表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただの俺の話  作者: lucky


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/8

お出かけ

  小さい頃から今通っている看護学校に入学することに憧れていた。俺には10歳上の姉と8歳上の姉がいる。長女が高校3年生の時、俺と同じ看護学校を受験したが試験に落ちてしまった。幼い頃から看護師に憧れていた俺は、親にもその気持ちを伝えていた。父親は看護師になるなら長女が受けた看護学校を受験しろと俺に言ってきた。夕食の時は毎度その話をしていたっけな。父親が言うには長女の敵を討ちに行けという意味で言っていたようだ。くだらない。東大や慶応のような大学ですらないのに何を言っているんだと思っていたが。その専門学校が県立ということもあり、学費を抑えたかったため親の言う通り受験し、運よく合格した。なんの自慢にもならないと思うが、親は大喜びだった。俺が鬱病になるまではね。


 堕ちて堕ちて堕ちて堕ちて堕ちて、底の底に堕ちてから空高く天まで勢いよく昇っていくそんな感じだ。そこに自分を邪魔する障害物は何もない。天高く昇ったり空を飛んだり、水の中を泳ぐことも出来る。ただ体だけが無い。意識だけ、、、意識というのだろうか、何というか精神というほうがしっくりくる。そんな空を飛んだりする楽しくて素晴らしい時間はすぐに終わってしまう。

 俺の精神が体に戻ってきた。俺は寝ている。枕元には安眠剤のゴミと飲料水が散乱している。俺は鬱病を治すどころか悪化させていた。薬も最初は容量を守っていたがしばらくすると最初に飲んだ時より効かなくなった気がして、1粒だけ飲む容量を増やしてしまった。後はその繰り返しだ。気付けば安眠剤の副作用で幻覚を見るようになった。俺の場合は金縛りのような状態が起こり、そこから幽体離脱のような体験をする。

 薬を多飲している自分を上から眺めている。そのままこいつが死んでくれればいいのにと思いながら、俺は幻覚を楽しんでいた。最近は市販薬とか向精神薬を乱用することを、オーバードーズ(OD)というらしい。この頃もそう言われていたのかもしれないが、自分は〈お出かけ〉と言っていた。何とか学校には通っていたが2018年の夏休みにある事をした。

 今日もお出かけしよう。今日は奮発して30日分以上を飲むことにしよう。俺は飲んだ。後で薬剤師に聞いたのだがこの頃飲んでいた量はほぼ致死量だそうだ。頭から余計な考えがなくなっていく。いや、変な考えだけが残るというべきか。ん?いつもと違うぞ。眠れない。金縛りが始まらない。何でだろう。俺は気づくと点滴の練習用の翼状針と鉈、筆、を持っていて鏡の前で笑っていた。

「アーッハハハハハハ!」

「お前というやつはつくづく僕の言いなりだね!」

「笑える。人は死ぬために生きてるんだよ?」

「山にでも行く?あそこは眺めがいいよ?その眺めを絵にでもすれば?」

「さて、そこで死のうよ?」

次の瞬間目の前には絶景が広がっていた。自分の誕生日に行った山頂だ。後ろには自分の車がある。どうやら自分で運転してきたらしい。全く記憶がない。山頂にあるベンチに座って景色を眺める。左腕に何だか違和感がある。力が入らないというか。腕を見ると翼状針が腕に刺さっており点滴に使うチューブをたどって俺の血がバケツに溜まっていた。右手には筆が握りしめられている。ああそうだあいつが絵を描くとか言ってたっけ。もう血管内の血液が少ないのか血はもう出ていない。何をしているんだと我に返った。針を腕から抜きバケツも筆も片付け車に乗り込む。ただボーっとするがエンジンをかけて家に帰ろうとした。意識は朦朧としている。グニャっという音が聞こえた。なんだろうと思ったが運転を続けた。あれ?前に車が進まない。俺はカーブミラーに衝突していた。普通なら事故を起こしたら慌てると思うが、俺はそのまま寝ようと思い眠りに着こうとしたその時、老人に声をかけられた。

「ここで死ぬのか?」

「まだ早いと思うが、、、」

今でも不思議な体験だったと思う。幻覚だったのかもしれないけどそれにしては妙な体験だったというか。そして俺は意識を失った。

 目を覚ますと俺は通っている心療内科にいた。医師が言うには俺は自分でレッカー業者を呼び、俺を見た業者が救急車を呼んだらしい。明らかに俺の様子がおかしかったのだろう。救急隊員には自分が通っている心療内科に運んでほしいと説明したようだ。完全に覚えていない。薬の副作用だったことは明白だ。記憶障害が起こり、この日のことやこの日以降の事を自分では覚えていないのだ。病院で目を覚ましたことも母親から聞いて初めて知ったことだった。薬っていうのは怖いよな。あれだけの量でこんな事が起きてしまう。俺より薬を沢山飲んだことのある人も多くいるだろうし、もっと危ない薬を使う人もいるだろう。そうやって自分を美化した時もあるが、これだけは言える。薬は病の治療に使われるが決して薬は病を完治させない。ただの一時しのぎってところかな。おまけにODなんてしていたら尚更よくなるわけがない。悪化させるだけだ。

 医師からは薬が合っていなかったのかもと言われ、違う薬を処方するといわれた。医師にはODをしていることを言えなかったが言った方がよかったかなと思っている。医師の助言なしで鬱病を治すのは素人には難しいからね。

 正しいことを考えることもあったが実際に自分が行う行動は反対のことだった。新しく処方された薬と以前持っていた薬を一緒に飲んだり、風邪薬と一緒にエナジードリンクで喉に流し込んだりとやっていることは以前より酷くなっていた。何が自分をこんなにも追いつめているのか考えることもあったが答えは出なかった。専門学校のストレスなのか何か違うことなのかさっぱりだった。

 こんな状態で学校にも行けるわけがなく、夏休み明けの研修の単位を俺は落とした。これで落とした単位は2つ。1つ目は1月の成田空港に行った後に学校を休み単位を落とした。こんなんじゃ卒業すら出来ない可能性がある事を先生に伝えられたがそれどころじゃない。俺は死にたくて現実から逃げたくてしょうがないんだから。

 でも、看護師への憧れはまだ残っていた。こんな自分でも人を助けたいと思った。俺は処方された薬を全て持ち、いつもの山頂へと向かった。もう嫌だ。薬は飲みたくない。単位を落とすのもごめんだ。冗談じゃない!!

「畜生!!」

そう大声で叫びながら俺は薬を投げ捨てた。目の前は崖っぷちだ。投げた薬を探しに行くことは出来ない。薬を捨てて俺は家に帰ったが、この日から安眠剤の依存症との闘いが始まった。

 手が震える。体が薬を求める。じっとしていられない。眠れない。この4つが俺に出た症状だったかな。でもその症状を上手く使ってみた。眠れなければ勉強をしたし、じっとしていられなければ同じく勉強した。そうやって誤魔化して日々を過ごすことになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ