策束静巡 陸 その1
13分後、鈴木と波働が2階の応接室に帰って来た。
階下に波川を降ろし、下に居る宿直の警官と警部補に波川を救急病院へ運ぶように頼んで来たところだ。
案の定、何で波川がこんな事になったのか質問攻め。
そんなのマトモに答えらる訳でも無く、質問を誤魔化すのに無駄な時間を使ってしまった。
おかげで13分も掛かってしまった。
波働、がっくしトホホ、、、。
応接室に入ると、微妙な空気。
そりゃそうだろう。
伊波兄弟は、3人掛けソファから動いていない。
だって眼の前に、呪包童子が“でんっ”と座ってるんだから。
准と駿は、とんでもないプレッシャーを感じているに違いない。
「あ、おかえり~~」
聖はノンキに首を後ろに倒し、鈴木に向かって言っていた。
言って横のソファの肘掛け部分を、ポンポン叩く。
鈴木は躾られた犬の様に、迷わず聖の横に座った。
そんな鈴木を見ながら、波働は同時に視線を素早く奔らせる。
入って来た扉の在る壁の角、右側にルネ、左側にまゆらが立っている。
楓は、部屋の左手側に置かれた折り畳み式の長机に、軽くお尻を掛けていた。
パイプ椅子には座らない。
いつでも動ける。
3人とも、だ。
楓が室内の人間を見る立ち位置。
ルネとまゆらは、部屋に入って一番波動の強い人物の背後を取っている。
さすが、デンタイ。
言葉も交わしてない。
視線も合わせてない。
でも、自然とそれが出来ている。
3人娘、呼吸ぴったり。
仕事としてみれば完璧だが、雰囲気は険悪最悪だ。
波働、ちょっと苦笑い。
――全然打ち解けて無いなぁ、、、
波働は扉の前から歩き出しながら、まずはソファに座る伊波兄弟を確認。
2人揃って、大人しいものだ。
まぁ、童子級の術式をまざまざと見せられ、ビビらない方がどうかしてる。
その童子、、、。
表情が見える角度まで来ると、素早く視線を走らせチラリと聖を確認。
――落ち着いた?
いや違う。
顔は笑ってるが、どう見ても“穏やか”ではない。
空気感が、重い。
――コレは、念、、、?
無能力者の波働に正確には解らないが、聖がナニカを放っているってのは解る。
それを、強者が放つ“圧”と感じた。
足を止めず、長机に腰かける楓の横まで来た。
笑顔で迎える楓。
「慶壱っちゃん、おかえり~~。さっきのおっちゃん、ちゃんと病院行けたん?」
「ええ大丈夫です。段取りしましたんで、後は制服組が運んでくれるでしょう」
流石だなと思った。
こんなピリピリ感満載の部屋の中で、いつもの調子で迎えてくれる。
そんな楓の態度を見れば、“普通”を装える。
助かる。
極力普段の感じで、波働は会話を続けることが出来た。
「で、楓さんたちは迷いませんでした?」
「いや~~実はウチらな、“前ノリ”で昨日から来とってん。しゃーからこの場所もキッチリ調べてたし温泉も入ったしw」
「それは何より」
仕事用の笑顔。
改めて、波働が室内を見廻す。
「お待たせしてます。では、此処に居る全員を何らかの形で知ってるのが私だけだと思うので、“まわし”をしますね」
確かに知らない者同士の中で、皆波働の顔だけは知っている。
それにこんな雰囲気の中では、誰も喋る気にならない。
喋れるとしたら、周りに気を使わない“オッサン力”を持った波川くらいか?
もう居ないけど、、、。
「順番に紹介していきますね」
空気を換えようと話し始めた波働に、横の楓が意地悪くツッコむ。
「何の順番?」
確かに、どうゆう順で紹介をするのかで波働が自分をどう評価しているのかが垣間見れるんじゃないかと、それぞれが波働を見つめてくる。
いらんことをツッコむなぁ、、、と、ちょっと目配せする波働。
楓、( ̄m ̄〃)ぷぷっ!
「ミカドから命を受けた順です」
波働、言い切る。
澱みなくハッタリをかませる男、それが波働慶壱。
直接ミカドから頼まれた者など、居ない。
居る訳が無い。
冷静に考えればスグに解かる。
みんな、自分を雇ってる者からの依頼で動いている。
しかも波働がどんな順番で言おうが、互いに確認し合う仲でもない。
波働の言ったハッタリに、誰も言い返せない。
これぞ、ザ・波働スタイル。
「まずはこちら、四術宗家がひとつ、上水流家当主の代役で来られた小石川さん」
まゆらの左手が、ぴくっ!
「と、その補佐、鈴木さん」
鈴木は楓、まゆら、ルネの順にいちいち頭を下げて挨拶していた。
聖は楓にだけ視線を送り、小さく首を前に倒す。
背後の2人は、展開している“濃霧”で伺う。
「で、次にデンタイ。デンタイは解りますよね?」
主に鈴木に聞いた波働。
伊波兄弟は波付、宗興寺より公安に近い存在で、波働の仕事を手伝うってことはデンタイの存在も勿論知っててあたりまえ。
なので確認は、上水流家からの使者に聞いた。
「知ってますよ、、、」
鈴木が短く答えた。
念のための確認ですと笑顔を向けてから、3人を紹介。
「そこの小早川さん、九条さん、安倍さんです」
――アイツが、安倍まゆら
振り返らず、背後に立つ少女の姿を思い出す。
探る、、、。




