策束静巡 陸 その2
普段、結界内で暮らしている聖。
そこで生活すれば、嫌でも耳にする噂がある。
結界の創始者、速水颯太を倒した使い手。
NG使いでありながら、EG使いでもある反則級の使い手。
夏でもマスクと、ジャングルブーツを履いている使い手。
ソイツが、安倍まゆら。
――マジでジャングルブーツや、、、
ついこの間も、初代サイラーを“壊した”と噂になっている。
「そして最後に、ソファに座ってらっしゃる2人が波付の術師、伊波さんご兄弟です」
先程のひと悶着で、駿は大人しいものだ。
兄の准は、なんとか頭を下げるくらいの挨拶は出来た。
「へぇ~~。オールスター勢揃いって感じやん」
両サイドのソファを見比べる楓。
波働が続けた。
「で、何よりも先にここで私たちが落ち合ったのは、高野山との取り決めを交したからです」
「いつの間に?」
「知りませんでした? 私、働き者ですよ」
楓の問いに答えながら、自分の胸をトントン、と叩いた。
無表情なのに自慢顔。
「今回皆さんには先に、ミカドの命がダブって依頼が重なったのをお詫びするのと、現場の指揮権、、、と言うか優先順位について伝えなければならない事がありまして」
「あんたがそう言う物言いの時は、大概メンドイ時やんなぁ」
良く解ってますよねって顔をしながら、楓を見る。
「そうですね。“メンドイ”ですね」
溜息、ひとつ。
「ミカドとか術師協会とかナシで、現場レベルで言うと高野山に唱僧以外の術師を入れるなんて考えられない事です。しかもオールスターw。言うまでも無く敵対視されてます。ノン歓迎です。でもミカドと協会が絡んでるので拒否できません。そんな現場、間違いなく混乱します」
波働のセリフに緊張感が増すが、楓は全く気にしない。
ホントにいつもの口調で聞き返す。
「どんくらいの混乱、予想してんの?」
「多分、油断したら行方不明になるくらいです」
衝撃的な、波働の言葉。
なのに、あんまり誰も驚かなかった。
この程度の話しは、協定を正式に結んでいない術師同士の共同戦線なら“あるある”なので、、、。
「皆さんは私にとっても術師界に於いても貴重な人材なので、こんな事で失いたくないんですよ」
――私にとって皆さんは、平等に大切な“駒”なのでね、、、
本音と建前は、絶対に言い間違えない。
それが、波働慶壱。
「それで高野山上位の方とお話ししまして、ルールを決めました」
「どんな?」
「今から言います」
「どぞ」
そう言って、手を差し出す楓。
波働は笑顔で頷き、話しを続ける。
「まず襲って来るEG使いを迎え撃つのは、唱僧であること。手出し無用との事ですが、攻撃が自分に向いたと判断した時は反撃してもらって大丈夫です。そこは各々で。でも“トドメ”は勿論、唱僧に譲る事。その2つが条件です」
「なんかオイシイとこだけ頂戴って感じやな」
確かに、、、と同意しつつも、高野山側の心情も説明し出す。
先日、EG使いに自慢の唱僧を2人も壊された事実を説明。
「前回の怨みもあるんでしょうね。こちら側は手を貸しても良いし、見物だけして帰って貰っても良いです。ただ、、、これはこちら側だけの話しになりますが、誰がミカドの“密偵”か解らないので、指定された集合場所に一度顔を出してから、となります」
ここで初めて、楓が驚いた表情を見せた。
「おっと! 高野山にも居てんの?」
「居ると考えて動くのが無難と言う事です」
「確かに、時代は情報戦やからなぁ」
敵はEG使いだけではないと、あらためて実感。
「、、、ま、これが唱僧のエライさんと交わした約束です。高野山にすればこれでミカドに対するメンツは立つし、約束を守れば我々も安全に帰れる。このあたりが“折り合い”ってやつじゃないかと」
そこで一度、波働は全員の顔を見た。
確認だ。
ほぼ楓と2人で喋っていたが、内容は伝わってるハズ。
反対意見は、出ないだろう。
「イッコ聞いて良え?」
波働に視線を送って来たのは、聖。
「どうぞ」
「見物は、どこで見てても良えんかなぁ?」
「ええ、構いません。ただ、問題は起こさないでくださいね」
波働の言葉を聞くと、聖が笑顔を作る。
「ほんならそろそろ行かんとアカンのんちゃうか? なぁ?」
横の鈴木に声を掛け、大袈裟に太い革バンドの腕時計を見る。
波働も自分の腕時計を見た。
「もうすぐ午前0時。確かに予告時間ですね。それでは皆で、西南院の集合場所まで一緒に行きますか」
波働の言葉に、ソファに座っていた4人が互いに油断なく立ち上がる。
ふと、聖が視線を気になる方へ向けた。
そこには、ルネ。
入って来てからずっと同じ恰好で腕組みして立ってるのだが、よく見るといつの間にか右手にベレッタを握っていた。
――いつ? 怖っ
背後の2人には常に警戒していたつもりだが、どうやら考えてた以上みたいだ。
「ささ、皆さん行きましょう行きましょう」
「うん。行こ行こ」
波働の言葉に、楓だけが笑顔で答えていた。




