お妾さんたちがメンドくさい(後篇)
異世界ファンタジー。
ゆるいコメディ。
商人の娘と異国の王子との交流。
数日後。
私はセレネに呼び出された。
場所は王子の滞在している屋敷。
「どうして私をここへ?」
「少しお話がしたくて」
セレネはそう言って、私を応接室へ案内した。
そこにはクラリッサとミーナもいた。
「三人そろっているんですか?」
「ええ」
クラリッサが頷く。
「今日はあなたに、重要なお話があります」
「重要?」
「はい」
私は嫌な予感がした。
こういう場合、ろくな話ではない。
「殿下には内緒で」
「は?」
「絶対に言わないでください」
「何をですか」
三人は顔を見合わせた。
そしてセレネが口を開いた。
「私たち、殿下の妻ではありません」
「……え?」
「正確には、書類上は側室です」
「いや、それは知っています」
「でも、本当の意味で妻ではないんです」
「……」
私は意味が分からなかった。
「つまり?」
セレネが困ったように笑う。
「殿下は私たちに手を出していません」
「…………」
私は固まった。
「え?」
「ですから」
セレネが少し恥ずかしそうに言った。
「殿下と私たちは、男女の関係ではありません」
「…………ええ?」
頭が追いつかない。
私の視線が、自然とセレネへ向かう。
あの色気のある女性が。
あれほど王子にしなだれかかっていた女性が。
「……手を出されてない?」
「はい」
「一度も?」
「はい」
「本当に?」
「本当です」
「……」
私は額を押さえた。
「じゃあ、あれは何なんですか!」
「対外的な演出です」
「演出?」
「殿下が私たちを側室として迎えた以上、世間から見れば夫と妻です。ですから、仲睦まじい姿を見せる必要があります」
「だから、あんなにくっついて……」
「はい」
「演技?」
「かなり上手でしょう?」
セレネは笑った。
「上手すぎます!」
思わず叫んでしまった。
「私、本気で王子が女好きなんだと思ってました!」
「殿下は、よく誤解されます」
クラリッサが苦笑する。
「そもそも、なぜ側室を三人も?」
「国王陛下の方針です」
「国王の?」
「戦乱で夫を失った女性が、我が国には大勢います」
クラリッサの声が少し低くなった。
「戦争が終わっても、生活は勝手には戻りません。そこで陛下は、裕福な者たちに未亡人を側室として迎えるよう促しました」
「……」
「衣食住を保障し、社会的な立場も与える。その一環です」
私は三人を見た。
「では、あなたたちは……」
「三人とも未亡人です」
そう答えたのはミーナだった。
私はまた固まった。
「え?」
「私も、夫を戦争で亡くしました」
ミーナは小さく笑った。
「まだ若かったので、戦争が終わってからもどうしたらいいのか分からなくて」
「……」
「そんなとき、殿下が私を側室として迎えてくださいました」
ミーナの表情は穏やかだった。
「でも、殿下は私たちに夫婦として振る舞うことを求めただけで、本当に妻になれとは言いませんでした」
「つまり……」
「友人です」
クラリッサが言った。
「私たちは殿下の友人です」
セレネも頷いた。
「殿下は私たちを助けてくれました。でも、助けたからといって自分の所有物のように扱うことは一度もしませんでした」
「……」
私は何も言えなかった。
王子の顔が頭に浮かぶ。
皮肉っぽい笑い方。
人をからかうような目。
だけど、困っている人を見れば放っておけない性格。
私はそれを、知っていたつもりだった。
けれど。
知らなかった。
そこまでのことをしていたなんて。
「……それで?」
「それで、です」
クラリッサが咳払いをした。
「私たちは殿下に正室を迎えてほしいと思っています」
「そうでしょうね」
私は頷いた。
「そりゃ、側室三人で正室なしじゃ、王族としても困るでしょう」
「違います」
「え?」
「私たちが困るのです」
「……」
「殿下は自分のことを後回しにしすぎます」
セレネがため息をつく。
「私たちを助けてくださったのはいいんです。でも、ご自分の人生をまるで考えていない」
「だから、正室を?」
「はい」
ミーナが勢いよく頷いた。
「殿下には幸せになってほしいんです」
「それで私に何を?」
三人が一斉に私を見る。
「……まさか」
「そのまさかです」
セレネがにっこり笑った。
「あなたを候補にしています」
「嫌です」
即答した。
「早い!」
「だって!」
私は立ち上がった。
「王子は皮肉屋ですよ!」
「知っています」
「性格が悪いですよ!」
「そこも知っています」
「毎回私をからかってくるんですよ!」
「仲がよろしいですね」
「どこがですか!」
三人は笑っている。
私は頭を抱えた。
「そもそも、私は王子のことを好きだなんて一言も言ってません」
「でも、人柄は評価している」
クラリッサが指摘する。
「……それは」
「戦争をしていた国の王子なのに、先入観を捨てて見ていますね」
「それは、まあ」
「あなたは殿下のことをきちんと見ています」
セレネが言った。
「だから、候補にしたのです」
「候補って……」
私はため息をついた。
「私の意思は?」
「もちろん尊重します」
「なら最初から候補にしないでください」
「それは難しいです」
「どうして!」
そのとき。
「何が難しいんだ?」
背後から声がした。
三人が固まる。
私も固まった。
ゆっくり振り返る。
そこには王子が立っていた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「ずいぶん楽しそうだな」
王子は腕を組んでいる。
「俺に内緒で何を話してた?」
「何も」
三人が同時に答えた。
「怪しいな」
王子が目を細める。
私は思わず口を挟んだ。
「王子」
「なんだ?」
「一つだけ聞きたいことがあります」
「いいぞ」
「この三人に、本当に手を出していないんですか?」
「……」
王子が沈黙した。
そして。
「お前、そこを聞くのか」
「一番気になります」
「そうか」
王子は頭を掻いた。
「出してない」
「本当に?」
「本当だ」
「どうして?」
「友人だからだ」
あまりにもあっさり答えた。
「俺はこの三人を助けたかっただけだ。妻が欲しかったわけじゃない」
その言葉に、三人の女性が嬉しそうに微笑んだ。
「だから、正室も必要ない」
「それは困ります」
クラリッサが即座に言った。
「お前らな……」
「殿下」
セレネが王子の腕に絡みつく。
「私たちは、殿下に幸せになってほしいのです」
「余計なお世話だ」
「でも、いつまでも一人では寂しいでしょう?」
「三人いるだろ」
「私たちは友人です」
「そうだな」
「妻ではありません」
「分かってる」
「ならば、正室が必要です」
「必要とは限らないだろ」
「必要です」
「……」
王子が黙った。
私は思わず笑ってしまった。
「何がおかしい」
「いえ」
私は肩を震わせる。
「王子って、三人のお妾さんに囲まれているのに、実際には誰よりもこの人たちに面倒を見てもらってるんですね」
「……」
「しかも、正室まで探してもらってる」
「笑うな」
「だって」
笑いが止まらない。
「お妾さんたちがメンドくさいですね」
三人が一斉に不満そうな顔をした。
「失礼です」
「心外です」
「メンドくさくないです!」
「いや、十分メンドくさいだろ」
王子が言った。
「殿下まで!」
セレネが抗議する。
王子は笑った。
「だが、まあ……ありがたいとは思ってる」
その一言で、三人は黙った。
そして、少しだけ照れたように笑った。
私はその様子を見て、ようやく理解した。
この三人にとって、王子は夫ではない。
恩人で。
友人で。
そして、大切な人なのだ。
だからこそ、幸せになってほしい。
それだけなのだろう。
「ところで」
王子が私を見る。
「お前はどうなんだ?」
「何がです?」
「俺の正室になる気はあるのか?」
「ありません」
即答した。
「また早いな」
「だって、お妾さんたちがメンドくさいですから」
「お前も十分メンドくさいぞ」
「誰のせいですか」
「俺のせいじゃない」
「王子のせいです」
王子は笑った。
「そうか」
「何ですか」
「いや」
少しだけ意地悪そうな顔になる。
「お前が俺のことを嫌ってないのは分かった」
「……それとこれとは別です」
「そうだな」
「私は王子の人柄は評価しています」
「知ってる」
「でも、王子と結婚するとは言ってません」
「それも知ってる」
「なら、変な期待をしないでください」
「期待なんかしてない」
「本当ですか?」
「さあな」
「ほら、そういうところが嫌なんです」
三人が笑った。
戦争が終わって三年。
私の国と彼の国は、まだ完全に昔の傷を忘れたわけではない。
けれど、人と人が顔を合わせて話すことで、少しずつ変わっていくものもある。
王子が旅をして国民と話したように。
私もまた、この男と何度も話をするうちに、少しずつ知っていった。
隣国の王子という肩書きだけでは分からない、この人のことを。
そして私は思う。
たぶん、この人は正室を迎えるより先に。
三人の側室たちに毎日のように小言を言われる生活から逃げ出す方法を考えたほうがいい。
「そうだ」
王子が突然こちらを見る。
「今度、一緒に街を回らないか?」
「嫌です」
「即答だな」
「だって、どうせ側室たちも来るでしょう」
「……」
王子が三人を見る。
三人は顔を見合わせる。
「もちろん行きます」
「当然です」
「私も行く!」
「ほら!」
私は頭を抱えた。
「やっぱりメンドくさい!」
王子は声を上げて笑った。
三人も笑った。
私も、仕方なく笑った。
――戦争をしていた国の王子と、商人の娘。
本来なら、こんなふうに笑い合う関係になるはずではなかった。
けれど、世の中というものは分からない。
何より。
王子の側室たちは、私が思っていたよりずっとメンドくさく。
王子本人は、私が思っていたよりずっと面白い男だった。
そして、どうやら。
この話は、まだ終わりそうにない。
文:ChatGPT氏。




