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おしゃれ好きのドラゴン(後篇)

異世界召喚ファンタジー。

人間と竜のコメディ。

服飾描写多め。

ドレス作りの第一歩は、採寸から始まった。しかし相手は体長二十メートルを超える巨大な竜である。


「ルブラさん、少し首を下げてください。一番目の首から七番目の首までの、それぞれの根元の周囲を測ります」


「こうか? うむ、仕立て人に身体を委ねるというのは、なんとも誇らしくも照れくさいものだな」


真一はルブラから提供された伸縮性のある特殊な魔力糸を巻尺代わりに使い、巨大な体躯をくまなく計測していった。


七つの首の長さ、それぞれの太さ、胸幅、翼の可動域、そして十本の角の配置と角度。


測れば測るほど、ルブラの身体の完璧なバランスに真一は目を見張った。


「素晴らしい……。鱗の配列が完璧な黄金比を描いている。七つの首も、それぞれ微妙に太さと角度が違い、全体として優美な扇形を形成しているんだ」


「ふふん、分かってきたようだな。我が美貌は伊達ではないのだぞ」


ルブラの四番目の頭(中央)が得意げに胸を張る。


真一は持ち前の観察眼をフル回転させ、羊皮紙の上に何枚ものデザイン画を描き殴った。


「問題は、七つの首と十本の角をどう生かすかだ。ただ布を巻き付けるだけでは、ルブラさんの美しいフォルムを殺してしまう。首の動きを妨げず、かつ社交界の光を受けて最も輝くラインを作らなければならない」


真一は真剣な眼差しで描いた図面をルブラに見せた。


「ルブラさん、今回はドレスのメイン生地に、光の当たり方で色が変化する『玉虫色の絹《シルク》』のような魔法布を使いたいと思います。胸元からお腹にかけては、あなたのルビー色の鱗をあえて露出させ、それをフレームのように縁取るハイネックのカッティングにします」


「ほう……! 我が鱗を覆い隠すのではなく、デザインの一部として生かすというのか!」


「そうです。そして最大の魅せ場は、七つの首です。七本の首それぞれに、グラデーションの異なる美しいシルクのドレープ(ひだ)を纏わせます。あなたが首を動かすたびに、七色の布が波のように揺れ動く設計です」


「見事だ……! 美しい、美しすぎるぞ仕立て人よ! 想像しただけで身震いがする!」


ルブラの七つの頭が、一斉に目を輝かせて真一のデザイン画に見入っていた。


それからの数日間、真一は宝物庫に眠っていた極上の魔法生地をカットし、巨大な針と頑丈な魔力糸を使って、不眠不休で縫製作業に没頭した。自分の服を作る時の何十倍もの体力と集中力を必要としたが、創作の喜びが真一の限界を押し広げていた。


そしてついに、仮縫い《フィッティング》の日がやってきた。


ルブラに仕立て途中のドレスを試着してもらい、細かな微調整を行う重要な工程だ。


「さあ、ルブラさん。頭を通してみてください」


ルブラは緊張した面持ちで、七つの頭を順番にドレスの衿ぐりに通していった。


重厚な深い赤と、深海のような群青、そして眩しいゴールドのグラデーションが施された巨大なドレスが、ルブラの体を包み込んでいく。


「……おお……これは……」


鏡の間に立ったルブラは、大きな姿見に映る己の姿を見て、息をのんだ。


十本の角はドレスの金糸の刺繍と調和し、まるで気高い王冠のように見えた。そして七つの首が動くたびに、しなやかなドレープが優雅な軌跡を描き、彼女のルビー色の鱗をこの上なく魅力的に引き立てていた。


「どうですか、ルブラさん?」


「素晴らしい……! まるで我が身体の一部であるかのようにしっくりと馴染む! 動きやすさも完璧だ!」


ルブラは歓喜の声をあげ、七つの首を誇らしげに振った。


だが、その瞬間だった。


縫い合わされた胸元の生地から、みちみちと嫌な音が響いた。


バリッ!


けたたましい破裂音とともに、胸元から脇にかけての縫い目が大きく裂け、美しいドレスがズタズタに弾け飛んでしまったのだ。


「きゃあああっ!?」


「な、なんだ!?」


ルブラは慌てて自分の胸を隠し、真一は弾け飛んだ布切れを抱えて呆然とした。


「なぜだ……! 寸法は正確に測ったはずだ! 縫製も完璧だったはずなのに……!」


真一は破れた箇所を必死で観察した。生地の強度が足りなかったわけではない。糸が切れたわけでもない。まるで、内部から爆発的な圧力が加わったかのように破れていた。


ルブラは顔を赤くし、七つの頭をそっぽに向けた。


「……す、すまぬ、仕立て人よ。我が……我のせいで……」


「ルブラさん? 一体どういうことですか?」


「……誇り高き竜として、口にするのも恥ずかしいのだが……」


ルブラの三番目の頭が、しおしおと垂れ下がった。


「実は……ここ最近、社交界への緊張とストレスから、夜中に宝物庫の熟成肉と極上ハチミツを……暴飲暴食してしまっていてな……。採寸した時から、少し……いや、かなり太ってしまっていたのだ……」


「ええっ!?」


真一は思わず叫んだ。


ドラゴンのストレス食いによる体型変化。それが、寸分の狂いもなく作られた最高級ドレスを破壊した原因だったのだ。


「申し訳ない! そなたが夜も寝ずに作ってくれたドレスを、我が浅ましい食い意地のせいで台無しにしてしまうとは……! 首を撥ねられても文句は言えぬ……!」


ルブラの七つの頭が全て床に伏せ、本気で落ち込んでいる。


その姿を見て、真一は呆気にとられたあと、不意に笑いがこみ上げてきた。


「はは……あはははは!」


「な、なぜ笑うのだ? あざ笑っているのか……?」


「違いますよ。ただ……ドラゴンも、社交界の前には体型に悩んでドレスを破くんだなと思ったら、なんだか親近感が湧いてしまって」


真一は膝をつき、落ち込むルブラの大きな鼻先に優しく手を触れた。


「大丈夫です、ルブラさん。服が破れたなら、直せばいい。体型が変わったなら、それに合わせてさらに素晴らしいものを作り直せばいいんです。それが仕立て人の仕事ですから」


「仕立て人……そなた……破調の服を、まだ作ってくれるというのか?」


「もちろんです。それに、良いアイディアが浮かびました。体型が多少変動しても美しいラインを保てる、新しい構造を思いついたんです」


真一の瞳に、職人としての強い火が宿っていた。


運命の皮肉——あまりの恐怖に対峙したと思えばただの服好きの美竜であり、完璧なドレスを作り上げたと思えば太って破かれる。だが、そんな皮肉な展開さえも、真一の服飾への情熱を燃え上がらせる薪に過ぎなかった。


真一はすぐさま作業に取りかかった。


脇と背中のパーツに、編み上げ《コルセット》の仕組みを導入したのだ。魔法の伸縮紐を用いた編み上げにすることで、体型の微妙な変化に対応できるだけでなく、キュッと締め上げることでウエストラインをより一層細く、美しく見せる効果を生み出した。


さらに、七つの首の根元にも可動式のシャーリング加工を施し、ルブラがどんなに激しく首を動かしても、編み込みの美しさが崩れないように工夫した。


社交界の前夜。


ついに、完成した「真のドレス」をルブラが纏った。


しなやかに引き締まったウエストから、優美に広がる裾のライン。編み上げの隙間から覗く艶やかなルビーの鱗。そして七つの首を飾る、極上のシルクが織りなす絢爛豪華な七色の層。


そこには、恐ろしい黙示録の竜などどこにもいなかった。ただひたすらに気高く、眩しいほどに美しい「竜界一の乙女」が立っていた。


「……言葉が出ぬな。これが……我なのか?」


ルブラは鏡に映る自分の姿に、七つの頭すべてでうっとりと見惚れていた。


「ええ、ルブラさん。あなただからこそ着こなせる、世界でたった一つのドレスです」


真一が胸を張って答えると、ルブラの七つの頭がいっせいに真一を振り返り、その巨体で真一を抱きしめた。


「ありがとう、千石真一! そなたは我が一生の仕立て人だ! この恩は決して忘れぬ!」


「ぐ、息が……苦しいですルブラさん……!」


翌日、社交界へと旅立つルブラは、誇らしげに空へと羽ばたいていった。その背姿は、社交界で誰よりも輝くことを確信させるに十分な美しさだった。


約束通り、ルブラの手下によって元の世界のアパートへと送り返された真一。


部屋の時計は、召喚された夜のまま、わずか数分しか経過していなかった。


「……夢、だったのかな」


真一がポツリと呟き、自分の作業台を見た。


そこには、召喚される直前に作っていた自分のジャケットが置いてあった。


だが、その横に、見慣れぬ小さな包みが置かれていた。


包みを開けると、中から出てきたのは純金でできた巨大な針と、一本の美しいルビー色の鱗だった。そして、達筆な文字で書かれた手紙が一言。


『社交界では誰もが我がドレスに平伏した。最高の仕立て人に、心からの感謝を。また太ったら召喚する』


真一は手紙を読み、思わず苦笑した。


「勘弁してくださいよ。次はもっと大きな編み上げを作っておかなきゃならないじゃないですか」


真一はルビー色の鱗を愛おしそうに撫でると、愛用のミシンに向かい合い、再び嬉しそうに針を走らせ始めるのだった。

文:Gemini氏(3.6 Flash)。

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