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カ・ル・マ! ~水の中のグラジオラス~  作者: 后 陸
水の中のグラジオラス 三の章
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策束静巡 伍 その2

 2階へ上がった波働は、振り向きもしないでとっとと目的の部屋にさっさと入って行く。

 そこが、応接室。


 階段を昇るだけで呼吸(いき)を切らす丸々と太った背広の警察官、追い抜く事もしないでイライラしながらもノロノロと後ろについていた波付の3人も部屋の中へ。


 入ると、部屋には別の制服警官が1人居た。

 どうやら彼が“火の番”をしてくれていたようだ。

 おかげでこの部屋は古臭いストーブの熱と匂いで、充分に温まっていた。

 いちばん後ろ、最後に入ったダウンの男に波働が大袈裟に言う。


 「早く閉めて閉めて。せっかくの暖気が逃げちゃいますよ」


 部屋の真ん中には、大きなローテーブル。

 それを挟んでゆったりサイズ、3人掛けのソファが奥側。

 手前にはこれまた大きめの1人掛けのソファが、2脚並んでいた。


 それ以外に、普段は置いて無いだろう折り畳み式の長机が入って左側の壁際に置かれ、そこに5脚のパイプ椅子が畳まれた状態で立て掛けられていた。


 必要なら、使え。

 そんな感じで置かれている。


 今回の件に参加する術師の人数を考えて準備してくれていたようだが、ソファとパイプ椅子、どっちに座りたいかと言えば一目瞭然。

 そのため座り位置は、、、奥側のソファに若い2人が先に陣取った。

 3人掛けのソファなのに、2人とも両手両足を広げてもう誰も来るなと占拠していた。


 バルマカーンコートの男はタクシーの二の舞はゴメンだとばかりに、1人ローテーブルから離れてパイプ椅子を乱雑に広げてはそこへ座った。

 パイプ椅子を反対向きに、背もたれの部分に両手を組み、その上に顎を乗せる。

 品の無い姿が妙に似合ってた。


 3人掛けソファに向かい合う2脚の1人掛けソファには、遠慮の無い波働と丸々と太った背広の警察官が先に座っていた所為(せい)でもある。

 座り位置が決まるとスグに制服姿の警官が、武骨な手で5人分の茶を出しに来た。


 「あ~、ありがとありがと。すまんな」


 太った背広がそう言うと、制服姿の警官はぺこりと頭を下げ、素早く退室。

 それを確認してから、太った背広が話し始めた。


 「いや~皆さん、遠い所、ご苦労さんです」


 言って誰よりも早く、茶に口を付ける。

 一口(ひとくち)飲んで、喋り出した。


 「正直()うとですな、ワシらあんま関わり合いになりとうないですねん。なんで、ワシらは最小限の協力だけやと思てください」


 下に居た2人と茶を入れて出て行った制服警官は、ここに居る4人の男たちが誰で何のために来たのかは知らない。

 ただ、“VIP”だと聞かされていた。

 なので見た目ヤクザ風の中年だろうが、“オレらやんちゃしてます”的な空気感満載の若造だろうが、文句ひとつ言わず態度にも出さずにしっかり出迎えていた。


 太った背広の警察官だけは、責任者として最低限の事は聞かされている。

 それだけに、見た目とは裏腹に緊張が見て取れる。


 庁の都市伝説的な存在。

 かつて存在した警察庁の内部部局、“公安6課”。

 主に現代科学で解明できない事件事故の情報を操作、処理を専門に担当する部署。


 そこの責任者が、今眼の前に居る男。

 この男を知る者からはこう呼ばれている、“6課の波働”、、、と。


 初めて連絡が来た時は、本当に存在する事に驚いた。

 話すと意外と普通で、気さく(で無表情)な若者だという事にも驚かされた。


 だが丸々と太った背広の警察官がもっとも驚いたのは、その波働が高野山に来るにあたって与えられた情報だった。


  眉唾物だと思っていたが、高野山の坊主が実は術師と呼ばれる能力者集団。

 そこに攻め込んでくるのが、最近世界各国で出現し始めたEG使い。

 6課の波働が、そこへ助っ人としてまた違う術師を連れて来る。


 こんなのどう考えたって、自分たちがどうこう出来る案件ではない。

 巻き込まれたくない。

 下に居る制服警官も、巻き込んで欲しくない。

 なので先程のセリフは、勇気をもって極力不愛想に言った。


 波働は横に座ってる太った背広の警察官に、深く頷く。


 「了解です。ここの場所提供だけでも、大変助かってます」


 感謝の言葉を聞いて、向かいに座る2人の男と、パイプ椅子に座る背広を見る。

 無反応、、、。

 一つ息を吐き、隣の波働に話し掛ける。


 「ほんで、わしらこの(あと)、何したら()えんでっか?」

 「何も、、、」

 「何、も、、、?」


 波働、茶を飲む。

 うげ、、、と渋い顔。


 「3日前から宿坊に来る一般客は()()が完全に止めてますし、おかげで人気のナイトツアーは誰も居ないですし、、、。ホントに、何も無いかもです」


 言い終わると、波働は初めて笑顔と解る表情を作っていた。

 それを見た太った背広は、溜息(タメいき)を付きながら立ち上がる。

 そうかそうかと安堵(あんど)し、どこかで“用無し”と見られる事にホッとしていた。

 ま、関わらなくて安心して部屋を出ようとしたその背に、波働が少し早口で声を掛けた。


 「事に()ったら10人単位で死人が出ますが、それは見ないで頂けると助かります」


 太った背広が、立ち止まる。

 振り返り、驚いた眼でソファに座る波働を見下ろす。


 「そうなってもコッチで全部処理しますので、気になさらず、制服の方々には興味本位で近寄らせないようにしてください」

 「それは、、、どう言う、、、」


 パイプ椅子に座るバルマカーンコートの男が、イラ立ちながら先に答えた。


 「ワシらに構うな、記録に残すなって事や」

 「波川(なみかわ)さん、言い方!」


 波川と呼ばれた男は、関係の無いヤツはさっさと出て行けと言わんばかりの態度。

 太った背広の口が何か言い返そうとしたが、()めた。

 無言のまま、部屋の扉へ、、、。

 引戸に手を掛けた時、その背にまた波働の声が掛かる。


 「あとで男女ペアと、曾根崎署からも3人組の別動隊が来るのでここに案内してください。それで、あなたにやって貰う仕事は終わりです」


 事務的な声だった。

 背広の警察官は2秒ほど止まっていたが、返事をせずに部屋を出て行った。



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