峩々吠我 壱 その1
ボアの切り替えランチコート。
深いブラウンが、彼女の可愛いさの中のワイルドさを引き出している。
中の白いニットは、小さな胸の膨らみを表現するくらいにタイト。
サテンのパンツはアウターと同じブラウン系だが、薄く上品な色合い。
足には白い、厚底のスニーカー。
視線を上げると、真っ白なニット帽が彼女の可愛らしさを倍増していた。
EG使い、ユキオンナ。
月の明かりに照らし出された姿は、スポットライトを浴びたアイドルの様にキラキラしていた。
ホントにキラキラしている。
月の光りを吸収した氷の粒が彼女の周りに浮かび始め、スペクトラムを拡散して可愛いさを演出していた。
その彼女に、僧が群がる。
アイドルを迎える、ファンの様に、、、。
光りに群がる、虫のように、、、。
集まった僧から歓声は上がらなかったが、代りに呪術の経が唱われる。
幾重にも重なった、“呪経”の旋律。
数十人の僧が一斉に、己が得意とする呪を唱える。
バラバラの呪経が耳に届くころには、地響きに似た振動に変わり肌を震わせた。
僧たちの、野太い声。
力強い低音が、山に響く。
耳に響く。
子宮に響く。
「あ、、、」
潤む眼。
ユキオンナの頬が、紅潮し始めた。
火の属性。
水の属性。
風の属性。
土の属性。
各属性の鳴り珠が、あちこちに浮かび上がる。
近年定番と成りつつある五つ目の属性、“金の属性”も出だした。
呪術師も、流行りは取り入れるらしい。
呪経を展開する唱僧の後ろには、槍を持って武装する僧兵が臨戦態勢で構えている。
呪で攻撃し、弱まったEG使いに物理攻撃を畳みかける役を担った僧だ。
さらにその後ろには念のための遠距離支援、弓を持った僧兵まで居る。
ざっと見で、50~60人。
前衛が放つ呪経の唱が、触れそうなほどドロドロと濃い。
僧ひとり一人が生み出す呪が、念となり幾重にも重なる。
絡み合う属性。
無数に浮かび上がる五色の鳴り珠が、地上に降りた無数の星のように輝く。
それが、そのひとつ一つが、自分を狙っている。
そう考えるて、興奮する。
――あぁ、、、男たちが皆、あたしを狙ってる、、、
それを肌で感じ、欲情する女。
――あたしは今、世界の中心
そう思うと、足が勝手に前に出る。
止まらない。
止まんない。
濡れる。
色欲の眼で歩むユキオンナの前に、2人の僧が立ちはだかった。
見た事もない、2人の僧。
だが渾身の怒りと憎しみを視線に乗せて、ユキオンナを睨んでいた。
――そう、もっと見て!
「オマエはどっちや?!」
血走らせた眼で、質問をぶつける。
「魯甫の手足を砕いた女か、毘袁を半身不随にした女か、どっちや?! 言うてみぃ!!」
ユキオンナに、苦々しい口調で聞いて来たのは勘空。
その横で小さく震えながら、殺意を持った眼で睨むのは澄宗。
あの日、魯甫と毘袁、この女に壊された2人とチームを組んでいた僧だ。
どんなに可愛くても、許せるハズが無い。
2人の眼は、この女が『どう答えようが、殺す』、そんな意思のある眼差しだ。
刺さるほどに血走った眼で見て来る。
なのに、、、。
それすらも、この女には欲情の糧となる。
2人の僧を見る、欲望に純朴な瞳が潤む。
この場面で、どう見ても欲情している。
発情した貌が、勘空と澄宗を見つめていた。
「なぁなぁ、あんたら、セックス好き?」
「は?」
「、、、今、なんて?」
睨む2人の殺気に一瞬、“間”が出来た。
――何やこの女、、、?!
あの時、役目を終えて先に去った2人。
ユキオンナが意識を取り戻した時には、居なかった2人。
おかげで、助かった2人。
2人は、ユキオンナというEG使いを知らない。
「あたし、セックス好きやねん」
言って、言葉通りだらしない口元をさらけ出している。
ぷるぷるの唇で『セックス』って言ってる。
笑ってる。
死ぬかもしれない、この場で、、、?
ユキオンナを見て、何で魯甫と毘袁が死ななくちゃいけなかったのか何となく解かった気がした。
眼の前のEG使いを見て、2人して同じことを思った。
この女、アタマガオカシイ、、、。
殺してやると息巻いてこの場に立つが、背筋を震わされる。
冷静に、戻される。
「だってなぁ、セックスって、めっちゃ気持ちええねんでぇ~」
ヤラシイことを言ってる、顔が可愛い。
可愛過ぎて、、、?
近付いて来るユキオンナに、勘空と澄宗が同時に一歩退った。
「なぁ、しよ?」
完全に、瞳孔が開いている。
ヤバい眼。
魅力的な眼。
「セックスしようやぁ?」
――?! 何や、、、??
女の考えている事を読もうとするが、伝わってこない。
その代わり、身体の一部が痛いほど硬くなっている。
カワイイから仕方ないのか?
――何や!?
どういった意思の眼なんだ?
読み取れない。
あの綺麗な二重の潤んだ瞳に、浮かんでいるのは何なのか?
あの女は、『敵意』を持って高野山に来ている。
ハッキリと『害意』を持って、何かしようとしている。
それほどに『悪意』が強い。
向けられる『殺意』に、立ち向かう決意をする。
、、、のだが、この女を見ると、、、?




