第一章 12. 夜の屋敷で大騒ぎ
魔法が使えないと聞かされてガックリ来た俺は、その夜は水浴びを済ませると、ポンチョを頭から被って先に不貞寝させて貰った。
ソルさんは俺が寝てるすぐ側で暖炉の火の番をしてたようだけど、俺は気にせず寝てしまった。
真夜中に起こされて火の番を交代した。ソルさんは疲れていたのか、ポンチョを被ってすぐにクークーと寝てしまった。
しばらくは火の番をしていたが、ずっと座ってるのも退屈だし、また眠くなりそうだしで、トイレに行きがてら屋敷内を見回ることにした。三十分くらいで戻ってくれば火の消える心配もないだろ。
寒くはないけど真っ暗なのも心細いので、日が落ちてからずっと火を小さく焚いているのだ。
昼間に買ったばかりのおニューの、ではなく中古のカンテラをぶら下げて、まずはトイレに行く。食堂から扉を出てすぐ隣なんだけどね。
あーあ、ソルさんはカンテラなんか無くても、魔法の明かりを指先に灯したりとか出来るんだろうなぁ。羨ましい。
手桶に水を汲もうとしたら、夕方に水浴びをした後なのに、水瓶いっぱいに水が満詰まっているよ。ソルさんが魔法で満たしておいてくれたのかな? 魔法って便利だよな。
用を足し、手桶の水を流す。じゃばじゃばじゃばーっとね。
――キキィィ。
……微かに聞こえた軋み音に振り返ると、手水場のドアの隙間から目が覗いてる。
「うわああぁぁー!」
なんだなんだ!? 誰の目だ?
「キャアアァァー!」
絹割くような女の声だった。ソルさんだ。なに人のトイレしてるとこ覗いてるんだよ! 心臓がバクバク言ってるじゃねーか!
「……なんだ、ソルさんかぁ。びっくりさせないでくれよ」
「す、すまぬ、目が覚めたらターサンが居なくて、何処かで難儀に巻き込まれてはいないかと心配したのだ」
自分が一人で怖かっただけじゃねーの?
「ちょっとトイレに行ってただけだろ。あ、そうだ。水甕に水を足しといてくれてありがとうな。魔法で入れてくれたんだろ?」
「いや、そのようなことはしておらぬぞ?」
えっ?
「…………」
「…………」
「……本当に? じゃあ、これって誰が入れたんだ?」
ソルさんの顔が青い。俺も背筋がじっとりと汗をかいた。
「キ、キャアアァァー!」
「待て待て待て、落ち着けソルさん! お・ち・つ・け、って! 幽霊とかじゃねーよ。幽霊が水汲みなんかするわけないだろ。この屋敷に俺達以外にも誰かいるんだよ!」
「だ、だが、誰か何の為に水を足したりすると言うのだ?」
「そんなの解らねーけど、幽霊みたいな薄っぺらくてふわふわした連中に水汲みみたいな重労働なんて出来ねーよ! 物を動かすのに物理に勝るものなんかねーんだから」
幽霊は人を脅かして転ばせることは出来ても、人を突き飛ばすことは出来やしない。怖がらなければ大丈夫。――って昔、隣の寺の坊さんも言ってたしな。
「そ、それも、そうだな。……でも、一体誰が?」
「取りあえず、これからは別行動はせずに、一緒にいたほうが良さそうだ。幽霊じゃないなら怖くはないだろ? ちょっと屋敷の中を見回ってみようぜ。怪しい奴がいたら魔法で火の玉ぶつけてやれよ!」
それから俺達は屋敷の中を一階から三階まで見回ってみたが、怪しいものは見つからなかった。
一旦拠点にしている居間まで戻り、暖炉の前に腰を落とす。
「屋敷内に俺達以外の誰かがいるのは間違いない。そいつが過去の変死事件と関係があるのかどうかだな」
「私達の受けた依頼は屋敷に異常が無いかどうかの調査だろ? 問題解決を依頼された訳ではないのだから、明日ギルドに、屋敷内に正体不明の誰かがいると報告すれば、もうここを出ても良いのではないか?」
「報告するにしても、誰かいたという証拠になる物がないとなぁ。ただ、何かいました、と報告するだけじゃ報酬は貰えないんじゃね?」
「むむむ、ではまだここに泊まるのか……」
「まあ、今夜は何も無いだろ。何か害意があるなら俺達に気づかれる前に襲って来そうなもんだ。こうして何かいると用心させちまったらやり難いだろ?」
「それもそうだな」
「明日も仕事があるんだし、ソルさんは寝ちゃってよ。俺ももう部屋から出ないで、ここでずっと火の番をしてるからさ」
「本当か? 本当にここにいてくれよ? 目が覚めたら誰もいなかった時の、あの心細さと言ったら……」
「はい、はい、ずっといるから大丈夫だって。安心して寝てくれよ」
ハハッ、なんだ、やっぱり俺がいなくて怖かったんじゃねーか。普段はツンとしてるお姉さんだけど、こういうところを見るとソルさんも可愛いとこがあるんだな。
キィ カシャ キィ カシャ キィ カシャ キィ カシャ――
不意に金属が擦れ合うような――手入れの悪い古い自転車でも漕いでるような――音が聞こえてきた。回廊に通じる扉の向こうに何かがいる!
急いで居間から食堂を駆け抜けて、バンッ、と音を立ててドアを開け放したが誰もいない。吹き抜けを囲む回廊に暗い空間が広がっているだけだった。
「た、ターサン、何かいたのか?」
「変だな、確かに聞こえたんだけどなぁ」
扉を閉めてまた暖炉の明かりに照らされた居間に戻る。暖炉の脇にはフルプレートの鎧が一領、赤々と炎を輝り返して立っていた。
「あれ? そう言えば、昨日この部屋を見たときには鎧が二体なかったか? あのオッパイアーマーのやつ!」
「だ、だ、誰かが鎧を動かしたと言うのかー!?」
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