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序:5 王との対面

 扉が開かれるとユウたち3人は謁見の間に入った。

 召喚された日と同じように赤い絨毯の上に人の姿はなく、壁沿いに幾人もの男たちが並んでいる。

 過日との違いと言えば、玉座に腰掛ける壮年の男性がいることとユウたちが3人しかいないことだ。


「そなたらが勇者か……」


 頬杖をついた壮年の男性、豪奢な衣装に身を包んだ国王マルクス・クオル・サルフェンドは気だるい表情でユウたちを上から下へ観察する。

 嫌な視線だ。

 思わずユウは目じりを上げた。


「あなたが王様ですか?」

「いかにも。サルフェンド国王、マルクス・クオル・サルフェンドである」

「では、まず言わせてもらいます。コビト……捕えられたコヒトを解放してください」

「コヒト? あぁ……詐欺師のことか。ならぬな」


 コビトと言うのが誰のことだかわからない様子のマルクスであったが、すぐに誰のことだかを察して、首を横に振った。


「なぜですか!?」

「エリアリアからも聞いておろう。悪神の徒たるジョブを持つ者は産まれついての犯罪者だ。善神の僕たる民の中に危険とわかっていながら解き放つわけにはいかん」

「ならば、せめて会わせてください。僕らはもともと友人だ。あなたたちのせいで引き離される謂れわない!」

「それもならぬ。勇者とは善神の使いでも最たるもの。悪神の徒と会話することで信仰が汚され、レベルが下がってはことだ」

「あくまでも解放も面会も許さないと言うんですね?」

「そうだ」

「ならば、僕らは戦うことを拒否します」

「それも許さぬ」


 マルクスは断固として言い切った。


「許されなくても、戦いません。戦えと言うなら、コビトと会わせてさえもらえれば、いいんです。それすらも許さないんですか?」

「そうだ。戦わぬと言うなら、貴様らなどいらぬ。これまで城に滞在した間の費用を払え。払えぬと言うなら戦え」

「僕らを無理やり召喚と言う形で誘拐したのはあなたたちだ。そんな脅しには屈しません」


 それからも2人の話は続くが、どこまで行っても平行線だった。

 コビトに会わせろと言うユウに、あくまでもコビトとの面会すら許さず戦わせようとするマルクス。

 四半刻もの時間を話が続けられれば、お互いに疲れが見え始める。だと言うのに、その間、エリアリアも謁見の間に詰めている重臣らも誰一人として口を挟まない。

 どうなってしまうのか。不安そうな表情でことの成り行きを見守るばかりだ。

 このままでは、本当に戦いを拒否した勇者たちが国を出て行ってしまうのではないか? そんな不安を重臣らが抱き始めた時、事態は思いもよらぬ方向へ進むこととなる。

 謁見の間に響き渡る破砕音。

 誰もが驚き、音のした方へ目を向けるが、あまりにも予想外な事態に目を点にする他なかった。

 非常時には立てこもりの拠点とされる謁見の間の防壁とも言える扉には、防護の紋が刻まれており破城槌でも使わぬ限り破壊されることなどありえない。

 その扉が宙を舞っている。

 放物線を描いて宙を舞う扉が、難しい話について行けず立ったまま舟をこいでいたリキの後頭部に直撃した。

 轟音が室内に響く。


「り、リキっ!?」


 慌ててリキへ駆け寄ったユウが目にしたのは扉の下敷きになり痙攣しているリキの姿だ。

 まさか!? と最悪の事態が頭をよぎる。


「痛ぇな!? なんだ!? 何が起きた!?」


 勢いよく立ち上がったリキは、痛む頭に手を当てながら周囲を見回している。

 高レベルの前衛職と言うことで体が頑丈になっているようだ。

 大きなダメージがなさそうなリキの様子にユウはほっと胸をなでおろした。

 しかし、いったい何が起きたのか。

 キッと扉があったはずの入り口を睨むと、そこには居並ぶ重臣らが宙を舞う扉を目にしたようにまったく予想していない光景があった。


「コビト?」


 立っていたのは幽閉されているはずの友人、コビトであった。

 しかし、その姿は最後に彼を目にした時とはまったく違う。

 まず目を引くのは額から流れ落ちる血だ。頭髪の奥に傷があるのだろう、額からこぼれる一筋の血などと生易しいものではなく、血に塗れた髪がぬらぬらと光、顔の左半分が血に汚れている。

 新品同様とは言わぬまでも目立った汚れやほつれなど見当たらなかった制服も、襤褸雑巾と見紛うばかりボロボロになっており、ほとんど服としての体すら保っていない。

 体の方もボロボロであった。鞭で叩かれたのか蚯蚓腫れのような線が幾筋も残り、打撲の跡も体中に見られた。

 手首には手錠でも掛けられていたのか、痛々しい赤い跡が目につき、手は爪がはがされたらしく酷い色をしていた。

 しかし、その姿を見る以上にユウは別の部分に酷く動揺した。


「よぉ…………いけ好かないイケメン勇者様?」


 ゾッとするほど冷たい目を自らに向けるコビトの目に、深い憎悪を感じ取ったのだった。


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