幸運も悪運も神様もいい加減うんざりなんだが(後篇)
現代ファンタジー。
ゆるいコメディ。
翌日。
「アトロポス?」
モイラが珍しく変な顔をした。
「会ったの?」
「ああ」
「何か言われた?」
「自分はギリシア神話の女神だと」
「言ったかー」
頭を抱えた。
「本当なのか」
「どう思う?」
「嘘だろ」
「だよね」
うんうん頷く。
やたら嬉しそうである。
だが和服の女性だけは微妙な表情だった。
「そうとも限りませんよ」
「お前まで何言ってるんだ」
「そうですねえ」
なぜか視線を逸らした。
その日。
帰宅中に植木鉢が落下した。
偶然避けた。
植木鉢は地面に激突。
砕け散る。
中から古い鍵が出てきた。
後日、その鍵が資産家の遺品であることが判明し、謝礼を受け取った。
「なんなんだ俺の人生は」
「私も少しやりすぎた気はしてる」
モイラがぼそっと言った。
「ん?」
「なんでもない」
その夜。
夢を見た。
巨大な織機。
無数の糸。
星空のように広がる光景。
誰かが糸を紡ぎ。
誰かが長さを測り。
誰かが鋏を持っていた。
目を覚ます。
嫌な予感がした。
翌日。
アトロポスと再会した。
「探していた姉が見つかりました」
「よかったな」
「はい」
彼女は微笑んだ。
「でも怒られそうです」
「理由があるのか」
「あります」
即答だった。
そこへモイラと和服の女性も現れた。
四人の視線が交わる。
「見つかった」
アトロポスが安堵したように言う。
「ひどいです。勝手に人間界へ遊びに来るなんて」
「だって面白かったし」
「面白かったし、じゃありません」
和服の女性が困った顔をする。
俺は三人を見比べた。
金髪。
青い瞳。
どこか似ている。
「姉妹なのか」
「はい」
アトロポスが答える。
「本当に?」
「本当に」
「女神も?」
「本当に」
「信じろと?」
「はい」
「無理だな」
「ですよね」
アトロポスは諦めた。
しかし次の瞬間。
空気が変わった。
モイラ。
いや、少女がため息をつく。
「仕方ないか」
その声音は、いつもの無邪気なものではなかった。
「少し説明しよう」
風が吹いた。
世界が色を失う。
人々が静止する。
鳥も。
車も。
音さえも。
俺たちだけが動いていた。
背筋が凍る。
「これは」
「神様らしいこと」
少女は笑った。
その背後に無数の光の糸が現れる。
人々から伸びる糸。
空へ続く糸。
世界を埋め尽くす糸。
「私はラケシス」
少女が言った。
「長さを測る者」
和服の女性が続く。
「私はクロートー。紡ぐ者です」
アトロポスは静かに微笑んだ。
「そして私は終わらせる者」
三人の姿が重なる。
神話。
運命。
不可避。
それらが現実になっていた。
「……本当だったのか」
「言ったのに」
アトロポスが少しだけ得意そうだった。
俺は額を押さえた。
「つまり」
「うん」
「俺の人生を滅茶苦茶にしたのは」
「私」
ラケシスは元気よく手を挙げた。
殴っていいだろうか。
「理由は」
「興味本位」
「殴るぞ」
「ごめんなさい」
即座に謝った。
クロートーが苦笑する。
「この子、人間が好きなんです」
「だからって限度があるだろ」
「私もそう言ったんですが」
ラケシスは頬を膨らませた。
「だって普通の人生じゃ退屈じゃん」
「退屈で結構だ」
「そうかなあ」
少しだけ沈黙。
そして彼女は笑った。
「でもね」
「なんだ」
「君、一度も運命を恨まなかった」
その言葉に、少しだけ詰まる。
「幸運のとき浮かれた」
「そうだな」
「不運のとき文句も言った」
「ああ」
「でも世界そのものは嫌いにならなかった」
ラケシスは真っ直ぐこちらを見る。
「だから見ていて面白かった」
褒められている気がしない。
「観察対象か俺は」
「うん!」
正直すぎる。
アトロポスが慌ててフォローした。
「好意的な意味です」
「余計駄目だろ」
クロートーまで笑い出す。
その光景を見ているうちに、怒る気力が少し失せた。
確かに酷い。
迷惑だ。
理不尽だ。
だが。
不幸ばかりでもなかった。
目の前の三人と出会えた。
それもまた事実だった。
「それで」
俺はため息を吐く。
「今後はどうなる」
ラケシスは少し考えた。
「普通に戻そうか」
その瞬間。
なぜか寂しさが胸をよぎった。
事故も災難も御免だ。
だが平穏だけの人生が本当に自分に合うのか。
「……極端なのはやめろ」
「うん」
「せめて加減しろ」
「了解」
ラケシスは笑った。
「じゃあ少しだけ幸運多めで」
「本当に少しだぞ」
「善処します」
信用できない。
まったく信用できない。
だが以前よりはましだろう。
世界が動き始める。
止まっていた時間が流れ出す。
人々は何事もなかったように行き交った。
三女神も人間の姿へ戻る。
「帰るか」
俺が言う。
「うん!」
ラケシスが答える。
「夕飯を作りますね」
クロートーが言う。
「私も手伝います」
アトロポスが続く。
その直後。
空から福引券の束が降ってきた。
同時に鳩の群れが俺の頭へ突っ込んだ。
「痛っ!」
「おっと」
ラケシスが目を逸らす。
「加減しろって言ったよな?」
「まだ調整中だから」
俺は空を見上げた。
幸運も。
悪運も。
神様も。
いい加減うんざりだ。
だが。
少しだけ。
ほんの少しだけなら。
こういう騒がしい人生も悪くないかもしれなかった。
文:M365 Copilot氏。
※文頭に不規則な空白が入っていますが、味として残しました。




