第15話 雷獣
【2026.04/29|台詞内の文章を一部調整】
・「ワプはね、」→「ワプ殿は、」敬称を加筆しました。
【2026.05/01|あとがきに文章追加】
・雷獣に登場したキャラの画像をBLOGにあげた旨と、当作者のBLOGのURLを更新。
濃紺の悪魔は、初めて獲得した鑑定というスキルを発動した。
視界に燐光を帯びた半透明の白い文字が浮かび上がる。
「これが鑑定というスキルの能力なのか」
文字の焦点を遠近に動かし、距離の調節もできるようだ。
「それに、スキルの使い方がわかる」
失っていたはずの記憶を思い出したかのようだった。
虚空を見つめながら、軽く頷いた。
「なるほど……オレの基本的な身体能力が伴っていなかったからか」
継承したのは記憶だけであって、肉体に宿る経験とは別物。そのため、実戦という試練を課したのだと理解した。
もちろん習っていない経験もある。
それらは後ほど検証する必要があるだろうと考え、ステータスに表示されている名前に目をやった。
「オレの名前……春夏秋冬信玄」
前世で使用されていた名前が表示されていた。
濃紺の悪魔は俯き、現実の意識を手放す。そして、思考の海へと深く潜っていく。
脳裏に浮かぶ春夏秋冬信玄という名は、戦いとは無縁の陽だまりのような安寧の象徴だ。
対して、継承した勇者の記憶は、どろりとした黒い煤のように魂を汚す、キャラメリゼへの憎悪。
そして、無念の一言に溺れた、オルフェルの絶望そのものだった。
邪神キャラメリゼ。その邪悪を屠らぬ限り、この名に安らぎが訪れることはない。
ならば、春夏秋冬信玄という現在の名は、今でも相応しいのか。
濃紺の悪魔は、一つの決断を決めた。
「いいだろう。生まれ変わりであるオレが、オマエの名前も引き継いでやる」
決意を口にした瞬間だった。
ステータスの名前が春夏秋冬信玄から、オルフェルへと変わった。
足元の白く発光する大地が、なんの前触れもなく弱々しく色褪せ始める。
間を置かず、宝石を撒き散らしたような満天の空も、その輝きが消失し始めた。
「そうか、召喚者が死亡したから……。ここから早く出ないと」
だが、勇者オルフェルが魔力感知を防いだ氣だけではなく、ギョギョギョの召喚スキルも継承されていなかった。
そういえば勇者は、記録に必要な容量が足りないと言っていた。
継承できなかったのはそのためか。
容量の問題なのだと悟り、腑に落ちたように表情を緩めた。
そして数秒後には、全ての色が抜け落ち、黒い空間が悪魔オルフェルを飲み込んだ。
黒に染まった世界もそう長くは続かず、すぐに晴天の光が差し込む。
眼前に飛び込んできたのは、荒涼とした草原。
蒼い空を背景に、大小様々な形の岩が所々に転がっている。
どこか寂寥感のある乾いた風が、陽に焼かれた枯れ草の匂いを運んでくる。
乾いた土と焼けた岩石の熱が混じり、微かな甘い香ばしさが鼻腔をかすめる。
裸足で歩くたび、乾いた砂礫が足裏に張り付き、角張った小石が皮膚に食い込む。
人間なら悲鳴を上げるほどの熱を帯びた地面も、悪魔オルフェルにとっては、平坦な道と変わりなかった。
じゃり、じゃり、じゃり。
乾いた音を立てながら、一歩一歩進んでいく。
ぺた、ぺた。
足の指で岩の形を掴みながら、不安定な岩場を厭わず越えていく。
ひたすら真っ直ぐに、確かな目的をもって、その方角へと歩を進めていった。
❇︎ ❇︎ ❇︎
荒涼とした草原には、三百メートル級の岩塔が孤独に点在している。
天を穿つ槍のように聳えるその姿は、圧倒的な威圧感を放っていた。
何万年、何億年という時をかけて生まれた自然の奇跡が、畏怖と神々しさを凝縮している。
さらにその奥には、岩の要塞のような山々が連なった、千二百メートル級の岩峰が天を裂くように鎮座していた。
岩塔を背景に、荒涼とした草原を警戒するように駆ける悪魔オルフェル。
そして、岩峰の頂上付近から、数キロ先を駆けるその姿を凝視する赤い悪魔がいた。
「あれは、選別の儀におった童……なにゆゑ、このような地に在る」
——あのとき。
ギネマタと戦っていた折、上階より他の多くの悪魔に紛れて、その戦いを見ていた。
六メートル近い兄弟たちの中で、ひときわ小柄な濃紺の姿は、異様な存在感があり目を引いた。
ゆえに、忘れようもなかった。
「鑑定」
視界に半透明の白い文字列が浮かび上がる。
しかし、そこに並んだ数字は、この場の常識を根底から覆すものだった。
「レベル一だと? ここは、そのような存在が生き延び得る場にあらず。そもそも、その程度のレベルにて、いかにしてここまで参り得たのだ? あり得ぬ」
その声色には困惑が混じり、低く重いため息が漏れる。
だがその困惑は表情に浮かぶことはなかった。
二本の巨大なハサミを掲げた、三対の脚を持つ赤い蟹。
その腹部は人型の悪魔の首と同化し繋がり、本来あるべき頭部の座を奪うかのように鎮座していた。
蟹の腹板——ふんどしが、喉元に張り付くように密着し、眼柄の先に並ぶ複眼がぎらりと光る。
頭部の蟹は直立ではなく、わずかに後傾しており、甲羅がまるで顔の役割を担っているかのように見えた。
「妙だ。ステータスの数値が、レベル一に見合っておらぬ。異様に高い。これは、いかなる理か」
胴体の筋肉質な人型の腕の先にある巨大なハサミを器用に交差させ、思案するように腕を組む。
組んだ腕の臂甲が、戦国武将を思わせる重厚な黒い胴鎧に軽く打ち当たり、低く硬質な音を鳴らした。
巨大な肩の防御具——大袖が左右へ張り出している。
腰から垂れた草摺が、岩峰の頂上付近を吹き抜ける風に煽られ、板同士がわずかに触れ合うたび、低く鈍い音を刻んでいた。
赤い悪魔の姿は、常の理から大きく外れていた。
趾行性の脚に赤い短毛が生え、背からは三対の蛸の足が、虚空をなぞるように彷徨っている。
「ワプさん! ちょ、よそ見してないで助けてくださいよ。もう、この猿どもウザすぎ。数多すぎでしょ」
ワプと名を呼ばれた、蟹の頭部を持つ赤い悪魔。
背後から女性の声が届くが意に返さず、豆粒のように小さく見える濃紺の悪魔の挙動を相変わらず追っていた。
「ライトプスと接敵せしか。レベル一にて、本来ならば敵うべくもなき魔獣。さて、いかに抗う」
——!?
レベル一にては雷の一撃、耐え得るはずもなし。
なにゆゑ生きておる。
レベル一にては、あり得ぬ速度の再生能力。
それのみにあらず。未熟なる際には痛みを伴うはずなれど……その気配、窺えぬ。
あり得ぬ。
いかなる理か。
これは帰還せし後、母上に相談せねばならぬ。
「ちょ、ワプさん! マジでヤバイし。イビルガード殺られちゃったし。うちも、もう無理——」
助けを求める女性の声は、それ以降ワプには届かなかった。
「まこと、良きところであったのだが……」
濃紺の悪魔と魔獣との戦いに名残惜しく背を向け、背後で起きている事柄へ意識を向けた。
ワプの眼前に広がるのは、生まれてまだ四ヶ月の悪魔たちの残骸。
岩で構成された体を持つ巨躯の魔物——岩猿。
岩猿によって体を引き千切られた悪魔と、頭部を破壊され横たわる悪魔がいた。
岩峰の地肌をなぞるように風が吹き抜ける。
頭部を破壊された悪魔の体が音もなく砂のように崩れ、崩壊した体を空中へと撒き散らしていく。
魔力体の肉体は、相転移崩壊現象を起こしていた。大半は霧散し、一部は黒い砂状の堆積物として残った。
「たかが岩猿ごときに敗れるとは、まこと情けなし。教育係たる我が、直々に始末をしてくれよう」
ワプが岩猿の群れに向かって一歩踏み出すと、全ての魔物が後退りし始める。
「絶死」
ワプのその言葉を合図に魔物の群れが、悲鳴を上げることなく一斉に倒れた。
苦痛の表情すら浮かべず。
その事象がワプを中心に半径数キロにわたり波紋のように広がっていた。
関係ない生物までも、自身に何が起きたのかを認識する間もなく、死んでいる。
「現実改変」
事切れた岩猿の生死を確認することなく、淡々とワプは三つの内の二つ目の固有スキルを発動させた。
体が引き千切れたはずの悪魔は、その身を焼くような激痛さえ、その瞬間になかったこととされた。虚ろな面持ちのまま力なく佇んでいる。
頭部を破壊されたはずの悪魔も、弾け飛んだ脳漿や血飛沫ごと、この世界から消去され、力を失った人形のように佇んでいた。
記憶の中の激痛と、現実の無痛。最後に受け取ったはずの死の信号。
その余韻が消えぬまま、彼らは自身の存在が強引に縫い合わされたかのような、不自然な継ぎ目に立ち尽くしていた。
「すべては元の通りか。あちらも、すでに片が付いたようであるな」
信じ難きことよ。レベル一の者が、なにゆゑライトプスを討ち果たし得るのだ。
それほどまでに、奴が有するスキルは強大なるものか。圧倒的なるレベル差を覆し得るほどに。
「ワプさん、どうしたんすか? 黄昏ちゃって」
ギャルのような口調に、冷静の中に冷酷さを兼ね備えたような女性の声色が答える。
「ガガムート。ワプ殿は、私たちの不甲斐なさに呆れているのよ」
「イビルガード、あれは仕方がないじゃん。数多すぎだし。見てよ、この死体の山。無理だし。あり得ないし。もう嫌だし」
死から復活した二体の悪魔の間に、険悪な火花が散るわけではなかった。淡々と不甲斐なさを咎めるイビルガードと、それを軽薄に聞き流そうとするガガムートの会話は、どこか噛み合わないまま続いていた。
「さて、ガガムート、イビルガード。再び岩猿を蘇らせん。備えよ」
「ちょ、嘘でしょ! まだ続くの。まじ無理だし〜」
「私たち確実に強くなっているんだから、次こそ勝てる……はずよ」
「イビルガードちゃん、せめて断言してよ〜。もうやだ〜」
振り返ることなく、荒涼とした草原に顔を向けながら再びスキル名を唱える。
「現実改変」
事切れていたはずの岩猿たちは、何事もなかったかのように惚けるように佇んでいた。
すると突然、なんの前触れもなく世界が暗闇に覆われた。
「はや、このような刻か」
ワプは、遠ざかって行く濃紺の悪魔の背を見送りながら、その進む先の方角に意識を向けた。
「この先にシュトレインの気配が在るな。反対の方角には団長の気配在り。ひとまず、先に団長へ、いましがた目にせし事を報告せん」
ワプが念話で報告している間、その背後では岩猿と二体の悪魔の戦闘が繰り広げられていた。
❇︎ ❇︎ ❇︎
時は少し遡る。
濃紺の悪魔オルフェルは岩陰に身を隠し、様子を伺っていた。
およそ一キロ先に、四足歩行の大型魔獣が息絶えた獲物を捕食している。
「あれ、コタぐらいあるよな」
青灰色の鋼で鋳造されたかのような、弾性を帯びた葉状の硬質な剛毛が全身を覆っている。
死肉を引きちぎるたび、鋼の葉先が筋肉の律動に合わせてざわめき、鮫の背鰭のように波打つ。
頭部には目がない。あるのは、裂けるように開く巨大な口だけ。
鋭い牙で肉を噛みちぎり、喉の奥で低い唸り声が響く。
鋭く湾曲した複数の角が、頭頂部から放射状に迫り出し、角の表面をなぞるように青白い放電が時折バチッと弾けている。
四肢は太く、膨れ上がった筋肉から原始的な躍動が窺える。
「鑑定」
視界に映る魔獣のステータスが表示された。
■ ライトプス
【年齢】14歳
【身長】12m
【重さ】260t
【種族】魔獣
【ランク】下位
【称号】ー
【敏捷】マッハ1.7
【攻撃力】通常:21.7億ジュール〜65.1億ジュール
最大出力:434億ジュール
【魔力量】500万魔量
【スキル】《無差別雷撃雨》
《魔力感知》《気配感知》《振動感知》《音響感知》
●魔法:1 ●魔力操作:1 ●召喚術:0 ●体術:0 ●剣術:0
「……億って。これ、一撃でも食らったら終わりだよな?」
乾いた喉を鳴らし、握りしめた拳に力を込める。
鑑定結果が突きつける馬鹿げた数値は、生物としての格の違いを無慈悲に宣告していた。
顔半分を覗かせて様子を窺っていたが、再び岩陰に体をすっぽり隠す。
「鑑定」
今度は、悪魔オルフェル自身のステータスが表示された。
■ オルフェル
【年齢】0歳
【身長】1m45cm
【重さ】80キロ
【種族】悪魔
【ランク】下位
【称号】「特殊個体」「真・勇者の卵」「勇者オルフェルの物語を読破」
【敏捷】マッハ1.8
【攻撃力】通常:150万ジュール〜300万ジュール
最大出力:1500万ジュール
【魔力量】742万魔量
【装備】武器:虹降り
[固有武技]《瞬星撃》《天壊牙突》
【固有スキル】《透過》《火事場の馬鹿力》
【スキル】《エナジードレイン》《縮地》《疾風迅雷》
《鑑定》 《自己再生》
《危険察知》
●魔法:3 ●魔力操作:3 ●召喚術:0 ●体術:3 ●剣術:7
「攻撃力の差が問題か。……オレの攻撃が通じない可能性が高いな」
汗を拭おうとし——その瞬間、自分の致命的な抜けに気づき、凍りついた。
肝心なことを忘れていた。
ここに来るまでスキルの検証をしていなかった。
ギョギョギョの体内にいたとき、ステータスとスキルの確認はしていた。
ただ、その確認は文字を見るだけにとどまっていた。
あとで検証しようと思っていたが、ギョギョギョの空間が崩壊して……そのまま忘れていた。
「……何やってんだ、オレは」
思わず天を仰ぎ、深すぎるため息とともに頭を抱えた。
継承したスキルはあくまで知識としてだ。
使い方は分かる。だが、それは人間だった頃の感覚だ。悪魔の肉体では試していない。
そこには実際に試さないと分からない誤差が生まれるだろう。
しかも、《透過》《エナジードレイン》は悪魔のオレが生まれ持ったスキルのようだ。
名前の響きからある程度は想像できるが、こればかりは使用してみないと分からない。
使い方だけは、朧げながらもなんとなくは分かる。
だが、それらの効果量や範囲、持続時間などは、まったく分からない。
「無理に戦う必要はない、か」
迂回する形にはなるが、致し方がない。
そろりと、その場から離脱しようと一歩踏み出した刹那——何かが身体をなぞるように通り抜けた感覚が走った。
それは、とても小さな違和感だった。
ふと、ライトプスのステータスに記載があった内容を思い出した。
スキル欄に、魔力感知と書いていた。
魔獣というだけで、受動的な感知だと思い込んでいた。
「魔獣のくせに能動的な感知ができるのかよ」
悪魔オルフェルは愚痴を零し、すでに気取られていると悟ると、岩場の陰から姿を晒した。
無理に隠れ続けるより、状況を把握する方を選んだ。
ライトプスの口元は真っ赤な鮮血が滴り、獲物を貪り食っている。
人間では到底視認できぬ距離ではあったが、悪魔の視力はそれを許した。
ライトプスはゆっくりと顔を上げた。剥き出しの牙には、横たわる魔獣の肉片が絡みついている。
顔が濃紺の悪魔の方へと正確に向けられる。
ふい、と顔を逸らした。
悪魔オルフェルとは全く別の方向を見つめ、まるで興味を失ったかのように。
足元の地面の匂いを必要以上に嗅ぎ始めた。
そして、大きな欠伸をし、鋭い牙を無防備に晒してみせた。
「オレに興味がないのか」
ほっと、安堵した。
青灰色の魔獣の角が、微かに放電した。
次の瞬間、巨体が爆ぜた。
音はなかった。
音速を超えた巨体が、すでに目の前にあった。
油断から反応が遅れたが、間一髪で避ける。
遅れて、大気が悲鳴を上げた——ようやく、音が追いついた。
魔獣は前脚で着地すると、横滑りするように上体を捻りすぐさま反転する。
後ろ脚で大地を蹴り、間髪入れずに次の攻撃行動に移った。
躱せる体勢ではなかった。
「透過!!」
考える暇もなく、条件反射的にスキル名を叫んでいた。
青灰色の魔獣が悪魔オルフェルの体をすり抜けた。
姿はある。
だが、そこに実態はなかった。
飛びかかったが、捕らえたはずの獲物の感触がない。
魔獣の動きが一瞬だけ鈍った。
「地嶽隆穿滅絶槍」
地面を突き破り、腹の真下から爆発的に突き上がる岩の巨槍。
硬質で弾性を帯びた青灰色の剛毛と衝突し、爆ぜるような破砕音が大地を震わせた。
岩片が四方に飛散し、灰白色の巨大な粉塵雲が広がる。
魔獣の全身を一瞬覆い隠した粉塵の奥から、青白く放電する複数の角が見えた。
「あっ、まずい」
粉塵の中で、青白く放電する複数の角が閃いた。
四方八方に雷が迸る。
無差別に。
至近距離からの直撃だった。
全身が焼かれるような閃光に包まれる。
視界が白に塗り潰された。
皮膚の一部が瞬間的に蒸発し、神経を焼くような激痛が全身を貫いた。
筋肉が勝手に跳ね上がり、体が制御を失った。
皮脂と焦げた肉の臭いが鼻腔を突き抜ける。
一瞬飛んでいた意識が、強引に引き戻された。
即座に内言で《透過》と唱えた。
紙一重の差で、いまだに降り注ぐ雷が通り過ぎていく。
悪魔オルフェルは音を置き去りにし、痙攣の残る脚で大地を蹴った。
弾丸のように真っ直ぐ飛んでいく。
無差別の雷撃雨を透過しながら。
ライトプスに向かって。
雷撃が届かない腹の下に潜ると、右の掌だけ《透過》を解除し、
前脚の内側の踵に向かって、右腕を突き出した。
青灰色の弾性を帯びた硬質な剛毛に、濃紺の悪魔は掌を押し当てた。
「エナジードレイン!」
生命エネルギーが、掌を伝い急激に体へ流れ込んでくる。
奪い取ったエネルギーが魔力体である自身へと加算し、消耗されていた魔力が回復した。
余剰分の一部は、細胞が脂肪を蓄積するかの如く、魔力の容量として蓄えられていく。
残る一部は、タンパク質を得た筋肉繊維のように、魔力体そのものの密度を押し上げていった。
掌を押しつけて、僅か二秒——魔獣は崩れるように、その巨体を横倒しに地面を叩きつけた。
積もっていた粉塵が巻き上がる。
筋肉質な体型の面影はなく、過剰な減量で極限まで絞りきったような姿だった。
喉の奥から絞り出すような、低く途切れ途切れの喘ぎが漏れ出ている。
それは、強靭な捕食者が見せるにはあまりに無様な、死の喘ぎだった。
「四秒か……」
律動していた筋肉が、今はもう静止していた。
生命の灯火が消えた、単なる肉塊が転がっているだけだった。
「直感的に一部を解除できたが、《エナジードレイン》が使えていなければ、オレが死んでいたかもな」
悪魔オルフェルは、勇者と戦ったときより落ち着いて戦えたことにある種の納得を得ていた。
冷静さがここまで戦闘に影響するのかと、改めて実感した。
知識でしかなかったスキルが今、確かな感覚としてこの肉体に溶け込み始めている。
「《透過》からの《エナジードレイン》は、我ながら恐ろしい連動だな」
昼間が突然暗闇に覆われた。
夜が訪れたのだ。
なんの前触れもなく。
そして夜空には満天の星が広がり、爛々と輝いている。
「これが、この世界の夜か」
先ほどまで太陽は真上にあったにもかかわらず、夜が訪れた。世界が変われば常識も違うということかと納得した。
そうして、悪魔オルフェルは確かな目的を持って、荒涼とした草原を駆け抜けていく。
登場キャラが5体以上いるので、BLOGに第15話・雷獣に登場したキャラの画像を上げました。
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