飯をたかるためイタズラするぞと脅してくる友人の話(後篇)
大学生たちの日常系コメディ。
飯をたかりに来る男と、迎え撃つ友人たち。
午後七時。
私は鍋の火加減を確認していた。
昨日から仕込みを続けていた料理が、ようやく完成に近づいている。
ローストビーフ。
シチュー。
サラダ。
デザートまで用意した。
明らかに作りすぎだ。
でも仕方ない。
今日はハロウィンだから。
そして、あいつが来るから。
インターホンが鳴った。
ほぼ予定通り。
私は笑いながら玄関を開けた。
「トリック・オア・トリート」
「いらっしゃい」
「ごちそうしないと」
「もう用意してある」
彼は言葉を止めた。
少し驚いたらしい。
「相変わらず手回しがいいな」
「毎年来るから」
「まあな」
彼を部屋へ案内する。
テーブルを見るなり目を丸くした。
「豪華だな」
「頑張った」
「頑張りすぎだろ」
「受け取って」
彼は困ったように笑った。
昔からそうだ。
何かしてもらうのは平気なのに、自分が感謝されるのは苦手。
だから毎年こうなる。
席につく。
食事を始める。
「うまい」
「そればっかり」
「事実だから」
ローストビーフを口に運ぶ。
本当に美味しそうに食べる。
その姿を見ながら、私は昔を思い出していた。
中学時代。
私は勉強で悩んでいた。
彼は何時間も付き合ってくれた。
高校受験の直前まで。
しかも礼を言うと、
「暇だったから」
としか答えなかった。
大学に入ってからもそうだ。
風邪を引けば食料を差し入れしてくる。
引っ越しを手伝う。
レポートを確認する。
誰かが困ると自然に動く。
なのに感謝されるのは嫌がる。
面倒くさい。
本当に面倒くさい。
だから私たちは考えた。
だったら一日だけ思い切りごちそうしてやろう、と。
表向きはハロウィン。
実態はお礼の日。
本人が素直に受け取らないので、半ば強引に受け取らせる日だ。
「そういえば」
私は切り出した。
「今日、二人のところも行ったんでしょ」
「ああ」
「朝食と昼食」
「きっちり食った」
「後輩ちゃんに何された?」
「かぼちゃ丸ごと渡された」
思わず吹き出した。
「本当にやったんだ」
「お前も知ってたのか」
「連絡来たから」
「ひどい後輩だ」
口ではそう言うが、怒っている様子はない。
むしろ楽しそうだった。
「男のほうは?」
「普通に朝飯」
「良かったね」
「うまかった」
そう言って微笑む。
それを見ていると分かる。
この人も、本当は楽しんでいるのだ。
食事は続く。
準備した料理は次々となくなっていった。
やがて満腹になったらしく、彼は椅子にもたれた。
「食った……」
「全部食べたね」
「お前ら本当に毎年本気だな」
「当然」
「困るんだよな」
「嘘」
「少し本当」
「少ししか本当じゃないんだ」
彼は苦笑した。
私はスマホを取り出した。
三人のグループ通話を繋ぐ。
すぐに二人が出る。
『どうだった?』
『完食しました?』
「した」
私が答える。
「今年も成功」
『やった』
『任務完了ですね』
向こうも嬉しそうだ。
彼は呆れた顔をした。
「毎年作戦扱いするな」
『だって感謝を受け取らないじゃん』
『受け取ってくださいよ』
少し沈黙。
彼は頭をかいた。
「別に大したことしてないし」
『出た』
『いつものやつです』
『だからハロウィン利用してるんです』
三人同時に言われ、彼は完全に黙った。
負けた顔だった。
私は笑う。
「ほら、受け取った受け取った」
「……そういうことにしとく」
結局、素直には認めなかった。
本当に面倒くさい。
だけど、それが彼らしい。
通話を切り、彼は帰り支度を始めた。
「じゃあ帰る」
「うん」
「ごちそうさま」
「どういたしまして」
玄関まで見送る。
彼は軽く手を振った。
「また来年」
「ハロウィンに?」
「ああ」
「トリック・オア・トリートしに?」
「当然」
私は笑った。
「待ってる」
ドアが閉まる。
静かになった部屋でスマホが震えた。
グループチャット。
『帰った』
彼からの短い報告。
直後、男友達が返信する。
『面倒くさい奴だなあ』
『本当ですね』
後輩も続く。
私も入力した。
『でも来年も食わせる』
『だな』
『ですね』
三人の返事が並ぶ。
少しして。
彼から一言。
『よろしく』
それを見て、私たちはみんな笑った。
本当に。
どうしようもなく。
面倒くさい奴だった。
文:M365 Copilot氏。




