策束静巡 肆 その4
再び屋上を見上げる貴照の背中に、車の走り去る音が遠ざかっていく。
「どうやろ、僕、祓えると思う?」
貴照が、隣の二ノ宮さんに聞いていた。
「う~ん、めっちゃ微妙ですね。正直、門跡の力は日によってコロコロ変わりますし、、、」
「え~~、ちょっとショックやねんけど」
自分の能力にムラがあるのを指摘され、貴照ヘコむ。
気にせず、二ノ宮さんがいつもの“お約束”をフッてくる。
「それより、確認しましょか?」
「そやな~~」
確認。
これは2人が観ている霊体が、同じものなのかを照らし合わせる作業のこと。
なんで同じモノを観ているのに、確認が要るのか?
それは霊という存在の特徴が意味している。
霊体は、観る者によって容が変わるからだ。
霊というエネルギー体は、受け取り側のエネルギーと反応してその時々で容姿を変える。
観る人間の心情、体調、それに知識や経験、感受性によって同じものを観ても全く違った印象の“モノ”に変化するという特徴を持ている。
特にまだ“我”が確立されていない霊ともなると、初めに観た人間が怖いと思えばその波動がエネルギーとして伝わり、霊は自分は怖い存在なのだと“我”を持ち始める。
それが積み重なれば重なるほど“らしさ”となって、自他ともに印象が性質までもを決めていく。
この現象を使い、霊を飼いならしていく術師も居る。
「女性」
「うん女性」
「髪は?」
「黒色、長髪」
「服装は、、、」
「白のワンピ」
「、、、白の長襦袢」
「それ、着物ってこと?」
「まぁまぁ、ほぼ同じやさかい、気にせんとこか」
「何かテキトーw」
観た霊体に、誤差はほとんど無いと二ノ宮さんは判断した。
そして、ここからもう一歩踏み込む。
っていうか、こっからが本題。
同じモノを観て、互いの印象を確認する作業。
この作業重要。
例を上げれば、蝶々を見て美しいと思う者と、気持ち悪いと言う者。
犬を見て可愛いと思う者と、怖いと怯える者。
そんな風に、同じモノを見ても違う印象が人に生まれる。
2人の観ている霊体を、片方は簡単に祓えると思い、もう片方は一筋縄ではいかないと思う。
このような考えの相違があると、ツーマンセルである2人の行動に差異が出て戦闘時に混乱を招き、そこを霊に突かれて痛手を負う。
、、、なんて事が起こりかねない。
そこの、摺り合わせだ。
「門跡、ほなら行きまっせ。せ~のっ、、、」
2人はいつもやる。
観ている霊体の強さを、10段階で評価する。
自分が感じた強さを、共有するための作業。
「6」
「8」
ほぼ同時に互いに言う。
「6でっか。どっち寄りの?」
「5でも7でもない、ホンマ6って感じ」
「いやいや。私の見立てでは、9でも良えくらいの8でっせ」
「そんなに? 、、、かな、、、?」
貴照の答えに、二ノ宮さんが顔を曇らせる。
ってか、あきれて鼻から大きな息が漏れた。
「最近の門跡は、ちょっとナメ過ぎでんな。たまたま上手い事いってる時期なだけやと思いますよ。しまいに足元掬われまっせ」
「へいへい」
改めて、余文楽が悪霊と言った霊体を観る。
黒髪長髪。
白の、、、
――あ?!
貴照の、霊体に対する観た目の印象が変わった。
話してるうちに、二ノ宮さん寄りのイメージが脳に付いたみたいだ。
貴照の眼に映る霊体は、白い浴衣? らしきものを羽織ってた。
そして気付いた、、、。
霊体である女性は確かに強烈な存在感を出しているが、それだけじゃなかった。
女性の後ろで渦巻く黒い塊り。
霊体のイメージがそう観せていると思っていたら、女性の霊体とは別物だ。
――霊体が、2つか、、、
そう考えれば、二ノ宮さんの言った事も理解できる。
2つ合わせて観れば、9寄りの8ってトコだ。
とにかく気になるのは、女性の霊体の頭上で渦を巻く念の塊り。
「あれ、何やと思います?」
「何か昔むか~~しに観た事あるんやけど。仮に同じのんやったとしたら、怨搔集念珠って言うややこしい旧式の外法でんな」
二ノ宮さんは“外法”と言う言葉を、ちょっと強調していた。
「見た目『悪霊が取り憑いた!』って感じになっとりますけど、本命はアッチでっしゃろな」
どうやら取り憑いた悪霊より、その頭上で渦巻く念の方がヤバいらしい。
二ノ宮さんは、そう見ている。
意地悪く、質問して来た貴照に質問する。
「ほんで、門跡はあの術式、知りまへんか?」
「知らんわ~。ヤバいん?」
「はい。ヤバいでんな」
「どれくらいヤバい?」
「アレを創ったヤツが、ホンマに外法を使い熟すくらいの力量やったら、まず勝てまへんなぁ」
好奇心が湧いた。
――そんなに強いか? 僕の力は通用せぇへんか?
自分の実力を、自分でも解ってない貴照。
ただいま急成長中。
そんな若者が、うずうずしない訳が無い。
「入ろか」
カードキーを振りながら、教えて貰った裏口に向かった。
ちょっと頭を抱える仕草をしてから、二ノ宮さんも後に続いた。




