☩ 天九 テンキュー☩
日差しが眩しい。
私は、朝日に向かって目を細めながら、足取りも軽く会社の門をくぐった。
担当車両を掃除していると彼女がこちらに向かってきているのが見えた。朝日に栗色の綺麗な髪の毛が透けてきらきらと輝いていた。彼女は私を見つけるなり、笑顔で小走りニ近寄ってきて、「昨日言っていたのを渡すのでちょっとついてきてください」私は彼女の横に並び、忘れていた「おはよう」を言うと、彼女も「おはようございます」と新鮮な気持ちで挨拶を交わした。通称女子部屋に上がる階段の手前まで来ると「ちょっとそこで待っててください」と言い残し二階へと(カンカンカンカン)、鉄の階段を軽快に駆け上がっていった。しばらく待っている私を見た同僚たちが「おはようございます。何してるんですか?」と私に話しかけてきた。私はとっさに答えることができず「ん?まぁ、ただぼーっとしてる」そう答えたら笑いながら「なんですかそれ?」と言いながら去っていった。(カン・・カン・カン)、割と大きな袋を持った彼女が袋を気にする余り一定のリズムを刻めない足取りで階段を降りてきた。私も彼女階段の下まで迎えに行く「あまりたくさんじゃないけど、どうぞ」そう言って、紅まどんなの入ったズシリとした紙袋を笑顔で渡してくれた。
周りに結構人がいて「なんだどうした!」みたいな感じだったけど、もうどうでもよかった。
「ありがとう。大事に食べるね」そう言って微笑むと、彼女も嬉しそうに微笑み返しをしてくれた。
ふと、ある日の風景を思い出していた。彼女と出会って少し仲良くなったとき、皆がいる事務所内で、彼女が突然「ぶどう食べますか?」と私だけに言ってきたので驚いたことがある。
「う、うん。食べるけど、どうしたの?」
私が聞くと、
「えっと、両親がぶどう狩りに行って、冷蔵庫に入らないくらいあるので」と言うから、
「遠慮なくいただきます」そう言ったら、机の下からぶどうが出てきた!
私は(え!今!?)そう思ったが、彼女は嬉しそうに、「はい、どうぞ!」と微笑んでくれたので、他の皆さんの(ええ?なんであいつだけ?)という視線を感じながらも、「ありがとう」と言った。
そんな懐かしい時間を思い出した。
今日も彼女は私だけを見つめて小さな手で手渡してくれた、その甘くて、少し酸っぱい果実の柔らかな重みが指先を伝い心に染み渡っていった。




