策束静巡 参 その8
動作はゆっくりと。
どうする? と聞くような顔とスピードで、鈴木は割り箸を振り下ろしていく。
頭に当たる手前で、聖が割り箸をスッ、、、と取り上げる。
「ん?」
鈴木の動作が止まる。
「そのまま、続けて」
聖の言葉に促され、割り箸の無い両手を言われるがままに振り下ろす。
当りまえだが、空振りする。
割り箸で攻撃しようとしていたのだ、その割り箸が無ければ聖に届かない。
これは当然の結果。
腕を下したポーズのまま、鈴木は聖を見た。
「みっちゃんは術式による“攻撃”をし終わった」
「うん? あ、ああ」
「でも、空振り。言い換えると、術を発動した。でも術式効果である“割り箸”を取られたんで攻撃にすら成らんかった。これが、『打ち消す』やで」
「そら、割り箸無いねんもん、当たり前やん」
なんでかちょっと、拗ねた口調で言い返す。
何でだ鈴木?
「せや。術と言う割り箸を取り上げられた、つまり、『打ち消された』んやから、当りまえやな」
子供に言い聞かすような口調。
言い方が優し過ぎて、ムッとする鈴木。
何かもっと言い返してやろうとした鈴木を、聖が見つめる。
鈴木、トキメク。
いやいや何か言い返してやらねばと、気合を入れ直して聖を見つめ直す。
――?
聖の表情が、ふっ、、、と柔らかくなる。
――?? 何や?
疑問が、鈴木を聖に集中させた。
そのタイミングで、邪念を取る。
「イメージで、、、」
そうだった。
理屈は要らないのだ。
スッキリした脳。
変な力みが無くなった鈴木の前に、取り上げられた割り箸が差し出された。
素直に受け取る。
聖が言った。
「もう一回」
落ち着いた聖の声。
何故か母のように温かく感じた。
鈴木、素直になる。
先程は上段からの“面”を防がれたので、今度は“突き”にする。
割り箸を、中段に構えた。
正中を意識し、聖を正面に捉える。
今度はキチンを間合いも計った。
「いつでも、、、?!」
聖が『どうぞ』と言う前に、動いた。
試合なら、ベストなタイミング。
これならフェイントも要らない。
ただ真っ直ぐ、聖の喉元を狙って割り箸を伸ばしていく。
ゆっくりながらも真剣に、右手を離し、割り箸を左手一本で持ち大きく半身を開いて行く。
動作の途中、今度は割り箸をちょんちょんと触る聖。
「これ、みっちゃんが放った術式な」
そういうイメージ。
「そのまま、、、」
動作を続けろという事だ。
突きの動作。
今回は割り箸を持ち、鈴木が放つ突きの軌道そのままに自分の方へ動かしている。
――?!
不意に割り箸を取り上げ、反転させた。
「そう、そのまま、、、」
鈴木にそう指示しながら、聖は取った割り箸を鈴木の方へ向ける。
鈴木は割り箸を持っていたハズの左腕を伸ばしていく。
伸ばしきる。
そこで、鈴木の動きが止まった。
正面に立つ聖の手前で、腕と指先が伸びきった。
割り箸の長さだけ、細く白い喉に届かない。
止まった鈴木に対し、聖は反対に向けた割り箸を伸ばしていく。
ズルい事に、横に半歩動き、さらに一歩前に動く。
これで伸ばされた腕を躱して、鈴木に近づいた体勢になる。
ニヤリとして割り箸を左手でつまみ、フェンシングのように腕を伸ばしていった。
「う、、、」
割り箸の先が、ちょん、と鈴木の喉を突いた。
「解る? 構築術を分解せんと、向きを変えてんねん」
確かに、割り箸は在る。
自分の発動した術は無くなっていないってことだ。
しかも逆に自分を攻撃して来た。
「割り箸を取り上げる代りに、向きを変えてやる。これが、『打ち返す』や」
なるほど、言葉には上手く表せないが、何となくのイメージは掴んだ。
でも? それが?
「今のんが、オレの能力ってことか?」
何か解らんが、途轍もない事を自分がしたんだと言う事が何となくだが解り掛けて来た。
解らんが、解り掛けてる。
だがそんな鈴木に、聖が首を傾けながら割り箸を振っていた。
「ちっちっちっ、、、」
――何か、ちょー可愛い
「今の2つとは違う、反転術式があんねん。ま、これを反転術式と呼んで良えんかは、いっつも疑問に思てんねんけどな」
ちょー可愛い聖から、また割り箸を渡された。
割り箸を見て、聖を見る。
「どぞ」
――言い方、可愛いっ
イカンイカンと、邪念を振り払うように大きく息を吐く。
先程と同じように、指先で割り箸を構える。
突く。
狙うは同じく、細く白い喉元。
腕を伸ばし切る途中で、聖の手が横から鈴木の腕を押す。
「おい?」
「そのままそのまま、、、」
動作を続けるようにと、聖が言った。
続けるのは良いが、横から力を加えられてるんだから当然割り箸は狙った位置からズレる。
割り箸どころか腕を押されてんだから、力を加えられた方へ身体が回転し、ズレる。
“軸”はそのままで、攻撃する方向がズレる。
鈴木、気付く。
「、、、コレ、、、、、、?!」
感覚が、先に納得している。
コレが自分の、していること。




