第一章 19.星影の攻防(前編)
大魔法を撃って疲労困憊で動けないソルさんを背負い、大慌てで暗闇の中を走ってる俺。地階の西の壁と天井が吹き飛び、古い屋敷がボロボロと崩れ出しているんですけど!
動く鎧との対決の場となった隠し部屋を飛び出し、地下手水場を抜けて厨房に出る。ここは通気と採光のために地面を掘り下げた空堀に面しており、板硝子の嵌った窓と出入口もあって、窓も無い隠し部屋に比べれば幾分明るい。星明りを頼りに空堀に出て、急いで石の階段を駆け上って裏庭に出た。
崩れる天井など危ないものが何も無い開放感に、思わずへたり込んでソルさんと一緒に地面に転がって夜空を眺めた。
「星明りって結構明るいんだな」
「この惑星には大気を汚染する重工業は一切無い上に、明かりの乏しい地下でかなりの時間を過ごした後だからな」
「ああ、おかげで半壊してる屋敷の様子が良く分かるよ。ところでさっきのアレは一体なんだったんだろうな? ソルさんの魔法が効かないなんて」
「ふむ、先程も言ったが魔法が効かないと言うより、何らかの手段で魔法を減衰させていたようだ。対マジックシールドの反応とも違っていたようだが……」
「魔法って言うのは結局は物理法則で発動してるんだろ? 物理が効かないってことは、アレはやっぱり呪われた――」
「アー、アー、聞こえない。私は何も聞こえないぞ!」
ソルさんは両手で長い耳を押さえるとそっぽを向いてしまった。なにこの可愛い百二十歳は!
ガラガラと崩れる音に振り返ってみると、隠し部屋のあった北東の角を中心に石積みの壁が崩れ落ち二階や三階まで崩壊して、剥き出しになった地下空間や空堀には、石材の破片や折れた梁などが埋まっているのが星明りに見えた。
「……アイツ本当になんだったんだろうな」
「ああ、これだけ埋まってしまうと掘り出すのも、――ん?」
ガラガラ、ドシャン!
不意に瓦礫の一角が崩れると奥の暗がりから鈍く光る銀色の腕が現れ、――頭部を失ったオッパイアーマーが這い出してきた!
瓦礫の下からズルズルと這い出して来るその鎧は、兜を吹き飛ばされた両肩の間にぽっかり空いた穴から装甲の内部を見せている。そこには淀んだ血のように赤黒いぬらぬらした粘体が詰まっており、まるでそれ自体が意思を持つかのように蠢きあっていた。
「な、なんだアレ? マジで妖怪とかなんじゃね!?」
振り返るとソルさんはしゃがみ込んでガタガタと震えている。どうやら腰が抜けているみたいだ。
瓦礫の山から抜け出した首無しのオッパイアーマーが、ゾンビ映画みたいに両手を前に突き出してガチャンガチャン音を立てながら近づいてくる。ソルさんを抱き潰そうとしてるのか、鋼鉄の腕が大きく開かれたその前に俺は立ちふさがった。もちろん足踏みしながらだ。
「魔法は効かない、頭を吹き飛ばされても、館の下敷きになっても死なないって? マジもんの妖怪変化だっていうなら、こいつはどうだ?」
臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前・斬!
右手を刀に見立てて宙に縦横に振るい、素早く破邪九字を切る。深夜の心霊スポット巡りのおかげで手慣れたものだ。
首無し鎧が怯んだように足を止めた。
「へっへー、オカルトヲタクをなめんなよ。我流だが何年も修行してきたんだ。テラ生まれの法力を味わわせてやる!」
前後編に分けてみました。続きはこのあと日曜日の零時に。




