総統閣下は物まね芸人にお怒りのようです(後篇)
現代コメディ・歴史パロディ。
軽めのシリアス要素。
「総統閣下シリーズ」などのネットミームが題材。
軽いファンタジー要素があります。
この作品はフィクションです。
ライブ当日。
客席は四十人。
売れない頃なら十分すぎる人数だった。
舞台袖で俺は震えていた。
「緊張しますか?」
青年がネクタイを整える。
「死ぬほど」
「良いことです」
彼は笑った。
「反応が見える場所ですから」
照明がつく。
俺は演壇へ飛び出した。
「諸君!」
客席からクスクス笑いが起きる。
歴史ネタを知る客も知らない客も混ざっている。
俺は教わった通り、最初に客を見た。
一列目。
二列目。
三列目。
怒鳴る前に目を合わせる。
笑いが少し大きくなった。
五分ほどネタを続けたところで、舞台袖から低い声が響く。
「待ちなさい」
客席が振り向く。
青年がゆっくり歩いてきた。
黒いコート姿。
表情は厳格そのもの。
「その腕の角度は違います」
客席が笑う。
俺は慌てる。
「えっ」
「演説は拳を振る前に間があります」
実演する。
完璧すぎる。
客席がどよめいた。
「あと、怒鳴るだけでは聴衆は疲れます」
「すみません!」
「謝る相手は私ではありません」
青年は客席を見る。
「観客です」
俺も客席を向いた。
「皆さん、申し訳ありませんでした!」
大爆笑。
そこからは掛け合いだった。
「違います」
「またですか!」
「視線」
「はい!」
「間」
「はい!」
「あなたは私を真似していますが」
青年は一拍置いた。
「私の一番大切なものを真似していません」
客席が静まる。
「何ですか?」
「聞いてくれる人への敬意です」
その一言だけは、ネタではなかった。
俺は深く頭を下げた。
拍手が起きる。
そして青年は急に笑顔になった。
「合格です」
客席は総立ちだった。
終演後。
楽屋には笑顔のスタッフが押しかけてきた。
「またやってください!」
「シリーズ化しましょう!」
俺は夢みたいだった。
スタッフが帰り、部屋には俺と青年だけが残る。
ブロンディが足元へ来た。
「今日はありがとう」
「こちらこそ」
青年は窓の外を見た。
「そろそろ、お別れです」
「ドイツへ帰るんですか?」
「ええ。正確には……帰る場所が違います」
その声は少しだけ寂しかった。
「一つだけ、話しておきたいことがあります」
青年は静かに語り始めた。
「私は一度、死にました」
冗談ではない口調だった。
「一九四五年。史実通りです」
息が止まる。
「死後、神を名乗る存在に会いました」
青年は苦笑する。
「心残りはあるか、と聞かれたんです」
「……」
「私は祖国ドイツと、同盟国だった日本の未来を見届けられなかったことを答えました」
部屋が静まり返る。
「すると神は、一年間だけ現代を歩かせてくれました。ドイツ人の青年として。そして日本語も話せるようにして」
俺は何も言えなかった。
青年は続ける。
「現代のドイツで私は驚きました」
窓の外には、スマートフォンを見ながら歩く人々。
「私の演説は、生の反応を見ながら語り口を変えるものでした」
彼は指先で客席をなぞるような仕草をする。
「聴衆の表情、ざわめき、拍手。その場で修正していたんです」
「だから強かった……」
「ええ。しかしラジオ演説を始めた頃から、不安はありました」
少し目を伏せる。
「顔が見えない」
その一言に、妙な説得力があった。
「テレビ、そしてネット。現代では画面の向こうへ話すことが増えました。生の反応を生かせない私の演説は、魅力が半減していたでしょう」
俺はゆっくりうなずく。
「でも、一つだけ感心しました」
青年は笑う。
「ポイントを絞り、何度も繰り返す技法です」
「ああ」
「現代では広告も動画もプレゼンも、あれをさらに磨き上げています。技術だけは、進化していました」
彼は少し照れくさそうに肩をすくめた。
「皮肉ですね」
「……あなた、本当に」
「はい」
青年は静かに頭を下げた。
「私はアドルフ・ヒトラーです」
俺は否定できなかった。
演説を教わった日々、あの異様な説得力、ブロンディという名前。
全部つながってしまった。
「怒らないんですか?」
俺は恐る恐る尋ねた。
「俺、物まねなんかして」
青年は首を横に振った。
「最初は怒りました」
「え?」
「Downfall parodiesも総統閣下シリーズも、侮辱だと思っていました」
彼は苦笑する。
「ところが、いつの間にか笑っていたんです」
「……」
「自分で自分を笑っていた」
その笑顔は、とても穏やかだった。
「その衝撃で、日本の物まね芸人まで見始めました。そして、あなたを見つけた」
「俺だったんですね」
「ええ。あなたは観客を馬鹿にしない」
俺はきょとんとした。
「コントでも、知らないお客さんを置いていかないように工夫していました」
青年は静かに言う。
「私は常に『愚かな』聴衆へ語りかけていました」
その言葉には、自嘲が混じっていた。
「あなたは違う。笑ってくれる人を信じて話している」
俺は胸が熱くなる。
「だから教えたくなったんです」
窓の外で夕日が沈む。
青年の体が、少しずつ透け始めた。
「時間です」
「一年……終わるんですね」
「はい」
俺は涙をこらえた。
「売れ始めました」
「知っています」
「ご指導、ありがとうございました」
青年は優しく笑う。
「演説のね」
二人で少し笑った。
そして彼は最後に言った。
「私は祖国を誤った道へ導いてしまいました」
静かな告白だった。
「ですが最後に、君を笑顔の道へ導けたことを誇りに思います」
俺は深く頭を下げた。
顔を上げると、青年もブロンディもいなかった。
数日後。
俺は劇場で新しいネタを披露した。
「諸君!」
客席を見渡す。
一人ひとりの顔を見る。
笑っている。
だから俺も笑う。
あの日、演説の指導者が教えてくれた一番大切な技術は、怒鳴り方ではなく、人を見ることだった。
文:ChatGPT氏。




