表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こいつらなんかヒロインじゃない!  作者: 文月(あやつき)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/20

幕間ノ四「舞台裏——用意された試練」

 登校の途中、何の前触れもなく、スカートを落とす少女。猫の背に揺られ、読書に没頭したまま、見事に乗り物酔いする少女。


 その一部始終を特等席で眺めながら、ダルマイヤックは、腹を抱えて笑っていた。


「しかし、この二人は本当に面白い!」


 新たな候補生選びは、難航していた。


 猿渡翔子(さるわたりしょうこ)夜摩涅梵(やまねそよぎ)乾睦(いぬいむつみ)雲龍珠(うんりゅうたま)蛇目(じゃのめ)つづら。——この五人に匹敵する逸材など、そうそう見つかるものではない。それどころか、これほどの少女たちが、あんな狭い区域に固まっていたこと自体が、奇跡に近いのだ。


「まあ、範囲を広げればいいだろう」


 そう言って、ダルマイヤックが目を向けたのは、大阪と呼ばれる土地だった。地球の——とりわけ日本という国の文化には、いささか通じているつもりの彼は、その土地の持つ独特の風土も、ある程度は心得ているつもりでいた。


「指導官」


 書斎の扉を叩いたのは、センターの所員の一人だった。


「おお。拠点新設の許可は、下りそうかね」


「許可の方は、問題ありません。ただ……現地での転移装置の組み立てに、どうしても人手が要ります。人員削減の折ですので、すでに地球へ出ている所員を、回すことになりまして」


「おいおい、それじゃあ——」


「ええ。ニャンデーレには、アルケオンの者が地球に潜んでいることは、伏せてあります。となれば、人手は、彼女の拠点の転移装置を通して送り込む形を、取るしかありません」


「ふむ」


 そこへ、もう一人。書斎に、見慣れぬ顔が入ってきた。


「指導官。私から提案があります」


「なんだ、君は研修生の訓練指導員じゃないか。このプロジェクトには、関わっていないはずじゃ……」


「実は先日、地球の候補生に、三人用訓練のクリア記録を、想定外とはいえ、大幅に塗り替えられましてね。おかげで訓練プログラムは再考の憂き目に遭い、このところ、日夜、残業続きなのですよ」


 少しばかり疲れた顔で、指導員は切り出した。


「それが、この拠点新設と、どう結びつくのかね」


「ええ。その候補生たちに、ひとつ、特別訓練プログラムを課してみては、という話が出ておりまして。——あ、データを、どうぞ」


 差し出されたデータに目を通し、ダルマイヤックは、片眉を上げた。


「おいおい。これは、研修生でも、なかなか成功者の出ないシナリオじゃないか」


「さすが、お詳しい。なにせ、指導官がトレーナー時代、惑星ヴェルヌで実際に遂行された、あのミッションそのものですから」


「ヴェルヌか……。奴らは、優秀だったよ」


 ダルマイヤックの声が、ふと、低くなった。


「平和を取り戻したあとも、アルケオンのような文明をこの手で築きたいと、移住を志願した者までいた」


「その者たちは、どうなったのです」


 そばで聞いていた所員が、尋ねる。


「規則に則り、全員の記憶を削除して、私はその場を去った。……優秀な奴らだ。今ごろは、あの星のために、それぞれの人生を、歩んでいるだろうさ」


 ダルマイヤックは、二人から視線を外し、珍しく、遠くを見るような目をした。その横顔が何を思っているのかは、誰にも読み取れなかった。


「——いや、話が逸れたな」


 咳払いひとつ。指導員が、調子を戻す。


「このプログラムと併せて、転移装置の立体データも送信いたします。候補生たちの訓練の最中に、所員が装置を運び出しますので、拠点を出入りできるよう、セキュリティの解除を、求めておきましょう」


「なるほど。解除さえしておけば、内から出たか、外から入ったか、記録には残らん。そうやって、すでに地球にいる所員を、表向きは"送り込む"というわけだ」


 ダルマイヤックが、にやりと笑う。


「まあ、あの素直なニャンデーレ君のことだ。疑いもせず、従ってくれるだろうよ」


「では、さっそく、そのように」


 所員が一礼し、書斎を出ていく。指導員は、それを見送ると、改めてダルマイヤックに向き直った。


「指導官。あなたは、このプロジェクトに、ヒロインには到底向かない少女ばかりを選ばれたようですが——なかなか、侮れない者たちですよ」


「ああ。私も、そう思う」


「あの地球には、脅威など存在しません。人類同士で、まだ小競り合いをしている段階だ。あんな星、我々ほどの文明には、興味の対象にすらならない。……ですが」


 指導員は、一拍、置いた。


「もし、別の惑星で問題が起きたとき。彼女たちを、そちらへ派遣する——という手も、あるのでは?」


 ダルマイヤックの目が、見開かれた。


「君。面白いことを言うじゃないか。名を、聞いておこう」


「研修生指導員の、フォークスです。——一応、ニャンデーレも、私が指導しておりました」


「フォークス君。今の話、時が来たら、じっくり詰めてみないか」


「ほう。そのような惑星が、どこかに?」


「ふふ。まさか」


 ダルマイヤックは、ゆっくりと、口角を上げた。


「——作るんだよ」


「……! さすが、指導官です。では、失礼いたします」



 数日後。ダルマイヤックは、地球のミルティナの訓練の様子を、覗き見ていた。


「ブレスレットの認証データを、設定し直しているようだったが……」


 ミルティナは、タップによる生体認証と、変身意志の波形読み取りによって起動する変身プロトコルに、わざわざ"声紋認証プロトコル"を、付け足したのだ。


 またしても、ダルマイヤックは噴き出した。


「彼女の言う、地球でのヒロイン研究とは——こういうことなのか! はっはっは!」


 なかなか合言葉を言えずに噛みまくる候補生。鬼軍曹と化し、その長ったらしい呪文を、無理やり唱和させるミルティナ。挙句の果てには、変身後の"名乗り口上"なるものまで、提案する始末。


 ダルマイヤックは、もはや笑いが止まらず、手元のドリンクを、盛大にこぼした。


 その大爆笑の最中、当のミルティナから、通信が入った。


『——地球での、部隊の名称というのは、もう決まっているのでしょうか』


 いたって、生真面目な問いだった。


「いや、特には決まっておらんが。……その、変身のたびに叫んだり、口上を述べたりするのは、どうしても、必要なものなのかね」


『その〜、地球のヒロイン研究で得た、貴重な知見でして。それに、候補生のモチベーション維持にも、有効と判断しました』


 ダルマイヤックは、いったん通信をミュートにした。そして、たっぷり三十秒、大爆笑した。腹が痛い。息が、苦しい。——ひとしきり笑い終えてから、彼は、何食わぬ顔で通信を再開する。


「……ともかく、今は、必要な訓練に臨みたまえ! そんなに名前が欲しいなら、公募でもしたらどうだ!」


 言うだけ言って、一方的に通信を切る。画面の向こうのミルティナは、きょとんと、首を傾げていた。


「チーム名、か……。ふむ、これも、いい素材になるな」


 ダルマイヤックは、顎を撫でた。


「今度の特別訓練を、たっぷり見てもらったうえで——視聴者に、名前を公募させるのも、面白いかもしれん」


 彼は、さっそくスタッフを招集すると、特別訓練に向けた、新たな番組プロジェクトを、始動させたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ