策束静巡 陸 その4
そこへ、唱僧との会話を終えた波働が来る。
「どうしました?」
楓の表情から、何か気になる事があるんだと思い声を掛けた。
「アイツ、なかなかヤバそうやねんけど、、、」
楓の視線の先は、もちろん聖。
決して鈴木ではない。
「そうですね、ヤバいですね」
「どんくらいヤバいん?」
「1対1で、まゆらさんと闘えるぐらいヤバいです」
むむむ、、、と眉を顰めた。
で、素直に気になる事を聞く。
「ほんで、アイツは味方なん? 敵なん?」
これ、重大。
まゆらと対等に戦える術師がどう動くかで、戦況は一変する。
なのに、波働の答えはあやふやなモノだった。
「それが、良く解らないんです」
「は?」
「術師界はもちろん結界の中でも有名人ではあるのですが、“空白の期間”があったんで実際今、彼女がどういう立場なのか把握仕切れてないんです」
「え~~。そんなん、、、? ちょちょちょっ!」
話しの途中なのに、波働は別の場所に歩き出した。
半分だけ振り返り、笑顔を見せながら軽く片手を振る。
「なんやねんもうっ!」
楓は思いっきりクシャってした顔を向けていた。
それを見た波働の表情がいつもより綻んでいるのに、楓は気付いただろうか。
再び前を向いた時には、いつもの鉄仮面。
歩く先は、伊波兄弟。
反対に伊波兄弟は、自分達の方へ近づいて来る波働に少し驚く。
応接室で童子級の術を目の当りにし、自分達兄弟がこの場に居るのが場違いなんじゃ無いかと思っていたところだ。
「准さん、駿さん、ちゃんと身体、温めておいてくださいよ」
無表情でも、声は朗らか。
准が面倒臭そうに、波働を見た。
「EG使いが来たら、活躍してもらわないとイケナイんですから」
これをただのご機嫌伺いと取った駿は、厭味ったらしく返した。
「別にオレら居らんでも、強そうな術師いっぱい居るやん」
「あれあれ、テンション低いですね」
「そりゃそやろ。あんなん見せられたら、、、」
あからさまにヘコんでた。
まぁ、兄弟揃って呪包童子に鼻をバキバキのボキボキに折られたんで、しょーがないって言えば仕様が無い。
――気持ちは解かりますが、仕事なんで、、、
「あ~、勘違いしてるみたいなんで、訂正しておきますね」
「あ?」
「正直、1対1だったら、さっきみたいに童子級には敵わないでしょう、、、」
いったん兄弟を見た。
兄弟の眼が、自分達の価値を教えてくれと訴えていた。
「でもですね、あなた達は二対一体の術師。闘いって、絶対に1対1でする訳じゃ無いですよね」
「?!」
「準備して、待ち構えて、こちらは100パーセントの状態で迎え撃つ。特にあなた達の術式は、一度嵌めてしまえば勝ちです」
駿はみるみる、顔が明るくなる。
「初見で、しかも先手を取ってしまえば相手は何も出来ないですよ」
「せやのぉ!」
子供の様に声にも元気が出てきた駿に、准はまだ一抹の不安を拭えない。
「言うのは簡単、ヤるのは、、、ってトコやろ?」
そう言った兄に、ホンマやほんまやと弟が追随する。
一歩、波働は2人に近付いた。
「よく周りを見てください。ゴロゴロ居るでしょ? 《《捨て駒》》が、、、」
小さく潜めた声が、2人の兄弟をゾクりとさせた。
波働の口から、そんな言葉が出るとは思わなかった。
一瞬、聞き間違いか? とも思ったくらいだ。
兄弟2人して、波働を驚いた表情で見つめる。
その2人に、さらに小さな声で囁く。
「あなた達兄弟は、《《使う立場に居る》》んですよ」
ゴクリと、唾を呑み込んだ。
一歩退り、波動はいつもの笑顔を見せつけた。
「これでもね、何人もの術師を見て来てるんですよ。その私があなたたち兄弟をオーダーしたんですから、自信持ってください」
そう言った。
嘘だが、、、。
その声は伊波兄弟の眼に、徐々に精気を取り戻させた。
営業スマイルを見せると、波働はもう一度、最初に握手した唱僧の下へ向かった。
伊波兄弟は、知らず、必要とされた喜びの顔を浮かべる。
准が、弟を見た。駿も兄を見ていた。
「駿、、、やったるか」
「波働さんにあそこまで言われたら、やらなアカンやろ」
伊波兄弟が、らしい太々しさを取り戻す2人とは対照的に、波働の思考は超クール。
――せめて足止めくらいは働いて欲しいですからね
そう思った時、波働お得意の笑顔が消えた。
遠くで、大きな音。
同時に、地面に振動。
怒号が起り始めた。
――これは、、、
ふと、楓と眼が合った。
腕時計を見る波働。
ジャスト0時。
「始まったみたいやな」
楓の視線が、音のした方を睨む。
波働が周囲を見回すと、聖と鈴木も、伊波兄弟も同じ方向を睨んでいた。




