序:4 勇者の思い
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「やぁ!」
キンカンと金属同士のぶつかる音が練兵場に響き渡る。
絶え間なく振るわれるユウシの剣をエルヴィンは苦も無く防ぎ、時には躱して見せている。
「っく……とぉりゃぁっ!」
何度振るってもかすりさえしない。
焦ったユウシはそれまでより大きく振りかぶり、渾身の力を込めて剣を振るう。
不要な力が入っているわけではない全力の一撃は確かに速い。だが、まだまだ未熟なユウシがそんな一撃を熟練の戦士に向けて放つのは無謀であった。
カーン、と一際大きな音が響く。
次いで、宙を舞った剣が地面に突き刺さる。
「っ……まいりました」
寸前まで剣を握っていたと言うのに今は手の中に何も残っていない。その状態で切っ先を眼前に突き付けられているのだから負けを認める他になかった。
「うむ。だいぶ良くなってきてはいる。だが、今の一戦でなにが悪かったかはわかるな?」
「……はい」
疲労から思わず腰をつきながらユウは答えた。
最後の大振りがいけなかった。
雑兵が相手であれば問題はなかっただろう。しかし、相手は王国最強と称される将軍エルヴィンなのだ。雑兵などと比べるべくもない超一流の剣士である。
「焦るな。試合であれば、まだまだ私の方が強い。しかし、実戦になれば私の剣はお前に通じず、経験を積めば試合でもお前の方が強くなれる」
「はぁ……はぁ……はい。ですが、やっぱり信じられません。剣で斬っても、傷がつかないなんて……」
肩で息をしながらユウはエルヴィンの言葉に疑問を投げかける。
「信じられなくとも、それが神の祝福の恩恵だ。レベルとは祝福の強さ、神へ祈ることで敬虔な神の僕であることを示すことや、日々の行いから勤勉であることを示せば神がより強い祝福をくださるのだ。おおよそ20レベルの差が開くと低レベル者は高レベル者を傷つけることができなくなる……まぁ、これは戦闘系ジョブに限った話だがな」
戦士や騎士と言った前線で戦闘に関わるジョブを戦闘系、魔法使いや神官など魔法や後方支援のジョブを支援系、王族や文官など官として働くのにふさわしいジョブを統治系、商人や農民などの市民系などにジョブは分けられている。
どのジョブであろうと20レベルもの差があれば相手を傷つけることはできないであろうし、統治系や市民系などのジョブであればなおさらだ。
たとえ、差が5レベルまで縮められても戦闘系や支援系と言った戦うことに適したジョブを持つ者を傷つけることはできないだろう。
「加えて、ユウシ様たちはご自身のスキルを理解しておりません。スキルを使いこなし、3人の力を合わせてやつを倒せるでしょう」
「エリアリア……」
「おぉ、姫様」
いつの間にかすぐそばで2人の模擬戦を見ていたらしいエリアリアがエルヴィンの言葉に続く。
エリアリアの姿に気づいたエルヴィンは膝をついて臣下の礼を取り、ユウも立ち上がって一応の礼を取る。
「父上が連合会議から戻りました。ユウシ様たちとお話ししたいそうです。今日の訓練はもう終わりでしょう?」
「っは」
「ならば、ユウシ様。汗を流し、父上との面会をお願いいたします」
ユウへ頭を下げその場を後にしようとするエリアリアをユウが呼び止めた。
「待ってエリアリア。いつになったらコビトと会えるんだ」
コビトが連れ去られてからすでに4日が過ぎている。
解放するよう言っても、せめて会わせてほしいと願っても、取り付く島もなく断られている。
「ユウシ様。彼は悪神に魅入られているのです。善神の使いたる勇者のあなた方をあの者と会わせるわけにはいきません」
「だから、何度も言ってるじゃないか。それはなにかの誤解だって。たしかにコビトは嘘をつくし、人を騙すけど、それは遊びの範囲に収まるような冗談だし、誰かを傷つけるようなマネはしないんだ」
「いえ、そんなことは関係ないのです。レベルとは神から与えられた加護なのです。詐欺師などという悪神のものとしか思えない加護を受ける者は心根が悪でない限り99レベルになることなどありえません」
何度も繰り返されたやり取りであるが、ユウの意見もエリアリアの意見も平行線だ。
最低限の衣食住を保証する代わりに訓練こそ受けているが、ユウたちは、コビトが解放されないと自分たちは盗賊との戦いを拒否するとまで言っている。しかし、エリアリアはそんなことは構わないとばかりに意見を変えていない。
何か秘策でもあるのだろうか? と、ユウは首をひねるが、まだ自分たちの訓練が十分なモノでないこともあってか、エリアリアからのアクションはない。
最悪の場合、コビトが人質に取られることまで考慮しているが、対策まで準備できていないので、なんとかしなくてはとユウたちは日々話し合っているものの、成果がないのが現状だ。
「どうしても彼を面会したいのでしたら、私ではなく父上とお話し下さい。もう、事の権限は父へ移りました」
冷たくそう言い放ったエリアリアは、これで話は終わりと言わんばかりにユウへ背を向けると修練場を後にすべく歩を進める。
ユウはエリアリアの背中を見つめ、ただ硬く手を握り締める他になかった。




