二人の愚将は未来に期待して杯を交わす(後篇)
異世界戦記ファンタジー。魔法兵器の存在する世界。
会話劇中心。シリアス系。
戦わない選択を模索する物語。
酒宴が始まってから、二時間ほどが経過した。
料理は半分ほど片づき、酒瓶は何本か空になっていた。
警護人たちは、それぞれ定められた位置に立っている。料理人たちは、最後の一皿を出し終えて、壁際で休んでいた。
レオンハルトは、杯の底に残った酒を眺めた。
「さて、セレスティア殿」
「何かしら、レオンハルト殿」
「君に一つ、話しておきたいことがある」
「奇遇ね。私もあなたに話しておきたいことがあるわ」
「では、先に私から」
「どうぞ」
レオンハルトは、周囲を見回した。
「実は、この建物の周辺に、私の部隊を潜ませてある」
セレスティアの表情は変わらなかった。
「何人?」
「三十名ほどだ。全員が選抜された特殊部隊の隊員で、夜間行動と近接戦闘に長けている」
「目的は?」
「この酒宴の場を制圧することも、君の身柄を確保することも可能な配置だ」
警護人たちの間に緊張が走った。
東軍の警護人は動かなかったが、西軍の警護人は、わずかに姿勢を変えた。
セレスティアは、杯を置いた。
「随分と率直に話してくれるのね」
「隠したままでは、酒がまずくなる」
「なるほど。それで、なぜ実行しないの?」
「私が止めているからだ」
レオンハルトは淡々と答えた。
「実は、側近の一人から進言されていてな。この機会に君を捕らえるか、殺すべきだと」
「戦争を有利に進められるから?」
「そうだ。君を失えば、西軍は指揮系統の再編を迫られる。後任が君ほど有能でなければ、こちらは大きな利益を得られるだろう」
「後任が、あなたの想像以上に有能だったら?」
「その場合は、こちらの損失が増える」
「つまり、成功すれば大きな利益が得られるが、失敗すれば大きな損害が出る」
「その通りだ」
レオンハルトは、杯を指先で回した。
「私は、そういう策が嫌いでね」
「あなたほどの知将が?」
「だからこそ、だ。敵の動きを読み、味方の損害を見積もり、得られる利益を計算する。そうして、勝つために最も確実な方法を選ぶ。それが私の仕事だ」
彼は、窓の外へ目を向けた。
「だが、この策は違う。君を捕らえた後に西軍がどう動くか、まるで読めない。後任が立て直すかもしれないし、指揮系統が崩壊するかもしれない。君の部下が報復に走るかもしれないし、君の死をきっかけに両国の全面戦争が始まるかもしれない」
「あるいは、君が私を捕らえたことを理由に、東軍内部で権力争いが起こるかもしれないわね」
「その可能性もある」
レオンハルトは苦笑した。
「成功しても失敗しても、そこから先は運任せだ。戦術というより、くじ引きだな」
「なるほど」
「私は、くじを引くのが嫌いなのだ」
セレスティアは、少し考えた。
「あなたは、勝つために最も確実な方法を選ぶ。けれど、勝利そのものが、必ずしも望ましい結果をもたらすとは限らない」
「そういうことだ」
「あなたが私を捕らえたとして、それで戦争が終わるとは限らない。むしろ、終わりが遠のく可能性すらある」
「だから、私は今夜、酒を飲んでいる」
レオンハルトは笑った。
「少なくとも、今夜ここで君を殺しても、戦争が終わるという保証はないからな」
「そうね」
セレスティアは頷いた。
「では、私からも一つ、話しておきましょう」
彼女は、卓の端に置かれた水差しへ視線を向けた。
「この建物を狙える位置に、長射程の魔法兵器を配置してあるわ」
今度は、東軍の警護人たちの間に緊張が走った。
「射程は?」
「この建物を十分に捉えられる距離よ。命令があれば、あなたも私も、ここにいる人間も、まとめて吹き飛ばせる」
「なるほど」
レオンハルトは、まるで料理の感想でも聞いたかのように頷いた。
「こちらの特殊部隊が動けば、そちらは魔法兵器で対応するつもりだったのか」
「ええ。あなたの部隊が動いた瞬間に、こちらも動く。こちらが撃てば、あなたの部隊は混乱するでしょうし、あなたを守るために東軍が反撃すれば、こちらも損害を受けるでしょうね」
「そして、双方が報復を繰り返す」
「戦争は、さらに長引くかもしれない」
「あるいは、どちらかが壊滅する」
「ええ」
二人は、静かに見つめ合った。
やがてセレスティアは、肩をすくめた。
「私も、予測不能な博打は好まないの」
「君もか」
「ええ。くじを引くのは、未来の人間に任せたいわ」
彼女は、楽しそうに笑った。
レオンハルトも笑った。
「実にもっともな意見だ」
「ただし」
セレスティアは、笑みを少しだけ深くした。
「できれば未来の人間には、そんな愚かな選択などせず、まったく異なる賢明な解決を図ってもらいたいものね」
「まったくだ」
レオンハルトは即座に同意した。
「私たちが今夜ここで互いを殺せば、未来の人間は、その結果を背負わされることになる。私たちが戦争を終わらせることができなかったというだけでなく、終わらせる機会を自分たちで潰したという事実まで背負わされる」
「そうなれば、彼らは私たちを愚将と呼ぶでしょうね」
「すでに知将と呼ばれている私には、いささか不本意な評価だが」
「私も、堅実な指揮官という評判を失うのは困るわ」
二人は、再び笑った。
それは、酒に酔った者の笑いではなかった。
互いの考えを理解し、そのうえで、相手が自分と同じ結論にたどり着いたことを確かめた者の笑いだった。
*
「閣下」
西軍の副官マルタが、セレスティアの背後から声をかけた。
「魔法兵器の配置について、東軍に明かされるおつもりだったのですか」
「ええ」
「しかし、これは機密でございます」
「そうね」
「東軍がこちらの兵器の射程や配置を調べれば、今後の戦闘に影響が出る可能性もございます」
「それも分かっているわ」
セレスティアは、マルタを見上げた。
「あなたは、私が間違っていると思う?」
「……分かりかねます」
「正直でよろしい」
彼女は、レオンハルトと同じ言葉を口にした。
「私はね、マルタ。レオンハルトがこの場で私を殺すつもりなら、すでに何らかの行動を起こしていたと思うの」
「はい」
「けれど、彼は行動していない。彼は、実行する能力がありながら、実行しないことを選んでいる」
「その判断が、今後も続くとは限りません」
「もちろんよ」
セレスティアは頷いた。
「だから私は、彼を信用しきっているわけではない。彼が必要だと判断すれば、明日には私の首を取りに来るかもしれない」
「でしたら、なぜ」
「それでも、彼は今夜、私を殺さなかった。その事実は残るわ」
彼女は、杯を手に取った。
「そして私も、今夜、彼を殺さなかった」
マルタは黙っていた。
「それだけで戦争が終わるとは思わない。でも、戦争が終わらない理由の一つに、誰もが相手を信用できないということがあるのなら、せめて一晩くらいは、その理由を少しだけ弱めてもいいでしょう?」
「……承知いたしました」
マルタは、深く頭を下げた。
反対したい気持ちが、完全になくなったわけではない。
それでも彼女は、総司令官が何をしようとしているのか、少しだけ理解した。
*
東軍の側でも、同じような会話が交わされていた。
「閣下。特殊部隊の配置を知られることは、今後の作戦に影響する可能性がございます」
グスタフが言った。
「分かっている」
「では、なぜ明かされたのですか」
「こちらが秘密を持っていることを、相手も知っている。相手もまた秘密を持っている。それを互いに隠したままでは、相手が何を考えているか分からない」
「明かせば分かる、と?」
「いや。明かしたところで、すべてが分かるわけではない」
レオンハルトは、杯の中の酒を見た。
「だが、何も明かさなければ、何も分からないままだ」
「……」
「グスタフ。私は君の慎重さを評価している。君がいなければ、私はとっくに何度か死んでいただろう」
「恐れ入ります」
「しかし、慎重であることと、何も試さないことは違う」
グスタフは、静かに頭を下げた。
「閣下のお考えを、理解するよう努めます」
「ありがとう」
レオンハルトは、卓の向こうにいるセレスティアへ目を向けた。
彼女もまた、部下と何かを話している。
その表情は穏やかだった。
だが、彼女が何を考えているのか、すべてを読み取ることはできない。
レオンハルトは、それを不思議と悪いことだとは思わなかった。
敵の考えがすべて分かるのなら、戦争はもっと簡単になるだろう。
しかし、簡単になった戦争が、簡単に終わるとは限らない。
互いの意図が分からないからこそ、疑い、備え、先手を打とうとする。
そして、先手を打った結果、相手もまた先手を打つ。
その繰り返しが、九十七年も続いてきた。
「グスタフ」
「はい」
「君は、未来の人間に何を望む?」
副官は、少し驚いた顔をした。
「未来の人間、でございますか」
「そうだ」
「……戦争のない世の中でございます」
「そうか」
レオンハルトは頷いた。
「私も同じだ」
そして、心の中で付け加えた。
そのために、今夜できることがあるのなら。
*
酒宴は、終わりに近づいていた。
双方の料理人は、残った料理を分け合っていた。警護人たちは相変わらず互いを警戒していたが、最初に比べれば、肩の力が少しだけ抜けていた。
レオンハルトは、セレスティアに向き直った。
「提案がある」
「聞きましょう」
「来年も、酒宴を開かないか」
セレスティアは、瞬きをした。
「来年も?」
「そうだ。休戦の日に、同じ場所で、同じ人数で、同じように酒を飲む」
「戦争が続いていても?」
「戦争が続いているからこそ、だ」
セレスティアは考えた。
「来年までに、あなたが総司令官でなくなっていたら?」
「後任に申し送りをする」
「私がいなくなっていたら?」
「君の後任にも申し送りをしよう」
「後任が、そんな約束を守るとは限らないわ」
「ならば、守りたくなるような理由を作る」
「どんな理由?」
「今年の酒宴が、なかなか楽しかったという理由だ」
セレスティアは、声を立てて笑った。
「あなた、思ったよりも楽天家なのね」
「君は私を、もっと悲観的な人間だと思っていたのか」
「ええ。あなたは勝算のない戦いを避けると聞いていたから」
「勝算のない戦いを避けることと、未来に期待しないことは別だ」
レオンハルトは、空になりかけた杯を掲げた。
「私は、未来に期待している」
「ずいぶんと大胆な発言ね」
「知将と呼ばれる男だからな」
「それは関係ないでしょう」
「そうかもしれない」
二人は笑った。
セレスティアは、自分の杯を持ち上げた。
「いいでしょう。来年も開きましょう」
「約束だな」
「ええ。ただし、来年までに戦争が終わっていたら、この酒宴は祝宴に変更するわ」
「それは素晴らしい」
「そして、あなたが勝手に料理を増やしたり、警護人の人数を変えたりしたら、私は参加しない」
「君も、こちらの酒を勝手に持ち帰らないことだ」
「それは考えておくわ」
「考えておく、では困るのだが」
「あなたは知将なのでしょう? 私の気持ちを読んでみたら?」
「それは、なかなか難しい注文だ」
レオンハルトは苦笑した。
彼は、セレスティアが本当に自分の酒を持ち帰るつもりなのか、判断できなかった。
おそらく、彼女にも同じことが言えるのだろう。
互いに相手の人格を評価している。
互いに相手の能力を認めている。
それでも、相手が明日どんな判断を下すのか、完全には分からない。
だからこそ、約束が必要なのだ。
「では、未来の人間に」
レオンハルトが言った。
「未来の人間に?」
セレスティアは、首をかしげた。
「私たちができなかったことを、彼らが成し遂げられるように」
レオンハルトは、杯を差し出した。
「私たちの時代が愚かだったとしても、その愚かさを次の時代に引き継がせないために」
セレスティアは、しばらく彼の顔を見つめた。
それから、杯を合わせた。
「未来の人間に」
二人は酒を飲んだ。
それは、勝利を祝う酒ではなかった。
敗北を慰める酒でもなかった。
まだ何も変わっていない。
戦争は終わっていない。
明後日には、また敵同士として向き合うかもしれない。
それでも、二人は未来に期待していた。
*
翌朝、休戦の日の二日目が始まった。
両軍は、死者の埋葬を続けた。
敵味方の区別なく、遺体は丁重に扱われた。名が分かる者には名が刻まれ、名が分からない者には、見つかった場所と日付が記された。
戦場の隅には、小さな墓標がいくつも並んでいた。
その中には、貴族の名も、平民の名もあった。
東軍では、長引く戦争によって、将官や士官の多くが平民出身者になっていた。
かつては貴族の子弟が軍の要職を占めていたが、戦争が長引くにつれ、彼らの数は減った。家を継ぐ者が必要な貴族は、子供を戦場へ送り出すことに慎重になり、軍に入る者も少なくなっていた。
一方、平民の中には、家族を養うために軍に入る者もいれば、戦場で功績を挙げて昇進する者もいた。
能力があれば出世できる。
それは、戦争がもたらした数少ない変化だった。
西軍でも、似たような変化が起きていた。
長年の戦争によって男性の人口が減り、女性が軍務に就くことが珍しくなくなった。
最初は補給や医療などの後方任務が中心だったが、やがて女性の兵士や士官が前線にも立つようになった。戦場で実績を積んだ者は、指揮官にまで昇進した。
セレスティアも、その一人だった。
彼女は墓地を歩きながら、若い女性士官の報告を聞いていた。
「閣下。東軍の遺体は、すべて引き渡しを終えました。こちらの遺体も、先方から返還されております」
「ありがとう。身元の確認は?」
「まだ数名、確認が取れておりません」
「では、記録を残しておいて。家族から問い合わせがあったときに、すぐ答えられるように」
「承知いたしました」
女性士官は敬礼し、去っていった。
セレスティアは、その背中を見送った。
彼女は優秀だった。
数年前までは、後方で物資の管理をしていた。戦場で負傷した兵士を救い、物資の不足を報告し、補給路を守るために働いてきた。
今では、部隊を率いる立場にある。
もし戦争がなければ、彼女は別の人生を歩んでいたかもしれない。
それは、彼女だけではない。
戦争がなければ、軍に入ることもなかった者たちがいる。
戦争がなければ、指揮官になることもなかった者たちがいる。
そして、戦争がなければ、墓地に名を刻まれることもなかった者たちがいる。
セレスティアは、墓標の一つに目を留めた。
そこには、まだ若い兵士の名が刻まれていた。
彼の人生がどんなものだったのか、彼女は知らない。
どんな夢を持っていたのかも、何を望んでいたのかも分からない。
ただ、彼がもう未来を持たないことだけは分かっていた。
「……愚かなことね」
セレスティアは、小さくつぶやいた。
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
*
東軍でも、レオンハルトが墓地を訪れていた。
彼は、平民出身の若い士官とともに、墓標の並ぶ道を歩いていた。
「閣下。昨夜は、いかがでしたか」
士官が尋ねた。
「なかなか有意義だった」
「敵将と酒を飲むことが、ですか」
「そうだ」
「……閣下は、変わったお方です」
「よく言われる」
レオンハルトは笑った。
「だが、君もいずれ分かる。敵というのは、必ずしも悪人ではない。味方というのも、必ずしも善人ではない」
「はい」
「それでも、私たちは敵と戦わねばならないことがある。味方を守るために、敵を殺さねばならないこともある」
彼は墓標の一つに目を向けた。
「だからこそ、戦わずに済む道があるなら、それを探すべきだ」
若い士官は、黙って頷いた。
彼は平民の出身だった。
父は農夫で、母は病で亡くなった。戦争がなければ、彼も父と同じように畑を耕していたかもしれない。
だが、戦争は彼の人生を変えた。
徴兵され、戦場に立ち、上官の命令に従い、仲間を失いながら生き延びた。やがて、能力を認められて士官となった。
彼は、出世したことを誇りに思っていた。
しかし、出世するために何人もの仲間が死んだことも、忘れてはいなかった。
「閣下」
「何だ」
「この戦争は、本当に終わるのでしょうか」
レオンハルトは、しばらく考えた。
「分からん」
「……そうですか」
「だが、終わらせようとする者がいなければ、絶対に終わらない」
彼は若い士官を見た。
「君は、戦争を終わらせたいか」
「はい」
「ならば、覚えておくといい。戦争を終わらせるためには、戦争に勝つことだけを考えていてはいけない」
「どういう意味でしょうか」
「勝利の先に何があるのかを考えることだ。敵を倒した後に、何をするのか。敵を許すのか、裁くのか、従わせるのか。どれを選ぶにしても、その後の世界を考えなければならない」
レオンハルトは、墓標を見つめた。
「勝つことだけを考える者は、勝った後のことを考えない。勝った後のことを考えない者は、勝利によって何を得るのかも分からない」
若い士官は、深く頭を下げた。
「肝に銘じます」
「うむ」
レオンハルトは、再び歩き始めた。
彼は知将と呼ばれていた。
だが、彼自身は、自分が賢い人間だとは思っていなかった。
戦争の勝ち方なら知っている。
敵を倒す方法なら、いくらでも思いつく。
しかし、戦争の終わらせ方については、まだ答えを持っていなかった。
それでも、昨夜の酒宴には意味があったと思う。
少なくとも、未来に何かを残すことはできた。
*
二日間の休戦は、終わりを迎えようとしていた。
両軍は、それぞれの陣地へ戻る準備を始めていた。
川のほとりの古い建物では、酒宴の後片づけが行われていた。卓は拭かれ、杯は箱に収められ、料理人たちは残った食材を分け合っていた。
レオンハルトとセレスティアは、建物の外で向かい合っていた。
「それでは、また来年」
レオンハルトが言った。
「ええ。また来年」
セレスティアは微笑んだ。
「来年までに戦争が終わっていたら、約束どおり祝宴にしましょう」
「そのときは、君の国の料理をもっと教えてもらいたいものだ」
「あなたの国の酒もね」
「よろしい。では、約束だ」
二人は握手を交わした。
その手は、敵将の手だった。
明日には、互いの軍が再び武器を取るかもしれない。
明後日には、互いの部下が戦場で命を落とすかもしれない。
来月には、どちらかの軍が国境を越えるかもしれない。
それでも、二人は握手を交わした。
その約束が、戦争を終わらせる保証はない。
むしろ、何の役にも立たない可能性のほうが高い。
だが、何の役にも立たないと決めつけてしまえば、本当に何の役にも立たなくなる。
「レオンハルト殿」
セレスティアが呼びかけた。
「何だ?」
「あなたは、私たちを愚将だと思う?」
レオンハルトは、少しだけ考えた。
「思うこともある」
「正直ね」
「君は?」
「私もよ」
二人は笑った。
「私たちは、戦争を終わらせる方法を知っているつもりで、結局は終わらせられずにいる。敵を倒す方法は知っているのに、敵と共に生きる方法を知らない。そんな私たちを賢者と呼ぶのは、少し無理があるだろう」
「では、愚将ということでいいのかしら」
「そうだな」
レオンハルトは、空を見上げた。
「ただし、未来の人間には、私たちより賢くなってもらいたい」
「ええ。私たちの失敗を学んで、もっと賢明な選択をしてほしいわね」
「そして、私たちが失敗したことを、もう一度繰り返さないでほしい」
「そのためにも、私たちは生きている間、できることをするべきね」
セレスティアは、手を差し出した。
「では、来年も」
レオンハルトは、その手を取った。
「来年も」
二人は、もう一度だけ握手を交わした。
やがて、双方の軍はそれぞれの陣地へ戻っていった。
休戦が終われば、戦争が再開される。
それが、長い年月の中で繰り返されてきた決まりだった。
しかし、その年の休戦には、ほんの小さな違いがあった。
東軍の兵士たちは、帰り道で西軍の兵士たちに道を譲った。
西軍の兵士たちは、東軍の兵士たちが運んでいた荷車を手伝った。
誰かが命令したわけではない。
誰かが約束したわけでもない。
ただ、昨日まで互いを殺し合う相手だった者たちが、今日は少しだけ相手の顔を覚えていた。
それだけのことだった。
それだけのことが、何かを変えるかもしれなかった。
*
その夜、レオンハルトは陣地へ戻ると、机に向かって報告書を書いた。
酒宴の開催について。警護体制について。西軍総司令官との会談について。
特殊部隊の配置と、魔法兵器の存在については、詳細を記さなかった。
代わりに、最後に一文を付け加えた。
来年も、同様の会合を開催することを提案する。
それは、軍事上の利益を明確に説明できる提案ではなかった。
むしろ、軍務省からは無駄な行事だと批判されるかもしれない。
しかし、彼はその一文を消さなかった。
同じころ、セレスティアもまた、報告書を書いていた。
彼女は、酒宴の開催を正式な休戦行事として認めるよう、上層部に提案した。
双方の安全を確保し、死者を弔い、敵将同士が直接話す機会を設けること。それが、将来的な和平交渉の基盤になる可能性があること。
彼女もまた、その効果を数字で示すことはできなかった。
それでも、提案を取り下げるつもりはなかった。
戦争を終わらせる方法は、まだ分からない。
しかし、終わらせるために何かを始めることはできる。
それだけは、二人とも理解していた。
百年近く続いた戦争は、翌年も続くかもしれない。
その次の年も続くかもしれない。
彼らが生きている間に終わる保証は、どこにもなかった。
それでも、未来はまだ決まっていない。
誰かがくじを引かなければならない日が来るのかもしれない。
そのとき、未来の人間が何を選ぶのかは、誰にも分からない。
だからこそ、二人は願った。
未来の人間には、くじを引かずに済む道を見つけてほしい。
自分たちが選べなかった道を。
自分たちが思いつかなかった道を。
自分たちが愚かだったと、笑って振り返ることのできる道を。
そして、いつの日か。
東の軍と西の軍が、武器ではなく杯を持って向かい合う日が来ることを。
その日が来たなら、彼らはきっと、こう言うだろう。
昔、愚かな指揮官が二人いた。
彼らは戦争を終わらせる方法を知らなかった。
それでも、未来に期待して杯を交わしたのだ、と。
文:ChatGPT氏。




