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カ・ル・マ! ~水の中のグラジオラス~  作者: 后 陸
水の中のグラジオラス 三の章
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策束静巡 伍 その1

 4人の男たちが、駅のホームに降り立った。


 駅の名は、極楽橋(ごくらくばし)駅。

 構内の天井には『はじまりの聖地、極楽橋』というコンセプトで天井絵巻や宝来天井絵が描かれていて、ゆるりと眼福(がんぷく)(ひた)りたいものだが1人の男がとっとと歩き出した。


 「寒い寒い」


 そう言いながら背を丸める割には、表情(かお)は無表情と言ってよかった。

 そんなヤツは1人しかいない。


 デンタイの、波働慶壱(はどうけいいち)

 それより術師やEG使いの間で、もっと浸透している呼び名がある。


 6課の波働。


 ま、どっちにしても波働慶壱という男は、情緒に身を委ねるなんて感情に便乗する気は無いらしい。

 さっさと改札を抜けようとしている。


 そう言えば駅名の由来となってる『極楽橋』が、近くにある。

 かつて高野山へ行くためには、ここを通らないといけなかった。

 極楽橋は高野山参詣の主要ルートのひとつとして賑わった街道筋にあり、朱塗(しゅぬ)りのこの橋は、高野の聖域と俗世を区切る境界と言われ、渡る者の気を引き締めたものだ。


 、、、波働、ぜんぜん引き締まらない。


 そんな波働の後ろから、3人の男が()いて来る。

 波働と同じくスーツの上にコートを着た男が1人と、対照的にスポーティな服装が2人。

 見た目だけなら、波働が一番金持ちそうに見える。


 せかせかと歩く波働、改札口を出ると上に羽織ったロングコートの襟元(えりもと)を右手で(しぼ)り、外気が入らないように背を少し丸めながら後ろを振り返った。


 「何回も言いますが、ホント、寒いですよね」


 そう言う仕草は確かに寒そうだが、顔はいつもの無表情(すましがお)

 ホントに寒いと思ってる?

 顔だけ見てたら、そう聞き返したくなる。


 「、、、そうっスね」


 少し間があってから、取り(つくろ)うように答えたのはダウンの男。

 そちらへ視線を送ると、ちょっとだけ笑ったようにも見えた。


 その男は上下スウェットで、アウターにキャメル色のダウンを着ている。

 並んで立つのは、フード付きで機能性重視のハーフコートを着たジーンズの男。

 若い2人。


 少し離れた位置に、3人目の男が立っていた。

 こっちは『中年』といっても、何の差支(さしつか)えも無い見た目。

 落ち着いて居るかといえばそうでもなく、動きがガサツ。

 首を左右に振っては、意味なく眉を(しか)めている。


 着ているのは、ノーネクタイだが波働と同じくスーツ姿。

 同じスーツ姿なのだが、こっちはなんだか『スーツ』って言い方よりも、『背広』って感じだ。

 羽織っているのは、チョット高そうなバルマカーンコート。

 似合ってるとは、言い(がた)い、、、。


 この3人、波付(なみつき)


 「アレですね」


 波働がせかせか歩き出す。

 向かったのは、ロータリー。

 予約していたタクシーが到着していた。

 近付くと、後部ドアが開く。


 「寒いんで、早く」


 手招きする波働に、3人がおずおずと従う。

 その間に、波働はさっさと助手席へ。

 ふう、、、と寒さから逃れ、ゆったり座る波働。

 対照的に、後部座席でぎゅうぎゅう詰めの3人。

 4人を乗せたタクシーは、極楽橋駅から静かに移動を始める。


 目的地は、そんなに遠くは無い。

 誰かが『居心地が悪いな』と口に出す前に、タクシーが停まった。


 橋本警察署高野幹部交番の前。

 目的地に着いたのだ。


 支払いを済ませタクシーを降りると、またまた『寒い寒い』を連呼して波働は小走りで交番の中に入る。

 先に降りていた3人は、おずおずと()いていくしかない。

 波働が振り向きもせず入って行った建物を、後ろに居た3人が見上げた。


 木造二階建ての、パッと見、旅館か神社のような造りをした和風建築。

 千鳥破風の正面には赤いランプが(とも)らされ、交番のイメージもやんわりと(かも)し出していた。


 視線を戻すと、先に入った波働が扉のガラス越しに『早くはやく』と無表情で手招きしている。

 それを見て舌打ちし、バルマカーンコートの男が先に歩き出した。

 続いてハーフコート、最後にダウンの男の順で交番へ、、、。


 開き戸を(くぐ)ると、正面にカウンター。

 その奥が庶務室。

 何だか交番と言うより、古い役所のような感じに見えた。


 中には制服警官が2人、丸々と太った背広姿が1人。

 表情を変えない波働と笑顔で談笑している。

 一番最後にダウンの男が入ると、制服警官が走り寄って急いで扉を閉めに来た。


 「遅くにご苦労様です」


 口ではそう言ってるが、せっかく温まった空気を逃したくないのだ。

 しっかり扉が閉まったところで、波働は談笑を止めて無表情なのに()物顔(ものがお)で波付の3人を案内し始めた。


 「ささ、2階の応接室の方へ」


 言うと、相手の反応も待たずに階段を昇り始める。

 丸々と太った背広の警察官も、手摺(てすり)を掴んだ手で重そうな身体を引っ張り上げながら階段を昇って行く。


 ヨタヨタ。

 モタモタ。


 波働はまったく気を遣う様子も無く、とっとと先に行ってしまう。

 残された3人の男は、無言で丸々と太った背広の後ろ姿を見上げていた。


 ヨタヨタ。

 モタモタ。

 

 昇り切るまで(なが)めていた3人も、これまた無言で後に続いた。



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