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karma!! ~水の中のグラジオラス~  作者: 后 陸
水の中のグラジオラス 三の章
54/73

策束静巡 参 その7

 真顔で聖の話しを聞く。

 ちゃんとした真顔。


 「反転術式ってな、大きく分けると、『打ち消す』と『打ち返す』の二通(ふたとお)りやねん」

 「お、おう」

 「違いはな、『打ち消す』は術式を“壊す”。でな、『打ち返す』は術式を“反射する”。の違い」


 かなりの言葉を端折(はしょ)った。

 理論自体をすっ飛ばした。

 簡単に、感覚的にサルでも解るように説明をした、、、つもり。

 めっちゃくちゃ端的(たんてき)に言ったつもりだが、鈴木を見ると、、、


 「う~~むむむ、、、」


 頭から湯気(ゆげ)が出そうだ。


 「えと、、、みっちゃん悩んでる?」

 「、、、はい。悩んどります」


 言葉の意味だけを素直に聞けば良いものを、中途半端に術式を知っているためにその理屈に合わせようと頭の中で稚拙(ちせつ)な知識を引っ張り出して来てしまい、必死に頭で考えてしまってる。


 術式公式をちょっと覚えた習いたて中学生の、あるある状態だ。

 一番多い間違いが、聖の言った『打ち消す』、『打ち返す』と言う言葉に惑わされて、構築された公式(プログラム)にプログラムで対抗すると思い込んでしまっていること。

 これはその名の通り、“対抗術式”である。

 分類ではその対抗術式の中のひとつに、“反転術式”が有るにはあるが、、、。


 大きな違いは、プログラムに新たなプログラムで効果に影響を及ぼすのが対抗。

 それに対し、相手が構築したプログラムを書き換えたり上書きしたりして別の効果を出させるのが反転。


 ちなみに、、、

 読んで字のごとく、この“反転”は単に『反対に向ける』ではなく、上下左右だったり、モノの流れの『向きを変える』という意味が含まれる。

 反転という言葉の意味のひとつを切り取って固執する脳では、やはり術師的思考には遠く及ばない。


 そうならないように、聖としては出来るだけ言葉を(けず)ったのだが、鈴木には逆効果か、、、?


 だったら宗興寺に限らず、どこでも術式を習う際に必ず術の歴史として教えられる基本理念であり基本概要でもある有名な術式理論に(なぞら)えて説明しようと考えた。


 「ほんなら、三法自在権(さんぼうじざいごん)って()るやん?」

 「さ、、、え、、、???」


 固まる鈴木。

 それを見て、聖、ドびっくり!

 この反応、これは知らない人の反応、、、。


 「術式の基本で(もと)(もと)やで?! それを知らん?! マジで??」


 こんなトコで知ったかぶりは出来ないと、素直に『はい』と答える鈴木。

 すまなそうに下唇を出して、ちょーしょんぼり顔で聖を見る。


 、、、これは困った。


 「ええわええわ。ほんなら三法印(さんぼういん)ってあるやん、術の三原則で、公式、、の、、、? え?」


 鈴木の態度を見て、言葉に詰まる。


 「さんぼ、、、うぅぅ、、、?」

 「、、、、、、マジか、、、」


 三法印()()知らない、、、。

 宗興寺は何を教えとんのやと、聖は文句を言いたくなった。

 それと同時に、いったい何を知ってるんだと逆に聞きたくなる。


 聖は鈴木にどう説明して良いのか、マジで解らなくなってきた。

 アホみたいにデカいのにイジイジする三十路(みそじ)を見てると、また『い゛~~~』ってなる。


 よくこんな知識で、術師を名乗ってんなと思った。

 しゃーからショボい術しか出来ひんねんと思った。

 ええ加減、どついてやりたくなった。


 ――! 、、、どつく?


 聖、ヒラメク。


 「みっちゃん、宗興寺って精神鍛錬でまだ、なんか武道取り入れてんの?」

 「あ、うんやってる。空手、柔道、剣道をローテで、、、」


 結界内で流行ってる言葉。

 高等な術師は高度な武術師。


 元々は、呪術師の間で広まっていた言葉。

 術を向上させる精神鍛錬(たんれん)一環(いっかん)で、武術を習う。

 肉体と精神を同一にレベルアップする事で、バランスよく術の強度を上げるためだ。


 聖がヒラメイタのは、言葉で教えるのが(むずか)しいタイプなら身体で感覚的に教えた方が良いのでは? と、、、。

 鈴木はきっと、そのタイプ。

 いや絶対そう!


 「う~ん、どうしよ。剣道が理解してもらいやすいか、、、」


 (ひと)(ごと)のように(つぶや)くと、聖が立ち上がる。

 鈴木に、こっちへ来いと手招き。

 対面する位置に座っていた鈴木も立ち上がり、呼ばれるままに高級座卓をぐるりと廻って聖の横に立った。

 身長差、24センチ。


 「はい」

 「え?」


 割り箸を一本、渡された。


 「剣道みたいに(かま)えて」

 「、、、これを?」

 「せや」


 ――ええ~~、、、割り箸を構えてって、竹刀のグリップより短いのに両手で掴んだら、全部握ってまうやん


 なんて思ってたら、あることに気付く。


 ――?! これ、聖の割り箸、、、!!


 一瞬変態的な妄想を浮かべたが、激しく否定。


 ――真剣に説明しようとしてくれてんのに、何を考えとんねん!!


 頭を振る。振る。振る。

 3回振って、邪念を取り払う。


 「どしたん?」

 「あ、いや、、、何でも、、、」


 親指と人差し指の2本を使い、割り箸を持つ、、、てか、()()()

 剣道の様に、、、なので、左右の指でつまんで持つ。


 「今から()うんは、理屈とかそんなん取っ払って、“イメージ”として聞いてな」

 「おっけーおっけー」


 鈴木、気合いを入れ直す。

 そんな鈴木が構える正面に立つ、聖。


 「みっちゃんが(はな)つ攻撃の“術”が、その“割り箸”。オッケー?」

 「お? おおっけーおっけー、、、」

 「ほんならその“術”で、あたしを“攻撃”して」

 「こ、攻撃、、、?」


 鈴木、戸惑う。

 割り箸で攻撃、、、。

 どうすれば?


 「ほら~~、ほらほら!」


 戸惑う鈴木の前で、ノーガード戦法のように顔を前に出して来る。

 眼の前でふざけてくる聖が、ちょー可愛いい。


 ――ヤバい、、、楽しい


 遊んでんじゃないぞ鈴木!

 聖が剣道が解り(やす)いと言ってたのを思い出し、顔が赤くなる前に割り箸を上段に構え、振り下ろす動作をしてみる。


 大上段からの、面だ。



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