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イデア魔界儀伝  作者: 五十音字ひらがな
転生魔剣士 オルフェルの物語
20/20

第16話 透過

【2026.05/01|あとがきに文章追加】 

・透過に登場したキャラの画像をBLOGにあげた旨。


 大小様々な岩が転がる荒涼とした夜の草原。

 数十メートルはあろう巨岩の前にて、悪魔たちが集っていた。

 彼らの目の前には、十メートルにも満たないライトプスが倒れ()している。その口腔には、体内を貫く巨大な(くい)が突き刺さっていた。

「ジャッジャッジャッジャッ」

 奇妙な笑い声を上げるのは、血のような暗赤色(あんせきしょく)の貌をした巨躯の悪魔。

 頬から顎にかけて生えた白い長髯(ちょうぜん)が、顔の輪郭を覆い尽くし鎖骨まで垂れている。

 短い白毛(はくもう)が、隆起する筋肉をなぞるように全身に走っていた。

 貌と同じ色をした腕の臂甲(ひこう)と脚の脛甲(けいこう)、太い肩幅を覆う肩甲(けんこう)が、わずかな動きにも鈍い軋みを立てていた。

 頭上には兜の吹き返しを思わせる鋭利で平たい角が、天を突いていた。

「ようやく、お主だけでライトプスを倒せたのう。ザームクーヘンよ」

 白毛の悪魔は、肩から背中にかけて一対の巨大な角を突き出した黒い悪魔へ、(ねぎら)いの言葉をかけた。

「魔法が効きづらく苦戦したが、ヤフル殿のアドバイスのおかげで倒すことができた」

「ジャッジャッジャッジャッ」

 豪胆に笑い、白い長髯を揺らしながらヤフルは言葉を継いだ。

「教育係として、ワシの助言が役に立って何よりじゃ」

「どうやらレベルが上がったようだ。これでようやくレベル十七か」

 ザームクーヘンは、虚空に浮かぶ自分にしか見えないステータス画面を確かめながら呟いた。

「レベル二十からはさらに上がりにくくなるぞい。三十になると、さらにじゃい」

「あのね。ぼくも、ざーむくーへんみたいに、らいとぷすたおしたい」

 あどけない少年の声が、ヤフルの腰ほどの高さから響いた。

 そこにいたのは、身長の三分の一を頭部が占める、異様な体比率の悪魔だった。

「ジャッジャッジャッジャッ」

 ヤフルの奇妙な笑い声が、草原に響いた。

「レベル十九のライトプスと、レベル差が六以上ある(ゆえ)に、今のままでは無理じゃぞ。ナイーヴは焦らず、地道に励めばよかろうて」

「うん、わかった。ぼくがんばる」

 ナイーヴはぽんと胸を叩き、えっへんと背筋を伸ばした。

 異様に巨大な頭部。ざらざらとした感触の軽石を思わせる多孔質の球体状であり、大小無数の穴が穿たれている。

 青緑色に輝く巨大な目は、その頭部の中でもひときわ目立つ。

 皮膚のない黒い胴体に黒銀(こくぎん)色の外骨格が浮かび上がる。光を受けた部分だけが、鈍い銀色を滲ませていた。

 肩には目と同じ色の球状の宝石のようなものが埋め込まれており、二股フォークを思わせる長い二本指が伸びている。

 さらに、植物の根のような足先からは、三本の指らしきものが地面に根を下ろしていた。

「その素直のところが()()い。ナイーヴは、超能力に磨きをかければ強くなるぞい」

「やふるのおじちゃん、やさしいから、ぼくすき」

「そうか、そうか。ワシのことが好きか」

 今までで一番大きな、奇妙な笑い声が響いた。

「ところで、なぜキャラメル騎士団、斥候(せっこう)部隊隊長のシュトレイン殿がここにおるのじゃ?」

 ヤフルは、いつの間にか(かたわら)に佇む紫の悪魔に声をかけた。

「ちょっとな。団長から探しものを頼まれてよ。で、ヤフルの(つら)が見えたからよ、顔出しに来てやったぜ」

 その粗野な言い回しにも、ヤフルは慣れた様子で眉一つ動かさなかった。

 

 ❇︎ ❇︎ ❇︎

 

 悪魔オルフェルは、荒涼とした夜の草原をスキルの検証を行いながら移動していた。

「縮地」

 唱えた瞬間、濃紺の悪魔の姿が消失した。

 最高到達点速度を初速から叩き出し、前方へマッハ二・七相当で移動する。

 硬直した姿勢のまま百メートル先へと、一発の弾丸のように直進した。たった一歩で。

 周囲の大気の壁を破り、遅れて鋭い衝撃波が暴力的に草原を駆け抜けていく。

「……姿勢が固定され、前方にしか進めないのが欠点だな」

 だが、人間のときに感じていた負荷を一切感じない。その点には確かな手応えがあった。

「記憶にある速度と乖離がかなりあるな。勇者の前世の身体能力に近づくには、時間がかかりそうだな」

 その圧倒的な差に思い至り、小さくため息が漏れる。

 胸の前で手をぶらぶら振り、足も片足ずつ軽く振って筋肉をほぐす。まるで準備運動のように。

「さて、次は疾風迅雷(しっぷうじんらい)の使用感だな」

 唱えた瞬間、オルフェルの輪郭が爆ぜた。

 マッハ二・二五の速度を維持したまま、斜め前方へ右、左と強制的に振られるジグザグの挙動。

 一歩ごとに座標を書き換えるような神速の方向転換。そのたびに、雷鳴の如き足音とともに遅れて断続的な衝撃波が轟く。

 視認を拒絶するその軌跡は、虚空に刻まれる紫光の稲妻そのものだった。

「人間の体の時よりも、急転回の不規則な動きでも体が十分持つな。なんなら、もっと変則的にも動ける」

 悪魔オルフェルは足を止め、思考に(ふけ)る。

 継承した記憶のとおり、縮地は一瞬で間合いを詰める短距離突進の移動術。

 だが、欠点が大きい。姿勢固定と前方のみという制約は致命的だな。一度発動すると軸をずらせないため、軌道上に防壁や魔法を置かれた場合、自ら超高速で突っ込むことになる。

 使いどころに気をつけないとな。

「次は、勇者も使用していた疾風迅雷からの縮地の連続移動だな」

 この身体で同じ感覚を再現できるか。

 大地に断続的な雷鳴が轟き、一閃の稲妻の軌跡が駆ける。

 左右へ何度も折れ曲がり——次の瞬間、速度が跳ね上がり突進した。

「これも、使用感は前世の記憶どおりだな」

 連続使用でも、この悪魔の身体なら問題なく対応できる。人間のときは何度も連続使用して鼻血を出したものだが。

「次は、人間のときにはなかった透過のスキル検証だな」

 一拍。呼吸を置き、透過という二文字を言葉にした。

 見た目に変化はない。

 だが、自身の体を触れようとすると、実態があるのに空を切るように腕が()り抜けた。

「自分の体も触れないのか……」

 もう一度触れると、今度は擦り抜けない。

 透過した瞬間と効果が切れた瞬間は、感覚的に把握できたため、大きな驚きはなかった。

 再び、透過と唱え、数を数え始める。

 一、二。

「……二秒か」

 使いどころを誤れば、実体化した瞬間に、だな。

 途中で透過を切ることはできるのか、やってみるか。

 あとは、連続で使用できるかも確認するか。

「透過」

 秒数を数え始める。

 一。

 解除。

「透過」

 一、二。

「連続使用も可能。途中で切ることも可能か」

 固有スキルの透過はかなり有用だ。

 二秒という制約はあるが、その間は実体がないから……無敵?

 ライトプスとの戦いで使った、透過からのエナジードレイン。これがオレの必勝パターンになりそうだな。

 濃紺の悪魔は思考の途中で、視線を足元へ落とした。

「オレの足が地面を擦り抜けないのは何故だ?」

 掌の透過を解除できたんだ、足裏もきっと。

 いや、待て。

 透過を解除した場合、このまま底無しに地中へと落ち続けるのではないのか。想像するだけで恐ろしい。

 片足だけの解除。それだけでいい。

「透過」

 その瞬間、左足は地面の反発力を失い、抵抗なく地中へと一気に沈み込んだ。

 支えを失った体が大きく傾く。だが、落ち着いて体幹を制御し、素早く左脚の透過を足首のあたりで解除した。

「足の指の感覚がある……違和感は、ない」

 透過中の肉体の内部は、土や石で埋まっているはず。

 解除すれば、そのまま残ると思ったが——地中から左足を引き抜いた。

 見た目にも変化はない。

 地中内で解除した場合、透過中に内部へ侵入した異物は消えて無くなるようだな。これは、地中に隠れることも可能か。

 応用の幅は広そうだ。

 そうなるとだ。いちいち大岩を回り込んだり、飛び越えたりする必要がなくなる。時間短縮になる。

「ある意味、障害物無効のスキルだな」

 意気揚々と再び駆け出す。音を置き去りにして。

 障害となる大岩を難なく透過で擦り抜ける。一つ、二つ、と。

 そして、幾つ目かの巨大な岩をすり抜けた、その先。

——なっ!? 

 魔力感知を(おこた)っていた!

 悪魔オルフェルは、視線だけを横に動かし、その存在を視界に収めた。

 岩を擦り抜けた先に、白毛の巨躯の悪魔、ヤフルたちがいた。

「縮地!」

 その姿を見るなり、間髪入れず脱兎(だっと)の如く地を蹴った。

——しかし。 

 突如、紫の悪魔が縮地より速く進行方向へ回り込み、立ち塞がる。

 仁王立ち。

 それを視認した刹那、縮地を解除し、瞬時に疾風迅雷の移動術へ。

 雷鳴の足音が二歩。

 紫の悪魔の正面で、三時の方向へ踏み切る一歩。

 三時の位置から、背後へ抜けるための二歩目。

 紫光の稲妻の軌跡が走る。

 背後に移動した瞬間——視界が揺れた。

 硬質な爆裂音。

 濃紺の悪魔の顔面が、大地へ叩きつけられていた。

 その後頭部は、紫色の手に鷲掴みにされ、地面へと押しつけられている。

「おっと、そんなに急いでどこへ行こうってんだ?」

 粗野な口調の紫色の悪魔——シュトレイン。

 頭上には、二本の巨大な角が天を衝くように大きくうねっている。

 双眸は炎の残光のような橙色に輝き、口元は深く裂け、鋭利で不揃いな牙が並ぶ。

 筋骨隆々とした、厚みのあるマットな質感の逞しい体躯。

 胸部には、溶岩が皮膚を裂いて溢れ出すような橙色の亀裂が走っていた。

 肩と下半身は黒い重装鎧を纏い、大蛇のように太く長い尾が地面をなぞっている。

 シュトレインは、悪魔オルフェルの後頭部を鷲掴みのまま持ち上げた。

 糸の切れた人形のように、手足が重力に従ってだらりと垂れる。

 力の抜けた指先が、微かに揺れていた。

「こいつ、気絶してるじゃねえか。あの程度で情けねえ」

 顔を覗き込みながら、シュトレインは手に持つ悪魔の不甲斐なさに(あき)れた。

「貴様はあの時の雑魚やろう。生きていたのか」

「いきてた。うれしい、よかった」

 黒い悪魔ザームクーヘンの険のある言葉に対し、巨頭の悪魔ナイーヴは素直に喜びを返した。

「こやつはたしか……選別の儀にいた生まれたてか」

 ヤフルは、記憶を辿る。

「ここにおるということは、それなりのレベルなんじゃろうて」

「あのね。ぼくたちといっしょにうまれた、きょうだい」

「こやつの名は、なんというのじゃ?」

「うーん。わかんない」

「どういうことじゃ?」

「この雑魚野郎は、命名の儀にいなかったんだ。安否不明だったからな」

 ヤフルとナイーヴのやり取りに、ザームクーヘンが答えた。

 ヤフルは顎の白い長髯(ちょうぜん)をゆっくりとさすり、感心したように低く唸る。

「それじゃ、こやつは名無しか。それでよくここまで生き残れたもんじゃ」

「探し物は見つかった。オレはキャラメリゼ様の下へ戻るぜ」

 紫色の悪魔シュトレインが告げる。

 射止めた獲物の死骸のように、後頭部を掴んだまま意識のない悪魔オルフェルを無造作にぶら下げている。

 後頭部を掴んだまま、身体を引きずるように持ち上げていた。

 念話の使えないシュトレインは、それだけ告げると背を向けた。

 ヤフルたちに告げた。

 何か言いかけるヤフルを無視し、荒涼とした夜の草原を音を置き去りにして駆け去っていく。


第16話・透過に登場したキャラの画像をBLOGにて更新しました。


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