帰省・四日目
土曜日、彼は休み。姉は仕事。母は友達と食事に出かけた。
「今日は暇なの?」
「うん? ああ」
「弟さんの家には行かないの?」
「行っても邪魔だからな」
他愛ない会話をしながら居間を掃除する。
「なあ、あの時って……」
彼の言う『あの時』は私も知っている時間。
「あの時、何なの?」
「俺達どうかしていたんだなって」
彼の口調に重みを感じない。
「そうね。そういう時があっただけ。私は気にしていないから」
「そうだな。俺も気にしていない」
どんな答えを期待しているの。答えに迷う。余計な事を言わない方がいいか。
黙って台所でお茶をいれて居間に戻る。
二人でお茶を飲みながら黙って過ごす。テレビもつけずに。静かに時間が流れる。
「昨日散歩したけど高校の辺りは変わっていないのね」
「あの辺に行ったんだ」
返事にどこか重みを感じた。話題を変えよう。
「訊いていい?」
「何を?」
「何度か別れたんでしょ」
「ああ、まあな」
「何で?」
「気まぐれというか変なところがあるんだよな。あいつ」
私はお茶を飲みながら「ふ~ん」と答えた。
彼の困った表情から嘘じゃないと思う。
「昔の男と比べる時があるんだ。寝言でリョウ君とか言ってたりしてさ」
「へえ、そうなんだ」
あまり聞きたくなかった話なので軽く答えた。
「誰だ。そいつ」
「え? 知らないわ」
「俺より前の男じゃないのか」
「前って……」
記憶を辿るがそんな話を聞いた事がない。
「わからないけど気にしない方がいいんじゃない。高木君だって知られたくない事は色々あるでしょ」
「わかっているさ。聞かない振りしているがそいつの名前を言う度にうなされているんだ」
「リョウ君ねえ。知らないわ」
「中学の時は違う学校で俺は知らないからなあ」
二人の話はそこで途切れて私は買い物に出かけた。
夕食は母と彼と三人で食事して遅れて姉が帰って来た。
姉と二人きりになった。
「明日帰るのに地味な料理ね」
「いいじゃない。いつでも会えるし」
私は後片づけをしながら笑って言った。
「いつでもって滅多に来ないじゃない。美容院が忙しいのはわかるけどさ」
「まあね。来てもお姉ちゃん達の邪魔でしょ」
「邪魔って新婚じゃあるまいし体の隅々まで知った仲よ。何を遠慮しているのよ」
明け透けに言う姉に笑って何となく昼間に彼と話した事を思い出した。
「高校の時から付き合っていたからね。初恋の人なんでしょ」
「初恋ってあんたよく恥ずかしげなく言えるわね」
今度は姉が笑った。
「えっ違うの?」
「いいじゃない。そんな事」
姉は笑って答えた。まあいいか。違うのはわかった。
彼が浴室から出て来た。
「あっ、おかえり」
トレーナー姿の彼が姉に言って台所の冷蔵庫から缶ビールを持って二階へ上がった。
後片付けを済ませ入浴。居間で髪を乾かしながらくつろいでいると母が来た。
「どうしたの?」
「お茶を取りに」
母は冷蔵庫からペットボトルの麦茶を持って自分の部屋へ戻った。
髪を乾かした私は自分の部屋で帰り支度をして眠った。
こうして私の休日最後の夜は終わった。




