自慢の料理を食わず嫌いが一瞥しただけで露骨に嫌そうな顔をした(後篇)
異世界ファンタジー・文化ギャップもの。
コメディ・ほのぼの。
三か月後。
ガルドは森の王宮を訪れていた。
森の奥深く、巨大な樹々に支えられた美しい都である。
歓迎は盛大だった。
果実酒も素晴らしい。
音楽も見事だった。
ガルドは終始ご機嫌だった。
「今日は楽しみにしていた」
「光栄です」
リシアは上品に微笑んだ。
「前回の宴は忘れられない」
「私もです」
意味深な笑顔だった。
少し嫌な予感がした。
そして予感は的中した。
料理が運ばれてきた瞬間に。
「…………」
ガルドは硬直した。
皿の上には花びら。
小枝。
根っこ。
以上。
「これは」
「我が国伝統の料理です」
「そうか」
「どうです?」
「どこから見ても庭掃除の成果物だな」
リシアの側近たちが吹き出した。
森の民にとっては立派な料理らしい。
石の王一行は全員が露骨に嫌そうな顔をしていた。
「前回の私と同じ顔をしていますよ」
「そんなことは」
「しています」
していた。
非常にしていた。
ガルドは必死に表情を整えた。
だが皿を見るたび崩れる。
花壇の残骸にしか見えない。
「毒見を」
「もちろん」
リシアは一枚の花びらを食べた。
幸せそうだった。
演技には見えない。
「さあ」
逃げ場がないのも前回と同じだった。
ガルドは覚悟を決める。
まず見た目。
色鮮やかな花びらは美しい。
美しいが食事感はない。
枝は枝だし根は根である。
食卓に存在してよいのか疑問だ。
だが近づけた瞬間。
「む?」
思わず鼻が動いた。
香りが良い。
焼きたての料理を思わせる香ばしさ。
食欲を刺激する濃厚な匂い。
花の香りの奥から、豊かな旨そうな気配が押し寄せてくる。
「ほう……」
予想外だった。
勇気を出して花びらを口へ運ぶ。
かじる。
ぱりっ。
小気味よい音がした。
続いて枝。
しゃくり。
心地よい歯応え。
根も食べる。
驚くほど食べやすい。
「…………」
ガルドは黙った。
「王?」
家臣が呼ぶ。
返事はない。
食べている。
花びら。
枝。
根。
花びら。
枝。
根。
ひたすら食べている。
その様子に石の民たちも恐る恐る食べ始めた。
やがて全員が静かになった。
会話どころではなかった。
「…………」
「…………」
無心。
まさに無心。
気づけば大皿が空になっていた。
ガルドはゆっくり顔を上げた。
その顔には満ち足りた幸福が浮かんでいた。
「美味い」
リシアが微笑む。
「ありがとうございます」
「実に美味い」
花びらは香ばしく旨味が濃い。
枝は噛むほど味わい深い。
根は力強い風味を持つ。
そして全体に効いた絶妙な塩味がそれらを引き立てていた。
酒にも合う。
いつまでも食べ続けられそうだった。
「信じられん」
ガルドは正直に言った。
「見た瞬間は食事だと思えなかった」
「私も石を見た時は同じでした」
二人は見つめ合った。
そして同時に吹き出した。
「我々は似た者同士かもしれん」
「そうかもしれません」
周囲の者たちは不思議そうだった。
王たちだけが分かっている。
相手を理解したつもりでいて、実は何も知らなかったことを。
宴の終わり。
ガルドは宝石を贈った。
「友好の証だ」
リシアは喜んだ。
「ありがとうございます」
そしてリシアは最高級の果実酒を贈った。
「こちらこそ」
ガルドは喜んだ。
周囲の家臣たちは気づいた。
石の民は果実酒を前にすると機嫌が良い。
森の民は宝石を前にすると機嫌が良い。
案外、話し合えるのではないか。
やがて交易は増えた。
争いは少し減った。
すべてが解決したわけではない。
口論もまだ起きる。
だが以前よりましだった。
少なくとも両国の王は知っている。
目の前に出されたものを一瞥しただけで嫌そうな顔をしてはいけない。
なぜなら石にしか見えない絶品の甘味もあれば、
花びらと枝と根っこにしか見えない絶品の塩料理もあるのだから。
そして後世の歴史家たちは、この二つの宴をこう呼んだ。
「食わず嫌いを終わらせた晩餐会」と。
文:M365 Copilot氏。




