妹を救うため仕方なくメシの写真を送り付ける(後篇)
兄と妹のほのぼの日常。
飯テロコメディ。
それからしばらくして、俺の妹への飯テロは完全に日課になった。
朝なら焼き鮭。
昼なら親子丼。
夜なら炊き込みご飯。
週末にはイタリア料理。
ある日は、鰹節と醤油の香りが立つ焼きおにぎり。
別の日には、茄子を油で焼いてから生姜醤油を絡めたもの。
妹が忙しそうな週は、手軽に食べられる丼物を送った。
写真を撮るためだけに料理を盛り付けることもある。
もちろん、俺自身も食べる。
だから嘘ではない。
ただし、写真を撮るときには、少しだけ意地悪をする。
白いご飯の上に半熟卵を乗せる。
箸で黄身を割る。
とろりと黄色い黄身が、ご飯へ流れていく瞬間を撮る。
送る。
『俺もやりたくないんだが』
『絶対楽しんでる』
『辛いのを我慢している』
『その割には卵を割る角度まで計算してる』
『料理人のたしなみだ』
『ただの飯テロ犯』
そんなやり取りをしているうちに、妹は以前より食べるようになった。
一日一食だったのが、一日二食になる。
菓子だけで済ませていた昼に、鶏そぼろを食べる。
夜には味噌汁を飲む。
冷蔵庫には、俺が持っていった料理が入っている。
それでも俺は、まだ心配だった。
「ちゃんと食べてるか?」
電話で聞く。
「食べてる」
「何食べた?」
「……」
「答えろ」
「パン」
「それだけ?」
「あとコーヒー」
「それは食事じゃない」
「うるさい」
「冷蔵庫にそぼろあるだろ」
「ある」
「じゃあ食え」
「分かったって」
以前なら、ここで妹は怒って終わりだった。
最近は、少し素直になった。
俺としては、それだけでも十分だった。
だが、ある金曜日。
妹から連絡が来なかった。
いつもなら、こちらが写真を送れば、
『うざい』
とか、
『お腹すいた』
とか、
何かしら返ってくる。
その日は既読がつかなかった。
昼。
既読なし。
夕方。
既読なし。
夜。
既読なし。
電話をかけた。
出ない。
俺は少し迷ってから、妹の家へ向かった。
玄関をノックする。
「おーい」
返事がない。
もう一度ノック。
すると、中からかすかな声がした。
「……兄ちゃん?」
「いるのか?」
「いる」
「開けろ」
しばらくして、鍵が開いた。
妹はひどく疲れた顔をしていた。
「どうした?」
「ちょっと疲れただけ」
「飯は?」
「……食べてない」
俺はため息をついた。
だが、怒る気にはなれなかった。
「冷蔵庫、見ていいか?」
「うん」
開ける。
俺が作った料理は、ほとんど残っていた。
鶏そぼろ。
ひじき。
きのこのマリネ。
そして、数日前に持ってきた煮物。
「食べてないじゃないか」
「ごめん」
妹が俯いた。
俺は怒鳴らなかった。
代わりに冷蔵庫から材料を出した。
「何作るの?」
「パスタ」
「また?」
「食べやすいからな」
フライパンにオリーブオイルを入れる。
にんにくを刻む。
火をつける。
じゅわ、と音がした。
にんにくの香りが立つ。
妹がソファからこちらを見る。
「……いい匂い」
「だろ」
ベーコンを入れる。
脂が溶け、表面がカリッとしていく。
トマトを加える。
赤いソースがふつふつと煮立つ。
茹で上がったパスタを絡める。
仕上げに粉チーズ。
皿へ盛る。
最後に黒胡椒を挽く。
湯気が上がる。
トマトの酸味と甘み、ベーコンの塩気、にんにくの香ばしさ。
フォークで巻けば、赤いソースがたっぷり絡む。
俺は妹の前へ皿を置いた。
「食え」
「うん」
妹はフォークを持った。
一口。
ゆっくり噛む。
「……おいしい」
「そうか」
「兄ちゃん」
「ん?」
「写真で見るより、おいしい」
「当たり前だろ」
妹は少し笑った。
それから、黙々と食べた。
俺は何も言わずに見ていた。
皿が空になる。
「もう少し食べるか?」
「……食べる」
俺は笑った。
「待ってろ」
その夜、妹は二皿食べた。
帰り際、妹が玄関で言った。
「兄ちゃん」
「何だ」
「私さ」
「うん」
「たぶん、一人暮らしになってから、食べることまで面倒になってたんだと思う」
「知ってる」
「だから写真、送ってくれてたんだよね」
「そうだな」
「最初は本当にムカついた」
「知ってる」
「深夜にパスタとか送ってくるし」
「お前が太らないからだ」
「太れって言ってたよね」
「言った」
「ひどい兄」
「褒め言葉だな」
妹は笑った。
「でも」
少しだけ間を置いて、
「ありがと」
と言った。
俺は頭を軽く撫でた。
「ちゃんと食えよ」
「うん」
それから俺は帰った。
翌朝。
スマートフォンを見る。
妹からメッセージが来ていた。
『兄ちゃん』
『何だ』
『今日の写真は?』
俺は吹き出した。
『朝から要求するな』
『昨日食べたから今日も食べる』
『偉い』
『だから写真』
『仕方ないな』
俺は台所へ向かった。
冷蔵庫を開ける。
卵。
鮭。
味噌。
豆腐。
今日は和食にすることにした。
鮭を焼く。
皮がぱりっと焼けていく。
身から脂がにじみ、香ばしい匂いが立つ。
大根おろしを添える。
味噌汁には豆腐とわかめ。
白いご飯には、少しだけ黒胡麻を振る。
さらに、だし巻き卵。
箸で切ると、黄色い断面からふわりと湯気が上がる。
俺はそれを一枚の写真に収めた。
朝の光が料理を照らしている。
鮭の皮は艶やかに焼け、大根おろしの白さが映える。
味噌汁の湯気まで写っている。
完璧だ。
俺は妹へ送った。
『俺もやりたくないんだが』
すぐに返信。
『はいはい』
『辛いのを我慢している』
『嘘』
『本当に辛い』
『じゃあ送らなきゃいい』
俺は笑った。
『それは困る』
『なんで?』
『お前が食べないから』
しばらく返信がなかった。
やがて、
『……ありがと』
とだけ届いた。
俺はスマートフォンを置いた。
そして、自分の朝飯を食べ始めた。
鮭の皮を箸で割る。
ぱりっという音。
脂の乗った身に大根おろしを添える。
白いご飯と一緒に口へ運ぶ。
うまい。
やっぱり朝飯は大事だ。
そう思っていると、スマートフォンが鳴った。
『兄ちゃん』
『今度は何だ』
『夜も写真よろしく』
『分かった』
『できればイタリア料理』
俺は思わず笑った。
『注文が細かいな』
『兄ちゃんの料理好きだから』
俺は少し照れた。
『じゃあ作る』
『やった』
その日の夜。
俺はトマトソースの煮込み料理を作った。
鶏肉を焼いて、表面に香ばしい焼き色をつける。
玉ねぎを炒める。
にんにくを加える。
トマトを入れて、赤いソースを煮詰める。
鶏肉を戻し、弱火でじっくり煮込む。
皿に盛る。
柔らかく煮えた鶏肉に、濃厚なトマトソース。
上にはパセリ。
横には焼いたパン。
ソースをパンにつければ、酸味と甘み、鶏の旨味が一緒になって口いっぱいに広がる。
写真を撮る。
送る。
『俺もやりたくないんだが』
『もういいって』
『辛いのを我慢している』
『はいはい』
『深夜だけど』
『今十時だよ』
『今日は早かったな』
『昨日の仕返し?』
『違う』
『絶対違う』
俺は笑った。
しばらくして、
『おいしそう』
と返ってきた。
そして続けて、
『明日行っていい?』
『何しに?』
『ご飯食べに』
『もちろん』
『じゃあ朝から行く』
『朝飯も食わせる』
『お願いします』
俺はそのメッセージを見て、少しだけ嬉しくなった。
飯の写真を送り続けて、妹をからかって。
怒られて。
深夜に太れと言って。
週末には料理を持っていく。
そんなことを繰り返してきた。
最初は妹を救うためだった。
食事を抜く妹に、何とか食べさせるためだった。
けれど、いつの間にか変わっていた。
写真を送るのは、妹に食べさせるためだけではない。
今日も食べていると伝えるため。
今日も元気だと確かめるため。
離れて暮らしていても、ちゃんとつながっていると知るため。
だから俺は、これからも写真を送り付けるだろう。
妹が怒っても。
深夜でも。
俺が自分の飯を食う前でも。
「俺もやりたくないんだ」
そう言いながら、嬉々として料理を撮る。
そして妹から、
『太るだろ!』
と怒られたら、
「太れ」
と笑う。
そのくらいでちょうどいい。
翌朝。
妹がやって来た。
俺は味噌汁をよそい、焼き鮭を皿に置いた。
「いただきます」
妹が手を合わせる。
俺も箸を取る。
「兄ちゃん」
「何だ?」
「今日の写真は?」
「今、目の前にあるだろ」
「写真でも欲しい」
「食べてからにしろ」
「じゃあ食べる」
妹は笑った。
俺も笑った。
二人で朝飯を食べる。
それだけのことなのに、妙にうまかった。
そして食事が終わるころ、妹が言った。
「ねえ、兄ちゃん」
「ん?」
「これからも、写真送ってよ」
俺は少しだけ笑って、
「仕方ないな」
と答えた。
妹も笑った。
たぶん俺たちは、これからもずっと、そんなやり取りを続ける。
俺は料理を作る。
写真を撮る。
妹へ送り付ける。
妹は怒る。
そして、腹を空かせて何かを食べる。
それでいい。
それがきっと、一人暮らしを始めた妹を救うために、俺ができる一番くだらなくて、一番確実な方法なのだから。
文:ChatGPT氏。




