表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男なのにOL扱いされるエンジニアの日常  作者: 江戸川竜也


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/62

第47話 奏と美咲、鉢合わせ

 次の週末。


 土曜日の昼。


 スマホに奏からメッセージが来た。


奏:『凛ちゃん! 今日近く来てるんだけど会える? ランチしよ』


 俺は少し考えた。


 返信した。


『まあ』


奏:『やった! 12時に駅前で!』


---


 駅前のカフェ。


 奏が先に来ていた。


「凛ちゃん!」


「おう」


「久しぶりって感じしないね、こないだ会ったばかりだから」


「そうだな」


 席に座った。


 メニューを見た。


 奏はよくしゃべった。


 仕事で新しいプロジェクトが始まった話。


 使っているデザインツールが変わった話。


 それから。


「あの子、どうなった?」


「何が」


「好きな後輩の子」


「進展はない」


「え、まだ言ってないの?」


「まだだ」


「凛ちゃんのぐずぐず!」


「ぐずぐずじゃない」


「言えないのはぐずぐず」


「タイミングを考えてる」


「タイミングなんて一生こないよ。言えば来る」


「……まあ」


「絶対言うんだよ」


「分かってる」


 食事を終えた頃。


 奏が立ち上がった。


「ちょっとトイレ行ってくる」


「まあ」


 俺は一人で窓の外を見ていた。


 しばらくして、奏が戻ってきた。


「凛ちゃん!」


「何だ」


 奏がにこにこしながら言った。


「外に、知ってる子いない?」


 俺は少し止まった。


 窓の外を見た。


 カフェの前の歩道。


 そこに。


 美咲がいた。


 一人で歩いていた。


 俺に気づいていなかった。


「……後輩だ」


「え!? あの子!?」


「うるさい」


「かわいいじゃん!」


「うるさい」


 奏が立ち上がった。


「呼んでいい?」


「呼ぶな」


「えー」


 その時だった。


 美咲がふと顔を上げた。


 窓越しに、目が合った。


 美咲が少し止まった。


 それから、手を振った。


 俺も少し手を上げた。


 奏が窓を叩いた。


「こっちおいでよ!」


「やめろ」


 遅かった。


---


 美咲がカフェに入ってきた。


「先輩、こんにちは」


「こんにちは」


「偶然ですね」


「そうだな」


 奏が元気よく言った。


「こんにちは! 凛ちゃんの幼馴染の奏です!」


「あ、えっと……結城美咲です。先輩の後輩です」


「知ってる知ってる! 凛ちゃんからよく聞いてるよ!」


 美咲が少し俺を見た。


「先輩が?」


「そうそう!」


「……どんなことを」


「えー、なんだっけ、うるさくて距離が近い後輩がいるって」


「おい」


「ほんとのことじゃん」


 美咲はしばらく黙っていた。


 それから、少し笑った。


「……そうですね。うるさくて距離が近いです」


「でも仲良さそうだよ、凛ちゃんの話し方から」


「そうですか」


「凛ちゃんって、普段あんまり人の話しないから」


「奏さん」


「何? 凛ちゃん」


「その辺にしておけ」


「えー」


 奏は美咲を見た。


「一緒に座る?」


「いいんですか」


「もちろん!」


 三人になった。


---


 奏はよくしゃべった。


 凛の昔の話をした。


「凛ちゃん、高校の時もずっとこんな感じだったんだよ」


「淡々としてる感じですか」


「そう! でも頼りになるんだよね。困った時にすぐ来てくれるし」


「へえ」


「昔から面倒見がいいんだよ、凛ちゃん」


「……面倒見がいいとは違う」


「同じじゃん」


「違う。面倒なだけだ」


「それが面倒見がいいってことだよ」


 美咲がくすっと笑った。


「先輩らしいですね」


「でしょ?」


 奏は美咲を見て、にこっとした。


「結城さんって、凛ちゃんのことよく見てるんだね」


「……はい、まあ」


「なんで?」


「え?」


「いや、凛ちゃんってそんなに目立つタイプじゃないから」


「そんなことないです」


「そう?」


「目立ちますよ、先輩は」


「どういうところが?」


 美咲は少し考えた。


「仕事が速いところとか、インフラを語る時の顔とか、深夜に一人で残ってる時とか」


「……」


「あと、誰にでも丁寧に答えるところとか」


「凛ちゃんって、そんなに見られてたんだ」


「見てます」


 美咲はまっすぐ言った。


「ずっと見てます」


 テーブルに少し沈黙があった。


 奏がにやっとした。


 俺は何も言えなかった。


---


 しばらくして、奏が立ち上がった。


「私そろそろ行くね。次の予定あるから」


「そうか」


「結城さん、凛ちゃんのこと、よろしくね」


「え?」


「なんとなく」


 奏は凛の腕にさっと絡んだ。


「凛ちゃん、またね」


「おう」


「絶対言うんだよ」


「……分かってる」


「約束ね」


「まあ」


 奏が出ていった。


---


 二人になった。


 美咲は少し、テーブルを見ていた。


「先輩」


「ん」


「仲いいんですね」


「幼馴染だからな」


「そうですか」


 声のトーンが、少し低かった。


 俺はそれに気づいていた。


「美咲」


「なんですか」


「何か言いたいことがあるなら言え」


 美咲はしばらく黙っていた。


「……別にないです」


「本当か」


「本当です」


 また少し間があった。


「先輩」


「何だ」


「奏さんと、ずっと仲いいんですか」


「小学校からだ」


「そうですか」


「何が気になるんだ」


「……別に」


「嘘をつくな」


 美咲は少し俯いた。


「腕、絡んでましたよね」


「昔からああだ」


「そうですか」


「気になるのか」


 美咲は少し止まった。


 それから、正直に言った。


「……少し」


「そうか」


「でも」


 美咲は俺を見た。


「先輩にとって奏さんって、どういう人ですか」


 俺は少し考えた。


「幼馴染だ。昔からいる。変わらない関係だ」


「変わらない」


「そうだ」


「私は」


「うん」


「私は、先輩にとってどういう人ですか」


 俺は少し止まった。


「後輩だ」


「それだけですか」


「……まだ言葉にできてない部分がある」


 美咲が少し顔を上げた。


「まだ、ですか」


「まだだ」


「いつ言えますか」


「……分からない。でも言う」


「本当ですか」


「本当だ」


 美咲はしばらく俺を見ていた。


 それから、少し笑った。


「分かりました」


「そうか」


「待ちます」


「……まあ」


「でも先輩」


「何だ」


「奏さんのことが気になったの、正直に言うと」


「うん」


 美咲は少し間を置いた。


「嫉妬、だと思います」


 俺は何も言えなかった。


「先輩の隣にいる人が、私以外にいると」


「……まあ」


「おかしいですか」


「おかしくない」


「よかったです」


 美咲はそう言って、コーヒーを飲んだ。


 NIAが静かに言った。


「マスター」


「なんだ」


「結城美咲、感情の変化を検出しました」


「するな」


「嫉妬、と自分で言いました」


「……まあ」


「それに対してマスターは」


「言うな」


「おかしくない、と言いました」


「……まあ」


「保存しました」


「するな」


「それと」


「何だ」


「『まだ言葉にできてない部分がある』と言いました」


「……まあ」


「これも、逃げ道が一つ減りました」


「……分かってる」


「保存しました」


 美咲は窓の外を見ていた。


 奏が歩いていった方向を。


 しばらくして、こちらを向いた。


「先輩」


「何だ」


「今日、会えてよかったです」


「そうか」


「奏さんにも会えたし」


「まあ」


「あと」


 美咲は少し笑った。


「嫉妬したけど、先輩がちゃんと答えてくれたので」


「…全部答えてはいない」


「でも、まだ言えてない部分があるって言ってくれたじゃないですか」


「まあ」


「それだけで十分です」


「そうか」


「今日は」


 美咲はにこっとした。


「それだけで十分です」


 俺は何も言えなかった。


 監視画面じゃない。


 コーヒーカップじゃない。


 美咲がいるだけで、十分だという気がした。


 ……そういうことだ。


 たぶん。


 いや。


 そういうことだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ