訳ないけど、ここは縁がなかったということでお嫁さんと領民の待つアノール領へ―――。
………。
『退却? 何を聞いているのだ伯爵』
「……………」
今相手なんて言ってた?
「ちょっとお待ちを……。今なんと?」
『あぁ、そうだ。本当は君たちにも撤退の命令を出すつもりだったのだが、気が変わっ―――リアン、退いていろ……いや、引っ張るな―――なんだお前たち!? 私の命令は……ぬ、絶対、……』
『総司令に逆らって―――、放せッ』
……。
ガシャンガシャン聞こる。
なんか暴れてない?
『ふぅ……、すまん、こっちは片付いた』
「……何が?」
『気にするな。それより、君たちが中央へ潜入できたという言葉を聞いて安心したのだ。おそらく我々でも出来ると思わんか』
「思いませんが」
何言ってんだこの大貴族。
死ぬ気か?
正気なのか?
冗談ではなく本気で言ってるような声色にこちらも冗談ではなくなってくる。
「お待ちください? 補給線が断たれ、大義名分たる聖国の残存政府も失踪した状態です……! 帝国を支える屋台骨の大貴族と中央から借り受けた最大戦力をみすみす討ち死にさせるおつもりですか……!?」
『そうだユスティーア伯爵! もっと言っ―――』
『この馬鹿貴族にもっと―――もがもがもが……!?』
『まぁ待て。敵とて、私たちがそう来るとは思うまい?』
そりゃあ誰だってここまでやれば流石に撤退するだろうって思うだろうからね。
んな馬鹿みたいな犬死にを戦術家としても知れた蝋剣グレイソーンが指揮するとは思うまいよ。
『少数なれば、食料も今ある分で持つ計算だ』
「ざっと人数は?」
『3、400ほどだな。当初の数から百分の一程にもなるが、まあ何とかなるだろう』
アンタ戦術家返上しろ。
戦闘卿なのか? 七支卿の一人だったりするのか?
……と、不意に背後からすすり泣くような声が聞こえて、僕はぎこちなくアルベリヒたちへ振り替える。
万歳突撃宣言に対する悲哀の声だろう。
いや、そうだ、そうに決まってる。
この場で誰か一人くらい「帰ろう」とか「命が勿体ない」とか言ってくれるよね? てか言え! 評価下げたくない僕の代わりにッ。
「………ッ、っ……ううう。ま、まさか、自らの犠牲を、顧みることなく……。帝国人とはなんと義に厚い……」
「せ、セルシオ卿?」
「伯爵、私は感動しましたッ! あなた方は聖国の英雄だ! ―――有難う……!」
「ちょ、まって……。ろ、ローグベルクきょ―――」
「くく……、流石はギルソーン候よ。無論、最後まで戦おうぞ!」
「―――アルベリヒ!」
「英雄……、英雄……ふひひっ」
あ……。
終わった。




