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カ・ル・マ! ~水の中のグラジオラス~  作者: 后 陸
水の中のグラジオラス 三の章
56/72

策束静巡 参 その9

 まさに、()()だ!

 鈴木の表情(かお)が変わった。


 「お! イメージで理解してくれたみたいやな。みっちゃんがやってんのは、正にコレ。イメージ固まるように、もっかい」


 鈴木は、『あぁ!』と頷いて、最初にやった上段からの面を打つ動作を始める。

 頭を目掛けて振り下ろす動作の途中で、聖の手が鈴木の腕、肘のあたりに触れる。


 「()めないで、、、」


 言われた通り、振り下ろす動作は止めない。

 腕を押す聖の手に、徐々に力が入っていくのが解る。


 「そう、そのまま、、、」


 鈴木の動作に、聖の力が加わる。

 振り下ろされる割り箸の軌道は、聖からズラされた。

 どんどん力が加えられ鈴木の身体も90度回転し、誰も居ない方を向いていた。


 でも、()()()()()()()()()()()()()

 つまり、()()()()()()()()()()ってこと。

 これは、、、コレが、、、?!

 術者が狙った位置と全然違う個所(ところ)で、術が発動してしまっている。


 ――オレがやってたこと!


 鈴木の頭の中で、イメージが重なった。

 今まで他人(ひと)が発動した術を、物のように退()かしていた感覚、まさにコレ!


 「オレは、、、反転術式を、、、?」


 聖から横を向いたまま、両手を見つめて震える。

 自分のやっていたことが、やっと理解できた。


 「さっきも言うた通り、あたしは()()を反転術式と呼んで()えんか疑問なんやけどな、、、」


 言葉が止まった。

 鈴木が、感動している。

 うるうるしてわなわなしてる。

 そんな三十路(みそじ)を見て、微笑(ほほえ)ましく思ってしまう聖。


 「まぁ、(みんな)そう呼んでるから取り敢えず今はそう()うとこか」


 誰に言うでもなく、聖は(ひと)(ごと)のように(つぶ)いていた。

 そして鈴木、知らぬとは言え自分がこんな高等な術式を展開していたなんて、想像もしてなかった。


 「オレ、、、マジで?」

 「マジやな」


 今まで知らずにいた自分の力の意味を、ちゃんと理解出来るだけの知識を与えられた鈴木。

 初めて、教わるという(とうと)さに感動していた。


 「この反転術式の最大の特徴(とくちょう)は、()()()()()()()()()()()()やねん」

 「オレ、、、オレ、、、!」

 「つまり、相手の術式に干渉(かんしょう)せんし、属性も関与しない。のに、結果として放たれた術の効力を、“無効化”出来ちゃうねんなぁ」


 聖がせっかく解説してくれてるのに、鈴木の耳には入らない。

 もう自分に感動しちゃってる。


 ――ま、ええか


 今は、イメージで捉えるのが大切。

 だからこの『無効化出来る』って言葉の本意は、また別の話しという事で、、、。

 感覚が脳に固定されるまで、鈴木の気持ちに水を差すのは止めとこうと思った。


 鈴木が感動しちゃってるモノは、正確に言うと“対抗術式”と言われる分類になる。

 相手が放つ術式に、何らかの効果を発揮する術式。

 それの総称。

 その中のひとつに、反転術式と呼ばれるモノがある。


 発動された術式に対して強力な効果を発揮するが、デメリットとして相手の放つ術式を理解しないと出来ない。


 理由は単純明快、術式を()()()()()からだ。

 これはほとんどの対抗術式が、相手の放った術式に干渉するが(ゆえ)の問題。


 しかし鈴木は、そんな難しい事が解らなくても出来ちゃうのだ。

 鈴木はこうも言っていた。

 術を習い始めたころから、勝手に出来ていた。


 つまり、これは鈴木個人のアビリティ。

 持って生まれた特殊な能力(ギフト)

 それが特化したカタチとなって現れた。

 こういう能力者の事を、結界内ではこう呼ばれている。


 レア種。


 鈴木のやっている事を術式でやろうとすれば、膨大(ぼうだい)な公式が必要になる。

 またそれを発動させるため、莫大(ばくだい)念か波働(エネルギー)が必要になる。

 聖が同じ効果だと言った天王寺動物園に張り巡らされた呪符、効果を持続させるため、通天閣のモータルフラワーが“四六時中(しろくじちゅう)”波動を送ってやっと効果を発揮させている。


 それほどの反転術式。

 だが鈴木は、それが出来ちゃう。

 やれば出来ちゃう。


 それを実感してもらうと自信となり、躊躇(ちゅうちょ)が無くなり、術の効果が上がる。

 脳が疑わなくなるからだ。


 もう一度言おう。

 鈴木、やれば出来る!


 ニヤニヤする鈴木。

 自分の能力を知り、興奮が収まらない。


 鈴木の能力、()なす。


 その言葉が、ぴったりの術式。


 呪煩外反(じゅぼんがいはん)


 自分の知らない術式だろうが、属性が火でも水でも関係無い。

 向かって来る術式を、()なす。


 「オレ、、、(スゴ)ない?」


 確かに、凄い。

 凄いが、三十路(みそじ)が16歳に『()めてホメて!』って顔で言い寄って来るのを見ると、聖でなくとも笑いそうになる。


 「スゴイスゴイ。みっちゃんゴイゴイスーやな」

 「せやんな! ゴイゴイスーのスーススーやんな!」


 めちゃめちゃ嬉しそうにオッサンがはしゃぐので、コレには“致命的なデメリット”があるって事を言うのは、とりあえず今は()めとこうと思った。


 鈴木に微笑みかけながら、リストバンドと一体化した時計を見る。

 一瞬、聖の表情(かお)が険しくなった。


 「そろそろ行かなな、、、」

 「あ、もうそんな時間か?」


 意気揚々(いきようよう)と鈴木は上着を取って、外出の準備する。

 ノリノリだ。

 横目で見る聖は、別の男の顔を浮かべていた。


 無表情が印象に残る男、、、。

 今回の仕切り役で、“6課の波働”が来る。


 結界内で、2度ほど顔を合わせた事がある。

 印象は、冷徹。

 もしくは、冷酷。

 突き詰めた合理主義者。

 そのくせ、熱い野心家。


 つまり、メンドクサイ男。


 ――まぁ、話し()()はよう聞いてくれたっけかな


 その波働から、集合の時間が指定されていた。

 約束の時間。

 他の術者との顔合わせの時間が(せま)っている。


 上水流家に代り、高野山の唱僧(ヴェイソン)に協力して強襲者に立ち向かうために来たのだ。

 表向き、、、。


 本当の目的は、別。

 その目的を(はた)すには、味方である者が邪魔者。


 波付(なみつき)と、デンタイ。

 さらに、協力するハズの、唱僧も、、、。


 こいつらを出し抜き、さらに強襲者の眼を盗んで(うば)う。

 奪われたモノを取り返すために、奪う。


 空海の、密秘を、、、!!


 浮かれてる鈴木は、気付かない。

 低く、深く、聖がすでに臨戦態勢であることを、、、。



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