策束静巡 肆 その3
見上げる35階建のビル。
これが、余文楽の自社ビル。
こんなビルを持ってるなんて、成功者ってのを見せびらかしているようなもんだ。
到着後、貴照と二ノ宮さんの2人は、何をするよりも先ず見上げていた。
二ノ宮さんが、顔を顰めた。
貴照も同じように顔を顰め、隣に立つ二ノ宮さんに言葉を掛ける。
「マジもんですね」
地上からでも、屋上の禍々しさが伺える。
横にゆってぃが居たら間違いなく『キョーレツ』って言うレベル。
自身が“悪霊”だということを、隠そうともしない。
流れ落ちて来る波動は、最初っから臨戦態勢。
こう言うヤツは、、、
――手強いな
貴照と二ノ宮さんは、同じ意見だった。
余文楽のビルを見上げていたのは、もう1人。
突然の呼び出しにも関わらず、スマートに2人をここまで案内した男。
余文楽に『信頼の置ける私の部下』とまで言わしめる男、藤堂だ。
フレンチレストランから2人を乗せて来た車から降りると、藤堂も同じようにビルの屋上を見上げては、必死で眼を凝らしていた。
小さく身体を振って、首の角度を変えたりして、、、。
でも、何にも見えない。
横の2人には観えているのだろうと思いながら、確かめるように藤堂は質問した。
「何か、、、見えますか?」
「ちょーハッキリ観えますね」
思った通りの答え。
貴照はエラそうでもなく、友人に話すように答えていた。
次に何か言おうとした藤堂より早く、貴照の方が先に口を開いた。
「カギって、預かれます?」
「え、、、と、それはどういう意味で?」
貴照はずっと屋上を見たままだ。
二ノ宮さんも、同じく見上げたポーズのまま。
2人に釣られ、もう一度藤堂も屋上を見るが、残念ながら何も見えない。
「安全のためです」
「!?」
この言葉は、想定外だった。
貴照の口からそんな言葉が出るって事は、やはりビルに取り憑いたっていう“悪霊”は、危ないヤツなのだろうか、、、。
「屋上に行ってみます。そこで判断します。カギは明日、お返しします。ダメですか?」
一切、藤堂の方は見ない。
相変わらず、屋上を見たまんまだ。
貴照の眼を見れないというのは、どういう心理で言ってるのかの判断しにくい。
悩む藤堂。
また、貴照が口を開いた。
「判断材料少ないですか?」
「え?」
心を見透かされているのか?
そう藤堂は思った。
さすが、術師、、、と思った。
が、本当は藤堂の返事が遅かったので、貴照がせっついただけのこと。
「時間もったいないんでハッキリ言うと、今から屋上に居るヤツと軽く手合せして来ます」
「手合わせ、、、?」
「はい。僕の手に負えそうなら、明日から本格的に祓います。ダメやったら逃げます。その場合は僕よりも優秀な四術宗家の術師を紹介しますんで、、、」
そこまで言って、貴照はやっと藤堂の顔を見た。
藤堂も、貴照の顔を見返していた。
オトコマエ演出中の貴照。
「聞いた話では、あなたも優秀な術師ではないのですか?」
「優秀ですよ」
言い切る貴照。
それを聞いて戸惑う藤堂。
「では、、、」
「何故かってことですよね?」
「あ、まあ、、、」
「術師が使う術にはどうしても、相手との相性ってのがありまして、、、」
その言葉だけで、貴照の言いたい事の半分を理解する藤堂。
今度は二ノ宮さんが話し始めた。
「うちの門跡と相性の悪い悪霊でしたら、今度は門跡と正反対の術師を連れて来るって単純な話しですわ」
「なるほど、、、」
明確だった。
屋上に上がるのは、見極めるため。
「ただ紹介するとなった場合、呼ぶ術師は確実に霊を祓えますが、お金が桁違いに高くなるのと、多分、ビルを、ちょっぴり壊しちゃう、、、かもしれません」
なるほど、、、と、もう一度頷いた。
その言葉だけで相手がどんな奴なのかを、藤堂はあらかた理解した。
さすが、余文楽が信頼する男。
「結構、性質の悪い霊なんですね」
藤堂は今の会話から、屋上に居るらしい“悪霊”に興味が湧いて聞いていた。
貴照はそれに、素直に応える。
「まぁ、、、そうですね。悪いですね」
「ここで待ってるってのは、ダメなんですか?」
興味ついでに、結果も早く知りたい。
そのためにはこの場で、、、。
背の高い貴照が、藤堂を笑顔で見下ろす。
優しく否定しようと言葉を選んでいる間に、二ノ宮さんが先に答えてた。
「ダメですね。見るからにあの霊は近くに人が居ると利用するタイプなので、あなたが居ると、ハッキリ言って邪魔だし、何より敵戦力に成っちゃう危険性が高いので、、、」
これは二ノ宮さんのハッタリ。
どんなタイプなのかは観てみないと解らない。
でも“邪魔”ってのは正直ホント。
素人が近くに居てプラスになったことなんて、ただの一度も無い。
二ノ宮さんのハッタリも素直に聞いた藤堂は、何を言いたいのか秒で理解。
理解はしたが、脳内で思わず呟く。
――邪魔か、、、
ま、そりゃそうかと大きく息を吐く。
「なるほど。了解です」
納得すると、藤堂は早い。
ポケットからカードキーを出して、貴照に差し出した。
「このカードで裏口から入れます。入れば、マスターキーなので各所のセキュリティを解除できます」
カードキーを見て、オトコマエ演出で藤堂の顔を見る。
貴照、ニッコリ。
「解って貰えて、助かります」
「こちらとしてもビルを壊されちゃ困るんで、頼みますよ」
それだけ言うと、もう2人を見ずに藤堂は乗って来た車のシートに座った。




