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忘却伯の勿忘草  作者: ブロンズ
第四章:忘却伯と躍進の幕開け

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第9話:休む休まない




「いたいッ、いたいいたいいたぁぁぁい!!」

「たすけっ、神様ぁぁぁ……!!」

『セレスティン様―――助けて!!』

『どうして聖銀騎士団は来てくれないんだ!? 彼らは聖国の守護者じゃないのか!』

『おじさ……、いた、い』


『聖女様―――、まだこの下に娘が、あの子がいるの!! 誰か……、聖女様ぁぁ!!』




 ………。

 


「―――ッ。はぁ、はぁ……。ぅ……、う……、ぁ」



 水の聖女セレスティン・エアージェラスは軟禁された部屋の中で目を覚ます。

 ぐっしょりと濡れた背中。

 ドクドクと脈打つ心臓。

 意識が鮮明になる中で、寸前まで見ていたものが何かを理解した。


 今のは夢であって夢じゃない。

 命が潰れていくのを、大切なものが次々に割れて消えていくのを、確かに感じ取った。



「ごめんなさい……、ごめんなさい……ッ」



 水の聖女の能力とは癒しの権能。

 聖女の肉体は膨大な力を有する湖のようなものであり、一定の許容量ならばどれ程の外傷も治癒することが出来る究極の治癒魔術の使い手。


 歴代の聖女たちは誰もがその力を使えた。

 触れるだけ、手をかざすだけでさえ。

 しかし、聖女セレスティンはその中でも特別だった。


 幼少期から、彼女の力は歴代の中で突出していた。

 あるいは外傷以外、傷を治癒した他者の強い感情さえもスポンジのように吸収してしまうほどに。



「一体、何のために……? どうしてこんなことを、なぜこんなことが出来るのですか……?」



 過去に治癒した臣民。

 あるいはあふれんばかりの感謝を受け取った彼らの家族。

 そして、極限の中で高まり切った負の感情。


 今となっては寝ている時でさえ命が弾け、潰れていくのを感じ取ってしまう。

 誰かの灯火が消えてしまうのを、自分の意志に関わらず鋭敏に感じ取る。


 今この瞬間にも、聖国は―――ワルダックらはほかならぬ自国の民を()()()()()

 誰かに、何かに。

 それを知っていて、己にはどうすることも出来ない。

 

 ワルダックもそれを理解している。

 己が精神をすり減らし、やめてくれと懇願することこそが狙いであり、今か今かと待っているのだ。

 あるいは、今この瞬間に部屋の外に現れて扉をノックしてくるかも。

 


「っ……!?」



 扉がノックされたのは偶然だったのかもしれない。

 急ぎベッドから飛び上がり、侵入者を待つ。

 今にワルダック派の衛士によって開けられる鍵、恭しく案内されてきた様子の存在に聖女の目が留まった。



「初めまして、水の聖女セレスティン様」

「貴女は……?」



 それは女性―――否、少女だった。

 年の頃で言えば数えで16である自身と同じほどであると。

 そう思わせる少女は燃えるように赤い長髪を持ち、頭部から伸びるベールによって口元から上を隠している。

 第一印象ではまるでクロウンス―――火の聖女を擁する王家の人間を彷彿とさせた。


 観察した限り、動きは非戦闘者のもの。

 彼女自身に戦闘能力があるようにはとても見えず、刺客とも思えない。



「―――、使用人を呼んだ覚えはありません」

「あら……ふふっ。えぇ。そのつもりで来たつもりはありませんよ、セレスティン様」



 警戒交じりに放った言葉はすると流されるように消え。

 すぐに少女が腰を折る。



「竜司祭、と申します」

「……。貴女が」



 聖国の内乱に対し、アトラ教の総本山が派遣した最高位の神官―――使者たる審問官。

 勿論本気で信じていたわけではなかった。

 ワルダックならば、己が弱っているところに漬け込み自らの配下に役を演じさせるくらいのことはすると思ったからだ。

 派遣されてきたという話すら本気にはしていない。


 ただ、ベールの向こうでじっとこちらを伺う少女。

 余裕があるその様子に、更に自身の現状を分からされるようで、馬鹿にされているようで。

 何もしてはくれない総本山への、理不尽だとは理解している怒りがちらついてしまった。



「―――あの……。何故おひとりでこの部屋に? 私と話したいというだけなら立会人は一緒ではないのですか?」

「ふふ……」



 竜司祭はベールから僅かに覗く口元に余裕のある笑みを浮かべる。


 聞いた話ではアトラ教第二位たる枢機卿に匹敵する地位。

 恐らくは大きな意図が……。



「捕まっちゃいました」



 ……。



「護衛と引き離されてしまったときにおかしいと思うべきでしたね。まさかあんな巧妙な手を……。シトリナパイには絶対に東部産の紅茶だと私は言ったのに……」

「……。……?」

「それより私、お腹が減ってしまって。今朝はワルダックさまにおもてなし頂けると思って朝食をとってこなかったのです。プリエール料理、楽しみにしていたのですが」

「……………あの」

「勿論シトリナパイも、ひとかけも貰えませんでした。もうペコペコです。ルームサービスを呼んでも? 使用人の方を呼ぶベルなどはないのでしょうか」

「呼ぶつもりはありま―――ぁ」

「まぁ。一緒にご飯にしませんか? ルームサービス……」

「ありません。存在しません」



 自分からあの者たちに頼る姿勢は絶対に見せない、弱みを見せたくない。

 それが今出来る抵抗なのだと。

 が、そんな覚悟をあざ笑うように自身のお腹は鳴る。


 ……ルームサービスがないことを理解したのか、今に部屋を歩き回り引き出しを開け始める少女。



「あの、何をしてるのですか?」

「えぇ、えぇ。良い質問ですねー。もしかしたら棚の奥にクッキー缶などがないかな、と」



 竜司祭。

 アトラ教最高位の神官であり、審問者としての側面が強い謎多き―――。

 


「何もない……。しけてますね、まるで軟禁のための部屋ではないですか」

「見ての通りです」



 謎多き最高位の神官……?

 否、空腹のあまり錯乱している可能性。


 これは彼女の尊厳を守るべき状況なのかもしれない。



「はぁ……。引き出しの奥にキャンディーがあります。それで我慢してください。あとで水を変えに来た使用人に何か持ってくるように話しますから」



 まるで迷子の少女。

 王族としても、そんな幼子を放っておくことは出来ない。

 自分の為ではなくあくまで同じ境遇になってしまった客人の為ならばこれも致し方ないだろう。


 そう考え、非常用に残しておいた数少ないエネルギー源を渡す。



「わーー、キャンディ。私キャンディには目がなくて―――はぁ……、ミント味ですか」

「本当に何しにこの国へ!? あとミントはプリエールの誇りです……! 本当に貴女最高位の神官ですか!?」



 謎なのは役職ではなくどうやって「これ」がその地位に上り詰めたかな気がしてきた。

 そもそも本物なのだろうか。


 いや、やはり偽物であの男の配下……。



「んー、成程成程っ。あまり好みではありませんがこの水と合わせた時の清涼感は中々……」



 ………。

 ワルダック大司教にも役者となる配下を選ぶ権利くらいあるだろう。




   ◇




「アルベリヒの完全上位互換……。【狭霧】よりも強力か?」

「ンーー!! ンンッ、ンー!!」



「軽い気持ちで臨んだ出先だったといったな。お膳立てされた閉鎖的なフィールド、逃げ惑うだけの標的を誰が一番多く殺せるか、それだけの筈だったと。それで? その指令を下したのは誰だ」

「―――――ンン、ンンンッ!!? ……ッッ!!」

「次はこれだ。ヨルムーンの毒―――上位の大型獣でさえ一滴で致死させる猛毒」

「や、やめ……!! もう全部話したじゃ……」

「大事ない、人の身でも耐えられるよう濃度を調整している。死ぬまでは数十分ほどかかる。が、聞いていた情報と乖離した分だけ追加しよう」

「……!」



 尋問は続く。

 狂ってしまった方がマシに思える痛みを与え続けられ、しかし狂うことも気絶することも許されない。

 


「ぅ、が、ぁぁぁ!!」

「もう一度、異能を使ってみろ。得意な、透明化を。出来たのならば血清を与えてやる」

「~~~~!!」



「で、でき―――痛い痛い痛い!! いた、い、で、出来ない!!」

「痛み……。精神を集中する必要があるのか?」



 集中力が途切れている現状では力を発動出来ない。

 ではやはりこれは全ての異界の者に共通なのかと彼女は認識し。

 


「何度目かの質問だ。ここは―――なんだ?」

「し、知らない!」

「お前たちの言う七支卿の力ではないのか」

「分からない、本当なんです……!! こんなでっかい洞窟が出来てるなんて何にも聞かされてないんです!!」

「……。そうか」



 都市の真下に広がっていた大空洞、とも取れる空間。

 町ひとつが丸ごとすっぽりと入るほどにもなるかという巨大な穴、地下水脈としてもあまりに不自然な環境だ。


 彼女が尋ねているのはそれが彼らの意図によって作られたか否か。

 そして、刺客は本当に知らないのだと。



「ほとんど情報を握っていない、まこと呼び出されただけの使い捨ての存在か。では、これは?」

「……え?」

「お前の仲間の内臓に埋め込まれていた」

「……!!」


  

 大きさで言えば飴玉ほどの結晶体、鉱石……。


 内臓に、という言葉から身体を切り裂き抉り出したのだと容易に想像もできるだろう。

 痛みから回復してきた男の内臓が冷たくなるのにも時間はかからない。



「し、知らない、知らない知らないしらない……!! 俺たちは勇者で、この世界を救うために召喚されただけの……ひぃ!?」

「世界を救うため」



「成程、胸が悪くなるとはこういうものか。大した毒ではない」



 一瞬放たれた凍てつくばかりの殺気。

 気絶するほどのそれに当てられた彼の意識がもうろうとする中で髪を掴まれ、何かを飲まされる。



「―――くれてやる……のめ」

「ん、ぐ……」



 嚥下する。

 既に抵抗力など残ってはいない。



「ぃアぁぁぁぁぁああ、!!」

「自然毒、鉱毒、微生物……。それぞれへの抵抗力の強さを調べる。もう少し付き合ってくれ」



 多重に投与された薬物と解毒作用のある薬、多岐にわたる性質の毒のどれが効果的でどれが効かないのか、彼女はそれも知る必要があった。

 相反する作用は拒絶反応を起こし、たっぷり数時間は人体の抵抗力と延々戦いを繰り広げ続ける。

 その間の痛みたるや。


 再び響く叫び声。

 助ける勇者―――救世主の姿はなく、悲痛なソレは大空洞に響き渡り続けた。 



 ………。

 ……………。



「七支卿【錆騎士】ベールリッチ……、【地上絵】スタック……」



 既に異界の者を利用している存在がいるのは決定的。

 更に確定的なのは、中でも【七支卿】と呼ばれるこいつ等が僕の道に立ちふさがる巨大な障害になりうるだろうという事。

  

 召喚している者が聖国に居るのなら。



「れいくさまーー」



 御使いに対する度重なる尋問……。

 今回オウルが捕えた彼らから得られる情報が打ち止めかはこの後分かるとして。


 ……。



「あるじー」



 ……。



「超イケメン高身長高収入高血圧領主~」

「なんだ」

「反応すんのかよ高血圧で。あ―――失礼、空耳です。ところで我が主よ。ちなみになんすが、オウル殿は貴方が休息を取るという条件で任務を承諾したと伺ったのですが」

「あぁ、その通りだ」



 山と積み上げられた資料を最短で確認、確実な地形を頭に叩き込みつつ卓上の地図に要点をまとめる。

 幾度目かの書類を捲り、様々な方向からの進路を模索。

 そして護衛の言葉を聞き流す。

 「休んでいる」……、見ての通り今彼が話した通りの現状だが、何故やら疑問がありそうな顔してるな、アホ面と言い換えてもいい。



「あーっと……、ん?」

「……私は休んでいる」

「あの」

「聞こえなかったか、アホベリヒ」

「いんゃあ、最近耳が遠くて。なんか知らん名前聞こえましたが……」

「休んでいると言っている。そして、お前は私が休んでいるのを確認している。何か間違っているか?」

「―――あ、そういう事ですか」



 そういう事だ。

 僕自身と、それを見ているアルベリヒ。

 この密室にいる全員が休んでいると言っているのだから、僕は休んでいるのだ。



「伯爵。調子はいかがです」

「身体は休めたのだろうな」

「―――ちゃんと休んでいましたよ。なぁ? 騎士よ」

「そっすね」


「「安心した(しました)」」



 言葉とは裏腹にどちらも欠片とて本気で信じてない顔だ。

 外に出ていたセルシオ卿とローグベルク卿は疲労の残る顔で手近な椅子に座る。

 細身の前者はともかく、巨躯の後者が腰掛けた椅子はギシと音を立てた。



「セルシオ卿。彼らの様子は?」

「今は安定していますが。いかにして臣民らを安全な場所に連れていくか。それだけが頭から離れません。そして、怒りが」



 災害によって滅びた都市だけど、生き残りはいる。

 本当なら瓦礫から生き残った人たちも皆殺しにされるはずだったのが、逆に死神が異界の者を殲滅しちゃったからだ。

 三人が人命救助に当たってたのもあって、現在の生存者は200人ほど。

 セルシオ卿指揮のもと食料の分配と仮拠点の構築を進めてる。


 ……問題は彼らをどうするか、だ。



「帰りがけに随所に出来た空洞を確認してきたのですが―――」

「叫び声とかしませんでした?」

「……? とくには」



 終わったのかな、尋問。



「我としては、あれが自然に出来たとは考えにくいものがある」

「ローグベルク殿に同感ですね。私が知る限り似たものとして、シンクホールという現象があります。地下水の流れによる土砂の浸食、漏水などにより地中の土が少しずつ洗い流される……。それにより地下に巨大な空洞が構築され、不意に全てが崩れ去るというもの。しかし、あの規模のものが出来て気付かぬのはあり得ません」



 元王宮勤めのセルシオ卿は学もある。

 

 シンクホールについては僕も考えてたもので。 

 同じ地形に関する能力として、異界の者から得た【地上絵】という存在の名と結び付けたけどどうにもしっくりこない。



「侵攻経路を考―――休んでいる間に今後の事を考えていました。聞いてくれますか?」

「「……………」」



 異界の者についてを完全に理解するのは今は無理だと。

 現段階の情報で色々と考えてみた。

 頭脳担当の言葉に彼らは興味ありそうに身を乗り出す。



「私は今まで奴らが物資のために国民を選別していると思っていた。中央にいる選ばれた民を生かすため、足りない部分を末端から順に切り離しているのだと。―――考えが変わりました」



 この都市は既に中央から幾分も離れていない。

 何より、要所として物資の調達なども担う拠点の一つである。


 僕も領持ちとして幾分か経営の知識があるから断言できる。

  


「奴らの狙いは民の餞別、そして食料資源の確保ではない。断じて、そうではなかった」

「……おかしい、とは私も」

「我は騎士であるゆえに政は門外漢だが……」

「まず、差し引きで考えるのならばマイナス……。物資という面においてこの都市を切り捨てるのは内戦の後を含めもあまりに得策とはいいがたいのです」



 別の目的がある。

 自国の都市を滅ぼす、ひいては虐殺を行うに足る理由。

 


「正当な理由がある筈もありませんが……。ならば、何なのでしょう。それこそ、都市を滅ぼすこち自体が目的にしか……」

「まさしく、ソレを私も考えたのです」

「「―――――」」



 都市を滅ぼすこと、それ自体。

 ひいては滅ぼすことによって得られるものがあるとしたら。

 今に指でつまんで取り出したのはビー玉くらいの球体。

 半透明で、僅かに緑に色付いている。



「これはアルベリヒが仕留めた御使い―――異界の者の身体から出てきました」

「ほう……」

「流石ですね、ダインス卿」

「あ、いやあのその」



 ちなみにオウルのやったことは自動的に全部アルベリヒに押し付けてるので自然他二人の中でアルベリヒ株が謎上昇を遂げてる、なんかやっちゃった系になってる。



「魔核石……? いや、これは……。魔力を感じん。しかし、既にカラであるようにも……」

「これが人間の身体から……?」

「アルベリヒ」


「……承知―――のわぁ!?」



 僕が宙に放ったソレに対し、瞬時に意図を理解した騎士が刃を走らせる、が。

 ビー玉は妖しく揺らめく。

 接触した瞬間斬り裂こうとした剣ごとアルベリヒが弾き飛ばされ、ビー玉は弾かれたように転がって床にコロロ。

 

 

「尋常ではない物質……。真金に似た素材の類か!?」

「衝撃を吸収し放出するという点では確かに似ていますね。しかし、天銀とも黒晶とも異なる。何より、やはり魔力がない……。伯爵、これは?」

「不明―――、全くの不詳です」



 成程、見た目は魔物の体内に生成される特異器官。

 が、この手の技術に多少理解がある僕が見たところでは本質はまるで異なる。



「現時点で言えるのは、尋常な手段でこれを破壊することは出来ない。それだけのエネルギーが含まれた結晶なのです。巨大な、膨大な……魔力ならば町ひとつ、都市ひとつ全ての魔道具を賄えるほどの力」

「ぁ……」

「果たしてどこからこれ程の力を供給したのか」

「―――まさかそんな!!? そんなことを!!」

「「………!」」


 

 セルシオ卿は半ば狂乱して目を見開き、アルベリヒらも静かに目を細める。

 やはり至る、その思考。



「全ては戦力を迎えるための贄である、と。少なくとも荒唐無稽と否定はできない。なぜなら見たから。彼らは只の人間じゃない。少なくとも、自然に生まれ落ちるようなものでも進化の過程に生まれた新人類でもない」

「まさか……、魔人―――?」

「セルシオ卿? まじんて……、絵物語の?」 

「えぇ。アトラ教に古くより伝わる伝承。朽ちることなき肉体を持つ異形の人。不老、不死……その偉業にして冒涜を成すために多くの国家が滅びてきた、数多のアプローチを行ってきた偽りの種族」



 魔人、か。

 ……それによって思い出されるのはリーアニュクスに属していた男。

 オウルによって処断された彼は死の直前、否……首を刈られた後になって異形に姿を変え、起き上がり襲い掛かってきた。

 当然何らかのつながりがあるだろう。


 やはり、この一件の裏に居るのは……いや。



「どのみち放たれた者たちからの連絡がない以上、聖国の中枢からこの廃都市へ探りが入るのは間違いない。それより早く私は動く」

「レイクさま? 避難民は……」

「だからこそ。多少の危険は覚悟で行くつもりなのだ。我々と、ギルソーン侯率いる軍。混乱の中で、既に滅んだ都市に用があるものなどいない」



 避難民を戦力として連れていく?

 あるいは安全な所へ送ってから再出発?

 はたまた彼らとここで仲良しこよし?


 全て論外だ。

 


「根本的に終わらせる。そのために私たちは此処へ来た。行こう―――聖都へ」


 

 ………。



「殿下をお助けするためとあらば」

「錆騎士。おそらく奴もそこにいるのであろう? ならば道は一つ」



 状況が動くのを待ってなんかいられない。

 示し合わせずとも絶対に間に合ってくれるはずだと帝国軍と侯爵を信頼しているというのもあるし、これ以上の犠牲は許容できない。

 戦いを終わらせる必要が。



「終わらせねばならないのだ……。私には時間がない」



「素晴らしい信念の灯った瞳……。ふふ、或いは伯爵はこの内戦で化けるやも……」

「ルクス様が認めるだけの男よ。なんという覚悟……」

「………へっ、リア充」



 そう、帰るんだ。

 早く帰るんだ、マリーが待ってる。

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