↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/59

血が繋がってるのにどうして分かってくれないの?(後篇)

異世界ファンタジー。

ほのぼの日常系。

母娘のすれ違い。

 王立魔導院からの手紙を見たマリアは、その夜ほとんど眠れなかった。


 娘には才能がある。


 それも、ただの才能ではない。


 魔導院の研究者によれば、リーナの魔力量は一人の人間が持つには異常なほど大きい。


 魔法陣。


 精霊術。


 召喚術。


 古代魔法。


 竜との契約。


 理論上、どの分野にも適性があるらしい。


 つまり。


 リーナには、可能性がありすぎた。


 翌朝。


 マリアは興奮した様子で娘の部屋へ入った。


「リーナ、大変よ!」


「……なに」


「王立魔導院があなたを研究対象に――」


「お断り」


「まだ最後まで言ってないわ」


「研究対象って聞こえた」


「特別研修生として招きたいそうなの」


「断る」


「どうして?」


「眠いから」


「それは理由にならないでしょう」


「私にとっては最大の理由」


 リーナは布団を頭までかぶった。


 マリアは困った。


「でも、こんな機会は二度とないかもしれないのよ?」


「いらない」


「魔導院よ?」


「知ってる」


「王宮魔術師とも関われるのよ?」


「知ってる」


「古代魔法を研究できるのよ?」


「それも知ってる」


「竜語だって役に立つわ」


「竜語の授業で寝た」


「精霊術も」


「精霊に寝ぼけながら返事をしたら怒られた」


「剣術も」


「剣を持ったまま欠伸したら先生に怒られた」


「薬草学も」


「昨日、薬草を枕にして寝てた」


「……」


 マリアは黙った。


 娘は布団の中から顔を出した。


「お母さん」


「なに?」


「私、何でもできるようになりたいんじゃないよ」


「……」


「何がしたいのかを考える時間が欲しいの」


 その言葉は、以前にも聞いた。


 けれどマリアは、その意味を理解していなかった。


 自分は娘のために、道を増やしている。


 そう信じていた。


 だが娘から見れば。


 道が増えすぎて、どこにも進めない。


 マリアは自分の幼少期を思い出した。


 本がなかった。


 先生がいなかった。


 選択肢がなかった。


 だから苦労した。


 その経験から、娘には選択肢を与えたいと思った。


 しかし。


 自分が欲しかったものを、そのまま娘が欲しがるとは限らない。


 そこに気づくまで、ずいぶん時間がかかった。


「……私ね」


 マリアは椅子に座った。


「あなたには、私と同じ思いをしてほしくなかったの」


「うん」


「私は小さいころ、何も知らなかった。だから、やりたいことがあっても、それが何なのかすら分からなかった」


「うん」


「だから、あなたには何でも知っていてほしかった」


「うん」


「そうすれば、きっと幸せになれると思っていた」


 リーナは布団から出た。


「お母さん」


「なに?」


「私、お母さんの気持ちは分かってるよ」


「……本当に?」


「うん」


「じゃあ、どうして分かってくれないの?」


 マリアは少し寂しそうに笑った。


「私はあなたのためを思っているのに」


 リーナはしばらく黙った。


 そして、困ったように笑った。


「それ、お互い様だよ」


「え?」


「私だって、お母さんのためを思ってる」


「私のため?」


「うん」


 リーナは母の手を取った。


「お母さん、私が幸せになるために頑張ってくれてるんでしょう?」


「ええ」


「だったら、私が今何を欲しがってるかも考えてほしい」


「……」


「私は今、寝たい」


「……」


「ものすごく寝たい」


「……そうね」


「あと、何もしない時間が欲しい」


「……そうね」


「それから、自分で決めたい」


 マリアは目を閉じた。


 娘が欲しがっていたものは、知識ではなかった。


 選択肢でもなかった。


 選ぶための時間だった。


 翌日。


 マリアは、習い事の先生たちを一人ずつ訪ねていった。


 剣術を休む。


 竜語を休む。


 礼儀作法を休む。


 精霊術も休む。


 薬草学は週一回。


 古代語も週一回。


 魔法陣も週一回。


 学院の授業は続ける。


 そして何より。


 毎日八時間は寝る。


 先生たちは驚いた。


 特に竜語の先生は、


「竜語は将来必ず役に立ちますぞ」


 と説得した。


 マリアは答えた。


「娘の睡眠も将来必ず役に立ちます」


 正論だった。


 その夜。


 久しぶりに早く眠ったリーナは、翌朝すっきりした顔で起きた。


「おはよう、お母さん」


「おはよう」


「今日は何の予定?」


「学院だけよ」


「それだけ?」


「それだけ」


「……最高」


 リーナは笑った。


 マリアも笑った。


 しかし。


 その日の昼。


 王立魔導院から二通目の手紙が届いた。


 内容は一通目よりも重大だった。


 リーナの魔力が、単に大きいだけではない。


 特殊な性質を持っているらしい。


 彼女は大量の魔力を扱えるだけでなく、他者の魔法を理解し、模倣し、改良する能力まで持っている。


 魔導院は正式に彼女を研究したいという。


 その報告書の最後には、こう書かれていた。


 「本人の希望を最優先する」


 マリアは手紙を読んで、娘を見た。


 以前なら、すぐに飛びついていただろう。


 だが、今は違った。


「リーナ」


「なに?」


「魔導院から話が来てるわ」


「ふーん」


「あなた、どうしたい?」


「どうしたいか?」


「ええ」


 リーナはしばらく考えた。


「一回、見学してみたい」


「分かった」


「でも、通うかどうかは自分で決める」


「もちろん」


「それと」


「なに?」


「その日は帰ってきたら何もしない」


「いいわ」


「絶対?」


「絶対」


 リーナは嬉しそうに笑った。


「じゃあ、行ってみようかな」


 マリアも笑った。


 それから数か月。


 二人の生活は、以前とは大きく変わった。


 リーナは習い事を減らした。


 魔法と薬草学、それから古代語だけを続けた。


 剣術は趣味として月に数回。


 竜語は本人が興味を持ったときだけ勉強することになった。


 精霊術は一旦休止。


 礼儀作法に至っては、社交界へ出る必要が生じたときに考えることになった。


 その結果。


 リーナは以前よりずっと魔法が上達した。


 集中力が増したからだ。


 そして何より、自分で勉強したいと思ったことには、以前とは比べものにならないほど熱中した。


 ある日。


 リーナは母に言った。


「お母さん」


「なあに?」


「私、魔法薬師になりたい」


 マリアは目を丸くした。


「魔法薬師?」


「うん」


「どうして?」


「お母さんを見てたら、面白そうだと思ったから」


「……」


 マリアはしばらく何も言えなかった。


 自分が娘に与えようとしていた未来の中に、自分と同じ道が含まれていた。


 それは少し意外だった。


 しかし。


 リーナは続けた。


「でも、お母さんとは違う魔法薬師になる」


「どう違うの?」


「寝不足の人に、眠気覚ましの薬を売らない魔法薬師」


「……それは重要ね」


「それから、疲れた人には休めって言う」


「それも重要ね」


「あと、子供に習い事を詰め込む親には説教する」


「それは商売になるかしら」


「ならないと思う」


 二人は笑った。


 マリアは娘の頭を撫でた。


「ごめんなさいね」


「何が?」


「あなたの可能性を増やしたいと思っていたのに、あなたが自分で選ぶ可能性を減らしていたみたい」


「私もごめん」


「あなたが?」


「お母さんが私のことを考えてくれてるのに、全部嫌だって言ってたから」


「でも、本当に嫌なものは嫌でいいのよ」


「うん」


「それを言ってくれたほうが、お母さんも分かるから」


「じゃあ、これからも言うね」


「ええ」


「明日の竜語、行きたくない」


「まだ申し込んでないわ」


「じゃあ問題ないね」


 母は笑った。


 娘も笑った。


 血が繋がっているからといって、相手の考えていることが全部分かるわけではない。


 むしろ近いからこそ、自分の経験を相手に重ねてしまうことがある。


 母は、自分が欲しかったものを娘も欲しがると思った。


 娘は、自分が疲れていることくらい母なら分かると思った。


 どちらも相手を大切に思っていた。


 だからこそ、すれ違った。


 運命というものは、時々ひどく皮肉だ。


 マリアが人生で一番後悔していたのは、教育を受ける機会が少なかったことだった。


 だから娘には、誰よりも多くの教育を与えた。


 その結果。


 娘が最初に自分で選んだ人生の道は、母と同じ魔法薬師だった。


 ただし。


 母より少しだけ、のんびりした魔法薬師である。


「お母さん」


「なに?」


「私、今日はもう寝るね」


「ええ。おやすみなさい」


「おやすみ」


 リーナは部屋へ戻った。


 マリアはその背中を見送った。


 昔の自分なら、寝る前に古代語でも勉強させただろう。


 けれど今は違う。


 娘が自分で選んだのなら、それでいい。


 マリアは台所で一人、薬草茶を淹れた。


 そして、ふと思った。


「……ところで、私自身ももう少し勉強しておけばよかったかしら」


 彼女は棚から古代魔法の本を取り出した。


 ページを開く。


 難しい。


 よく分からない。


 しばらく唸ったあと。


「まあ、明日でいいわね」


 本を閉じた。


 そして、娘と同じように早く寝た。


 翌朝。


 リーナが起きてくると、母はまだ寝ていた。


「お母さん、珍しい」


 リーナは笑った。


「……まあ、いいか」


 起こさなかった。


 母が自分で選んだ「何もしない時間」なのだろう。


 親子だから分かることもある。


 親子だから分からないこともある。


 血が繋がっているから、同じ考えになるわけではない。


 むしろ違う人生を歩んできた二人だからこそ、同じ景色を見ても、見えているものは違う。


 だから。


 分かってほしいと思ったら、言葉にするしかない。


 分かりたいと思ったら、聞くしかない。


 そして時々。


 相手のために何かをするよりも、相手が何もしない時間を尊重するほうが、大切なこともある。


「……血が繋がってるのに、どうして分かってくれないの?」


 眠っている母の顔を見ながら、リーナは小さく呟いた。


 少し考えて。


「まあ、私も分かってなかったけど」


 そう言って笑った。


 丘の上の小さな家に、朝の光が差し込む。


 母と娘は、今日も完全には分かり合えていない。


 それでも昨日よりは、ほんの少しだけ分かり合えている。


 たぶん、それで十分なのだ。


 そして何より。


 今日は二人とも、よく眠れている。


 それだけは、間違いなく幸せなことだった。

文:ChatGPT氏。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。