☩ 天六 真冬に咲いたイチゴの花☩
「ううう、さ、寒い」
先週あたりからかなり冷え込んできている。
よくみんな聞かれたり聞いたりするよね、夏と冬どちらがいいか。
どちらかと言えば冬なんだが(厚着やカイロで凌げる)、寒いのも嫌だし、暑いのはもっと嫌だな。
どうでもいいことを考えながら、次の仕事に向かうため背を丸めて建物外を歩いていた。
進行方向に彼女と数人の同僚がいて、楽しそうに話しながら歩いてくる。私を見つけた。
彼女はこちらに笑顔を向けながら、私の右側を通り過ぎていった。
私との定例会議(椅子と手すり)をほぼ毎日することで、彼女の緊張も解けていったのだろう。クシャっとした花のような笑顔を見せてくれるようになっていた。
彼女とすれ違いながら(本当によかったな)と心の中で祝福した。心の棘が丸くなった彼女は、その可愛らしさを倍化させて、周囲からよく話しかけられるようになっていった。
同僚と楽しそうに話す彼女を見ていた時、私の中に、寂しさとも違う実体のないモヤが立ち込めるようになっていた。
「おい、おい、その花を咲かせたのは、私なんだけれどな?
君たちは、しおれている花を知っていたのに、何の助けも出さなかったよね?
きれいに咲いたらチヤホヤですか。それは都合がよすぎでしょう。現金な奴らだ」
そんな気持ちがモヤモヤと湧き上がるようになった。
それからというもの、彼女が他の人と話すと、胸の奥が(チクッ)とするのだ。そのうちそれが、(ズキッ)と、だんだん重くなった。
彼女は、私以外にはあまり見せていないだろうと思われる素顔を見せてくれたり、あまり弱音を吐いたりしない人だが、仕事で二人きりになった時など、多少愚痴ったり、ちょっと意地悪なことを言ってみたり、家族やプライベートの話をたくさんするようになった。
仕事の話はせずに(話さなくても、仕事はちゃんとできる)、仕事以外の話ばかりを二人でするようになっていた。
そんな、誰にでもしない話を本当に楽しそうに話してくれる。
私だけに話してくれる、その時間と彼女の笑顔で、私の胸の奥で膨らみ続けるモヤは吹き飛ばされていた。
私たちは変わらず(椅子と手すり)会議をしていた。彼女が、「今度の休みはどこか行かれるんですか?」と聞いてきた。私が、「特に用事は無いなぁ。最近のマイブーム洗車をするかな?」そう言うと、彼女が、「洗車って自分で洗うんですか?私はガソリンスタンドでやってもらうんですけど、前回7000円もかかってしまいました」そういう他愛ない話をして楽しんでいた。
何日か後の定例会議の時、「君はイチゴが好きって言ってたよね? だったらイチゴ狩りに行くっていうのはどうかな?」と提案すると、すかさず彼女は、「はい。イチゴは大好きです。祖母が畑で育ててよく食べてました。ですが、農園は嫌いです。だって虫とかたくさんいるじゃないですか。虫は絶対無理です」
なるほど、間違いない。
間違いないけれど、私の中の(鷲尾と仲良く苺狩りランラン) イメージは、以前君がくれたイチゴポッキーを食べた時と同じように、『ポキッ』と折れて、
イチゴのコーティング部分が全てゴミ箱へと吸い込まれたイメージが頭を駆け巡った。




