策束静巡 伍 その3
部屋には波働と、“波付”の3人が残っていた。
波川は席を移動して波働の横、初めに背広の警察官が座っていた1人掛けのソファに腰を降ろしていた。
「波働さん。ほんでこの後、誰が来んねんやったっけ?」
話し掛けたのは3人掛けのに座る2人組、伊波兄弟の弟、ダウンを脱いでスウェット姿になった駿。
「ミカドの命で参加する、上水流家の、、、」
「上水流ぅて、アタマ飛んだんちゃうんけ? ワシャそう聞いとんど?」
波働が言い終わる前に、被せて聞いて来たのは波川。
「飛びましたよ。でも今息子さんがしっかり継いで、、、」
「息子かいな。ボンボンか? ちゃんと術は構築出来んねんやろな。出来ひんねんやったらワシが教えたろかいな」
また波働が言い終わる前に言葉を被せて来る波川。
しかも言いながら、ニヤニヤしてるのがイヤらしい。
「いや、来ませんよ」
「は? ほんだら今何で息子の話ししとんや?!」
他人の話しを聞かない人にありがちな反応。
勝手に解釈して、自分の思ってた事と違ったら勝手に怒り出す。
そんな波川を見て、伊波兄弟が鬱陶しそうな顔をする。
「声大きいですよ。横に居るんだからそんなに声出さなくても聞こえますって」
波働の冷静なツッコミが、波川の気に障る。
「こりゃ地声や! っちゅうかお前がワシに息子の話しをしとんがな!」
「来るとは一言も言ってませんよ」
呆れても、冷静な口調を崩さない波働。
エラい。
「ほなら何で息子の名前が出てきたんや?」
「私、話してる途中だったんですが、、、説明の途中で出てきただけですよ」
「なんじゃわりゃ?!」
厳!
伊波兄弟の兄、准が、テーブルの上に片足を上げた。
「なんやお前、、、!?」
波川が立ち上がり、テーブルを挟んで准を睨む。
准は、、、ワークブーツをテーブルの上に乗せたまま、視線は合わせない。
兄を睨む波川に対し、弟の駿が答える。
「人の話しは、最後まで黙って聞けや。しょーもない事でキャンキャン吠えんなオッサン。底知れんぞコラ、、、」
「何やワレ、小僧が生意気な口利くのぉ、、、」
「誰が小僧じゃコラ!!」
駿も立ち上がり、テーブルを挟んで互いに顔を近づけ合った。
――ったく、、、だから人選はこっちでって言ったのに、、、
准が座ったまま、弟のスウェットを引っ張った。
力でソファに座らされる。
何で? って顔で兄を見る駿。
それを見て、間を開けずに波働が話し始める。
「ここで一番の大人は、准さんかも知れませんね~。判断が的確で早い」
「どういう意味や? ワシが子供や言うんかワレ?」
「まさか。とんでもない。でも、ここで念を使うのは勿体ないって事です」
「もったいない~?」
「だってそうでしょ? やって来る敵は、わざわざ襲ってくる日付と時間を予告してるんですよ。よっぽどの自信です。そして準備万端なんでしょう」
波働の言う通り、ユキオンナは自分が高野山を襲う日時を指定してきた。
撹乱の意味もあるが、これは高野山、、、いや、自分以外の術者に対し、よっぽどの自信がある証拠。
「準備万端には、こっちは準備万全で立ち向かいましょうよ」
“間”と話術で、波働が崩れかけたこの場を仕切り始めた。
「今使っちゃうと勿体ないですよ。波川さんは例のEG使いに対抗するために呼ばれた術者なのに、ここで念の無駄使いは」
そう言った波働の言葉に、波川の表情がみるみる上機嫌になる。
「おぅおぅ、そやのぉ! 無駄使いっちゅうんは、もったいないのぉ!」
そう言って、顔を前に出しながら順番に駿と准を、舐めるように見る。
カチンと来て立ち上がろうとする駿を、兄は冷静に止める。
波川のニヤニヤが止まらない。
「ほならワシは、ちょっと小便してくるわ。それまで話し、ちょっと待っといて」
波働の言葉と文句が返って来ない状況に、上機嫌になった波川が出て行った。
「何やねん。何で止めんねん?」
駿が兄に愚痴る。
波働が見ていると、准と眼が合った。
小さく礼をする。
構わないと、右手を出す准。
その右手を下ろすと、グッ、、、と体重を前に掛けて座り直し、波働を改めて見る。
「アイツ、“仕事中の事故”で死んでも良えヤツか?」
「?!」
驚きと、喜びの表情が湧いて来る駿。
やはり兄は、弟の期待に応えてくれるのだと頬が緩む。
「そうですね。例の氷結系のEG使いを捕まえた後なら、私は関知しません」
「おぉ!?」
波働の返答に、またまたテンションが上がる駿。
准は冷静。
「捕まえたら? EG使い、、、確保する気ぃか?」
「公安ですから」
「アブナイな」
「解ってますよ。だから、やむを得ない場合は、、、」
そこまで言った時、准の視線が、スッと下を向いた。
波働も、話すのを止める。
後ろで扉が開いた。
「いや~悪ぃ悪ぃ。スッキリしたわ。ほんだら、話しの続きと行こうかのぉ」
むっつり顔に戻った弟の前に、上機嫌の波川が大股を広げて座った。




