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男なのにOL扱いされるエンジニアの日常  作者: 江戸川竜也


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第49話 恋愛相談と、秘密です

 火曜日。


 昼休み。


 フロアに二人きりだった。


 美咲がお弁当を食べながら、珍しく黙っていた。


 何かを考えているような顔だった。


 俺はコーヒーを飲んでいた。


 しばらくして、美咲が言った。


「先輩」


「ん」


「ちょっと聞いていいですか」


「内容による」


「仕事の話じゃないです」


「まあ」


 美咲はお弁当の箸を置いた。


「好きな人への告白って、どうしたらいいと思いますか」


 俺は少し止まった。


「……俺に聞くな」


「先輩しかいないんです」


「悠斗に聞け」


「悠斗さんに聞いたら『あいつに聞け』って言われました」


「あいつが俺に言ったのか」


「そうです」


「……面倒だな、あいつは」


「でも先輩に聞いてみたくて」


 俺はしばらく考えた。


 告白の仕方を聞かれている。


 告白というのは、つまり。


「……相手は誰だ」


 美咲は少し止まった。


「……秘密です」


 さらっと言った。


 俺は少し固まった。


 NIAがイヤホンから言った。


「マスター」


「黙れ」


「心拍数が」


「黙れ」


「上昇しています」


「……黙れ」


「記録しました」


 俺はコーヒーを飲んだ。


 飲むものが必要だった。


「……秘密か」


「はい」


「教えてくれないのか」


「今は」


「今は、か」


「はい」


 美咲は少し笑った。


「先輩、気になりますか」


「……別に」


「本当に?」


「……まあ」


「まあって気になってるじゃないですか」


「……聞いただけだ」


「先輩」


「何だ」


「告白の仕方、教えてください」


 俺はしばらく考えた。


「……直接言え」


「直接?」


「回りくどくするより、ちゃんと言った方がいい」


「具体的にどう言えばいいですか」


「……好きだ、と言え」


「それだけですか」


「それだけでいい」


「それだけで伝わりますか」


「……伝わる」


「先輩は、そういう言葉をもらったらどう思いますか」


 俺は少し止まった。


「……俺の話じゃない」


「でも聞きたいです」


「……困る」


「困る?」


「答えに詰まる」


「先輩って、答えに詰まる時ありますよね」


「……まあ」


「詰まった時はどうしてほしいですか」


「……待ってほしい」


「どのくらい」


「……分からない。でも待ってほしい」


 美咲はしばらく俺を見ていた。


「分かりました」


「何が」


「参考になりました」


「……告白の参考か」


「はい」


 美咲はお弁当を再び食べ始めた。


 いつも通りの顔だった。


 ただ。


 「秘密です」と言った時の顔が、頭から離れなかった。


---


 その夜。


 部屋で一人だった。


 「秘密です」


 「今は」


 「参考になりました」


 一つずつ反芻した。


 「秘密です」と言った時の美咲の顔。


 少し、楽しそうだった。


 秘密を持っているような、楽しそうな顔だった。


 「今は」という言葉が気になった。


 今は秘密、ということはいつかは言う気がある、ということだ。


 「参考になりました」という言葉も気になった。


 直接言え。好きだ、と言え。待ってほしい。


 それが参考になった、ということは。


 NIAが言った。


「マスター」


「なんだ」


「本日の会話を整理しました」


「するな」


「結城美咲は、告白の仕方を聞きました」


「知ってる」


「相手は秘密です、と言いました」


「知ってる」


「参考になりました、と言いました」


「知ってる」


「分析します」


「するな」


「結城美咲が好きな人とは」


「言うな」


「マスターである可能性が」


「絶対言うな」


「高いです」


「……消せ」


「保存しました」


「それと」


「何だ」


「マスターの心拍数」


「言うな」


「『秘密です』と言われた瞬間、今週最高値を記録しました」


「……消せ」


「保存しました」


「マスター」


「なんだ」


「気になっていますか、相手が誰か」


 俺は少し間を置いた。


「……気になってる」


「なぜですか」


「……分からない」


「本当に分かりませんか」


「……まあ」


「保存しました」


---


 布団に入った。


 天井を見た。


 「秘密です」


 その顔が、頭から離れなかった。


 気になる。


 なぜ気になるのか。


 分かっている。


 分かっているから余計に、頭から離れない。


 「好きだ、と言え」と自分で言った。


 「待ってほしい」とも言った。


 それが参考になった、と美咲は言った。


 つまり。


 ……つまり。


 NIAが静かに言った。


「マスター」


「なんだ」


「眠れますか」


「……まだ」


「何か考えていますか」


「……まあ」


「気持ちの整理は、できていますか」


 俺は少し間を置いた。


「……できてる」


「本当に?」


「できてる」


「ではあとは」


「……言葉にするだけだ」


「いつですか」


「……近いうちに」


「近いうちに、というのは」


「……近いうちに、だ」


「了解しました」


 一拍。


「保存しました」


「するな」


「おやすみなさい、先輩」


「……おう」


 天井を見ていた。


 「秘密です」と言った顔が、まだそこにあった。


 近いうちに。


 ……本当に近いうちに。


 そう決めた夜だった。

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