策束静巡 肆 その2
悪霊が取り憑く。
その現象には、大きく分けて二種類ある。
自然発生(地場や過去の行い)的に、取り憑いた。
又は、誰かに捕り憑かれた。
事前情報で解ってるのは、この余文楽なる人物は実業家として、さらに投資家としても莫大な富を築いている。
ただそれは、日本に来てから。
32歳の時に、ほぼ無一文で来日。
妻と、ひとり娘と、家族3人で日本へ、、、。
伝手で紹介してもらった食堂の皿洗いから初めて、レストランのオーナーにまで成り上がった成功者だ。
余文楽は続けて、スイーツ店を店舗展開。
これもアタり、それを元手に不動産業で更なる富を得る。
近年は、美容業界にまで手を拡げ始めている最中だ。
どれもこれもが上手くいってる。
俗に言う、成功者。
成功者という者は、、、ま、それなりに恨まれてもいるだろう。
貴照と二ノ宮さんが知りたいのは、ソコじゃない。
知りたいのは、それ以外の事だ。
表向きのプロフィールは要らない。
そう言う旨の質問をしたら、結構口調が厳しくなった。
「バックボーンは必要か?」
聞いた二ノ宮さんに向かって、素っ気なく言っていた。
「出来れば、、、」
その答えに余文楽はちょっと間を置いて、考え、身体を椅子の背もたれに預けた。
貴照は、この仕草を、見た事がある。
これは、拒否反応。
察知した二ノ宮さんが、“なぜ聞きたいのか”を説明。
「余さんが言う悪霊っちゅうんが、人為的なモノ、特にEG使いの式なんやったらその“元”となる過去を知るんは、経験上、“解決のカギ”に成る事が多いんです。それに話す事で、本人は大した事無いと思ってる事でも、術師の観点から見ると重要な事だったりする事が多々あるんで、出来れば聞きたいんですよね」
ひとつ息を吐き、余文楽はコーヒーを口に運んだ。
次に何を話すか、2人は待つ。
「かなりのプライベートな話しになる。紹介してくれた林さんは、言いたくない事は言わなくて大丈夫だという事だったのだが、、、?」
そう言って、余文楽が二ノ宮さんを見る。
じっくり3秒見てから、貴照にも視線を合わせて来た。
言わないっていう、意思表示だ。
余文楽がここまで話したがらないのは、ちゃんと理由が解っているからだ。
ナニで恨まれたのかを、すでに把握している。
狙われた理由は、娘に関する事。
しかもかなりセンシティブ。
解りやすく言えば、リベンジポルノだ。
金にモノを言わせ、ありとあらゆる手段で娘と付き合ってた男を追い詰めた。
、、、追い詰め過ぎた。
生命の危険を感じる程に、、、。
そのせいで、男も自分の全財産を使い、EG使いを雇った。
攻撃は最大の防御。
男の攻撃対象は娘ではなく、金と権力で虫けらのように自分を扱った余文楽に向けられた。
余文楽が持つ全てのモノを壊してやる。
全てを奪い取ったら、余文楽が自分に対してそうやったように蔑んだ眼で虫けらのように見てやる。
そんな男の素性を、余文楽は興信所を使って知っている。
だが、それを眼の前の2人話すと決まって、娘の事を根掘り葉掘り聞かれる。
知り合った場所、付き合うに至った経緯。
別れた原因、恨まれる根拠、、、。
話せばきっと、娘のあられも無い姿を見せなければならなくなるだろう。
無理だ。
やっと自傷行為が落ち付いて来たところなのに、これ以上刺激を与えたくない。
だから、断固として拒否。
余文楽が貴照を頼ったのは、理由を聞かなくとも仕事を受けてくれると聞いたからだ。
故に、拒否。
――拒否か~~~
ここまで頑なになられると、もう聞けない。
それは貴照にも解かった。
「それで、依頼を受けてくれるのかくれないのか?」
二ノ宮さんが、貴照を見た。
この視線、、、これは例の、『門跡に従いますよって』ってやつだ。
はぁ、、、と、心の中で溜息をつく貴照。
ちょっと考えてみた。
意外と、自分の能力には自信のある貴照。
童子の冠は、ダテじゃない。
と、自負しちゃったりしている。
言っちゃあ悪いが、そこら辺の術師の放つ呪念や中途半端なEG使いなら相手にならないほどの力量はある。
けど、過剰なほどは自惚れてもいない。
相手を見て、油断なんかしない。
それに二ノ宮さんも居れば、冷静な判断も出せるだろう。
――だったら、、、
「お話し聞かせて貰われへんねんやったら、観せてもらうってのはアカンのですか?」
貴照が聞いていた。
「それは、、、どうゆう?」
「話したない事は誰にでもあります。でも仕事やから、僕らも安請け合いはできません。ほんなら間を取って、ビルに取り付いた悪霊ってのを一回観てから決めても良いですか?」
ちょっとだけ、エラそうに言ってみた。
――なんせ、門跡ですから
貴照はオトコマエ演出で、小さな笑顔を余に向けた。
元々この話しは檀家さん絡みの話しじゃなく、“飛び込み”だ。
上水流のうわさを知り合いから聞き付けた余文楽が、コンタクトを取って来た。
貴照は俗物的に、上手くいけばリッチな余さんがうちの檀家になってくれるかも、、、なんてケッコー軽いノリ。
フラットに見れば、ここで話しが無くなっても損は無い。
いやいや、フレンチをゴチになってる時点で既にプラス。
そう考えると、貴照の中に妙な余裕が生まれていた。
――これで断られたら、それまでの“縁”っちゅうことやな
貴照の浅ましい考えとは相反し、不思議なもので余文楽の眼には、この青年の態度が風格にさえ見えて来た。
余文楽は、ポケットから徐にスマホを出した。
貴照の眼の前で、貴照を見たまま、電話を掛ける。
「私だ。今から来れるか? そうだ。あぁ、そうだ。、、、そうか。頼んだ」
話し終えて、自分のスマホを見つめる余文楽。
無言の、時間、、、。
「、、、で?」
焦れた二ノ宮さんが、聞く。
カップに残ったコーヒーを飲み干し、余文楽が立ち上がった。
「これから信頼の置ける私の部下が来る。彼は全部承知だ。自社ビルを彼に案内させる。他にも何かあったら彼に言うと良い。私の指示をいちいち仰がなくても、大抵の事は判断出来る奴だから、、、」
それだけ言うと、余は個室を出て行こうとする。
「因みに、その彼にあなたの過去を聞いたら、答えてくれますかね?」
貴照、ダメを押してみた。
余は、、、振り返って、笑うだけだった。




