策束静巡 参 その9
まさに、コレだ!
鈴木の表情が変わった。
「お! イメージで理解してくれたみたいやな。みっちゃんがやってんのは、正にコレ。イメージ固まるように、もっかい」
鈴木は、『あぁ!』と頷いて、最初にやった上段からの面を打つ動作を始める。
頭を目掛けて振り下ろす動作の途中で、聖の手が鈴木の腕、肘のあたりに触れる。
「止めないで、、、」
言われた通り、振り下ろす動作は止めない。
腕を押す聖の手に、徐々に力が入っていくのが解る。
「そう、そのまま、、、」
鈴木の動作に、聖の力が加わる。
振り下ろされる割り箸の軌道は、聖からズラされた。
どんどん力が加えられ鈴木の身体も90度回転し、誰も居ない方を向いていた。
でも、割り箸は振り下ろされている。
つまり、術はちゃんと発動したってこと。
これは、、、コレが、、、?!
術者が狙った位置と全然違う個所で、術が発動してしまっている。
――オレがやってたこと!
鈴木の頭の中で、イメージが重なった。
今まで他人が発動した術を、物のように退かしていた感覚、まさにコレ!
「オレは、、、反転術式を、、、?」
聖から横を向いたまま、両手を見つめて震える。
自分のやっていたことが、やっと理解できた。
「さっきも言うた通り、あたしはコレを反転術式と呼んで良えんか疑問なんやけどな、、、」
言葉が止まった。
鈴木が、感動している。
うるうるしてわなわなしてる。
そんな三十路を見て、微笑ましく思ってしまう聖。
「まぁ、皆そう呼んでるから取り敢えず今はそう言うとこか」
誰に言うでもなく、聖は独り言のように呟いていた。
そして鈴木、知らぬとは言え自分がこんな高等な術式を展開していたなんて、想像もしてなかった。
「オレ、、、マジで?」
「マジやな」
今まで知らずにいた自分の力の意味を、ちゃんと理解出来るだけの知識を与えられた鈴木。
初めて、教わるという尊さに感動していた。
「この反転術式の最大の特徴は、割り箸に触れなかったことやねん」
「オレ、、、オレ、、、!」
「つまり、相手の術式に干渉せんし、属性も関与しない。のに、結果として放たれた術の効力を、“無効化”出来ちゃうねんなぁ」
聖がせっかく解説してくれてるのに、鈴木の耳には入らない。
もう自分に感動しちゃってる。
――ま、ええか
今は、イメージで捉えるのが大切。
だからこの『無効化出来る』って言葉の本意は、また別の話しという事で、、、。
感覚が脳に固定されるまで、鈴木の気持ちに水を差すのは止めとこうと思った。
鈴木が感動しちゃってるモノは、正確に言うと“対抗術式”と言われる分類になる。
相手が放つ術式に、何らかの効果を発揮する術式。
それの総称。
その中のひとつに、反転術式と呼ばれるモノがある。
発動された術式に対して強力な効果を発揮するが、デメリットとして相手の放つ術式を理解しないと出来ない。
理由は単純明快、術式を反転させるからだ。
これはほとんどの対抗術式が、相手の放った術式に干渉するが故の問題。
しかし鈴木は、そんな難しい事が解らなくても出来ちゃうのだ。
鈴木はこうも言っていた。
術を習い始めたころから、勝手に出来ていた。
つまり、これは鈴木個人のアビリティ。
持って生まれた特殊な能力。
それが特化したカタチとなって現れた。
こういう能力者の事を、結界内ではこう呼ばれている。
レア種。
鈴木のやっている事を術式でやろうとすれば、膨大な公式が必要になる。
またそれを発動させるため、莫大な念か波働が必要になる。
聖が同じ効果だと言った天王寺動物園に張り巡らされた呪符、効果を持続させるため、通天閣のモータルフラワーが“四六時中”波動を送ってやっと効果を発揮させている。
それほどの反転術式。
だが鈴木は、それが出来ちゃう。
やれば出来ちゃう。
それを実感してもらうと自信となり、躊躇が無くなり、術の効果が上がる。
脳が疑わなくなるからだ。
もう一度言おう。
鈴木、やれば出来る!
ニヤニヤする鈴木。
自分の能力を知り、興奮が収まらない。
鈴木の能力、去なす。
その言葉が、ぴったりの術式。
呪煩外反。
自分の知らない術式だろうが、属性が火でも水でも関係無い。
向かって来る術式を、去なす。
「オレ、、、凄ない?」
確かに、凄い。
凄いが、三十路が16歳に『褒めてホメて!』って顔で言い寄って来るのを見ると、聖でなくとも笑いそうになる。
「スゴイスゴイ。みっちゃんゴイゴイスーやな」
「せやんな! ゴイゴイスーのスーススーやんな!」
めちゃめちゃ嬉しそうにオッサンがはしゃぐので、コレには“致命的なデメリット”があるって事を言うのは、とりあえず今は止めとこうと思った。
鈴木に微笑みかけながら、リストバンドと一体化した時計を見る。
一瞬、聖の表情が険しくなった。
「そろそろ行かなな、、、」
「あ、もうそんな時間か?」
意気揚々と鈴木は上着を取って、外出の準備する。
ノリノリだ。
横目で見る聖は、別の男の顔を浮かべていた。
無表情が印象に残る男、、、。
今回の仕切り役で、“6課の波働”が来る。
結界内で、2度ほど顔を合わせた事がある。
印象は、冷徹。
もしくは、冷酷。
突き詰めた合理主義者。
そのくせ、熱い野心家。
つまり、メンドクサイ男。
――まぁ、話しだけはよう聞いてくれたっけかな
その波働から、集合の時間が指定されていた。
約束の時間。
他の術者との顔合わせの時間が迫っている。
上水流家に代り、高野山の唱僧に協力して強襲者に立ち向かうために来たのだ。
表向き、、、。
本当の目的は、別。
その目的を果すには、味方である者が邪魔者。
波付と、デンタイ。
さらに、協力するハズの、唱僧も、、、。
こいつらを出し抜き、さらに強襲者の眼を盗んで奪う。
奪われたモノを取り返すために、奪う。
空海の、密秘を、、、!!
浮かれてる鈴木は、気付かない。
低く、深く、聖がすでに臨戦態勢であることを、、、。




