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karma!! ~水の中のグラジオラス~  作者: 后 陸
水の中のグラジオラス 三の章
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策束静巡 伍 その9

 呪包童子の念が、“濃霧”で部屋を充満させている。

 まるで、触れられているように濃い霧。

 動けば、、、多分、、、。


 その時、聖の細い肩を大きく武骨な手が掴んだ。


 「聖!! もうアカン! そこまでや! マジで!!」


 強い力で、肩を揺すられた。

 首ガックンガックン。


 聖、見上げる。


 見ると、鈴木の顔が必死だった。

 意地を張るとこじゃないな~と、ちょっと反省。


 「みっちゃんがそう言うんやったら、もうええわ」


 術式解除。


 四角く()されていた“力”から解放され、波川(なみかわ)の身体がその場で(くず)れる。

 駿の頭部を(おお)っていたシャボン玉が割れ、中の水がスウェットを濡らす。

 (ちゅう)に固定されていた水珠が、准の前、テーブルに落ちて(はじ)ける。

 ロープ状に巻かれた水が意思を失い、波働のシャツの中に流れ込む。


 この4つの呪詛(ずそ)が、同時に解呪(げじゅ)されていた。


 男たちは、それぞれ深く息を吸って、吐いた。

 助かった、、、。

 自分達が無事だったことに、安堵(あんど)する。

 その次に、心配するよう波川を見る。


 呼吸は、、、している。

 しかし、何らかの処置は必要だ。

 波働が波川の所へ、、、行こうとしたら止められた。

 眼の前に笑顔のパンキッシュガールが、行く手を(ふさ)ぐように立っていた。


 ――ん?


 動きを止めた波働に、少女はギャグのように自分の革ジャンの(えり)(ととの)える仕草をしてから背筋を伸ばした。

 そして、波働に目配(めくば)せ。


 「(なん)してんの? ほら、こちらのお2人にあたしのこと紹介してぇや」


 ソファに座る伊波(いは)兄弟に笑顔を向け、“気を付け”をしている。

 ピアスが揺れる。

 、、、断れないと、思った。

 断ってまたひと悶着(もんちゃく)起こすより、素直に従って波川に処置をしなければと思った。


 波働が伊波兄弟の方へ振り返り、右手で聖を()(しめ)した。


 「こちら、上水流家当主の代役で来られた呪包童子、小石川さんです」

 「どもども。以後、あたしとみっちゃんにしょーもない事したら、今度は手加減はせえへんで」


 駿は声に出さないが、代りに口をパクパクさせて何度も何度も頷いていた。

 准は、驚いていた。

 名を聞き、それが噂に聞く小石川家“呪術三兄弟妹(きょうだい)”の、末娘だと解かったから。


 一拍置いて、波働が波川に駆け寄る。

 すでに鈴木が波川の身体をチェックしていた。

 聖は、、、波川が座っていたソファに座った。

 座って、伊波兄弟に視線を送る。


 聖、ニヤニヤ。


 兄は、理解した。

 これは、『勝手に動くな』だ。


 「兄ちゃん、、、」


 弟がこの状況にどうしたら良いのか、兄に(すが)る。

 准は小さく、首を横に振った。

 それしかしない。


 「兄ちゃん、、、」


 それで、駿も動けなくなった。


 「これ、救急車呼んだ方が()えでしょ?」


 鈴木が、波働に言った。

 悩んで、答える波働。


 「ダメですね」

 「えぇ?!」


 鈴木、波働の返事に驚きまくる。


 「迎撃態勢(げいげきたいせい)を取ってるところへ、救急車は入れられませんね」

 「いや、しゃーけど、、、」


 人の良い鈴木が、波働の判断に異議を唱える。


 「、、、マジで死ぬかも知れんで!」


 声のボリュームが上がっていた。

 人の命に係わる問題だ。

 一大事(いちだいじ)じゃないのかと、波働に詰め寄る勢いだ。


 だが、、、。

 無表情。

 6課の波働は、理路整然と話し始める。


 「私も助けたいのはやまやまですが、一介(いっかい)の術師と空海の密秘、どっちが重要かと問われれば圧倒的に密秘です。だから強襲者に対し防衛の陣形を取っている時に、余計なモノを入れて崩したくないです」

 「そんな、、、」


 言っている事が信じられないと、鈴木の顔が怒りと困惑で赤くなっていく。


 「波働さん、人が1人死ぬかも知れんねんで!?」

 「まぁ、そうなんですけどね」

 「それやったら早う、、、」

 「術師1人の命と百人単位の殺傷能力を持つ呪具。どっちが重要かって言ったら、それこそ“言わずもがな”ですよね」

 「な、、、!!!?」


 何と軽やかな返答。

 冷静を通り越して、感情が無いのか?

 答える顔は、無表情。


 ――久々に()うても、冷静過ぎて怖いわw


 聖、ちょっとだけ念を飛ばす。

 術師ではないが、“意識”が自分に向けられているってのは波働にも解る。

 その意識が良い感じなのか悪い感じなのかくらいは、肌で感じ取った。

 呪包童子に、見られてる、、、と。


 この場合、聖の意に(そむ)くカタチの答えを出すと、またまたひと悶着(もんちゃく)が起こる予感。

 ただ向けられた念が、自分以外にも向いているのがハッキリと解る。

 意識しているのだ。

 鈴木と言う男の存在を、、、。


 ――へ~~、この2人、どういう関係だ?


 ちょっと疑問に思ったりしたが、敵が攻めて来るってのに内輪揉(うちわも)めは良くない。

 それに波付が死んじゃうと、波働家(うち)にも少なからず影響が出る。

 総合的に、ここは鈴木に同意するのが良策だと判断した。


 「じゃ、取り敢えず下に居る宿直の警官に、救急病院へ運んでもらいましょう。それなら陣形は崩れないし、波川さんも安心。それで納得してもらえますか?」


 聖にもハッキリ聞こえるように、鈴木に言った。


 「、、、それで()い」


 そう言うと鈴木は、波川を軽々と抱き上げる。

 オッサンがオッサンを、お姫様抱っこ。

 部屋を出ようと向かった扉が、勝手に開いた。


 「おやおや? これはこれは皆さんもうお揃い? 自己紹介はとっくの昔に終わったって感じやなぁ」


 そう言って波働を見つけると、ウィンクを飛ばす金髪くるくるパーマが立っていた。




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