表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却伯の勿忘草  作者: ブロンズ
第四章:忘却伯と躍進の幕開け

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/70

第8話:夢想はおわり




「暫しの間、我々はこの都市で腰を据える。じきに帝国連合が動き出したという情報も入るだろう」



「前回の後退から補充として南部側の武闘派たちが動員、そして中央兵団からもう一部隊が割り当てられていると聞いた。戦力は十二分だ」

「音に聞く帝国中央兵団が二部隊、ですか……」

「聖国としては由々しき事態だろうな、セルシオ卿。それに加え、指揮を執るのはギルソーン候」

「矛先が聖国そのものではなくよかった、というべきですかね」


「当然中央……ワルダック派も余裕をもっての対処は不可能だ。まず聖銀騎士団は動く。或いは保有する軍の大半、隠し玉も全力で投入するかもしれない。そして、その機に我々は中央に潜入するわけだ」



 セーフハウス……、よく言われる言葉だけど、まさか貴族と生まれた僕自身がその名を関する建物に身を潜めることになるとは思わなかった。

 なるときは領内で革命が起きた時だと思っていたくらいだ。



「さて、ここまでで異論はないな」

「「……………」」



 ただ、生涯で起きないだろうと思っていた可能性の未来を今まさに観測しているのはほかならぬ自分自身。

 緊張、平常心、自負……三様の面持ちたる皆の顔を見て、ソレを再認識する。



 【聖盾】ローグベルク

 隣国にも名の轟く元冒険者の騎士にして魔素適合率60超えの怪物。

 代名詞である真金―――クラヴィスで構成された円形の大盾は百の軍勢が押し寄せても不動。

 帝国でも五指に入る豪傑。 



 【死海】セルシオ・レライト

 聖国に仕える騎士であり、元近衛の長。

 40も半ばを超えた年齢ながら実力は高く、かつては先代天銀の騎士と肩を並べたプリエールの英雄が一人。 

 側付きとして聖女が幼い時より傍に控えた忠臣でもあり、今回の内乱に当たっては宰相と共に逆賊ワルダックへ絶賛抵抗中。



 【ただの騎士】アルベリヒ・ダインス。

 当て馬。

 強さの尺度に丁度いい系男子。

 ……といいたいところだが、現在適合率40超え。

 村一つを容易に飲み込むC級の魔物を単独で撃破でき、剣を振れば家屋程度一刀両断、走れば優に馬の三倍速い。

 世間的に見れば十分人外。



 ぼく。

 いなかきぞく。

 よわい、さいじゃく、ずのうたんとう。



 以上四名……五名?

 幻のファイブマンことファイブウーマンは姿さえ見せてくれない。

 これが中央攻略の重要な役割を担うユスティーア班となるわけだ。



「異論はなしか。では質問は? ―――なればよし。各自、行動の日までできうる限り目立たず、かつ有力な情報の収集に努めるのだ。とりあえずローグベルク卿は部屋から一歩も出ないでくれ」

「む……? はなはだ不服である。異議申し立て……」

「「残当」」



 金ぴか盾背負ったガチムチ大男は目立つって。



 ………。

 ……………。



 てーやり取りがあったのが一週間前。

 


「あ、おじさんだ」

「やぁ」



 今日も今日とて都市を気ままに歩き回って散策したのち、僕は都市に来た最初の日にサクランボを買い付けた店へと顔を出す。

 情報収集もあるし、単に商品の味が気に入ったというのもある。

 やっぱ僕の領でも栽培できないかな。

 


「毎日ぶらぶらさぁ―――、おじさんてやっぱり暇なの? 働いてないよね」

「そう言ってくれるな。私も出稼ぎにきたはいいが時機悪く職にあぶれたものとしてみじめな生活をしているわけだからな。心はガラスなんだ」

「なさけなぁ……」

「君も大人になればわかる」

「こんな大人になりたくなーい」



 彼の言葉を聞き流しつつ日替わりの果物を確認。

 流石に食文化に発展したプリエール、果物の充実具合も素晴らしいものがある。

 特に温暖な港風にさらされて育ったレモンに似た果物、シトリナ……以前レヴァンガード候が奢ってくれた(毒入りだった)お酒の元になってる果実だ。

 あっちはギメール産だったけどこっちでも栽培してるのか。



「技術は発達し年端整備され、飯もうまい。都市を訪れて少し経つが、本当にいい街だな、ここは」

「そう? 同じことばっかりでつまんないよ」

「成程、停滞。変化がないとはつまり発展なき袋小路でもある。が、ソレはつまり十分に発展したことの裏返しでもある」



 既にレベルがマックス帯というだけの事。

 後は時代に合わせて変化があるのみさ。



「目が変化を認識できていないだけ。不意に里帰りしたとき細かな違いに気付くのと同じさ。いずれは、私の領や都市もこのような場所になってくれればいいんだがな」

「まだ言ってるの? 病気なの?」



 妄言癖じゃないってのに。

 どうしても僕を自称領主の虚言ニートにしたいらしい。



「全く、最近の若者は信じる心を持たなくていかんな。いずれ私に仕官したいという者たちは山のように、升で測るほどに現れるぞ? その時になって後悔してももう遅いかもしれないんだぞ? 倍率の低い今のうちに家臣として雇ってあげても良いが……」

「……。ふっ」

「鼻で笑うかね」



 子供にさえ鼻で笑われる情けない無職男、それが客観視した今の僕らしい。

 むしろ彼が僕の本当の正体を知った時が面白―――っと。



「……、地震か」

「最近多いんだ」



 勘弁してくれ、ここは大陸だぞ。

 矮小な列島国ならいざ知らず、地震なんて頻発するような立地でもなし、それに海岸沿いの国家であるプリエールが地震ってかなりマズいでしょ、津波よ津波。



「おじさんってさ」

「―――ん、あぁ」



 店番をしつつ絵をかいて時間を潰す少年の隣で、これまた並び丸椅子に座る。

 隣を覗けば此処ではないどこかの絵を想像で書いているらしい。

 ……どこか見覚えがある絵だ。



「おじさんって、世界とか色々見てきた?」

「ほどほどだな。そう多くの国を知っているわけではないが、君よりは多くを知っているだろう。特に知識という面では比にならない上に、見ての通り顔もいい―――外の世界に興味が?」

「ぼく、行商人になりたい。画家にも」



 画家兼商人か。

 うちの家臣団にはまだどちらもいなかったな。

 ルルシオは―――、まぁ、只の情報屋。

 幼すぎるという点も、うちには既に沢山いる。


 

「旅の画家か、悪くない。その手のは死後に評価されて絵に高値がついたりしてな」

「お金の事ばっかり。だから無職なんだ」

「ぬ……、言わせておけば」

「ぼく、いろいろな国で絵を描くんだ。気が向いたらおじさんの故郷もちゃんと目で見て描いてあげるよ」

「ははは。それはいいな―――ん?」

「どう? 似てる? 中央の館の屋根の色って何だっけ」

「やや青みのある灰色……ほう」



 成程。

 どうやら今彼が描いていたのはここ数日で僕が話した故郷、アノール領の中央風景。

 


「―――凄いな。かなりいい線行っている」

「どうせ夢の話じゃん」


「だから本当に私は領主で広い館に……」

「まずは異界の勇者様たちが呼ばれた最西の国ヴアヴ教国。そこから東へ東へって進むんだ。セフィーロに、ラメド、ギメール、クロウンスにジルドラード……。帝国も行ってみたいなぁ」

「行けるさ、すぐ近場だ」

「うん。行けるよね。戦争が終わったら、きっと。じゃあその時は案内してよ、僕とお母さんを。旅行行きたいって言ってたんだ。お駄賃あげるからさ」

「はっはっは。こ奴め」



「―――さて、と」



 そろそろ行くかと、粗末な丸椅子から立ち上がる。

 酒場のウェイトレスちゃんをナンパしに行ったアルベリヒももうじき帰ってくるか?



「―――。……また?」

「ふん、ふーん」



 小さな地震だ。

 もはや少年は認知すらするつもりないレベル―――さては日本人。

 にしても世も末かね、こんなにも頻繁に。



「……。地震」

「ん?」

「前回ッ! 大きな地震はいつだった!?」

「わわ!?」



 彼に詰め寄ると椅子から転げ落ちそうになり。



「え、えと、確か一週間くらい前だけど。いきなりなんなのさ」

「……。帝国軍が退却中に襲撃を受けた……」



 ……違う。

 地震なんかじゃないぞ、これは。

 一体何がどういう仕組みで―――いや。



「地形改変……ッ!! そうか、これが……!」



 その結論に思い至った瞬間だった。

 目のまえ、大通りに面した地面が盛り上がり、割れ砕け、立っているのもやっとな程の揺れを伝え続ける。

 同時に轟音とともに家屋が大きなものから潰れ朽ちる。


 明らかに人間の手に余る。

 やはりこの力だけ聞いていた中でも規模があまりに異次元過ぎる。



「きゃあぁぁぁ!!? 誰かぁぁ!?」

「床が―――地割れ!?」



 平和な都市にたった一瞬で地獄が生まれた。

 大通りの道が砕け、家屋が倒壊―――下敷きになった人々、ソレを目にした人々、逃げ惑う人々の悲鳴が何重奏と重なり、絶望が咲き乱れる。



「大規模な地形操作―――」



 だが、本当にまさかだろう。 

 これもまた聖国の言う御使いの力だというのなら、何だって自国の、それも当たり前に平和な生活を築いている人たちを。



「ぁ……、おかあさ―――」

「まて!!」



 引き戻す暇もなかった。

 潰れゆく家屋の中にいる筈の母親を呼ぶように叫び、入口から乗り込もうとした少年。

 

 彼の姿が暗がり諸共消える。

 手を伸ばした僕もまた、自らをかばうようにして瓦礫の下敷きになり。



 ………。



「―――、ぐ……ッ」



 問題ない。

 僕の纏ってる旅装、装備、すべて役割がある。

 とりわけ外殻となる外套は……。



「らぁぁぁぁ!!」



 大声。

 よく聞いた声だ。



「レイクさま!! ご無事で!?」



 アルベリヒが次々持ち上げ吹き飛ばすのしかかっていたもの、家屋一つ分の瓦礫がなくなるのに数秒。

 本当に人間から外れ始めてるな、この騎士。

 全ての瓦礫があっという間に取り去られ、圧迫感から解放される。

 同時にすぐ傍で埋まっていたらしい少年の姿も伺え―――。 



「ぅ、……ぁ。―――お、じさ……」



「あぁ。聞こえている」

「い、た……い。いたい、よ」


「……。これを。すぐに痛くなくなる」

「ぁ、りが―――……」



「良いさ、友達だからな」



 胸ポケットから小袋の中身を取り出し彼に飲ませ、そのまま喉を下させる。

 痛みに呻いていた彼は安心したように目を閉じた。

 ……彼が握っている絵にはゆっくりと朱が染み込み、膝をついている僕の外套にもそれが広がる。



「……胸を貫いた破片で内臓が完全にやられてます」

「分かってるさ。既に助からん」

「……ッ。レイクさま。今すぐ安全な―――」

「アルベリヒ」



「行ってこい」

「けど……!」

「今、お前の手でどれだけ守れるか。それを測ってこい。無辜の民を救いたいのなら、自分に出来ることを。今のお前の手がどれ程を救い上げるに足る器かを、測ってこい。私と同じように」

「……!」



 一瞬で目を細め、覚悟を決めた騎士。

 モードに入ったアルベリヒの心は鋼、すぐに走り去っていく。



「―――。……はは」



 覚悟がなかったのは、甘かったのは僕だ。

 いや、よくよく考えて、本当に。


 どれだけ己惚れてたんだ。

 自分を物語の主人公か何かと勘違いし、自分には力があると、何の憂いもなく全てを解決する、何の取りこぼしもなく救える英雄か何かと勘違いしていた。 



「……すまない」

「――――」



 眠るように目を閉じる彼の髪を撫で、立ち上がる。

 少年に飲ませたのはリアノールの霊悪が一つ、仮死薬。

 本来一時的に体機能などをごくごく緩やかにすることで死者と錯覚させることができるものだが、既に死にゆく者にとっては単に痛みなく、眠るように終わりを与えることができるものへと変わる。


 ……。

 ギルソーン侯やレヴァンガード候とかにおだてられて、僕は完全に天狗になってた。

 他の貴族たちとは違う、既に覚悟がある―――どこが?


 本当の殺し合いを一度だって知らなかった若造が何を知ってるっていうんだ。

 僕は何を錯覚していたんだ? これは戦争だぞ。


 救えない。

 僕には救えない命がたくさんある。

 自分の目の届くところでさえ、知り合った者たちでさえ。

 何より、今僕は―――、僕は、今目の前で息絶えた人たちが自分の領の民でないことを()()()()()()



「私には……救えない。救うことができないならばせめて」



「居るか」

「―――――」



 ……。

 どっか行っちゃってるのか。

 返事がないってことはつまりいないってこと。


 見上げれば、よくある都市の壁などよりはるかに高くそびえる地層の壁。

 まるで都市自体が大きく周囲から陥没したかのように……外に逃げられなくなっているように、この都市丸ごとを巨大な地層の壁が覆っている。


 これから狩りでも始まるような、予感だった。



 ………。

 ……………。



「だ、だれか……! 私の妻が!」

「足、が……あしが」



「―――生きてる? あ、結構生きてるー。結構大きかったのに、運いい人達がいるんだ」

「どっちにせよ死ぬならいいも悪いもないだろ」

「そだね。言えてる」



 外国人から見て、地震があまりに多い日本というのは恐ろしいものだと。

 全てが揺れる中で呑気に、微動だにしない彼らを異質なもので見るという。


 では、叫び轟き命が潰れるこの廃墟群の中を悠々と歩く男女は普通と呼べるか。

 


「アンタら……! お願いだ!! 手伝ってた、たすけ……」

「だーめ。はーい、ざん!」

「これでお前6人目、俺は9人目な」



 異様な光景だった。

 黒髪である二人の男女、片割れの少女が手に持っていた短剣を振るう。

 ……それはまるで液体金属。

 少女の握る短剣が一瞬で肥大し、広がった刃が人間をバターのように、ミキサーの刃のように何重にも切り刻んで再び短剣へと戻る。


 いや、誰が見ても普通ではない。

 明らかに街並みから浮いている制服―――ブレザーとでもいうべき装いと、まだ15歳前後の外見。

 高校生……? 



「お、果物屋だってよ。覚えとこうぜ。数日もすれば餌場になる」

「いいって、早く終わらせて帰りたいし。聖都まで4日もかかるんだよ? お風呂も浴びられないしガン萎えだし」

「だから数日くらいは楽むんだろ、そこは。一度に滅ぼしたらつまんないだろッ? 折角地上絵様が逃げられない様にしてくれたんだからよ」

「だーかーらー。ストレス発散に殺すんじゃなくてそのストレスがないように早く終わらせるんだって―――」



 彼らだ、間違いない。

 異界の者―――。



「あ、また隠れてる―――え、イケメンじゃん!?」



 男女の前に姿を見せる。

 見れば見るほど彼らは普通の人間、異様な服装以外はいたって……。

 男の方は多少鍛えてるって感じだけど、それでもお遊びの範囲を超えてない程度。


 思い出すのはベルポートで出会った青年……。



「き、君たちは何なんだ!? どこから……ひ、ひぃ……!?」

「おびえてんじゃーん。運動部怖い顔しないでよ」

「っせーな、生まれつきだ」



 とにかく情報を引き出す。

 初太刀を外すくらいは僕だってできるだろう。

 今はとにかく情報を……。



「あなた達は中央の御使い様じゃないのか!? どうしてっ、どうしてこんな……」

「そう! 私たちはゆーしゃなのら!」

「異界の勇者っていうのか? アンタらに言わせれば。ま、世界のために、国のために戦うスーパーマンだ! まちょっと必要な犠牲ってことだな。コラテラルダメージっていうか、100人を生かすために10人をやむなく、みてえな」



「わりぃな、ここに住んでたアンタらの運が悪かったんだ、諦めろや」



 情報―――、……。

 ……。



「すまない―――」

「え?」

「あ?」

「……と。謝罪するつもりはない」



 ほんとうだったらこっちからも謝罪とかいろいろあったんだろうけど、ダメだ。

 今すぐの情報も諦める。

 


「今度こそ、居るか」

「此処に」



 本気で気配を消した彼女の位置など僕には分からない。

 ただ、声がするのならいる。

 頼り過ぎない事を心掛けているのは、あくまで判断力を鈍らせないため。

 

 だが、こと今回に至って彼らは、お前たちは。



「貴族の礼儀として名乗りだけは上げておこう。レイクアノール・ユスティーア」

「貴族? 頭でも……。れいくあのーる」

「ってー、どっかで……。あ。確か、政府の人が話してた帝国の……。あ、私はね?」

「名乗らなくていい」



「領へ戻った時、強請る彼女へ聞かせる物語に……。吟遊詩人の逸話に、お前たちは必要ない。黒刃毒師オウル・カー。アレ等に淵冥神様の裁きを予習させてやれ」

「承知した、主よ」



「おーい、さっきからなに一人でブツブツ言ってんのーー?」

「いい加減ごちゃごちゃうるさいんだ―――、あ?」



 筋肉質の青年が抜き放とうとしていた剣が鞘から引き出された瞬間には既に砕け、刀身から先が消失している。



「なに―――ぁ……がッ……!?」



 全て、意味などない。

 あの者たちは、確かにあり得ざる程の強力な能力を有しているのかもしれない、確かに化け物染みた力を行使し、どっぷりと超常に漬かっているのかもしれない。

 

 だが、意味などない。

 お前たちを捉えたのは化け物染みたではなく、本当の化け物―――死ぬべき者を選ぶ食指、死神だ。



「右耳だ。削ぐ前に守れ」

「……これ、何の声―――」



「い―――いぎゃぁぁぁぁ!!? いたいいたいいたいいたいいたいいいぃぃ!!」


 

 反射的に守ろうと手が側頭部を覆うのは耳が飛ぶのに比べてあまりに遅い。

 どうやら、あの二人の身体能力自体は僕と大差ないようだ。



「痛みへの耐性もな」



 悲鳴がこだまする。

 


「うおおおお!! 死にさらせ!! ”錬成鋼・塵嵐”!」



 ここにきて青年の能力が分かった。

 彼の手のひらが触れた地面が艶のない粗悪な金属質に変化し、そのまま細かに砕けて襲い来る。

 多量の銃器で撃つような感じだ。


 恐らく、彼がギルソーン侯爵から聞いていた鉄を操る能力者。

 まるでミダス王、触れたもの全てが黄金になってしまう悲しき王さま―――鉄だけど。

 数千の鏃が飛散するのは常人からすれば悪夢。



「―――”堅牢”」



 この程度の刻印なら僕も用意はある。

 外套を自身の前に思い切り広げ、刻印を起動……飛来する鉄を通さない壁に。



「右手の小指―――守れ」

「は! ―――あぁぁぁ!!?」



 最初こそ姿の見えない何者かではなく僕を狙ってきた男女だけど、既にその余裕はなさそうで。

 耳や指、予告があったうえで正確に削られていく末端。

 守ろうとしてるはずなのに、絶対にそれらは失われていく。


 恐怖。

 それによって彼らはますます動きの精細を欠いていく。



「次は右耳だ。よく守れ」

「やめろおおお!!」

「もう、もうやだ! やめてやめてくださ、いやぁぁぁ!!? 来ないで―――ぁ」



 少女は出鱈目に短剣を振り回そうとして―――その時すでに液体金属の刃を握る腕はだらりと垂れ下がっている。

 


「腱を斬った。振らなければ広がらないのだろう、その武器は」

「ぁ……、ぁ」



 片方はもう完全に戦意喪失だな。

 後は青年の方が……、こっち向いた。



「お、おまえ!! お前が何かに命令してるんだろ!? もう、やめ……やめさせろオォォ!!」

「……。何で?」

「な、なん……!?」



「も、もうすぐこの都市に俺らの仲間が、大部隊がやってくる、からだ!! 俺らは只の先役なんだ! そん時に泣きながら命乞いしても遅いんだぞ!?」

「あ、……そ、そう! 私たちよりずっと数が多くて、だから……、治療……血が、死んじゃ……!」


 

 とてもそんなことが言える状況でもなし、僕の目にも嘘は言ってなさそうだが―――ん?

 カサと何かがポッケに……。



「……。成程、御使いが13人ともなれば都市ひとつを皆殺すには十分だろう」

「そ、そうだ! だから―――。……」

「……ぇ、は? じゅうさ……」



 ……そうか。

 さっきオウルが僕の側にいなかったのは。



「それで、いつごろ到着する。質量調整、分身、複合魔眼、肉体改変、血流操作……確認したのはそこまでらしいが。あとの8人は何ができたのか知っているか? 既に勘案に値しない、必要のなくなった情報ではあるが、一応聞いておく」

「「―――――」」

「お前たちとも会えるだろう、じきに」



 既に終わった後だった。


 これが【黒刃毒師】オウル。

 大陸最強の暗殺者、不可視の死神。 

 やりたくもない仕事でコンディション最悪だったとはいえどうして僕はこれに命を狙われて生きていた?

 いや、一回死んだのか。



「ひ……」



「まさか、アンタも七支卿の―――」

「知らん。落としてくれ」



 やがて糸の切れたように昏倒する男女。

 耳と、指数本と……まあ死にはしないさ。

 それに、これから彼らはただ死ぬより余程も辛い体験をすることになるだろうし。


 全て自業自得……で、だ。



「七支卿……。ここで出たか。どう思う?」

「ベールリッチという騎士だけではないという事。この大規模な地形操作はおよそその者の力」



 だね。

 地上絵とか言ってたような気もするけど、或いはそいつがこの出鱈目な地形操作を可能とする術者?

 お絵描き感覚で地形改変なんかされたらたまったものじゃない。



「にしてもだ。やり方は任せたが、中々残酷な幕だったな」

「…………」

「痛めつける趣味はない筈だったろう?」

「何事にも例外はある。冒険者として関わり合った軍属の者たちの中で、主を愚弄されて黙っていた騎士は一人としていない」

「特に愚弄された覚えはないが」



 とにかく生真面目な事だ。

 既にこの区画には僕たち以外に立っている者はなし。

 倒れ伏す二人を見やりながら何者なのかを分析する。



「―――他の物質から金属を生成し操作する力、液体金属のような武器を自由に形状変化させる力……しかし、本人の身体能力はまるで見合わぬ脆弱……私の様な」



 僕たちの使う【固有】にも近しいものがある。

 けど、気になったのは起こり―――魔術を練り上げるなどの起点となる部分や魔力が高まるなどの要素がなかったように見えたこと。



「皆と合流する必要があるな。済まないが、もう一仕事頼んでも良いか」

「良いだろう。貴方が休息をとってくれるのなら、喜んで受ける」



 そう来たか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
何か、前作踏まえ、当作にチート級の強者はいても、チートはいないと思っていたから、意外 異世界からの者に、間違いはないだろうけど、本当に神様によるもの?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ