↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/60

Kawaiiは人をおっさんに変える(M365 Copilot氏版、前篇)

ラブコメ。日常系。

 ショッピングモールという場所は恐ろしい。


 なにしろ、好きな子と二人で歩くだけで心拍数を異常値にしてくる。


 俺は大学二年生の春日悠人。隣を歩くのは同じゼミの友人、佐伯美咲。


 友人。


 そう、友人だ。


 少なくとも表向きは。


「ごめんね、荷物持たせちゃって」


 美咲が申し訳なさそうに笑う。


 俺は紙袋を持ち上げる。


「別にいいって。そんな重くないし」


「優しいね」


 その一言で俺の脳が停止した。


 優しいね。


 優しいね、だと。


 おい脳内会議を開くな。


 なんだその「好感度イベント発生!」みたいなファンファーレは。


 落ち着け。


 ただのお礼だ。


 だが美咲はかわいい。


 シンプルにかわいい。


 ふわりと揺れる髪もかわいいし、笑うと少し下がる目尻もかわいいし、人の邪魔にならないよう自然に立ち位置を変えるところもかわいい。


 かわいい。


 かわいいしか出てこない。


 語彙を失わせるタイプのかわいさだ。


 俺は横目で彼女を見る。


 すると美咲が店のショーウインドウを見て目を輝かせた。


「わあ、この服かわいい」


 かわいい。


 その反応がかわいい。


 いや待て俺。


 今のお前、完全に近所のおっさんみたいな感想だったぞ。


 かわいいなあ。


 よく食べるなあ。


 元気でえらいなあ。


 それ系のおっさんだ。


 なぜ人は推しを前にするとおっさん化するのか。


 男女も年齢も関係ない。


 怪現象である。


 絶対に本人には知られたくない。


「どうしたの?」


 美咲がこちらを見る。


 まずい。


 顔を見すぎた。


「いや、なんでも」


「変なの」


 くすっと笑う。


 かわいい。


 ちくしょう。


 かわいい。


 この感情を論文にまとめたら新しい学問になりそうだ。


 俺たちは昼食を取ることにした。


 フードコートは混んでいたが、運良く席を確保できた。


 美咲が先に料理を受け取って戻ってくる。


 トレーを慎重に持ちながら人混みを抜けてくる姿を見て、俺はなぜか胸を打たれた。


 かわいいだけじゃない。


 なんか、見ていると守りたくなる。


 だが実際には彼女のほうがしっかりしている。


 ゼミの資料もまとめるし、忘れ物をした俺を何度も助けてくれた。


 俺よりよほど立派な人間だ。


「待たせたね」


 彼女が座る。


 その瞬間、隣の席の子供がジュースを倒した。


「あっ」


 母親が慌てる。


 だが美咲は即座に立ち上がった。


「大丈夫ですか?」


 バッグからハンカチを取り出し、店員を呼び、子供を安心させる。


 動きが自然だった。


 善意を見せつける感じではない。


 本当に当たり前みたいに。


 俺は見とれていた。


 美人だからじゃない。


 優しいからだ。


 優しさが本人の輪郭からこぼれている。


 そんな感じだった。


 数分後。


 席に戻った美咲は照れたように笑った。


「びっくりした」


「いや、すごいと思った」


「そうかな?」


 首を傾げる。


 かわいい。


 かわいい上に優しいとか反則では。


 神様、調整ミスですよ。


 帰り際、エスカレーターで彼女が少しよろけた。


 俺はとっさに腕を支える。


「あ、ごめん」


「平気?」


「うん。ありがとう」


 近い。


 顔が近い。


 睫毛長い。


 やばい。


 俺の脳内おっさんが今、床を転げ回っている。


 うおおおお!


 尊い!


 いややめろ!


 頼むから静かにしてくれ!


 その後もショッピングは続いた。


 けれど俺は何を見たのかあまり覚えていない。


 ただひたすら美咲を見ていた。


 そして思った。


 好きだな、と。


 どうしようもなく。


 帰り道。


 夕焼けがガラス壁を赤く染めていた。


「今日は楽しかった」


 美咲が言う。


「俺も」


「また来ようね」


 その言葉だけで一年くらい生きられそうだった。


 俺は笑ってうなずく。


 だが胸の内だけは絶対に見せなかった。


 推しを前にして悶絶するおっさんみたいな自分など、墓場まで持っていくべき秘密だったからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。