第一章 20.首無し鎧の正体(前編)
「な、なにぃ!? この俺の法力が効いてない?」
深夜の心霊スポット巡りの人気者で、隣のクラスのコックリさん帰らない事件を解決したことだってある、この俺の鍛え抜いた法力すら効かないというのか、このバケモノは!
「タ、ターサン、近づいてくるぞ!」
ガチャン、ガチャン、ガチャン、ガチャン……。
鈍色に光る首無し鎧が両腕を大きく広げて俺を捕まえ、鋼鉄の腕で死の抱擁をかましてくる。
それに抵抗しようと必死に足踏みする俺。
だが両者のパワーが拮抗してるせいか、その抱擁の感触は予想外に優しくて……。
あれ? こいつ全然力を入れてなくね?
(マスター……マスター……マスター……)
「あれ、何だこれ? テレパシー? もしかして……懐かれた!?」
暁光を浴びて首の穴から鎧の内部がよく見えていた。半透明の粘体が薄桃色に光ってぬらぬらと蠢いている。
恐る恐る近づいてきたソルさんが鎧の内部を覗き込んで叫んだ。
「これはオドイーターではないか!」
そして一日の始まりを告げる水の一刻鐘が鳴り、昨日と同じくマルシアさんがやってきた。
「ど、どうしたんですか、これ? お屋敷が半壊しちゃってるじゃないですか!?」
「おお、来たかマルシア。喜べ、事件は解決したぞ。犯人はこいつだ」
ソルさんが指差した先には、頭部に逆さまのバケツを被った怪しげなオッパイアーマーが一体。
実はこいつは、女性用プレートアーマーの中身にオドイーターと呼ばれてる特殊なスライムを詰め込んだものらしい。このスライムは古代エルフ帝国のバイオ工学の産物なんだとか。
普通のスライムのように肉を溶かして食ったりはせず、代わりに魔力の素であるオドを吸収して取り込む性質があるんだって。ソルさんの魔法が効かなかったのは、腹ペコだったこいつが魔法を分解吸収してしまったからなんだ。
下水に棲んでるスライムみたいに汚水を浄化処理するような機能は無いが、代わりにスライム種の中では一番の剛力を誇り、また精神感応力も持つ。
〈帝国〉では魔導鎧と呼ばれる人型巨大ロボットを軍隊や宇宙開発の現場で活用していて、そのモノコック構造の強化外骨格の内部にオドイーターを充填して使っているのだそうだ。
内部に乗り込む操縦者はオドイーターの粘体の中にすっぽりと包まれる。オドを必要とするオドイーターは操縦者を生かすために酸素供給や温度管理も万全に行い、宇宙空間や水の中でも活動できるのだとか。
精神感応力を持つオドイーターの核が操縦者の思念を感知し、細かい操作をせずとも剛力のオドイーターの肉が魔導鎧の四肢を動かしてくれる半自律式の生体ロボットであり、外部からの物理衝撃や魔法攻撃を緩和して搭乗者を守るエアバッグかショックアブソーバみたいな働きをするものなんだと。
「このプレートアーマーに詰め込まれているオドイーターは、オドを与えてくれる主人の命に従い忠実な下僕として働く。ただし豊富な魔力を持つエルフでもなければ、日常的にオドを吸われていては健康に悪影響があるだろう。おそらく以前の屋敷の持ち主たちは、このオドイーターにオドを吸われ過ぎて死んだのだ。そして誰もいなくなった屋敷でこのオドイーター入りのプレートアーマーは、屋敷を守りながら新しい主人が現れるのを待ち続けていたのだろう」
たぶんメイド代わりに使われていたんだろう。誰もいなくなり埃だらけになった屋敷の中で、居間や家族用寝室が綺麗に掃除されていたのは、そういうことなんだろうな。水瓶に水を汲んでくれてたのもコイツだ。
後編はこのあと土曜日の零時に投稿します。




