表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カ・ル・マ! ~水の中のグラジオラス~  作者: 后 陸
水の中のグラジオラス 三の章
57/72

策束静巡 肆 その1

 フレンチはソースが命。

 そう聞いた事がある。


 テレビか何かで、、、。

 そんなどうでも良い記憶を思い出しながら、貴照は自分の前に置かれた皿を見ていた。


 広い皿に、ちょこんと置かれた肉。

 マジマジと見、肉と皿の比率がオカシイんじゃないかと思ったりしている。

 これまでもそうだったが、順番に運ばれてくる料理の少なさに驚きながら平静を(よそお)っている貴照。


 初めて体験するコース料理は、待ち時間が多くて腹に入れても入れても空腹感が満たされない。

 そんな印象だった。


 運ばれて来た料理がテーブルに置かれた瞬間に(たい)らげる勢いで食べる貴照に対し、2人の()()はまだモグモグしながら談笑したりする。


 待てない。

 食べ放題が恋しい。


 食事が進んで、やっとたどり着いたメインの肉料理。

 それが、、、

 なんと、、、

 大きすぎる皿に、小さな肉がひとつ。


 どう見てもバランスがオカシイ。

 普段行く焼肉屋さんなら、これは取り皿に取る“一切れ”の大きさ。

 真剣に口を開ければ、一口でイケる大きさ。


 そんな小さな肉の塊が、シンバルみたいな大きな皿に乗って来た。

 肉を中心に、まるで絵具(えのぐ)で落書きされたような緑と黄と赤のソースが皿にべっちょり付けてある。


 ――()()は?


 いつもの黒光りする醤油ベースのタレが恋しい。

 それより、こんなのどうやって食べるんだ?


 そう思って“依頼者”を見ると、ナイフとフォークで小さく(きざ)んだ肉を、皿のソースに()()()付けていた。

 見よう見真似で、まずは緑のソースに肉を付けて食べてみる。


 貴照、ドびっくり!

 何だかよく解らないが、肉がビックリするくらい美味(ウマ)し!


 たまらず今度は黄色、次に赤色と、べっちょり皿に付いたソースを順に肉に付けて食べてみた。


 またまたドびっくり!

 肉の味が、変わる!

 それぞれの(ソース)が、肉の風味を変えてくれる。


 ――コレは、、、?


 美味(ウマ)過ぎて悩む。

 タレじゃないのに美味いってことに悩む。

 テーブルの向いを見ると依頼者が3種類のソースを少しずつ混ぜ、それを肉に付けて食べていた。


 見ればやってみたくなる。

 貴照はさっそく3色のソースを皿の上で混ぜ、フォークで切った肉を付けて食べてみた。


 ――ヤバし!


 美味(うま)過ぎる味変(あじヘン)

 3種類のソースを混ぜて付けると、肉にまったく別の風味が湧いて出て来る。


 ――そして美味(ウマ)しっ!


 単色で味わうも良し。

 今みたいに混ぜて味わうのも良し。


 エンドレス。

 無限ループ。

 美味し過ぎてバクバクいってしまう。


 肉料理は『焼肉』と『すき焼き』しか知らない貴照にとって、フレンチのバロティーヌは肉は焼くだけじゃないんだと感動させられていた。

 今まで知らなかった、肉をタレじゃなく、ソースで食べる事に感動、、、!


 ――フレンチ最高!!


 貴照、単純。


 はしたなくも、メインの肉だけ“おかわり”出来ないもんだろうかと真剣に考えていた。

 ワンチャン、『二ノ宮さん、肉くれへんかな?』なんて(よこしま)に横をちょこっと見ると、二ノ宮さんは既にメインを食べ終えていた。


 ――おっさんのクセに、早っ!


 そんなにまで美味しそうにフレンチを食べる貴照を見て、招待した“依頼者”は満足気(まんぞくげ)だった。


 「ここのフレンチは、美味しいでしょ?」


 そう聞いたのが今回の“依頼者”、余文楽(ユゥ・ウェイイェイ)

 日本で成功した、中国人の資産家。

 かなりの、、、もとい、とんでもない資産家。


 「はい。とても美味しいです。こんな素敵なお店、よくご存知で、、、」


 貴照の代りに答えたのは、二ノ宮さん。

 返事を貴照に任せると、肉の“おかわり”を頼みそうだと感づいたか、、、。


 「ははは。中国人といっても、毎日中華料理ばかり食べないですからね。色んな国の料理を食べるからこそ、グローバルな思考が出来上がるというものです」


 流石(さすが)ですね。と二ノ宮さんは()()()笑い。

 余文楽も、合わせるように()()笑い。

 貴照はとにかく愛想(あいそ)笑い。


 まだまだこの手の会話には()いていけない。

 食事がひと段落した頃に、二ノ宮さんが切り出した。


 「で、、、今回の依頼と言うのは?」


 そのタイミングで、個室のドアが開いた。

 そう、3人は高級フレンチレストランの個室で食事をしていた。

 今はデザートとコーヒーを、給仕が運んで来たところだ。

 3人の前に並べ終えるのを待って、余文楽が笑顔で給仕に言った。


 「ちょっとこれから仕事の話をするから、こっちが呼ぶまでは誰も中に入らないでくれるかい?」


 言い慣れてる。

 これは常連の言い方。

 今回だけじゃなく、余は何度もこのフレンチの店で仕事の話をしているのだろう。

 給仕も心得たもので、笑顔で頷くと一切の無駄な動き無く部屋を出て行った。


 「さて、、、」


 貴照と、二ノ宮さんを交互に見た。

 余文楽の表情(かお)から、笑顔が消えた。


 「端的(たんてき)に言おう。うちのビルに、“悪霊”が取り()いた」


 表情は笑顔のままだったが、声のトーンは変わっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ