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拾って届けたら一割だよね?(後篇)

現代ほのぼの系コメディ。

泊まりたい女子高生と絶対に泊めない堅物おじさんの攻防。

 次におじさんの家へ行ったとき、私は本当に親の許可を取った。


「これでいいでしょ」


 母からのメッセージを見せる。


『夕方までなら。泊まりは駄目』


「泊まりの許可がない」


「夕方まで遊んでいいってことでしょ」


「そうだな」


「じゃあ泊まってもいいよね」


「どうしてそうなる」


 おじさんは呆れた。


「日本語としては明確に駄目だろ」


「細かい」


「お前、それ今日何回目だ」


「まだ二回目」


「回数の問題じゃない」


 私は靴を脱いで上がろうとした。


「おい」


「何?」


「勝手に上がるな」


「家に入っていいとは言われた」


「遊びに来ていいとは言った。でも、勝手に入っていいとは言ってない」


「似たようなものじゃん」


「全然違う」


 結局、私は玄関で立ったまま、おじさんに説教された。


 説教と言っても、怒鳴られるわけではない。


 むしろ淡々としている。


 だから余計に腹が立つ。


「お前な、俺は別にお前が嫌いだから断ってるわけじゃない」


「じゃあ泊めて」


「それとこれとは別だ」


「またそれ」


「大人と未成年なんだから、線引きは必要だろ」


「ゲームでは普通に一緒に遊んでるじゃん」


「ゲームと現実は違う」


「つまんない」


「つまらなくていい」


 私は黙った。


 確かに、おじさんの言っていることは正しい。


 正しいからこそ、悔しい。


 私はこの人にもっと気軽に接してほしかった。


 ゲームの中と同じように。


 私が馬鹿なことを言えば笑って、無茶を言えば付き合ってくれて、たまにはこっちのわがままも聞いてほしかった。


 でも、おじさんは私が女子高生だと分かってから、妙に距離を取るようになった。


 それが、少し寂しかった。


「……おじさんってさ」


「ん?」


「私のこと、信用してない?」


「信用してる」


「じゃあ、なんで?」


「信用してるからこそ、だよ」


「意味分かんない」


「お前が悪いことをしないと信じてる。でも、人間は自分だけではどうにもならないことに巻き込まれることもある」


 おじさんは少しだけ笑った。


「だから、巻き込まれないようにする。それだけだ」


 私は返事をしなかった。


 その日は夕方までゲームをして、帰ることにした。


 駅へ向かう途中、私はふと思った。


「おじさん」


「何だ?」


「私、もう一回だけお願いしていい?」


「内容による」


「泊まりたい」


「駄目」


「即答!」


 おじさんは笑った。


 私も笑った。


 やっぱり、この人は嫌いじゃない。


 それからしばらくして、母から再婚するという話を聞いた。


「再婚?」


「うん」


 母は少し照れくさそうだった。


 私は驚いた。


 母が再婚する。


 それ自体は悪いことではない。


 でも、家の中が変わる。


 新しい父親が来る。


 新しい生活が始まる。


 私は何となく落ち着かなかった。


 そして、その不安を一番最初に話した相手が、おじさんだった。


「母親が再婚することになった」


『おお、それはめでたいな』


「そうかな」


『お前がどう思ってるかによるだろ』


「……分かんない」


『なら、分からないままでいいんじゃないか』


「適当」


『俺はカウンセラーじゃないからな』


「じゃあ何?」


『ゲーム仲間』


「じゃあゲームしよう」


『話の切り替えが早いな』


 私は笑った。


 その夜は遅くまでゲームをした。


 数週間後。


 母の再婚が決まった。


 新しい生活が始まった。


 私は母と新しい父親との三人で暮らすことになった。


 新しい父親は悪い人ではなかった。


 むしろ、かなり気を遣ってくれた。


 だからこそ、私は気を遣った。


 母も、以前より私の帰宅時間を気にするようになった。


 そんなある日。


 私は家を飛び出した。


 喧嘩をしたわけではない。


 ただ、家にいると息が詰まった。


 気づいたら、おじさんにメッセージを送っていた。


『泊めて』


 すぐに返事が来た。


『駄目』


『まだ何も言ってない』


『泊めて、だろ』


『正解』


『帰れ』


『今、外』


『どこにいる』


 私は駅名を送った。


 しばらくして、おじさんから電話が来た。


「そこから動くな」


「泊めてくれる?」


「それは駄目」


「じゃあ何するの?」


「迎えに行く」


 私は少しだけ嬉しくなった。


 おじさんが来てくれる。


 でも。


 駅前に現れたおじさんは、開口一番こう言った。


「警察行くぞ」


「なんで!?」


「家出した未成年を成人男性の俺がそのまま連れて帰ったら、余計にまずいだろ」


「また警察!?」


「まただ」


「おじさん、警察好きなの?」


「嫌いだよ」


「じゃあなんで」


「必要だから」


 私は渋々ついていった。


 警察で事情を説明し、母に連絡が行った。


 母は泣きながらやって来た。


「どうしてこんなことしたの」


「……ごめん」


 私は俯いた。


 その隣で、おじさんは黙っていた。


 母はおじさんを見る。


 最初に会ったときのような警戒心が、まだ少し残っていた。


「……ご迷惑をおかけしました」


「いえ」


「娘が何度も押しかけているようで」


「まあ……はい」


「泊めてほしいと言ったり?」


「何度も」


「……すみません」


 母は頭を下げた。


 おじさんも頭を下げた。


 私は二人を見ながら、何だかおかしくなった。


「何笑ってるの」


 母が言った。


「いや」


 私は笑いながら答えた。


「おじさん、やっぱり堅いなって」


「悪かったな」


「褒めてる」


「そうは聞こえない」


 母も、少しだけ笑った。


 それからしばらくして。


 母とおじさんは、少しずつ普通に話すようになった。


 母は最初、かなり警戒していた。


 当然だと思う。


 ゲームで知り合った成人男性。


 そこへ女子高生の娘が何度も押しかけている。


 どう考えても警戒する。


 けれど、おじさんが毎回きちんと私を母へ連絡し、必要なら警察へ連れて行き、決して私を泊めなかったことを知るにつれて、母の態度は変わっていった。


「本当に、堅い人なんですね」


 ある日、母がおじさんに言った。


「よく言われます」


「娘が何度も泊まりたいと言っているのに」


「だからこそです」


「どうしてそこまで?」


「変な誤解をされたくないですから」


 おじさんは笑った。


「それに、あの子が大人になったときに、あの頃のおじさんはちゃんとしてたなと思ってもらえたら、それで十分です」


 私はその言葉を聞いて、何も言えなくなった。


 なんだ。


 この人。


 ずっと私のことを考えていたんじゃないか。


 私は勝手に距離を置かれていると思っていた。


 でも、違った。


 距離を置いていたんじゃない。


 守るために、線を引いていたのだ。


 ……ちょっとだけ格好いい。


 悔しいけど。


「おじさん」


「何だ?」


「今までありがとう」


「急にどうした」


「お礼」


「いらない」


「いや、受け取って」


 私は財布から小さな封筒を出した。


「一割」


「何の?」


「私を拾って届けたお礼」


「だからお前は物件でもないし、自分は報労金を請求もしていない」


「でも今回は本当に拾って届けたじゃん」


「家出少女を保護しただけだ」


「似たようなものじゃん」


「全然違う」


 私は笑った。


「じゃあ別のお礼なら?」


「何だよ」


「今度、三人でご飯食べよう」


 母が笑った。


 おじさんは少し考えてから、頷いた。


「それならいい」


「やった」


「ただし」


「何?」


「お前の家に泊めろ、はなしだぞ」


「なんでよ!」


「お前、まだ諦めてなかったのか」


「当然でしょ!」


 母が吹き出した。


 おじさんも笑った。


 私は頬を膨らませる。


 だって、私はまだ一度も勝っていない。


 泊めてほしいと言えば断られる。


 玄関まで行けば止められる。


 家出しても警察に連れて行かれる。


 お礼を渡そうとしても断られる。


 何をしても、このおじさんには勝てない。


 でも。


 それでいいのかもしれない。


 ゲームの中では、何だってできる。


 無茶もできる。


 失敗してもリセットできる。


 けれど現実には、やっていいことと悪いことがある。


 私が女子高生で、おじさんが大人である以上、その線を守るのはきっと大事なことなのだ。


 だから私は、最後に一つだけ言った。


「じゃあ、私が大人になったら泊めてよ」


「そのとき、お前がまだ泊まりたいと思ってたらな」


「絶対思ってる」


「その自信はどこから来るんだ」


「意地」


「知ってる」


 おじさんは笑った。


 私も笑った。


 そして私は思った。


 いつか本当に、冗談みたいに言える日が来るかもしれない。


 あのとき泊めてくれなかったよね、と。


 そのときにはきっと、おじさんも笑ってくれる。


 その日まで、私はこの人を「おじさん」と呼び続けよう。


 拾って届けてもらった一割分の恩は、まだ返し切れていない。


 そもそも、報労金なんて受け取ってくれない人だけど。


「ねえ、おじさん」


「何だ?」


「今日、泊まっていい?」


「駄目」


「夢のシチュエーションだろうが!」


「漫画の見過ぎだ」


 いつものやり取りに、母の笑い声が重なった。


 たぶん、これからもずっと。


 私はこの人に断られ続けるのだろう。


 でも、それも悪くない。


 少なくとも、私が大人になるまでは。


 いや。


 大人になってからも、たぶん言う。


「おじさん、泊めて」


「断る」


 そう言われるのが、何となく分かるから。

文:ChatGPT氏。

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