貴族令嬢に異世界転生したら出会ったイケメンから嫌な顔されました何でやねん!(後篇)
異世界転生もの。
貴族令嬢×美青年の会話中心。
コメディあり、シリアスあり。
文学作品がモチーフ。
しかし。
気づいたところで、どうしろというのだ。
私は庭園のベンチに座りながら、頭を抱えていた。
「……ほんまに、なんでやねん」
今度は声に出た。
ドリアンが隣を見る。
「また、その言葉ですか」
「気にせんといてください」
「気になります」
「すみません」
私は深呼吸した。
前世の私は文学研究者ではない。
『ドリアン・グレイの肖像』だって、読破したわけではない。
あらすじを知っている程度だ。
だから細かいことはわからない。
だが、重要なことだけは覚えている。
ドリアン・グレイは、美貌の青年だった。
画家バジル・ホールウォードが彼の肖像を描く。
そして、ヘンリー卿の言葉に影響され、若さや快楽を追い求める。
シビル・ヴェインという女優を愛する。
しかし彼女が舞台でうまく演じられなくなったことで、彼は彼女を見捨てる。
その後、シビルは死ぬ。
ドリアンは罪を重ねる。
けれど、本人の顔はいつまでも若く美しい。
代わりに肖像画だけが醜く変わっていく。
そして最後に――。
そこまで思い出して、私はドリアンを見た。
彼は普通に生きている。
いや。
私が知っている物語の結末では、彼は死ぬ。
ならば。
「ドリアン様」
「何です?」
「失礼ですが、一つ尋ねても?」
「どうぞ」
「あなたは……以前、死んだことがありますか?」
「…………」
沈黙。
しまった。
聞き方が直球すぎた。
「なぜ、そんなことを?」
「いえ、何となく」
「何となくで聞く質問ではないと思いますが」
「ですよね」
ドリアンは苦笑した。
「僕は確かに、一度死にました」
「……え?」
「あなたも妙な顔をしますね」
「いやいやいや!」
私は思わず立ち上がった。
「死んだんですか!?」
「だから、そう言いました」
「どうやって!?」
「自分の肖像画を壊そうとして」
「やっぱりや!」
思わず叫んだ。
ドリアンが目を丸くする。
「……あなた、何を知っているんです?」
私は口を閉じた。
言えない。
この世界が小説の世界だなんて。
そんなことを本人に言っても、信じるはずがない。
そもそも、彼は自分が物語の登場人物だと知らない。
そして、知ったとしても認めないだろう。
私はそう直感した。
「何も」
「嘘ですね」
「……少しだけ」
ドリアンは私をじっと見つめた。
「あなたは僕を見るたび、何かを思い出している」
「それは……」
「それに、あなたは最初に会ったときから僕を妙に気にしていた」
「イケメンやったから」
「……何です?」
「何でもありませんわ」
危なかった。
私は咳払いした。
「ともかく、あなたは一度亡くなった」
「ええ」
「それなのに、今ここにいる」
「気がついたら、この世界にいました」
「異世界転生……」
「?」
「いえ、こちらの話です」
私は頭を抱えた。
まさか、原作終了後のドリアン・グレイが、さらに異世界転生しているとは。
しかも。
私も異世界転生している。
つまり、転生者が二人。
片方は原作を知っている。
片方は原作そのもの。
ものすごくややこしい。
「それで、あなたはなぜ僕が嫌いなのかと聞きたいんでしょう?」
ドリアンが言った。
「……はい」
「あなたがシビルに似ているからです」
「それだけ?」
「それだけではありません」
彼は少し苦しそうに笑った。
「あなたを見ていると、彼女に言えなかった言葉が浮かぶんです」
「どんな言葉です?」
「謝りたい」
私は黙った。
「でも、もう彼女はいない」
ドリアンは空を見上げた。
「だから、あなたを見ると腹が立つ」
「わたくしに?」
「自分自身に」
私は少し驚いた。
もっと身勝手な理由だと思っていた。
「……それなら、わたくしを嫌な顔で見るのはやめていただけません?」
「難しいですね」
「なんでですの」
「あなたがシビルに似ているから」
「だから私はシビル様ではありません」
「知っています」
「なら!」
「だから困っているんです」
ドリアンは笑った。
初めてだった。
私に向かって、普通に笑ったのは。
その笑顔を見て、私は思った。
この人は確かにドリアン・グレイなのだ。
美しい。
危うい。
そして、物語の中で語られるほど単純な人間ではない。
「あなたは、変わりましたね」
私は言った。
「何がです?」
「死んで、もう一度生きたからでしょうか」
「……そうかもしれません」
ドリアンは自分の手を見た。
「前の人生では、僕は美しさを永遠にしたかった」
「ええ」
「若さが失われるのが怖かった。人から愛されなくなるのが怖かった。醜くなるのが怖かった」
彼は苦笑した。
「今では、老いることくらい構わないと思っています」
「どうして?」
「失うことの意味を知ったからです」
私は何も言えなかった。
ドリアンは続ける。
「僕は、若さを守るために多くのものを失いました」
「……」
「でも、最後には若さそのものが僕を救ってはくれなかった」
そこには、前世の彼とは違う静けさがあった。
私はふと尋ねた。
「では、今は何を大切にしているんです?」
ドリアンはしばらく考えた。
「まだ、わかりません」
「なんやそれ」
「また出ましたね」
「すみません」
思わず笑ってしまった。
ドリアンも笑った。
それから少しずつ、私たちは話すようになった。
私は自分が異世界転生したことを話した。
ただし、彼が小説の登場人物だということは伏せた。
ドリアンもまた、自分がかつてどんな人生を送ったのかを少しずつ話してくれた。
彼は芸術について語った。
美しいものについて語った。
そして、ときどきシビルのことを話した。
私はそのたびに、原作の場面を思い出した。
シビルが彼を愛していたこと。
彼女が舞台の上で演技できなくなったこと。
それをドリアンが「美しさを失った」と受け取ってしまったこと。
そして彼女が死んだこと。
物語では数行で済む出来事でも、当人にとっては人生そのものだったのだ。
「……あなたは、シビル様を今でも愛していますか?」
ある夕方、私は尋ねた。
ドリアンはすぐには答えなかった。
「わかりません」
「わからない?」
「以前の僕は、彼女の美しさを愛していたのかもしれません」
彼は静かに言った。
「でも、今の僕にはそれがわからない」
「そうですか」
「だからこそ、あなたを見ると嫌な顔をしてしまう」
「まだするんですか」
「少しだけ」
「やめてください」
「努力します」
私は呆れて笑った。
それからしばらくして。
私たちの関係は、不思議なものになった。
友人と呼ぶには少し遠い。
知人と呼ぶには近い。
ドリアンは私を見ると、たまに嫌そうな顔をする。
私はそのたびに文句を言う。
そして最後には二人で笑う。
ある日。
私は彼に一冊の本を見せた。
「これは?」
「昔読んだ物語……の、ようなものです」
「随分曖昧ですね」
「事情があるんです」
私は本を開いた。
題名は書かれていない。
中身も、この世界の出来事に合わせて私が記憶をもとに書き直したものだった。
そこには、美しい青年の物語が書かれている。
青年は美しさに執着し、罪を重ねる。
そして最後に、自分の肖像画を壊そうとする。
ドリアンは読み進めた。
やがて顔色が変わった。
「これは……」
「あなたの物語です」
「僕の?」
「正確には、あなたがかつて生きた人生に、とてもよく似ています」
彼は本を閉じた。
「僕は物語の登場人物ではありません」
「ええ」
「僕は僕です」
「知っています」
「誰かに書かれた存在でもない」
「そうでしょうね」
「なら、なぜこんなものを?」
私は笑った。
「物語の登場人物だったとしても、今ここにいるあなたが本物じゃない理由にはならないでしょう?」
ドリアンは黙った。
「過去が誰かに書かれたものだったとしても、これから何をするかは自分で決められる」
「……」
「少なくとも、私はそう思います」
ドリアンは本を見つめた。
そして、ゆっくり笑った。
「あなたは変な人ですね」
「よく言われます」
「最初は嫌いでした」
「知ってます」
「今も少し苦手です」
「なんでやねん」
また素が出た。
ドリアンが吹き出した。
「でも」
彼は笑いながら言った。
「今度は、あなたを見るのが嫌ではありません」
私は少しだけ照れた。
「それなら、よろしいですわ」
「やっぱり、あなたはシビルに似ています」
「そこに戻るんかい!」
私は思わず叫んだ。
ドリアンは腹を抱えて笑った。
私も笑った。
庭園には夕暮れの光が差し込んでいた。
かつての物語なら、ここから悲劇が始まったのかもしれない。
けれど。
これはもう、あの物語ではない。
ドリアン・グレイは、一度死んだ。
私は前世の人生を終えて、この世界に生まれ変わった。
そして今。
二人とも、物語の続きを知らない場所に立っている。
「ドリアン様」
「何です?」
「もし、これから先、また人生をやり直せるとしたら」
「はい」
「今度は、何をしたいですか?」
彼は少し考えてから答えた。
「普通に生きたいですね」
「普通?」
「誰かを愛して、失敗して、年を取って、それでも生きていく」
「……」
「美しくなくてもいい」
私は笑った。
「それなら、案外簡単ですわ」
「そうでしょうか」
「ええ」
私は胸を張った。
「人生なんて、だいたい思い通りになりませんもの」
「確かに」
「せやから、おもろいんです」
「また関西弁ですね」
「ほっといてください」
ドリアンは笑った。
私も笑った。
そして私は思う。
異世界転生したら、まさか小説の主人公本人に出会うとは思わなかった。
しかも。
その本人から出会った瞬間に嫌な顔をされるとは、もっと思わなかった。
でも。
考えてみれば、これも悪くない。
物語に書かれた人生を終えた男と。
前世の人生を終えた女。
二人とも、もう一度与えられた人生を生きている。
だったら。
この先くらい、自分たちで好きなように物語を作ればいい。
そう思ったところで、ドリアンがこちらを見た。
「ところで」
「何です?」
「あなたは、どうして僕のことを知っていたんです?」
「…………」
しまった。
完全に忘れていた。
「それは、その……」
「教えてください」
「いや、そのですね」
「僕は気になります」
私は目を逸らした。
そして。
「……実はな」
「はい」
「あなたの人生、めちゃくちゃ有名な小説になっとんねん」
「…………」
ドリアンは、またしても。
ものすごく嫌そうな顔をした。
「……何でやねん!」
今度は私が先に叫んだ。
文:ChatGPT氏。




